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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第12話「魔王の国に集う者」

「ここがレジェンダリア……。大魔王が統治する国……」



 馬車から下りた俺の目に、異常過ぎる光景が飛び込んできた。


 地平線の彼方まで続く壁と、それに沿うようにして並ぶ亡者の行列。

 巨大な門に描かれた天使の彫像と、それに祈りを捧げながら絶望している群衆。

 ソレを平然と眺めながらクッキーを喰っている大魔王と、そのペット。


 最後のは身内だから良いとして、前の二つは凄まじい。

 あぁ、国に入る前なのに、既に一万人以上の涙が流れてやがる。

 その内、涙で川でも出来るかもしれない。



「ちょっと思ってたよりも凄い光景だな。これが平常運転だってのか?リリン」

「そう。レジェが目指していている国は、良い意味でも悪い意味でも常軌を逸している」


「常軌を逸しているのなら悪い意味しかないだろ」

「……眩しすぎる炎の光には、綺麗な蝶すら寄せられてしまうもの。って、ワルトナが言っていた」


「流石は聖女様だな、物言いが凄く綺麗だが……。要約すると『飛んで火に入る夏の虫』って事だろ!!」



 身内からも酷い言われようなんだけどッ!?

 大丈夫なのか、レジェンダリアッ!!



「ちょっと国に入るのには勇気がいるな」

「むぅ、そんなに心配しなくても大丈夫。レジェンダリアに入ったが最後、二度と出てくる者はいないと、とても評判が良い!」



 ……それ、どう考えても悪評だろ。

 むしろ、死刑宣告に近しい何かな気がするぞ。



「ということで、私達が並ぶのはあっちの入り口」

「ん?あの亡者の行列に並ぶんじゃないのか?」


「そっちは、レジェンダリアへ観光しに来た人の行列」

「……観光だと?すげぇ顔で絶望してんだけど?」


「それは単純な事。レジェンダリアへの入国料はタダでは無い。むしろ高くて、旅費の半分が入国料になる事も多く、持って来たお金が足りないかもと絶望している」

「ちなみにお幾ら?」


「男性250万エドロ、女性80万エドロ、子供2万エドロ」

「格差が酷いッ!!」



 おいッ!!ふざけんなッ!!

 なんで男だけ、そんな業を背負わなくちゃならねぇんだよッ!?


 それが、レジェンダリアに入る為のルールだというのならば仕方がない……が、理由を聞かないと納得できん。

 リリンなら知ってるだろうし、素直に聞いてしまおう。

 ……「レジェの趣味」とか言われない事を祈る。



「なぁ、男だけ高いのは何でなんだ?納得できないんだが?」

「ん、ワルトナの趣味」


「そっちだったかッッ!!」

「でも、ちゃんとした理由もある」


「ちゃんとした理由?」

「この金額は、レジェンダリア以外に住んでいる人の性別ごとの平均年収の3割。なお、子供は月のお小遣い5000エドロを参考にしている!!」



 ……なるほど、リンサベル家のお小遣いは5000エドロだったのか。

 英雄の家庭にしては実に平凡だな。

 娘に激甘だったアプリコットさんがそんな金額にする訳ないし、リンサベル家の家計簿はダウナフィアさんが支配していたに違いない。



「で、男だけ高いのは?」

「冒険者には男性が多いから。その男女比は8対2ほどであり、どうしても男性の方の金額が跳ね上がる」


「なるほどな。確かにそれなら納得だ」



 冒険者は男の方が多い。

 その理由は単純で、男は力さえあれば一定水準の働きが出来るが、女性はそうはいかないからだ。


 日常的にバッファを身に纏う男と、そういう経験がない女性では体のつくりに雲泥の差がある。

 バッファの魔法を使い続ける事によって、それに見合った身体能力へと体が適応してくるからな。


 そういう基礎的な背景があり、女性が冒険者になる為には魔法を扱う才能が必要になる。



「ちなみに、パーティーで男女共に在籍している事が多いのは、男性のみのパーティーは全滅して数がどんどん減っていくからだよ」

「それはしょうがねぇな、男は馬鹿な生き物だし」


「そういう訳じゃないと思うけど、レジェの話では、男性は女性と一緒のパーティーに居ると3倍の性能を発揮するらしい。だからユニクも私と一緒に居ると3倍!これはとても凄い事!」



 うん、やっぱり男は馬鹿な生き物であってるな。

 だが、リリンの言う事も一理ある。


 確かに俺の性能はリリンと出会う前と比べて3倍以上になった。むしろ100倍までありうるくらいだ。

 その代わり、人類屈指の苦労をしてるけど。



「なぁ、ちょっと散歩して来て良いか?」

「散歩?」


「ちょっと雰囲気を肌で感じたくてさ」

「ん……わかった。放置プレイも有効と聞いたし、私とアルカディアで列に並んでおく。順番が来たら呼ぶから、好きなだけ雰囲気を味わって来ると良い」


「おう、さんきゅー」



 そう言ってリリンは、人の少ない行列の方へ歩いていった。


 あっちの行列はレジェンダリア国民専用の関所であり、リリンが居ればすんなり通れるらしい。

 そして、そこにも2匹の大魔王の陰謀が潜んでいるとか?


 観光に来た人達が亡者になってるのは、入国までの長すぎる待ち時間のせいで疲れてしまうから。

 しかもこれはワザと長引く設計にしてあるらしく、入国料と相まって、不法入国をしようとする人が後を絶たない。


 で、そういう奴らは人の少ない国民用の関所を利用しようとするため、それを捕まえて入国料以上に搾り取るのだそうだ。

 うーん。大魔王。




 **********



 リリンに任せておけば問題ないだろうし、俺は情報収集をする為に歩きだした。

 ……自分の為に。


 リリンの言葉を信用してない訳じゃないけど、そのリリン自体が騙されている可能性がたっぷりとある訳で。

 情報収集は冒険者の基本。

 親父にも天狗になるなと釘を刺されたし、ここは慎重に行くぜ!


 よし、まずは亡者の群れに近づいてみるか。

 俺は限り無く気配を消して、目に付いた二人組の男に近寄った。



「くっ、なんで男だけこんな高いんだよ、ムカつくなぁ」

「しょうがねぇだろ。そんだけの価値があるって思っとけ」


「だけどよぉ……。あ、そうだ、女装するってのはどうだ?俺達は髭も濃くないし、案外いけるかも知れねぇぞ」

「俺はまだ男でいたいぞ」


「はっ、フリだよフリ!差額170万エドロだぞ?そんだけあれば 娼館だって良い所に……」

「入ってどうすんだよ?ナニもねぇのに」


「何もない?どういうことだ?」

「あのな、お前程度が考える事なんざ、とうの昔に先人達が通った道よ。で、ソイツらはどうなったと思う?」


「どうなったんだ?」

「……娼館で働いてるよ。綺麗なお洋服を着て、嬢に手を出す事が無い付き人としてな」



 ひぃぃぃぃ!!それって本当に女性にされちゃったって事かッ!?

 魔王国、怖ぇぇぇぇええ!!


 俺の見る限り、レジェンダリアに入ろうと列に並んでいる人達は3種類に分けられる。

 法外な入国料が必要だと知らずに列に並び、金額を聞いて絶句している者。

 法外な入国料だと知っていて、それに不満を溢している者。

 そして、黙ってニコニコしながら列に並んでいる者だ。


 入国料が年収の3割に設定されてるとリリンは言っていたが、実際の所はもっと高い比率を占めるだろう。

 なにせ、トップクラスの冒険者は1日で億の金を稼ぐ。

 必然的に平均も釣り上がるという訳だ。


 たぶんだが、ワルトとレジェリクエ女王陛下の真の狙いは、他国の上流階級を国に集める事。

 冒険者にしろ、貴族にしろ、金を持っている奴は何らかの力を持っている。

 それらの人を集めて、洗脳でもするつもりなのかもしれない。



「こっちはダメだな。不用意に近づいてトラブルと大変な事になるし。っとすると……あっちか」



 俺は早々に亡者に見切りを付け、視線を反対方向へと向けた。

 そこにあるのは巨大な門に描かれた天使のレリーフと、その前で涙を流しながら祈っている人達だ。

 その中でも、悲壮感にくれながら子供を抱いて泣きじゃくっている女性が目立っている。



「あぁぁ、あぁ、どうか、どうか……誰か、この子を、この子だけでも、なんでもしますから……」



 女性は、胸の中でぐったりしている子供を強く抱き、天使の彫像へ懇願している。

 どうやら訳ありみたいだな?少し様子を見るか。



「どんな事でも、奴隷でも何でもします……。こんな体で良いのなら差し出します……ですから、この子を助けて……」


「お、おい、お前、声を掛けてやれよ」

「む、無理だ……俺達が声を掛けて何になる。俺たちだって、ここに救いを求めてきたんだぞ」

「天上の国レジェダリアに行けば助かると聞いてやってきたが……入る為の金すら、俺達には……」

「『貧しき者、絶望せし者、死する覚悟あらばレジェンダリアへと集うたもう。天上の使いが新しき人生へと導かん』か……。だが、金のない奴は、最初から人だと見て貰えない……」



 うん、ここは天上の国じゃないぞ。魔王国だ。


 どうやら天使の彫像に祈ってる集団は、何らかの噂を聞いて助けを求めてきた人達らしい。

 うーん、なんというか世界の縮図のような地獄だな。

 金を持ってる奴は豊かな国に入れるが、本当に救いの必要な人は中を見る事すら叶わない。

 流石に可哀そうになって来たぞ。


 俺に何ができるのかは分からないけど、とりあえず声を掛けてみよう。

 まずは、切羽詰まっている状況な女性からだな。

 抱いている子供の容体が良くなさそうだ。このままだと大変な事になる。


 俺は怖がらせない様に静かに歩み出し、そして、反対方向から女性に近づく人を見つけた。



「この子を……、何でもしますから、あぁ、天使さま……」

「お、人妻たぁついてるな」



 救いを求めて天使に祈っている女性の前に立ったのは、やさぐれた野郎だった。

 伸長は2mを超えており、全身が筋肉質。

 これはどう見ても天使じゃないな。……山賊だッ!!



「あ、あぁ……」

「その上、良い体してると来たもんだ。へっへっへ。ついてるぜ」



 ……うん、斬るか?


 いや、ちょっと落ち着こうな、俺。

 流石にいきなり斬りかかるのはどうかと思うぞ。騒ぎを起こすのは得策じゃないし。

 だが、これ以上見ていられない事になったら、躊躇なくブチ転がしてやる。


 密かにバッファを発動させて戦闘準備。

 俺は気配を消して、静かに男に近づいていく。



「あ、ぁぁぁ……。助けて……」

「助かりたいんだよな?何でもするって言ったよなぁ?」


「あぁぁ、この子だけは、私は好きにしていただいて構いません、だから、この子に薬を……」

「痩せこけた顔の割には胸がでけぇ。へっへっへ、うまそうだな」


「ひっ……。私は奴隷でも何でもします。だから……」

「ほう?奴隷になる覚悟があるんだな?」


「……はい」

「ならよ……熱冷ましと栄養価が高いミルク、温かい毛布もいるな。それに、あんたに喰わせる飯も必要だ」


「……はい?」

「《サモンウエポン=応急セット・乳幼児》」



 ……はい?


 山賊野郎をブチ転がすまで後10歩という所で、信じられない事が起こった。

 げひた笑みを浮かべていた山賊はあろう事か抱かれている子供を一瞥すると、瓶に入ったミルクを召喚。

 そっと子供の口に押し当てやがった。



「あ、あの、何を……?」

「毒じゃねぇから心配すんな。ペード!毛布持ってこいッ!!」



 山賊が名前を叫ぶと、大荷物を背負っていた男が駆け寄ってきた。

 そして、背中から大きな毛布を取り出すと、女性に優しく羽織らせる。


 ……もう少し様子を見るとしよう。



「言っておくがタダじゃねぇ。お前は奴隷になっても良いと言い、願いを口にした。それはこの国では一つの意味がある」

「……レジェンダリアは貧民にとって最後の希望。自らの命を差し出す事で、願いを叶える場所だと聞きました」


「それは亡命希望、レジェリクエ女王陛下の隷属奴隷になる事を誓うって事だ。そうすれば命は助かるぞ。その豊満な身体を使って働いて貰う事になるがな。へっへっへ」

「わ、私は何でもいたします……。ですが、月に一度はこの子に会いたく……母と名乗れなくても、せめて一目は」


「それはダメだ。そんな都合のいい事がまかり通る訳がねぇ」



 ……そこは、願いを聞き入れてやれよ。

 最後の希望に縋る為に、体すら差し出すって言ってるんだぞ?


 俺は、再び歩み出した。

 グラムを抜く事こそしないが、一発殴ってやろうと思う。



「そんな……。この子にだけは……」

「他人に子供を押しつけて、育てて貰って、自分は元気な顔を見て自己満足だと?そんな事を許すはずがねぇ。この国では、自分の子供は自分で育てるのがルールだ」


「……え。」

「お前とその子、両方が奴隷になるのなら、そのどちらの命もレジェリクエ女王陛下の資産。無為に散らす事は大罪となる」


「……育てても。私が育てても良いのですか……?」

「この国に住まうのなら当たり前の事だ。生まれた子は女王陛下へと捧げられ隷属奴隷となり、そして、母は子を育てる保母として雇われる。女王の命令として捧げた子を預かり育てるんだ」


「そ、それをするには、お金も、家も、」

「ねぇんだろ?だから孤児医院に住み込みで働く事になるし、乳が出るなら乳母をする事になるだろうぜ。できるか?」


「できます……この子と一緒に居られるなら……なんだって……」

「何でもするのか。へっへっへ、じゃああっちで飯でも食って来い、その後で風呂な。子供を汚したまんまは良くねぇぜ」


「はい……はい……。ありがとう……、ありがとう……、ありがとう……」



 それだけ言うと、盗賊は立ち上がって歩いていき、入れ替わるように女性のスタッフが駆け寄ってきて、肩が震えている女性を支えた。

 そして、天使が彫られた門の中へと消えてゆく。

 ……うん、殴らなくて本当に良かった。

 ちょっとマジで、本当に殴らなくて良かったと思う。


 あんな超展開、誰が予想できるかッッ!!

 さっきの男、腰に鉈なんかをぶら下げてたんだぞ!?盗賊感100%だっただろ、どう見ても!!


 不幸な女性が助かって良かったと思うが、ちょっとモヤモヤした感じが残っている。

 だってここは魔王の国。

 こんな美談があるわけが……。



「意気がってんじゃねぇぞ!!雑魚がッ!!」



 俺が困惑していると、鈍い打撃音と共に怒声が響いた。

 この声はさっきの盗賊の声だな。

 ついに本性を露わしたか?


 俺は騒然としている場所へと視線を向けた。

 そこでは7人の男が盗賊に襲われ、全員が見事に転がされている。


 今更だが、盗賊のレベル高ぇなぁ。

 レベル43000といったら、冒険者でトップクラスだぞ?



「金がねぇ、運もねぇ、飯もねぇ、家もねぇ。ねぇねぇと喚き散らし、貧しいもん同士で奪い合う。くだらねぇ」

「それの何が悪い!あの行列に並んでる奴は金を持ってる!幸せに満ちてる!奪って何が悪い!!」


「悪いとはいってねぇ。くだらんと言ったんだ」

「くだらねぇだと?お前の様な国に仕えている奴に、俺達みたいな底辺の何が分かるって言うんだァァァァ!!」



 盗賊なのに国に仕えているだと?

 そう言えば、青い腕章をしてるな?

 んーどれどれ……おーう、『奴隷章』って書いてあるんだけど。

 奴隷商と掛けてるのか?洒落てるぜ!


 さっきとは違って活きの良い野郎同士が殴り合ってるだけだし、ゆったりと構えて様子を見る。

 盗賊に殺意はないみたいだしな。


 そして、しばらくすると、転がされた男達は弱々しく声を漏らした。



「俺達は、俺達だって本当は……」

「本当はなんだ?奪いたくなかったか?殺したくなかったか?」


「うっ!」

「……なんだ。殺しをやってんのか」



 あ、盗賊から殺意が出てきた。

 速攻で俺の期待を裏切るとか、流石は大魔王の住まう国……って、ゆったりと構えている場合じゃねぇ!!


 俺は再び気配を消しながら走りだし――。またもや、盗賊の言葉で急停止した。



「素直に答えろ、何人殺した?一人か?二人か?三人か?」

「し、仕方が無かったんだ!!お前に、俺たちの考えなんて……」


「わからんな。たかが三人くらいでビビってるお前と俺は違う」

「……は?」


「俺は30人は殺したぞ。ついでに女は犯してからだな。盗賊のボスなんてやってると、それくらいしか楽しみがねぇもんだ」



 ……は?

 なぜか、盗賊が自白を始めたんだが?

 つーかマジで盗賊なのかよッッ!?!?


 急転直下の事態に、思考が追い付いていない。

 まぁ、あの程度なら問題なく倒せるが……と、とりあえず、いつでも割り込めるようにしておこう。



「で、どうする?貴族連中を襲うか?狙い目はあのデブだぞ。何回か見たことあるから金は持ってる」

「30人だと……?30人も殺して、どうして生きていられる?真っ当な日の下に居られるんだッ!?」


「それはな……天使のように可愛い外見のド鬼畜悪魔幼女に遭遇したからだ」

「……。なにそれ」


「そんでブチ転がされた。ひん剥かれた。プライドもアジトもズタボロで何にも残らなかった。小コインの一枚すらな」

「な……なに……?」


「だが、俺達は生きながらえた。罪が罪だけに死罪では足りないと言われ、過酷な場所で働く事になったが文句を言う奴はいなかった。悪魔幼女に言われたからだ。『精々生きて懺悔して、命の償いをするんだねぇ』ってな」



 ……その悪魔幼女共、髪が青かったり白かったりするんじゃないか?

 俺の気のせいだと良いんだが……?



「そして、俺達は奴隷として売られ……生まれ変わった。レジェリクエ女王陛下の隷属奴隷という、新たな人生を与えられたんだ」

「奴隷って……、そんなものになってまで生きて、何の意味が」


「知るかそんなもん。だが、俺は幸せだぞ。美味い酒、腹いっぱいの飯、熱い風呂。しらねぇだろうから教えてやる。レジェンダリアに居る女は美人ばかりなんだぜ」

「そんな訳あるかよ……。この国は奴隷が住まう国だと聞いた。裕福な貴族が欲を発散する場所だと。確かに美人もいるだろうが、それだけじゃねぇはずだ」


「いいや、美人だぞ。この国に住む人は男も女も身なりに気を付け綺麗であろうとする。レジェリクエ女王陛下の資産として誇りを持って生きているからだ。……ほら、俺の顔を見ろ、汚ねぇ面だろ」

「悪人にしか見えん」


「だが、お前は俺を見てどんな態度を取った?裕福な国に住まう貴族だとでも思ったんじゃねぇか?」

「くっ!?」


「図星だな。俺はな、お前よりも酷い人生を歩んだと思うぜ。借金だってある。だが、今は幸せだし、貴族だと思われる程に小奇麗だ」



 あれ?気が付いたら、盗賊がいい奴風に戻ってる……?

 なんだこれ!?一体何が起こってるんだッ!?



「ど、どうしたら、そっち側に行けるんだよ……?」

「レジェリクエ女王陛下に忠誠を誓え。隷属奴隷となれば価値を見い出していただける」


「隷属奴隷……。それになれば幸せになれるのか?チンピラまがいの事しかできなかった俺達が?」

「お前次第だな。だが、この国には全てがある。仕事も、生きがいも、趣味も、なんだってしていい。人を斬りたきゃ軍に志願しても良い。金が欲しけりゃ冒険者って線も良いな」


「なれるのか?俺たちみたいな底辺が……」

「さてな。だが、俺はお前らの様な奴を勧誘するのが仕事でな。オススメだと言うしかねぇ」


「……。」

「今日の俺の仕事はあと2時間だ。生まれ変わりたくなったら、声をかけに来い」


「……。」

「あぁ、言い忘れてたが、隷属奴隷になるという事は自分を売るって事で、つまりは金が手に入る。相場はひとり200万エドロで現金支給だ」


「「「「「なんだとッ!?」」」」」



 ……。

 これはつまりアレだな?

 大魔王幼女に転がされた盗賊が、人生の買い付け人をやってるって事だな?


 ……それって、更生したって言えるのか?

 国が背後に居るかどうかの違いはあるが、やってる事はほぼ一緒じゃないか?


 だが、たぶん良いんだろう。

 盗賊に諭されたゴロツキ共が泣いている。

 悔しそうに地面を引っ掻いているが、その目には希望が宿っていて。


 なるほど。

 大体の仕組みが見えて来たぜ。


 レジェンダリアの入国料が高すぎるのは、希望を求めてやってきた人を振るいにかけるためだ。

 文字通り命を掛けてここに来た人は、その金額を知って本当の意味で絶望する。

 帰る家はおろか、明日の食事すらままならないのなら当然だ。


 だからこそ、余力のある奴は故郷に帰り、命を賭ける覚悟のある奴のみが残る。

 人生を売るなんてのは、他に選択肢がない奴が考える事だからだ。


 そして、なりふり構っていられない人は、心の拠り所として天使像に祈る。

 何でもするからと叫びながら実態のない噂に縋りつき、そして、真の意味で魂を大魔王へ捧げるのだ。


 うーん。まさに魔王の所業。

 流石は自らを『運命掌握』と名乗っているだけの事はある。



「お?今度は若い兄ちゃんか。んん?観光するならあっちの列だぞ」

「あ、いや、俺は……」



 あ、やべ!考え事してたら盗賊に捕まったッ!!


 どうやら俺を勧誘するべく近づいたようだが、直ぐに違うと分かったらしい。

 盗賊らしい悪態で、亡者の列に並ぶように言って来ている。


 さて、どうすっかな。

 無視して立ち去っても良いんだが……。後ろからリリンが走って来てるんだよなぁ。



「……なんか、すまんな」

「あん?何が言いたんだ?」



 とりあえず謝っといた。

 俺の読みが正しければ、これで良いはずだ。



「ユニク!そろそろ私達の順番になる。……なにか問題でも起こったの?」

「問題か。俺は起こしてないぞ」


「そうなの?じゃあこの人誰?」

「……。哀れな盗賊かな?」


「う、うわぁdsrbhwsぐjw度tぐエログyヴぇbのうようぇうびょdgんうをtgぶwdてqwんtvくぇいfくぃtvpqちああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」



 リリンが顔を向けた瞬間、盗賊は明らかに人間の言葉じゃない何かを発し、空高く跳躍して逃げ去った。

 なんだ今の動き。最終的に四足歩行になったぞ。


 とりあえず、予想通りだったようだな。



「ユニク、なにあれ」

「さぁな。大魔王にでも出会ったんじゃないか?」



 首をかしげる大魔王様は、むぅ?っと小さく声を漏らし、そして俺の手を引いて歩き出した。

 その表情は平均的な天使なもの。

 なるほど、レジェンダリアは天上の国と言うのも、あながち間違いじゃないらしい。


 ここは独裁掌握国・レジェンダリア。

 天使の皮を被って人を地獄へと誘う、大魔王様の国だッッ!!


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