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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第27話「大魔王陛下、謁見」

「かの城がレジェリクエ女王陛下の住まう『隷愛城』でございます。ユニクルフィン様、リリンサ様」



 俺の始末をしくじったツンだけメイドはすっかり意気消沈し、普通のメイドさんになった。

 絶対零度な視線こそ残っているものの、俺やリリンに対しての言葉遣いは丁寧なものになり、態度も礼節を重んじる物へと変わっている。


 そして、流れる様に誘導された俺達は、レジェリクエ大魔王陛下の根城『隷愛城れいあいじょう』へ繋がる城門へやってきた訳だが……。

 ……ははは、でか過ぎる。



「門越しに見えるのが城だというのは分かる、だが、ちょっとでか過ぎないか?」

「女王陛下が即位して以降の目まぐるしい技術革新によって、王城の規模は年々増大しております。新しい技術はまず、隷愛城に反映されるのが通例ですから」



 レジェンダリア国は、国全体を覆う外周壁と城を覆う内周壁の二重円になっている。

 飛行脚を使って上空から確認したらそうなっていて、城を中心とした内円もかなりの広さ、直線距離で10kmはあるな。


 目の前にある門ですら入国審査の時に通ったものよりも大きいし、ましてや、その後ろに控えている白亜の城や塔なんて、ここからじゃ先端が見えない。

 大魔王が根城にしているだけあって、十分な風格だ。



「中心にそびえ立っているのが城の本体だとして、右側にある高層の建物群はなんなんだ?」

「ん、なにそれ。私も知らない」



 気になっている事を質問してみたら、リリンも知らないらしい。

 という事は、ここ2年以内に造られた施設って事か?



「それは、去年に落慶された王立学校ですね」

「ん、レジェが学校を作ったの?」


「そうですよ。『知らぬが仏とは言うけれどぉ、教養を得ずして幸せは手に入らないわぁ』と仰られた陛下が、テトラフィーア様と協力して作られた学校です」



 一聞して真っ当な教育理念だが、裏を返せば大魔王陛下の意の元に設立された教育機関って事だ。

 心無き小悪魔アンハートミニデーモン、大繁殖の予感。



「ちなみに、どんな学科があるの?」

「学科ですか?リリンサ様はご興味がおありですか?」


「うん、私は学校を卒業できていない。セフィナを無事に捕まえたら、みんなで学校に通うのもいいかもと思っている」



 へぇ、リリンはセフィナを捕まえた後の事もしっかり考えてるんだな。

 俺的にも同年代の友達は欲しいし、学校に通うのは大賛成だ。

 出来れば、他の国が良いけどな。



「まだ設立したばかりなので、学科はそれほど多くないですよ。高等宮廷学科と高等軍部学科、それに超高等ゲロ鳥学科ですね」

「おい、最後ッ!?」

「何でその流れで鳶色鳥?流石に無理があると思う」


「いえ、名前こそふざけまくってますが、この学科が最難関ですよ。勉強の難しさのあまり、在籍している人たちは日常的に吐いているという噂です」

「そういう意味でのゲロ鳥!?」

「難しいというと、どんくらいなの?」


「前の二つはよくある学科ですね。高等宮廷学科は国営に関する基礎の他、人心掌握術や他国の文化など、いわゆる人の上に立つスキルを学ぶ部門。高等軍部学科は文字通り、軍に入隊する人物の教育、また冒険者を目指す者を教育する部門です」



 なるほど、実に普通な感じだ。

 ちらっと人心掌握術とか聞こえたが、よく考えてみりゃ、そういうスキルが無い奴は官僚になれない。


 で、問題のゲロ鳥学科は?



「超高等ゲロ鳥学科は、より専門性に特化した知識を学び研究する部門です。複雑な生態系調査、野生動物の魔法体系の解明の他、新たな技術革新も全てこの部門の管轄です」

「前二つは良いとして、機械技術とかもそうなの?」


「はい。新しい魔道具開発も超高等ゲロ鳥学科の分野です。こういった専門知識は、一見して関係ない物でも密接な関わりがある事がある……とかで、全員に多様なジャンルの高度教育を施します」

「それだと、収拾がつかなくなりそうだけど」


「ですから、一つのテーマに沿って勉強を行うのです。そのテーマから外れた事をする場合は、終業後の部活という形になりますね」

「なるほど。ちなみに、そのテーマって?」


「ゲロ鳥の研究ですね」



 ……。

 …………。

 ………………結局、ゲロ鳥ィィィッッ!!



「まぁ、この超高等ゲロ鳥学科は研究者ばかりで、リリンサ様が在籍してもつまらないでしょう。高等軍部学科がオススメですよ」

「そうなの?セフィナを軍学校に入れたくないんだけど」


「同年代の子供たちが多いのも軍学校ですよ?」

「そうなんだ。じゃあ軍学校でもいい。友達を作るのが一番の目的だし」



 いや待て。ゲロ鳥学科はアホの子には無理だというのは同意だが、高等宮廷学科があるだろ。

 ……っと思ったが、リリンやセフィナが大魔王陛下並みの狡猾さを手に入れたら始末に負えない。


 不安定機構とかをサラっと乗っ取って世界を牛耳る様な気がするし、そうなったら俺が過労死するのが目に見えている。

 行くなら高等軍部学科一択だッ!!



「さ、雑談もこれくらいにして、登城いたしましょう」

「分かった。ユニク、行こう」



 本を読んだだけの知識で学校生活を想像していると、リリンに手を引かれた。

 指差されている場所は、入国審査の時にも見た受付窓。

 だが、こっちは女王の城に近いというだけあって、しっかりと護衛の騎士が立っている。


 レベル56000が二人か。

 かなりの戦力だが、魔王様が尻尾を出すまでもないな。



「この方達はレジェリクエ女王陛下に謁見する為に、ご参集していただきました。失礼のない様に」

「はっ!メイ様が直々のご案内、さぞご高名な方とお見受けしております!!」



 俺とリリンが隷属手帳を取り出している間に、ツンだけメイドは護衛の騎士に挨拶をしていた。

 リリンの立場を重んじての言葉なんだろうが、俺達よりもツンだけメイドに熱い視線を向けているのは何でなんだ?



「リリン、もしかしてメイさんって偉かったりするのか?」

「もちろん偉い。2等級奴隷ともなれば人前に姿を出す事が少ないし、民間信仰の対象になっている事もある」


「敬うのを超えて、信仰されてるだと……」

「とりわけ、メイは人気が高かったはず。メイの私生活を盗撮した写真は高く売れるとレジェが言っていた気がするし」



 見た目クール度100%メイドの私生活写真か。

 確かにちょっと見てみたい気もするな。


 ……だが、盗撮はどうかと思うぞ。大魔王陛下。



「お待たせしました。お話し中だったようですが、何か気になる事でも?」

「いや、特にないぞ。雑談していただけだ」


「そうですか。では、入国審査を行いますので、こちらへ」



 窓口で受け付けをして門をくぐるのかと思ったら、どうやら違うらしい。

 さっきの窓口は、実はそれ自体がカモフラージュであり、怪しいと思った人物を誘導する罠なんだとか。


 俺達はメイさんに案内されるがまま窓口を通り過ぎ、豪華な建造物の中に入る。

 そこは開けたホールになっており、床には複雑な魔法陣が描かれていた。



「リリン、ここは……?」

「レジェが改革を進めた城下町は、いくつもの区画が入り乱れていて人の往来も激しい。だから、別の区画同士で通行が出来ないようになっているし、この転移陣を使用しないと中に入れない」



 なるほど、さっきのカモフラージュも含めて防犯対策はバッチリって事か。


 城下町には学校もあるというし、恐らく研究者が集う区画や商業区画なんかもあるんだろう。

 当然、審査を通った者しか入れない訳だが、毎日何千人も出入りしているんだからミスだってあるかもしれない。

 だが、隷愛城へ行く場合に特別な審査が必要になるのなら、侵入者が問題を起こすリスクはぐっと低くなる。



「ほう、メイ殿の案内とは珍しい。フランベルジュ国の重鎮様ですかな?」



 俺達が中に入って直ぐに、壮年の男が奥から出てきた。

 見るからに屈強そうなその男のレベルは61241。


 ぱっと見た感じ、タコヘッドと同じくらいの強さか?

 不安定機構の支部長クラスを配置しているとは、かなり重要な施設のようだな。



「あれ、ジルバシラスだ。久しぶり」

「……ふむ?」



 壮年の人の顔を見るなり、平均的な顔で名前を言い当てるリリン。

 なるほど、知り合いだというのなら話は早い。



「もしや……。リリンサ様、であらせられます……か?」

「そう。私の事、忘れちゃった?」


「おぉぉ。お美しく成られましたな。この私めの想像よりも遥かにご成長なされたようで、ご慶事を奏上しますぞ」

「ジルバシラスはいつも大げさすぎ。……今度、稽古でもしてあげようか?」


「お時間を頂けるのでしたら、是非に」



 謙遜しているリリンだが、褒められて嬉しかったらしく平均的な愛想を振りまいている。

 普通にしてりゃ可愛いんだよな。今は尻尾も生えてないし。



「リリンと顔見知りって事は、リリンの階級も知ってるって事か?」

「もちろんですとも。リリンサ様に戦場で助けて貰わなければ、この命など散っていたでしょう」



 ジルバシラスさんが俺に視線を向けてきたので、つい問いかけてしまった。

 優しげな顔だが、レベルも高い。

 纏う雰囲気も隙がないし、かなりの使い手のはずだ。

 こんな人がピンチに陥ったのか?



「へぇ、リリンが助けたって事か?」

「はい。リリンサ様のランク9の魔法は圧倒的で、私の率いていた兵とノウリ国の兵、そのどちらも壊滅いたしました。痺れて動けない身体で、リリンサ様に見降ろされた時は死を覚悟したものです」



 ……助けられたってのは、トドメを差されなかったって事かよ!?

 自作自演じゃねぇか!!



「その後は、終末の鈴音で指揮官などをしておりましたが、そろそろ歳なので、落ち着いた此処に転属したのですよ」

「だとすると、セブンジードさんの上官だったって事か?」


「そうなりますね。あのひよっこも女王陛下のお気に入りになったようで、育てた甲斐がありました」



 どうやらこの人、かなり偉いようだな。

 その見立ては間違っていなかったらしく、メイさんと同じく2等級奴隷で、終末の鈴音の分隊長だったとリリンが教えてくれた。

 フィートフィルシア攻略作戦には参加していないが、いくつかの国を手に入れた強兵であり、ランク9の魔法もいくつか使えるらしい。


 なるほど、魔王城を守護する中ボスか。



「改めて自己紹介いたしましょう。私の名前は『ジルバシラス・ジビキアーミー』。ギョウフ国の軍団長だった過去を持つだけの、しがない老兵でございます」

「軍団長って、軍のトップだよな。俺もあぐらをかいてる訳にはいかなそうだ」


「いえいえ、既に退役し余生を過ごす老人ですよ」

「そうは見えないけどな。っと、俺の名前はユニクルフィン。縁があってリリンと旅をしているパートナーだ」



 俺の自己紹介も随分と慣れたもんだ。

 全裸英雄の息子(余計な恥)も言わなくて済んだし。



「ジルバシラス。この人こそ、かの有名な英雄ユルドルードの一人息子!そして、私の旦那様になる人!!」

「なんですとっ!?」



 ……大魔王さんが一緒にいる以上、隠すのは不可能だった。

 後ろのツンだけメイドが、ものすっごい露骨な溜息を吐いてやがる。ちくしょうめ。


 リリンの言葉にジルバシラスさんは大層驚いたようで、僅かにわなわなと震えている。

 そして、見るからに上気した声色で身を乗り出してきた。



「国際式典の準備が必要ですな。もしや、国を訪れたのも挙式を上げるためでしょうか!?」

「……。そう」

「リリンッ!?」



 ちょっと待て、そんなの聞いてねぇぞ!!

 ほら、予定にない事を言うから、後ろのツンだけメイドがよろめいて壁にもたれ掛ってるだろッ!?



「……と言いたいけど、違う」

「そうなのですか。それは残念ですな」



 うっ、ジルバシラスさんが見るからにしょんぼりしている。

 なんだろう、このジワジワ身の回りを固められている感じ。大魔王の策謀か?



「挙式は私達がやるべき事をやったらすぐにやる。けど、今は他にも重要な事がある。ジルバシラスも出来れば手伝って欲しい」

「重要な事ですか?私めでよろしいのなら、いくらでも」


「ありがと。そうだ、メイも一緒に話を聞いて欲しい」

「……。えっ、はい。分かりました」



 それからリリンは、セフィナとラルラーヴァーの事を二人に話した。


 二人ともがセフィナが亡くなっていると聞いていたようで、生きているとリリンが告げた時は喜んでくれたし、ラルラーヴァーの陣営と一緒にブルファム王国に居ると聞いた時は怒りを露わにしてくれた。

 俺には絶対零度な態度のツンだけメイドも、リリンとは良い関係を築いているみたいだな。


 それにしても、俺がツンだけメイドに毛嫌いされている理由は『男だから』だと思っていたが違うのか?

 ツンだけメイドは魔弾のチャラ男の事が好きだけど、想いは通じずって感じで、男性不信なんだと思っていたんだが。


 ジルバシラスさんとは普通に喋っているし、若い男が嫌いという事なのか、それとも他に理由があるのか。

 でも、流石にそれは聞く勇気がない。

 俺が生理的に受け付けないとか言われたら、悲しくて確実に鳴く。ぐるぐるげっげー。



「そのような事が……リリンサ様、さぞ張り裂けそうな想いだったでしょうな。心中をお察しします」

「あの国がそんな下劣な事を……。私の諜報部隊を動かす必要がありそうですね」

「メイ、ジルバシラス。私はセフィナを奪還する為に全力を注ぐ。今日来たのも、私の軍『終末の鈴音』を動かし、膠着状態のフィートフィルシアを突破。一気にブルファム王国まで侵攻を仕掛ける為。協力して欲しい」


「もちろんです。全身全霊を賭けて救い出しましょう」

「潜伏している諜報部隊にセフィナ様の事を調べさせます。何か分かり次第、ご報告をいたします」



 そう言って、二人はリリンに協力する事を誓った。

 レベルが6万を超えている二人だし、戦闘経験も申し分ない。


 賑やかなパーティーでお邪魔する事になると思うぜ、ロイ。



「じゃあ、また後で連絡する。準備してて、ジルバシラス」

「分かりました。一つお伺いしたいのですが、リリンサ様がご帰還された事を女王陛下はご存知で?」


「知ってる。昨日出て来たし」

「ふむ、私めには情報が来ておりませんので、リリンサ様がご帰還された事は緘口令が敷かれておるようですな。私めもリリンサ様の名前は伏せたまま準備をいたしましょう」



 あれだけリリンの名前を出したにしては、街の人に変化がないなとは思っていたが、情報封鎖されてたのか。

 熟練の焼き鳥屋のおっちゃんとか無尽灰塵の帰還を知っている訳だが、大丈夫だろうか。



「それでは、陛下がお待ちになられている謁見の間に転移いたします。リリンサ様、ユニクルフィン様、中央の魔法陣にお乗りください」



 おっちゃんの身を案じている間にも話は進み、俺達は大魔王陛下の謁見の間に転移する事になった。

 なるほど、直接、謁見の間に行くのか。これも侵入者防止措置であり、万が一の時には敵の逃亡妨害にもなる訳だ。


 俺とリリンが転移陣の中央に乗ったのを確認したメイさんは、自分も違う転移陣に乗った。

 一緒に転移するんじゃないのか?と聞いたら、あっちの転移陣は女王陛下が座っている椅子の横に出るようになっているらしい。


 なお、あっちの転移陣を利用すると、一定時間、身体能力が低下し魔法も使えなくなるアンチバッファが掛るようだ。

 もし、暗殺者がここに辿りついたら、迷わず女王のすぐ横に出る魔法陣を使うだろう。

 そして、あっけなく捕獲されるわけだな。


 ……うーん。魔王城の罠だけはある。エグイ。



「あらぁ、待ちくたびれたわよぉ、リリン、ユニクルフィン」



 シルバシラスさんが転移陣を起動した次の瞬間には、俺達は真紅のカーペットの上に立っていた。


 見渡す限りに広がる、絢爛豪華な調度品。

 カーペットがない場所の床は、光輝を反射する大理石。

 遥か先にある壁には、光輝にて煌めくステンドグラス。

 見あげる高さの天井には、光輝を発するシャンデリア。


 そして、真っ直ぐに見据えた先にある、宝石で出来た玉座の上には――レジェリクエ大魔王陛下。

 まさに圧巻の風格で、俺達を睥睨している。



「そんなに待たせてないと思う。メイが来なかったら、ユニクとデートを楽しんだ後で来るつもりだったし」

「そしたら待ちくたびれてぇ、余とリリンとユニクルフィンのダブルデートになったかもぉ」


「……帰って良い?」

「冗談よぉ」



 リリンは平均的な膨れ顔で、大魔王陛下を威嚇している。

 俺を取られる可能性を感じると、直ぐに膨れるからな。

 このまま放っておくと尻尾が生える訳だが、それは自重したいし、あまり刺激しないで欲しい。


 俺がリリンを落ち着かせる為にクッキーと喰わせていると、控えていたツンだけメイドさんが一礼し、大魔王陛下に頭を下げた。




「レジェリクエ女王陛下、テトラフィーア様の所へ向かいたいのですが、よろしいでしょうか」

「だめよぉ。テトラは侵略会議中ぅ、ここにいなさぁい」



 ツンだけメイドは逃げ出そうとした!

 しかし、大魔王陛下に回り込まれてしまった!

 恨めしそうな目で、俺を睨んでいる!!


 って、俺は関係ないだろッ!!



「レジェ、テトラはまだ会議してるの?」

「そうよぉ。貴方がここに来てくれた以上、戦略の練り直しは必須。それは分かるわねぇ?」


「うん。容赦しないし加減もしない。セフィナを取り戻す為なら、なんでもする」

「決定的な武力があるのならぁ、チマチマした策謀なんて不要になるぅ。この間までの余の計画ではぁ、細かな調整にあと2カ月は掛けるつもりだったし、参謀部もそれを前提として、最も損害が少なくなる計画を立てていた」


「なるほど。20万も兵がいるのに攻めないのは、攻める気が無かったと」

「アレは示威行為ぃ。余の神の因子(アーティファクト)を使えばぁ、一兵卒ですらランク9の魔法を放つわぁ。20万の爆弾を前にしたら誰だって怖くなってぇ、全面降伏するわよぉ」



 前にも同じような事を聞いてたから知ってるが……、大魔王陛下の戦闘支援能力が凶悪すぎる。

 兵士を爆弾扱いする思い切りの良さも含めて。



「それは切り札でもあるけれどぉ、実際には使えない死に札でもあるわぁ。だから、フィートフィルシア側から降伏するのを待ってたのぉ」

「でも、待ってるだけなら会議は必要ない気がするけど?」


「そうでもないのよぉ。最悪なのは、フィートフィルシア内で『交戦派』と『降伏派』が生まれ、せめぎ合ってしまう事ぉ。内乱が起こってしまえば、フランベルジュ国の時みたいに多くの血が流れるわぁ。それを余もテトラも阻止したい。だからぁ、思想がバラけない様に裏工作をしてたのぉ」



 なるほど。民に寄り添った良い策謀だ。

 全面降伏といえば聞こえは悪いが、最前線で戦う民にとっては最適解に等しい。


 他国の属国になったとしても、民にとっては上が変わるだけであり、自分達の生活は何ら変わらない。

 むしろ、戦争状態が長く続けば生産能力が失われ、貧しくなっていく。

 結局、全面降伏が悪だという風潮は、責任を取る側の王や貴族が流している情報操作に過ぎないのだ。


 って、昔、誰かに教わった気がするんだが、誰だったっけ……?

 んー。レラさんじゃないのは間違いないんだよなぁ。

 レラさんは王宮とか、騎士とか、そういう話は嫌いだし。



「そんな感じに調整していたんだけどぉ、リリンが帰ってくるのなら裏工作とか必要ないわよねぇ?」

「うん、20万の爆弾の代わりに、雷光槍の雨を降らせればいいだけ。今なら前よりも効率的にできるし」


「余もそう思ったからぁ、セブンジードが持ち返ってきた映像を会議に参加している人に見せて、作戦の練り直しを命じたわぁ。ふふ、みんな目を白黒させてぇ『なんだこれは……?』って驚いてたわよぉ」



 そう言えば、闘技場でのリリンの戦いって撮影されてたんだったっけな。

 それにしても、あの映像を見せたのか。

 後半、ランク9の魔法を連打しまくってるんだが、見ている人がショック死しないか心配だ。


 って、それだと、アルカディアさんVSリリンも見られたって事だよな?

 あれ?アルカディアさんが政治利用されそうな気配がするんだけど。



「ちょっといいか?アルカディアさんはどこにいるんだ?」

「あの子ぉ?キングフェニクスⅠ世と戦って引き分けてぇ、不貞寝してるわぁ」


「……キングフェニクスⅠ世?」

「貴方達がくれたぁ、ゲロ鳥キングよぉ」



 ツッコミどころが多すぎるぞッ!!!!

 ゲロ鳥キングぅぅぅぅぅぅぅ!?!?



「アレのどこがフェニックス!?ゲロ鳥だろッ!!」

「いいでしょぉ?貴族に紹介すると皆が笑ってくれるのぉ」


「そりゃ笑うだろ!で、アルカディアさんと引き分けってどういう事だよ!?アルカディアさんはリリンとほぼ互角の戦闘をしたんだぞ!?」

「それについては余もビックリぃ。その事を会議で言ったらぁ、皆が青ざめたわぁ」


「そりゃそうだろ!リリン並みの戦闘力を持つゲロ鳥とか恐ろしすぎる!」

「本当に良い買い物をしたわぁ。10億エドロなんて安い安いぃ」



 確かに、リリンやアルカディアさんと同じ戦闘力の珍鳥が10億エドロなら安いだろうぜ。


 で、俺も10億エドロで買おうとしてなかった?

 なぁ、俺の査定金額も10億エドロだったよな?なぁ?



「あら?テトラ来ちゃったのぉ?」



 俺の追及を避けるかのように、いきなり大魔王陛下が話を切り替えた。

 そういえば、後ろの方で扉が開いた音がしていた気がする。



「当然ですわね、陛下。リリンサ様はレジェンダリア国の重鎮、そんなお方が訪問されたとあらば、挨拶をしないのは礼を失しますわ」

「そうだけどぉ、侵略会議はぁ?」


「まだ暫く掛りますわよ。召喚した重要参考人のセブンジードを詰問している最中ですから。それに、陛下の中で侵略作戦はもうお決まりなのでは?」

「正確にはぁ、『まだ決める事が出来ない』が正しいわねぇ。まさかレーザー兵器尻尾が生えるなんて思わないでしょぉ、普通ぅ」


「……尻尾が生えたんですの?」



 俺とリリンを挟んで繰り広げられる、舌戦。

 後ろから登場したのは、たぶんテトラフィーア・ゲロ鳥大臣だろう。

 会話の内容を聞く限り、会議を抜け出してここに来たようだな。


 で、なぜか、大魔王陛下の横に立っているツンだけメイドの顔色が悪い。

 物凄く顔面蒼白だし、汗も凄い。

 あんなに体調が悪くなるなんて、いくらなんでも可哀そうだ。

 魔法陣の効果を調整した方が良いんじゃないか?



「それに、まさかリリンサ様が殿方を連れてくるなんて。気になって会議どころじゃありませんわよ」

「あらぁ、どこで聞いたのぉ?」


「入国情報に不正があれば連絡が来るようにしてありますの。陛下がなぜ情報を隠したのか存じませんが、民の目撃情報までは封殺できませんでしたわね。男性と楽しそうにデートしていて歓楽街に向かったとの情報がありましたわ」

「そうなのぉ。女の感は怖いわねぇ」



 女の感は怖いというか、俺はお前らが怖いんだが!?

 俺達の行動もろバレじゃねえかッ!!



「それにしても、水臭いですわよ、リリンサ様。想い人を見つけたのなら教えて下さればいいのに」

「ん、レジェから聞いて知ってると思ってた。ごめん」


「良いんですわよ。でも、この陛下は時々、意地悪をするんですの。今度から、お祝い事は直接教えて下さると嬉しいですわ」



 後ろからヒールを鳴らして歩いて来ていたゲロ鳥大臣は、リリンの横に来ると微笑んで、挨拶代わりに抱擁を交わしていた。

 ピンク色の髪が結い上げられている、豪華なドレス姿の女性。

 いかにも姫という感じであり、当たり前のように美人だ。


 ……そして。

 なぜか、近視感がある……ような……?



「ご挨拶が遅れましたわね。ワタクシ、この国の大臣をしております、テトラフィーア・Q・フランベルジュです……わ……。」



 リリンから離れたゲロ鳥大臣、いや、テトラフィーアは俺の顔を見て固まった。

 見るからに動揺しており、口元を押さえて、『うそ……』と呟いている。



「そう、彼こそが英雄ユルドルードの息子のユニクルフィン!そして……私の旦那様になる人!!」



 間髪いれずに、リリンの地盤固めが放たれた。

 うん、なんかものすっごく、ヤバい感じがするぞ。

 状況が良く分からないが、なんとなく命の危機に瀕してるような……?



「流石ぁ、爆弾20万発少女ねぇ。すぅごっい威力ぅ」



 あ、大魔王陛下が手を叩き、満面の頬笑みで喜んでいる。

 絶対にロクなことになってないと、今、確信した。


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