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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第19話「大魔王城下町④」

「むぅ……レジェ出てくるの早過ぎ。帰って」

「あらまぁ、せっかく迎えに来たのにぃ」


「むぅ。まだユニクとデートしていない。帰って」

「と、いうと思ってぇ、お勧めのデートスポットを教えに来たのよぉ」


「むぅ……?」



 俺の目の前に優雅に座っているのは、金髪縦ロール少女。

 そのレベルは90900もあり、非常に高い戦闘力がある事を窺わせている。

 これは間違いない。レジェリクエ大魔王陛下その人だ。

 っていうか、訓練を終えたリリンよりもレベルが高いんだけど!?



「改めましてぇ。余が国主のぉ、レジェリクエよぉ。お会いできて光栄ねぇ、英雄見習いユニクルフィン様」



 むぅむぅと唸るリリンから視線を外した大魔王陛下は深い笑みを浮かべて、俺に話しかけてきた。

 その声は背筋に指を這わせられたかのような、凄く妖艶なもので。


 うん、ぶっちゃけて言おう。

 外見とのギャップが酷過ぎるッ!!


 俺はてっきり、女王陛下とか言うもんだから、カミナさんやメナファス寄りのダイナマイトボディを想像していた。

 だが、違った。

 大魔王陛下の身長はリリンよりもわずかに低く、セフィナと同じ程度の155cmくらいしかない。

 そして、険しくも美しい垂直断崖絶壁をお持ちである。


 ということで、まさかのぶっちぎりロリ枠。

 髪は女王の気品とも言うべき豪華な縦ロールを前に垂らしているが、顔立ちはリリンやワルトよりもロリ枠。

 胸に秘めた兵力から試算するに、虚無魔法が得意なのは間違いないだろう。



「そんなに熱い視線を向けられるとぉ、とぉっても昂ぶってしまうわぁ」

「むぅ!それはダメ!頭を冷やして欲しい!《極寒気候フリジットクライメイト》」

「《二重奏魔法連デュオ第九守護天使セラフぅ》」



 ちょ、こんな所でなんつー魔法を使ってんだよ!?

 急激に冷やされた風呂上がり亡命者集団が、すげえ顔で風呂に戻って行っただろ!!



「あらぁ、人払いの手間が省けたわぁ。ありがとねぇ」

「むぅ。それで、デートスポットやらはどこ?」


「それは最後のお楽しみよぉ。まずは、かっこいいユニクルフィン様とお話しさせてぇ」

「ちょっとだけなら」



 リリンは平均的な不機嫌顔でむぅむぅと唸っている。

 あれ?仲が良いのかと思っていたが、そうでもないのか?


 リリンは黙ってクッキー缶を取り出しつつ、大魔王陛下の出方を窺っている。

 これは仲が悪いと言うよりも、獲物を獲られない様に警戒しているタヌキの方が近いのかもしれない。


 ……獲物って俺か?



「と、その前にぃ。ご苦労さま、アンジェ。余から御使いのご褒美をあげるわぁ」

「えっ、そんな、私は運が良かっただけです!ご褒美なんて、ぜんぜん」


「はい、二等級ゲロ鳥勲章よぉ。コレを提示すればぁ、一度だけぇ、二等級奴隷へ依頼を出す時に必要な報酬を余が代わりに支払うわぁ」

「そ、そんな高価なもの頂けません!私は国民として、レジィおねーちゃんの役に立つべく……」


「高価なものにしたくないなら、使わないで飾っておけばいいのよぉ。そうすればただの記念品。友達に自慢しても良いわよぉ、どう?欲しくない?」

「欲しいです……。」


「なら、御褒美としてあげるわぁ。これからも、余の宝ものとして忠義を尽くしてねぇ」

「はいっ!!」



 ゆるりとした緩慢な動きで、大魔王陛下は黄金ゲロ鳥メダルをアンジェの首にかけた。

 メダルもそうだが、付いている革紐もすげぇ高価そうだな。


 そして、そのメダルを手に取り、嬉しそうに眺めるアンジェ。

 こうして、また一人無垢な少女が大魔王陛下の手に落ちた。

 流石は『運命掌握』。

 人心掌握が鮮やか過ぎるぜ!!



「その口ぶりじゃ、アンジェが俺達に接触してきたのは陛下の思惑があったようだな」

「そうだけどぉ、陛下なんて呼ばないでぇ。レジェで良いわよぉ、リリンやワルトナだって愛称で呼んでるんでしょぉ?」



 確かにそうだが……ここは仮にも『レジェリクエ』を女王とする国だぞ?

 そう簡単に愛称で呼んじゃダメだろ。


 そう思ったが、俺の袖を引いているリリンの話では、街中で陛下と呼ぶ事は暗黙のルールで禁止されているらしい。

 そういえば、アンジェもレジィおねーちゃんって呼んでたな?



「ユニク、レジェの事を陛下と呼ぶのは良くない。特に街中ではダメ」

「理由は……無意味に女王の居場所を晒すと危険って事か?」


「そう。だからこの国では、国主として公の場に立つ以外は愛称で呼ぶ。だから……」

「だから?」


「レジェッ。って呼び捨てすると良い」



 ……なんだろうな、俺の聞き間違いじゃ無ければ、すげぇトゲトゲしかったぞ?


 今までの大魔王会談の時のリリンは裏方……もとい、お茶受けに専念していて会話の主導権を握ろうとはしなかった。

 だが、今回は俺の腕に抱きつき、獲物をしとめる眼差しでレジェリクエ女王を見つめている。


 大丈夫だぞ、リリン。

 俺がリリンを捨てて、他の誰かに乗り換えるなんてないからさ。

 だから、そろそろ腕の締め付けを緩めてくれ。折れる。



「そうそう、今日はアンジェにも会いに来たのよぉ」

「私にもですか?」


「貴方のお父さんが帰って来るわぁ。3時到着の高速運営馬車に乗ったと連絡があったのぉ」

「えっ!?ほんとですか!?」


「ほんとよぉ。出迎えてあげなさぁい」



 レジェリクエ女王の話を聞いたアンジェは、直ぐに椅子から飛び降りて走りだした。

 そして銀行のドアに手を掛けた瞬間、クルリと体を返して一礼し、



「皆様、それでは失礼いたします!」



 と言ってから外に飛び出していく。


 それを聞いたリリンは自分の手帳を取り出して、備考欄に浮かんでいたアンジェの名前を押した。

 そして、「依頼完了」と呟いてから手帳を閉じる。



「良い子でしょぉ、アンジェ」



 一瞬の沈黙を切り裂いたのは、背筋をザワつかせる妖艶な声。

 レジェリクエ女王の発した声は、それが魔法であるかのようにすぅっと俺の頭に溶け込んでくる。



「あぁ、しっかりと敬語も使えるし、俺達への配慮みたいなのも感じたぜ。ジュースだって買って来てくれたしな」

「良く笑う子供は、それだけで良い子。それは間違いないと思う」

「そうねぇ、でも、この国に来た時はそうじゃなかったわぁ。戦争孤児になりかけたあの子は、人をまったく信用しない子だったものぉ」



 戦争孤児になりかけた?

 さっきの話を聞く限りじゃ、お父さんは生きてるだろ?



「不思議って顔をしてるわねぇ。ユニクぅルフィン」

「まぁな。あと、妙な所を伸ばすな」


「アンジェの住んでいた村はノウリ国に属する農村だったのよぉ。小麦が豊かに実る良い土地だったわぁ」

「良い土地……だった?」


「戦争が激化したきっかけはぁ、国規模の麦不作ぅ。だけど、アンジェの住む村は豊作だった。何故だか分かるぅ?」

「凄い肥料を撒いていた……とかか?」


「あはぁ。半分正解ぃ。確かに栄養源となるものが大地に染みこみ、連作障害を和らげていたのぉ。そしてその正体は……人」



 ひと?

 ……人ってことなのか?



「アンジェの住んでいた村は、とても重要な戦場拠点よぉ。繰り返される歴史の中で大地には様々なモノが染み込み、他の土地よりも栄養が豊富だった。だから不作を免れるのぉ」

「そんなことがあるのか……?いや、あったとしても、その地で作った農作物は忌み嫌われるんじゃ……?」



 聞くだけで気分が悪くなる話だ。

 誰だって、そんな土地で作られた作物を食べたいとは思ないだろう。



「そう、だから有事の際以外には見向きもされず、そして、役目が来れば刈り取られる」

「なんだと?」


「国が不作に陥った時、そういった地に蓄えられていた麦はすべて収穫されるわぁ。そして、次の不作の為に栄養を溜めこむ準備をする」

「……まさか、ワザと敵兵を呼び込んで……?」


「重要な拠点と言うのはぁ、有用な拠点とイコールではないわぁ。地形、水の流れ、気候。すべて加味した上で奪還が用意だからこそ、何度も使用できる餌となる」



 それから聞いた話は、大魔王がどうとか言ってふざけていられない程に深刻な話だった。


 ノウリ国は不作で国が傾いた時の為に、『生贄村』などと呼ばれる集落を用意していたというのだ。

 その村の役目は、悲しき歴史の上で富んだ土地を管理する事。

 そして、それを知るのはごく一部の人間だけであり、アンジェの家族は知らない側だった。



「やり方は簡単なのよぉ。まずは村の男性を戦場送りにする。麦を作るしか能がない人間に、人を殺せと命じるの」

「それは不可能だろ。いきなり殺せと言われても、剣も魔法も使えないんじゃ……」


「そう、だから大地の餌になる。そして、村に残った女子供は人の餌にされるわぁ」

「人の餌だと?いくらなんでも、そんなことが……」


「攻めてきた敵兵は嬉しかったでしょうね。残りものとはいえ最低限の麦がある。敵だって貧困にあえいで戦争に参加させられた(・・・・・・・)者達。すいた腹は偽れない」



 腹が減っては戦は出来ぬ。か。

 だが、腹が満ちても戦は起こらないのだ。

 人は、追い詰められるほどのきっかけがあって、初めて人を殺める事が出来るんだから。



「最低限の麦に、飽和した人口。武器を持つ男性兵士と、くわを持つしかできない農民の女子供ぉ。どうなるかなんて難しくないわ」

「あぁ、だろうな。胸糞が悪くなる話だ」



 ノウリ国が連作障害を緩和する方法として、どうやってこの方法に辿りついたのかは分からない。

 だが、確かにその方法は有用だった。ただそれだけの事なんだろう。


 フランベルジュ国、ノウリ国、ギョウフ国。

 この三国を中心とした戦争は、大きな爪痕を各地に残した。

 そしてその影響は恐らく……今も続いている。



「余がカミナとその村を掌握し兵士を取り除いた後、残ったのは15人だったわぁ」

「15人か……その内、子供は何人だ?」


「あはぁ、全部よ。15人すべてが余よりも年下の子供だったわぁ」

「なんだと……」


「僅かに村に残っていた男性と女性では、必要な食事が少なくて済む女性の方が生き残り易いのぉ。まして、夜伽ができない子供なら尚更ねぇ」

「なんてひどい」


「だけど、戦地に行った兵士は生き残っている可能性がある。その戦いの目的は口減らしだけれど、だからと言って有用な兵士を無意味に殺す必要はない。そしてぇ、アンジェの父親も生き残っていた」



 そうか……。ほんの僅かでも救われた人がいたってことなんだな。


 生き残った15人、その家族がどこに居るのかなんて分からなかったはずだ。

 だからこそ、心無き魔人達の統括者は、この『隷属奴隷システム』を創り上げた。

 掌握した敵兵を徹底的な情報管理下に置く事で、保護していた子供達と結びつけ再会させたのだ。


 まいったぜ。レジェリクエ女王陛下。

 ただのゲロ鳥愛好家の一人じゃなかったんだな。


 まさに聖人と呼ぶにふさわしい偉業に触れた俺は、大魔王とか揶揄していた事を恥じている。

 すまん、会うたびに俺に暴行を加えてきた他のメンバーを基準にして考えていたのが間違いだった。



「なんか、想像していたより10倍は良い人だな。レジェ」

「褒められて嬉しいわぁ。もっと言ってぇ」


「ちなみに、そんな風に戦争で酷使された人が再び戦地に出ているのは何でだ?」

「便利だからよぉ」


「……は?」

「生き残ったという事は、生き残るに足る実力があるということでぇ、それは余が掌握した戦力なのぉ。使わないと勿体ないじゃなぁい」


「雲行きが怪しくなってきたな?その人はどこの部隊で何をしている人なんだ?」



 戦争に参加すると言っても、その役割は色々ある。

 たとえば、兵士の為に食事を作る給仕係だって立派な兵士だ。



「どこの部隊かと聞かれればぁ、『リリンのぉ』と答えるわぁ」

終末の鈴の音(べルナロクぅ)……」


「その役割を聞かれればぁ、『一番槍』と答えるわぁ」

「一番槍?突撃兵って事かッ!?」



 なんつーエゲツナイ采配ッ!!

 それじゃ、ノウリ国時代とやってる事が一緒だろうがッ!!



「そう、それは良かった」

「リリン?なんで良いって事になるんだ?」


「私の部隊は主に二つに分けられている。戦争を終わらせる決戦部隊。もう一つは、戦争を始めさせない遊撃部隊。アンジェの父親が在籍しているのは遊撃部隊の方だよね?レジェ」

「そうよぉ。今回の一時帰還のしんがりを奏上して来たのも彼らの自由意思ぃ。救うべき命を可能な限り掬い上げたいと言われたからぁ」



 それから語られた真相は、驚くべきものだった。


 アンジェの父親は、終末の鈴の音の分隊長を担っているらしい。

 その役目は、亡命者から得た情報を元に紛争地へと赴き、速やかにその地を掌握する事だという。


 それは、静まり返った水面に、たった一つの石を投げ込む様なもの。

 行き別れた家族の安否、作物が育たなくなった土地の蘇生法、希望を失ったものが最後に縋る天上の国の話。

 世界を終焉へと導く終末の鈴の音(べルナロク)、その遊撃部隊は、様々な情報を駆使しつつ圧倒的な武力を振りかざし、無血開城を繰り返させていたのだ。


 そうして、各国から奪い取ってできた隷属連邦は、大魔王が作り上げた隷属システムを基軸にして必要な人材を瞬時に送り込めるという完璧な人員管理を行っている。



「銀行とお風呂が一緒なのはぁ、お金という分かり易い褒美を与える事で気を緩ませてぇ、持ち物検査や情報収拾を効率的に行う為なのよぉ」

「なんというか……。ほんと大魔王してんなぁ」


「あはぁ、褒めて貰えて嬉しいわぁ」

「照れ隠しに大魔王って言ったら、喜ばれただと……」


「偉大な、魔法の、王。でぇ、大魔王でしょぉ?」

「まったく、英雄見習いの俺じゃ勝てないな!」

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