第16話「大魔王城下町①」
すみません、うっかりサブタイトルの第××話の数字が被っていたので修正しました。(汗
そのため話数が変更しておりますが、内容は変わっておりませんのでご安心ください!
廊下を進み終えた俺達は、荘厳にして巨大な扉をくぐり抜けた。
その扉は、あの世とこの世を繋ぐ門であるかのように、美しき天使が描かれたもので。
きっとこの扉をくぐる事は、『亡命』の暗喩。
新たな命を得て生まれ変わる為に必要な、儀式だ。
「ここがレジェンダリア。大魔王が統治する国……」
門をくぐって直ぐに立ち尽くした俺を出迎えたのは、ゴーンゴ―ンと遠くから響く鐘の音と、何処までもまっすぐに延びる巨大な道路。
……そして。
道路の両脇に広がった屋台から発せられる、超美味そうな匂いだ。
「う”ぎるあ!?めっちゃいい匂いするし!!」
「うん、いつ来ても爽快な光景。心が躍る!」
「……なぁ、リリン」
「あ、タコ焼きあるし!焼きそばもあるし!!買いに行くし!!!」
「どうしたのユニク?」
「思ってたのと、だいぶ違うんだがッッ!!」
俺は魔王の国に来たはずだぞ!?
だがなんだこれは!?!?
何これ、滅茶苦茶、観光地ッッ!!
俺の目に映っているのは、見渡す限りに続く露天商と笑顔が煌めく人の群れ。
老若男女、色んな人がいるけれど、ものの見事に全員が笑顔だ。
リリンの温泉郷も凄くワクワクしたが、こっちの街並みの方が圧倒的に凌駕している。
なにせ、出ている店の数が半端じゃない。
温泉郷はお土産が中心の構成だったけど、こっちはお食事処、貴金属商、武器や防具屋、書店、と幅広い。
それらの店がしのぎを削り合って客引きをしている光景は、世界一豊かな国と言っても良いかもしれない。
……もう一度言うぞ!?
俺は魔王の国に来たんだがッッ!?!?
「いや待てリリン、何かがおかしい。ここは魔王の国だろ?」
「何もおかしい事はない。いつもどおりの光景だよ」
「いやだって魔王……。俺のイメージではさ、もっと静かな街並みというか……悪魔みたいに強い奴がウロウロしてて、空気が張り詰めてるもんだと思ってたんだが?」
「そうゆうのよりも、こういうお祭り騒ぎの方がレジェは好き。よくお忍びで、ここにも遊びに来るし」
大魔王陛下、こんなとこまで遊びに来るのかよ。
城から結構な距離があるぞ?
俺が向けている視線の先には、薄らと霞む巨大な城がある。
恐らくアレが、大魔王の城たる『隷愛城』。
遠すぎて良く分からないが、高さだけでも100mはありそうだし、どう見てもラスボスが住まう風格が漂っている。
「レジェリクエ女王陛下が遊びにくるのか。何をしに来るんだ?」
「素直に息抜きをしに来ているのだと思われる。レジェの実家も近いし」
女王陛下の実家?
いや、それは城だろ。何で下町に実家があるんだよ。
と思ったが、そう言えばレジェリクエ大魔王陛下は複雑な事情の末に女王になったとか聞いた気もする。
これは、触らぬ大魔王に祟りなしってやつか?
「レジェリクエ女王陛下が遊びに来るから、観光地っぽくしているってことか?」
「それは違う。あえて観光地の様な造りにしているのは、亡命してきた人を従順な国民にするため。見て」
観光地っぽいのは、亡命者を従順にするため?
なるほど、関係性がまったく分からんが……。
リリンが指差した所に居たのは、門に入る前に盗賊に襲われていたチンピラ集団。
そいつらは俺と同じ様に困惑しながら、なんと幼女に囲まれていた。
「リリン、チンピラが幼女にカツアゲされてるぞ?流石は魔王国。常識が見当たらねぇ」
「あれはカツアゲされているのではない。近くに住む子供たちが依頼を持ちかけている」
「依頼?なんのだ?」
「実は、亡命者と関所のやり取りはスクリーンに映し出されていて、それを見た子供達は案内が必要そうな人に声を掛けている」
「マジかよ!?そんなスクリーンどこ……」
振りかえっているリリンの視線を追ってみると、すぐにそれらしいスクリーンが見つかった。
俺達がくぐってきた天使の門、その裏側に巨大なスクリーンが取り付けられていたのだ。
うん、バッチリと亡命希望者の面接風景が映し出されているな。プライバシーどこ行った?
それに他にも問題があるぞ。
スクリーンを支えているように、扉に掘りこまれた天使像が位置どっている。
問題は、その天使像の背中に悪魔っぽい羽根がある事だ。
「なんだあれは?天使かと思ったら悪魔だったんだが!」
「正しい事のみをしている人も、悪い事のみをしている人もいない。善悪を併せ持つのが人であり、それを恥じる事はない。って意味らしい」
「凄くそれっぽい事を言ってるが、他にも意味がありそうなんだが?」
入る時は天使が出迎えて、出ていく時は悪魔が立ち塞がるって、発想が極道のそれだろ!?
一度捕まえた獲物は逃がさないという、大魔王様の意志を感じるぜ!!
「ちなみにさ、子供が声を掛けているけど、ちょっと危なくないか?チンピラと言えどレベルが2万近いぞ?」
「それは問題ない。関所の人が面接の時に行う心理掌握術によって、新たに犯罪をする事に忌避感を抱くようにしてある」
「な・ん・だ・そ・れ・は?」
「簡単に言うと、さっきの門をくぐった人は新しい人生を得たと錯覚し、真っ白な人間になったと思うようになる。どんな悪い人であれ、多かれ少なかれ罪悪感を感じているもの。それが帳消しになったと言われれば、新たに犯罪を起こさないようにするのは当然と言える」
……なるほど、確かにそうかもな。
人殺しをするにしたって、最初はそれ相応の動機があったはずだ。
だが、2回目以降は『もう、一人殺すも二人殺すも同じ』という心理が働く。
それを、天使の門をくぐる事でリセットしていると。
これはたぶん、カミナさんあたりが言い出した事だろうな。
心理学に精通しているとか言ってた気がするし。
「ちなみに、隷属手帳には様々な機能が搭載されていて、子供が助けを求める為の装置も備わっている」
「へぇー?どんなのだ?」
「隷属手帳に向かって「助けて!」って言うと半径500mに居る人全ての隷属手帳に緊急救援依頼が送付され、犯人は集団フルボッコされる」
「大魔王流だが、妥当な処置だな」
リリンの話を聞く限り、子供でも安心して大人に依頼を持ちかけられる仕組みになっているらしい。
ホント、この大魔王システム良くできてんな。
ちょくちょく真っ黒だが、しっかり国民の為にもなっているという素晴らしい仕組みだ。
「それで、あの子供達はどんな依頼を持ちかけてるんだ?」
「この国の案内と基本的なチュートリアル。そして真の目的は、隷属手帳のシステムを説明しつつ、経歴掌握ルートへの斡旋を行うこと!」
「油断してたら変なのが出てきた!?なんだその経歴掌握ルートってのは!?」
ちょっと気を抜いたらすぐこれだよ!?
どうやらあのチンピラ集団は、大魔王の策謀に捕まってしまっているようだ。
経歴掌握って言うくらいだし、過去を洗いざらい吐かされるに違いない。
「それは……あ、丁度良かった。私達の所にも来たみたい」
「え?」
言葉を打ち切ったリリンは振り返り、視線を下に向けた。
そこに居たのは快活そうな子供。
中性的な顔をしているが……たぶん女の子……か?
「おにーちゃん、おねーちゃん、こんにちは。レジェンダリアへようこそ!」
「こんにちわ。私達に何かごよう?」
その小さな子は、まっすぐな瞳でリリンを見上げて声を掛けてきた。
やはり、声を聞いた感じだと女の子っぽいな。
茶色い髪はショートに切り揃えられていて、いかにも元気いっぱいな子供って感じだ。
ただ、一つ気になるのは……。
この子の頭には、ゲロ鳥そっくりな帽子が乗っている。
パっと見て、本物を乗せてるのかと思って焦ったのは内緒だ。
そして、リリンに問いかけられたゲロ鳥帽子少女は手を胸に当てつつ、目を潤ませた。
「うんとね、もし良かったらなんだけど……。私をお買い求めになりませんか?」
そうだな、タイトルを付けるとしたら『花を売る少女』って感じかな?
……って、おい。
落ち着け俺。こんな子供が堂々とそんな事を持ちかけてくるはずがないだろ。
これもどうせ、大魔王陛下の策謀――。
「なるほど、おいくら?」
「お店に入っても、お風呂に入っても、1時間1200エドロぽっきりです!!」
待て待て待ってぇえええッ!?!?
なんて事を言っちゃってんの!?
それは子供が言っていい言葉じゃねぇぞ!!
つーかリリンも乗っかるなよ!?
「待てリリン!意味分かって言ってるのか!?」
「意味?この子は街の案内を申し出てくれているだけだけど?」
「えっ」
「そうだよね?」
リリンがゲロ鳥少女に確認の視線を向けると、「うんそうだよ!あっちに公衆浴場があるんだ」と満面の頬笑み。
うん、すみませんでした。
どうやら俺は、心が汚れているようです。
「ふむ、ちなみにどうして私達を選んだの?」
「おねーちゃん達はvipルームから出てきました。そして、関所の人の動きもなんか変です。しかも、何だかんだ階級の高いロリコンブタ箱野郎が窓から突き出してるとか意味不明です。なので、おねーちゃんは高位階級のお方だとお見受けしました」
……この子、盗賊の事を『ロリコン豚箱野郎』って言いやがったぞ、満面の頬笑みで。
さっきの言葉が絶妙だったのも、確信犯なんじゃないのか?
「更に聞きたい。どうして一人で来たの?亡命者には複数人で案内するのが推奨されているはず」
「だって、おねーちゃんがこの国の偉い人なら案内はいらないでしょ?でも、久しぶりに帰ってきたようだし、一人なら雇ってもらえるかなって」
「なるほど。確かにいっぱい来られても困るし、一人か二人くらいがいいと思っていた」
「でしょ!?ねぇねぇ、私を雇ってください!お小遣いがピンチなんです!!」
そして、ゲロ鳥帽子少女はリリンにすり寄った。
この子、ちょっと強かすぎない?
流石は大魔王の国に住む子供。標準で心無き子悪魔だ。
「分かった。雇いたい」
「やったぁ!」
「私の名前はリリンサ、こっちの人がユニクルフィン」
「私はアンジェだよ!よろしくね、リリンサ様、ユニクルフィン様!」
そう言って、二人は隷属手帳を取り出した。
どうやら、これから大魔王システムを使った依頼を行うらしい。
で、それはそうとして……アルカディアさんどこ行った?




