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第18話「大魔王城下町③」

 慈しむ姿の、かの鳥はー

 螺旋を描いて空を飛ぶー


 そんな夢見て、丘に立ちー

 ついばむ草はおいしいなー


 あぁ、ぐるげーぐるぐるげー!

 ぐるぐるげっげー!ぐるぐるげー!!



 頭にゲロ鳥帽子を乗せた少女が、偉大なゲロ鳥讃美歌を唄っている。

 その声は熱気あふれる街と調和し、まるで争いなどとは程遠い平和な楽園であるかのようだ。


 あぁ、この国の名は、独裁掌握国・レジェンダリア。

 大絶賛侵略活動中の大魔王国だ。



「おっと、着きました。ここが銀行ですよ」

「……ここがか?」



 アンジェに案内された建物は豪華な装飾が施されており、一見して銀行には見えない。

 というか、じっくり見ても銀行には見えないな。

 なにせ、『源泉かけ流し』とか『肩凝り・腰痛、疲労回復』っていう旗が立っている。



「亡命された方はまずここに来て、自分を売った代金を手に入れます。ユニクルフィン様も貰っといた方がお得ですね」

「確かに、名目上は奴隷として自分を売った訳だし、代金を受け取るのは妥当だと思うが……」


「気になる事でも?遠慮なく言って下さい。サービスするって決めたんで!」

「じゃ、遠慮なく。……ここのどこが銀行なんだよ!?完全に温泉施設だろッ!!」


「どこがって言われてましても……。銀行と公衆浴場はセットじゃないですか」



 ……いや、普通はセットじゃないと思うんだが?

 大魔王が悪ノリで立てた温泉郷にも銀行なんてなかったしな。


 いや待てよ……?

 もしかして、普通の風呂に見せかけて、札束風呂とか純金風呂にでも入るのか?

 流石は大魔王の国、考える事が派手すぎる!



「アンジェ、他の国の文化ではお風呂と銀行はセットでは無い。覚えておくと良い」

「えっ、そうなんですか?でも、それって不便ですよね?」


「他の国はそもそも不便になる様な事をしていない。この国が特別だよ」



 ……札束風呂は無さそうだな。

 俺が無理やり納得しようとしていると、リリンがアンジェの意見を訂正していた。

 話を聞く限り、どうやらここにも大魔王の策謀が渦巻いている。



「なぁ、リリン。どうして風呂と銀行が一緒なんだ?」

「アンジェの言うとおり、亡命者にとってはその方が便利だから」


「便利?」

「中に入れば納得してもらえると思う。行こう」



 そういって、リリンは俺の手を握って歩きだした。

 買い食いデートで最初に入る店が銀行と風呂か。

 既に混沌としてるんだが、大丈夫だろうか?



「うお、中は結構広いんだなー!で、銀行は……あの窓口か」

「はいそうです。あそこでお金を受け取ったり、預けたり、借金のかたに売り飛ばされたりします」



 なるほど、普通の銀行と違う点は、借金を返せなくなると売り飛ばされるという所だ。

 おそらく、お金だけじゃなく、人間の貸し借りもしていると思われる。



「さて、ユニクルフィン様、亡命者向けの案内を始めても良いですか?」

「おう、頼む」



 リリンがアンジェを雇ったのは、俺に亡命の実態を把握させるためなんだとか?

「口での説明で済ましてしまうよりも、ちゃんとしたガイド役に案内してもらい、流れを体験する方が分かり易い。なお、アンジェが知らない裏情報は私が補足する!」と言っていた。


 それには俺も賛成だ。

 リリンは記憶力が良く知識も豊富。

 だがしかし、後ろにいる策謀系聖母様や掌握系女王様が、どんな仕込みをしてるか分からない。

 流石に、アンジェにまで仕込みをしている訳ないしな。



「では、始めますね……我が国レジェンダリアでは、亡命者はその身を女王陛下に捧げた対価として、金銭を受け取る事が出来ます」

「おう、大体の相場は200万エドロくらいだって話だよな?」


「そのくらいですね。そしてそれはこの銀行で受け取る事が出来るのです。では早速行ってみましょう」



 アンジェは案内に慣れているようで、無駄のない動きで俺を誘導している。

 それを後ろから検分している大魔王リリン。

 平均的な頬笑みで頷いているし、ここまでは満足しているようだ。



「おっと、窓口が少し混んでます。ちょっと待ちましょう」

「そうだな。待ち時間は10分くらいか?」


「そうですね。あ、私、皆さんの分のジュースを買ってきますね!美味しいのがあるんです!」



 そう言って、アンジェは売店コーナーへ走っていた。

 スタンプを貰ったのが相当嬉しかったようで、自分の隷属手帳をしっかりと抱いている。

 もしかしたら、あっちに友達でもいるのかもしれない。


 で、銀行&風呂屋の中に入ったはいいが、関係性がまるで見えて来ないんだが?

 教えて、大魔王様さまー。



「リリン、中に入っても関係性が分からないぞ?」

「あの人達を見て欲しい」


「ん?あれは……さっきの幼女にカツアゲされてたチンピラ集団か?」



 指差された場所に居たのは、先ほどのチンピラ集団。

 またしても幼女に囲まれており、手を引かれて「あっちにいこう」と風呂の方へ連れて行かれそうになっている。


 ……あえて言おう。

 逆だろ。立場が。


 ちょっと混沌としているし、少し様子を見てみよう。

 俺は幼女に絡まれているチンピラ集団のリーダーに視線を向けた。


 **********



「おいおいおい、ちょっと待ってくれ!!聞いてた話とまるで違うぞ!?」

「話が違う?そうなの?」


「そうだ。そしてなんだこれは!?こんな事があっていいはずがねぇ!!」



 幼女に取り囲まれているとはいえ、チンピラリーダーのレベルは21000。

 レベルが3000の幼女では太刀打ちできるはずもない。


 だが、焦っているのはチンピラリーダーの方だ。

 今も必死に声を荒げ、幼女にすがる様な顔を向けている。



「こんな……、こんな大金をポンと渡されたと思ったら、今度は風呂に入ってから飯を腹いっぱい食えだと!?しかもそれがタダだと?どうなってやがる!?」



 チンピラリーダーの手の中には、見るからに分厚い札束が4つも握られている。

 ぱっと見た感じだと、400万エドロって所だな。

 それに、良く見れば周りの子分チンピラも大事そうに札束を抱えていて、あまりの事態に放心しかかっているようだ。


 ん?奴隷契約の代金は200万エドロが相場って話だったと思うんだが、全員が300万エドロ以上も貰ってるな?

 チンピラリーダーの言葉は、聞いていたよりも多い金額なんだが!?って意味なんだろう。




「そのお金とお風呂とご飯は、女王陛下の奴隷になった事に対しての恩赦なんだってー」

「恩赦だと?」


「そうなの。『今までの人生を終わらせ、他者に祝福されながら、生前の罪と業を洗い流す。これこそが真の亡命よ』だって、女王陛下が言ってたもん」



 なるほど、大魔王陛下は一気に洗脳教育を完了させるつもりらしい。


 チンピラの目線だと、『金が貰えるという噂を聞きつけて来てみれば、本当に金が貰えた。しかも聞いていたよりもずっと多い金額で、さらに、風呂や飯もまでタダだと言う。到底信じられない』って感じか?

 そして、露骨な高待遇に疑心暗鬼になりかけた頃、無邪気な子供が言う訳だ。

『これは女王陛下からの好意。恩を感じたのなら、この国に忠誠を捧げなさい』と。



「お兄ちゃん達はね、赤ちゃんなんだよ?亡命して生まれたばかりの赤ちゃんだから、お風呂に入って綺麗にならなくちゃだね!」

「風呂に入って綺麗に……。この汚れた体を、綺麗にしていいと……」


「ついでに服も靴もピカピカにしてくれるよ!だから、お風呂に行こうよー」



 幼女に手を引かれたチンピラリーダーは目を瞑り天に祈りを捧げた。

 その1秒にも満たない黙祷は、今までの自分への追悼。

 そして、これからの人生に思いを馳せた笑顔を輝かせて、嬉々として歩きだした。



 **********



「チンピラ、嬉しそうだったな」

「そうだね。あれだけのお金があれば、2週間くらいはご飯に困らない」



 ……400万エドロもあれば、普通は1年以上は困らない。

 なお、グルメな大魔王とそのペットは食費が他人の10倍くらいかかるので、その限りでは無い。



「それで、金額が多かった気がするんだが?」

「たぶん有用な魔法を覚えていたんだと思う。一芸があると、その分の査定がアップする」


 

 なるほど、確かにそうだよな。

 しかも、倍近い金額を貰ってしまったら、いよいよ大魔王陛下の傀儡コースだ。

 うーん、悪どい。


「ちなみに、お風呂に入る事にも隠された意味がある」

「まだあるだと!?」


「実は、亡命者の情報を調べるためにお風呂を勧めている」

「……それはつまり、洗濯するって名目で服や武器を強制接収してるってことか?」


「そう」



 なにその、ユニバーサル(国際的)追い剥ぎッ!?

 つーかこのやり口は見たことがあるんだがッ!?


 この追い剥ぎの仕方は、アルカディアさんを疑っていた時にリリンが仕掛けた奴にそっくりだ。

 違う点は、今回は国が主導で行っているという組織的犯行であり、非常にバレにくい。


 なにせ、その先導役が純粋無垢な幼女。

 そんな幼女に風呂を勧められただけで、誰が追い剥ぎされていると思うのか。



「さらに、習得した情報は隷属手帳に登録された情報と紐付けされ、王宮で管理されることになる」

「確か、この国では、何をするにも隷属手帳が必要なんだったよな?」


「うん、あった方が便利なのは確実」

「だとすると……過去と現在の情報をすべて掌握されるって事か。何それ怖い」



 幸せな気分で身ぐるみ剥がされた上に、知らずに人生を掌握されているとか、すげえ怖い。


 着ている服なんてものは、その人の個人情報を顕著に表す。

 シャツ1枚にしたって、売っている店が1店舗しか無ければそこで買うしかないしな。

 高級な鎧とか剣だと、他人から貰ったり中古を買ったりする事もある。

 だが、くたびれたパンツ1枚が、決定的な証拠になることだってあるのだ。


 なぁ、ユルユルおパンツおじさま。



「リリンサ様、ユニクルフィン様、お待たせしました!!」



 ユニバーサル追い剥ぎという大魔王策謀に恐れ戦いていると、アンジェが戻ってきた。

 その手には雫が付いている瓶ジュース。

 薄らと曇っているし、随分と良く冷えているようだ。



「このゲロ鳥印のオレンジジュースが美味しいんですよ。はいどうぞ!」

「おう、ありがとな」



 受け取った瓶には、ちょっと立派な飾り羽の生えたゲロ鳥が描かれている。

「炭酸ジュースで、ぐるぐるげっげー!」というキャッチコピーが随分とシュールだな。


 何でもゲロ鳥を付けとけば良いと思ってんじゃねぇぞ。



「おっと、順番がきましたよ。ラングドさん、亡命者の方をお連れしました」

「随分と若いひよっこが来たもんだねぇ。その歳で亡命とは可哀そうに」



 案内された窓口に居たのは、大体50くらいのおばちゃんだ。

 だが、このラングドさん、ただの銀行員では無いだろう。


 だって、レベルが5万を超えている。

 流石は大魔王国。銀行員ですら、超一流の戦闘力。

 愛想笑いを浮かべておこう。



「ははは、俺自体は亡命するつもりは無かったんだが、連れがした方が良いって言うんでな」

「後ろの女の子かい?へぇー、その歳で逢引きとはカッコイイね」



 逢引き認定されたんだが。

 まぁ確かに、逢引していると言えなくもない状況だが、本気で逢引するんだったら別の国に行くかな。


 おばちゃんは俺達に興味津々でマシンガン口撃を放って来た。

 それを適当に避けつつアンジェに視線を送る。

 アンジェも慣れている様ようで、おばちゃんの話を打ち切って本題を切り出した。



「ラングドさん、紹介での亡命でもお金は出ますよね?受け取りたいんですが」

「はいよ。じゃ、手帳を出しな」



 アンジェに促されて隷属手帳を取り出すと、机の上の機械の上に置くように指示された。

 なんだ?と思い様子を窺っていると、後ろからリリンがこっそり補足をしてくれる。



「レジェンダリア国内に於いて、隷属手帳は身分証明書になる。重要な契約をするには絶対に必要」

「ちなみに、俺達の階級がバレると騒ぎになるよな?いいのか?」


「基本的に、隷属階級は伏せられるから大丈夫」



 どういう仕組みなのかは分からないが、隷属手帳を使って取引をする場合でも中身を見せなくていいらしい。

 特殊な魔道具を使って隷属手帳の情報を読み込むらしく、問題がある場合はエラーが出るそうだ。


 この仕組みはカミナさん作だな。

 国の運営システムを作り上げたとか、こっちの業界でも凄過ぎる!



「じゃあ、サクッとよろしく頼むぜ」

「はいさ。それにしても、他の亡命者は困惑するってのに、あんたは落ち着いたもんだねぇ」


「覚悟をしてるからな。色んな意味で」

「そうかいそうかい、幸せにやんな」



 おばちゃんは俺と会話をしつつ、素早い動きで事務処理を行ってゆく。

 というか、マジで速いんだけど。


 明らかにバッファが掛ってるし、たぶん、瞬界加速と第九識天使か?

 確実なのは、この銀行に強盗をしようとしても確実に返り討ちにされる。


 俺は遠い目でおばちゃんの処理が終わるのを待つ。

 そして、その指の動きがピタリと止まった。



「あんさん、なにしたとね?」

「はい?」


「こんな桁、見たこと無いんよ。特別に3等級から始まった貴族でも、こげなことはありえなかと」



 なんか問題が発生してしまったらしい。


 おばちゃんが持っている電子端末を見せて貰うと、そこには『*,***,***,***エドロ』と表示されていた。

 察するに、俺に振り込まれる金額の桁が多すぎるんだろう。

 伏せ時になっているとはいえ、10億エドロは確定してるって事だしな。



「あ、それについては問題ない。そのまま確定してくれて良い」

「それは……いや、何かの間違いだと女王陛下に迷惑がかかるとね。確認してくるから、ちょっと待っとき」



 リリンが大丈夫だと言っても、おばちゃんは納得できなかったらしい。

 待っているようにと俺達に言った後、そそくさと奥に行ってしまった。


 うん、このやり取り二回目なんだけど。

 また盗賊でも出てくるのか?



「あ、あの……ユニクルフィンさん?」

「ん?どうしたアンジェ」


「いえその……、私もこんな桁を初めて見たので……」



 俺達にとっては予想の範囲内だが、アンジェにとってはそうじゃない。

 気軽に声を掛けた人が得体のしれない何かだと判明し、ちょっと涙ぐんでいる。


 流石に可哀そうだな。

 すこしなら事情を話しても良いかな?

 そうリリンに聞いたら、私が説明すると言って隷属手帳を取り出した。



「アンジェ、誰にも言わないなら私の秘密を教えてあげる」

「秘密……ですか?えっと、それは怖い奴ですか?」


「怖くない。むしろ自慢できる!」

「そうなんですか?えっと、じゃあ、お願いします」



 いや、怖くないとは言いきれないぞ。

 なにせ手帳には、心無き魔人達の統括者って書いてあるからな。


 リリンは平均的な大魔王顔で不敵に笑い、手招いた。

 そして、おそるおそる近づいたアンジェにこっそりと手帳を見せつける。



「……え。」

「ふふふ、こういうこと。たぶん明日には私の存在が公表される。それまでは友達にも言ってはダメ」


「わ、わかりました!!ふ、ふふ、すっごいスタンプ貰っちゃった……」



 リリンの手帳を見たアンジェは事情を察し、納得してくれたようだ。

 だが、俺達が心無き魔人達の統括者だとバレるのは問題がある気がする。


 そう思って、リリンの手帳を覗いたら……備考欄に『ブルファム王国侵攻軍・総指揮官』と書かれていた。

 へぇー、資産価値と隷属階級は指で隠しつつ見せて、上手に誤魔化したな。

 戦争に出ていた指揮官が帰って来たというのなら、白い敵とは結びつかない。

 これならギリギリセーフだ。



「お待たせしましたぁ」



 それから、リリンになついたアンジェを愛でていると、代わりの銀行員さんがやってきた。

 その子は声が高い代わりに、背が低い。

 見るからに年下の女の子であり、セフィナと同じくらいの年齢に見える。


 だが、その髪型は圧巻の一言だ。

 なにせ、金髪縦ロールに髪を結い前に垂らしている。

 付けている装飾品もとっても豪華だしな。


 その風格は、もう、明らかに銀行員を超越している。

 なんと言っても……レベルが90900もある。



「ここの銀行の総支配人のぉレジィよぉ。お見知りおきを、ユニクルフィンさま」



 ……。

 …………。

 ………………。

 大魔王陛下が降臨なさったッッッ!!


こんばんわ!青色の鮫です!!


皆様の応援のおかげで、500話に到達できました!

ここまでお読みいただけたこと、大変嬉しく思っております。


これからもお話は続いていきますので、どうぞよろしくお願いします!

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