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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第24話「大魔王でーと!③」

「自覚がないユニクを私の虜にするには……、いっぱい叩いて手形を付けるべし!ひっく!」



 ……致命的にヤバい事になってしまった。

 これは本格的に、身の危険があるかもしれない。


 睡蓮鏡さんが俺達に出してくれた濃紺色のジュース……その正体は葡萄酒だった。

 しかも、一口で酒だと確信する程に酒精が強いが、匂いは普通のぶどうジュースとほぼ同じという非常に性質の悪い奴だ。


 べろんべろんに酔いつぶれた村長とレラさんに酒を飲まされた事のある俺ですら匂いに気が付かなかった訳だし、あまり酒を飲んだ事がないリリンは知らずに一気に煽ってしまったらしい。

 結果的に、緩み切った頬笑み顔で空になったグラスを机にガンガンと叩きつけている。

 うん、凄く凶暴そうだな。この大魔王。



「スイレン~、ジュース無くなった~おかわり~~」

「はい、どうぞ」


「ありがと~」



 リリンにおねだりされた睡蓮鏡さんは、華麗な手つきで葡萄酒を注いだ。

 再び濃紺色に戻ったグラスを見たリリンは舌なめずりすると、またチビチビと飲み始める。


 って、何でまた酒を注いでんだよ!?

 腹ペコ大魔王と酒の組み合わせはヤバいって、医療系大魔王さんが太鼓判を押した程なんだぞッ!?



「ちょ、リリン!グラスをこっちに寄越せ!!それは飲んじゃダメだッ!!」

「やだ。美味しいから」



 面と向かって拒否されたッ!?

 えぇい!ここは力ずくでも奪わせて貰うぞ!!



「《覚醒せよ、グラ――》」

「やるの?私と」


「うっ、目が据わってやがる……」

「分かればよろしい。ジュースも美味しい」



 くっ、すげぇ冷え切った目で威嚇されたんだけどッ!?


 訓練という名の暴行をされている最中にだって、こんな眼差しで見られた事はない。

 だというのに、リリンは変態の幼虫を語る時と同じ眼差しで俺を見やり、葡萄酒をちびちびと飲んでいる。


 それはまるで、バナナを貪り食うクソタヌキ。

 力ずくで解決しようとした瞬間、俺自身が餌食にされるタイプの始末に負えない状況だ。


 と、とりあえず、あのグラスと酒の回収は諦めるとして……。

 これ以上与えないように注意しつつ、リリンが俺の調教メニューを考えている間に打開策を見つけるとしよう。


 っと、その前に……まずは元凶に文句を言っておくか。



「ふっざけんな!!リリンと酒の相性は最悪なんだよッ!!何を考えてやがるッ!!」

「あら、間違えちゃったわ。てへ。」



 なんだその腹の立つ顔。

 美人だからって騙されねぇぞ。


 俺の追及を誤魔化そうとしているし、睡蓮鏡さんは確信犯だ。

 ということは、恐らく黒幕がいるはず。

 具体的に言うなら、大魔王陛下が裏で糸を引いているはずだ。



「どうせ、レジェリクエ女王陛下の差し金だろ?」

「あらら、バレるの早いわねぇ」


「もう既に策に嵌った後なんだよ」

「そうなのぉ?御愁傷様ぁ」



 面と向かってご愁傷様って言われるの、すっげぇ腹立つな。

 睡蓮鏡さんは花魁で、娼館の遊女の中でもトップ階級。

 客を手玉に取る方法を極めているからこそ、的格に俺の精神を削り取ってゆく。


 ……なるほど。さてはこの人、大魔王陛下をあんな感じに育てた張本人だな?



「レジィからの連絡では、飛びきりの上客が行くから接待してって話だったのぉ。だからぁ、お酒を飲ませたのは私の独断よぉ」

「独断で一服盛ったと?ダメだろ!?」


「もし、ここに居るが私じゃなくレジィだったとしても、絶対に同じ事をするわぁ」

「すげぇ確信。うすうす気がついてはいたが……随分と陛下と仲良が良いんだな?」


「そうねぇ、レジィが這い這いしている横であえいでいた私にとってぇ、あの子は歳の離れた妹みたいなものだものぉ」



 這い這いしている横で喘いでいた?

 ……だめだ。

 例え話が淫魔すぎて、童貞の俺じゃ理解ができねぇ。


 とりあえず、睡蓮鏡さんは大魔王陛下が這い這いをしているときから遊女をしていたらしい。

 えーと、大魔王陛下はリリンよりも年下だとしても……、って、それでも何歳になるんだよ?

 そんな歳には見えねぇぞ?



「レジィの考えそうな事は、だいたい見当が付くわぁ。あの子がここに居た時の事なら何でも知っているものぉ」

「……ちなみに、詳しくお伺いしても?」


「国家機密だからぁダメねぇ」

「そこを何とか!」


「この葡萄酒、一本2000万エドロもするだけあって美味しいわぁ。でも、もっと美味しくなる方法があるって知ってるぅ?」

「……。」



 ……つまり、今日の酒代は俺が奢れと。


 大魔王陛下の出生に関する情報が2000万エドロ。

 そう考えれば、安いのかもしれ、しれ……。

 くっ!手に入れた12億がどんどん減っていく!!


 俺は泣く泣く異空間ポケットに繋がっているバックから2000万エドロを取り出した。

「御馳走様でありんすぅ!」と、ここぞとばかりに睡蓮鏡さんは愛想笑いを浮かべ、自分とリリンのグラスになみなみと酒を注ぐ。


 って、しまった!!



「リリンのグラスにも注ぐとか、油断も隙もありゃしねぇ……」

「あー、おいしぃ!人を騙して飲む酒は特に美味いなんしなぁ」


「ついに騙してる事すら認めやがったな。ったく、ほら、出すもん出したんだから、さっさと大魔王陛下の出生を暴露しろ!」



 こうなったら、ちょっとでも有意義な情報を手に入れて、来るべき大魔王戦への備えとしたい。


 よくよく考えてみたら、これから俺達は大魔王城へと赴く訳だ。

 そして、そこにはゲロ鳥大臣を始めとする、狡猾な心無き側近悪魔アンハート・ハイデーモンが控えている訳で。

 しかも、アルカディアさんを人質に取られている。


 うん、情報があっても、どうにもならない気がして来たぞ……。



「レジィはね、ここで働いていた遊女の娘として生まれたのぉ」



 俺が落ち込んでいる間に話す内容を決めた睡蓮鏡さんは、雰囲気をしっとりとしたものに切り替えた。

 そのまま唇を濡らす程度にグラスに付け、ほぅ、っと艶めかしく息を吐いて語り出す。



「母親の名前はラジェンダ。当時、付き人だった私はラジェ姉さんと呼んで慕っていたわ」

「そういえば、レジェリクエ女王陛下は王族の血を引いているってワルトが言ってたな。ということは……?」


「そうね、レジィは前々代のレジェンダリア国王『ヴィターダーク・C・レジェンダリア』との間に出来た子よ」

「なるほど、それなら確かに血の繋がりがあるな。だけどさ、それって確証があるのか?」



 生々しい話になっちまうが、そういう行為をしていた相手は国王だけじゃないだろう。

 たぶんそうだと噂されているだけで、確かめようがないと思うんだが?


 そう思ってした質問だったが、その答えは簡単に返って来た。



「確証も何も、私はラジェ姉さんの付き人だったのよ?他の可能性が無いんだから、それしかないじゃない」

「そういったって、四六時中、一緒に居た訳じゃないだろ?」


「あのね、国王に気に入られるなんてのは遊女として終わりなのよ。他にお客を取る事は許されない。遊女からは妬まれる。お金は貰えるけど使い道だってないんだから」

「へぇー、そう考えると可哀そうだな」


「そうよ、しかも、子供を認知させる前にヴィターダークはとっとくたばりやがったのよ」



 どうやら睡蓮鏡さんは、前々代の国王に思う所があるらしい。

 今まで取り繕っていた花魁の仮面を脱ぎ捨て、砕けた口調になっている。


 そして、話の雲行きもおかしくなってきたな?



「最悪よ最悪。日頃の不摂生で死んだのは良いけど、ちゃんと責任を取ってからにしなさいよね。そんなんだから、気落ちしたラジェ姉さんまで亡くなってしまったし」

「なんとなく背景は分かってきたが……それだと、レジェリクエを王族だと認めない奴もいただろ?」


「そんなのばっかりだったわ。国王や王弟の子供と同年代だし、次代の王位継承戦に絡んでくる事になるからね。だからレジィは普通の遊女の子として育てられたの」

「ん?じゃあ、なんで女王なんてやってるんだ?」


「そりゃ簡単よ。継ぐ人がいないから」



 それはおかしいだろ?

 国王にも子供がいるって言ったばかりだし、他にも兄弟だっていたはずだ。



「継ぐ人がいない?どういうことだ?」

「王族全員、皆殺しにされたわ」


「……は?」

「強欲な王が利欲にまみれた思考で立てた計画。その渦中に居た一人の女の子によって、当時の王政に関与していた殆どの人が粛清された。特に王の血を引く者は徹底的にね」



 たった一人の女の子に、王族全員が粛清されただと?


 文章にしてしまえばこんなにも短いものだが、その行いは想像を絶するものだろう。

 女の子に王族殺しを決意させてしまった動機も、

 女の子一人で王族殺しを達成させてしまった手腕も、簡単には想像出来ない。



「平和だったのよ。平和だった。両親がいなくともレジィは健やかに育っていたもの。12歳になるまではね」

「……あれ?12歳って割りと最近だろ?その頃にはリリン達と旅をしてたんじゃ……?」


「何を言ってるのよ。レジィが国を出たのは16の時よ」

「16歳だと?……あの、陛下の年齢を窺っても?」


「今年で20になるわ。やっと人前でお酒が飲めると喜んでるわよ」



 ……あのロリで?

 うっそだろ、おい。

 断崖絶壁、垂直降下だったぞ?



「レジィが12歳の時にそれは起こったわ。前代未聞の王族殺し、それを成したのは一人の少女。100年に一度の才女などと呼ばれていたその子は、たったの一晩で500人以上の人を殺し、忽然と姿を消した」

「500人だと……?」



 一口に500人と言っても、内容によって難易度が随分と異なってくる。

 王城に勤めている兵士を500人殺すのは、ドラゴンの群れ200匹を殺すのよりも難しいはずなのだ。


 睡蓮鏡さんの話では、その女の子に犯意を持った人物だけが殺害され、ただのメイドや執事は生き残ったらしい。

 ならば、大規模殲滅魔法による無差別な殺戮ではない。

 そして、王族をたったの一人も逃がさない為には、武装した兵士を圧倒しながら殺すしかないのだ。


 正直、今の俺が同じ事をしようとしても失敗するだろう。

 リリン並みの魔法の知識があって、初めてその可能性が考慮される程度だ。



「そんな訳で、王族だと認められてなかったレジィだけが生き残り、唯一の正統な王位継承者となったわけ。皮肉なもんでしょ?」

「確かにな。それでさ、その女の子は何の理由があってそんな事をしたんだ?」


「さあね、知らないわよ」

「知らないのかよ!?」


「正確には、私は噂しか知らない。レジィなら真実を知っているでしょうけど」

「んー、その噂は聞いておいた方が良さそうだな。話してくれ」



 関係ないかもしれないが、もし、白い敵と関わりがあった場合は非常に話がややこしくなる。

 姿を消したという事は、死んだ訳じゃない。

 なら、ブルファム王国に潜んでいる可能性が高いはずだしな。



「その女の子はどんな事でも出来る天才で、その才能を欲した王が養女として取り込んだらしいの」

「自分の手元に置いておけば、どうとでも出来ると思ったのか」


「だけどね、その子の親は殺されてるらしいの。たぶん、王族の手によって」

「そういうことか。いやらしい事を考えるもんだ。反吐が出る」



 経緯は明確じゃないが、大体の事が想像できた。

 天才少女を手に入れる為に、国がその子の親を殺し、そして、その子に復讐されたと。



「所詮は噂だけどね。その女の子と親の仲は悪かったとか、借金の形に売り飛ばされた先が王宮だったとか、そういう話もあるもの」

「そうなのか?よく分からんな?」


「ま、王族が皆殺しにされたのは本当なのよ。で、何処をどう嗅ぎつけたのか、一人の女がウチにやってきた」

「一人の女?」


「そ、栗色の茶髪のどこにでもいる様な女……大人びた雰囲気だったからそう見えただけで少女だったかも。そんな子がレジィの所に来たの」

「もしかしてその子が、例の女の子か?」


「さぁね、ただ……その子と会ったのをきっかけに、レジィは変わったわ。女王になると言い出したのもこの時からね」



 確信こそ出来ないが、おそらくは同一人物だ。


 大魔王陛下が女王を目指したきっかけの人物か。

 些細な事でもいいから、情報が欲しいな。



「睡蓮鏡さんはその子の顔を見たんだろ?特定できるような情報ってないか?」

「認識阻害が掛っていたから、どこにでもいる人って事しか覚えてないわよ」


「そうなのか……」

「ただ、レジィはその人の事を『ロゥ姉様』って呼ぶわ」



 なに?ロゥ姉様だと……?


 俺の脳裏に一人の人物の顔が浮かび上がった。

 その人なら、500人を皆殺しにするのなんて容易だろう。


 その人の名は……『ミオ・ロゥピリオド』。

 次代の英雄に最も近いと言われている、澪騎士・ゼットゼロだ。



「まさか、澪さんが……?」

「ん?誰よそれ」


「あぁ、リリンの姉弟子の――」

「むぅぅううううううううううううううううううう!!ユニク!!スイレンとばっかり話しててズルイ!私も構って欲しい!!」



 ……今は大事な話をしてるんだよ、リリン。

 だからな、そのギュンギュンいってる大魔王の尻尾をしまってくれ。

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