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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第1話「アップルパイな罠」

「平和な朝だ……」

「ご飯もおいしい!」



 カツテナイ・クソタヌキ襲撃から一ヶ月以上も経過し、俺達はゆったりとした平和を満喫している。

 リリンの温泉宿での暮らしにもすっかり慣れ、生活リズムも規則的になってきた。


 昼間はサチナの手伝いや観光をして過ごし、夜になったら親父達との訓練に励む。

 その訓練もだいぶこなれて来て、朝日が昇る前に切りあげる事も多くなった。


 ……依然、親父をブチ転がせられないのは不服だが、それでも戦闘力は格段に向上している。

 リリンもかなり実践に近し訓練をしているというし、今なら、クソタヌキのエゼキエルに勝利できるかもしれないぜ!



「もぐもぐ……。これでセフィナさえ捕まえられたら、言うこと無いんだけどなー」

「むぅ、アレから出て来てくれない。次見つけたら絶対に捕まえるのに」



 心残りとしては、混沌温泉での邂逅以来、セフィナを全く見かけていないという事だ。

 当然、時間がある時は探しているが、全く手掛かりがない。

 サチナに聞いても見かけていないらしく、この温泉宿から引き払ってしまった可能性が高そうだ。



「後はゴモラが出てくるのを期待するしかない」

「……クソタヌキが言っていた事とはいえ、このアプローチの仕方は間違ってる気がするけどな」


「そんなこと無いと思う!余ったら食べればいいし!」



 セフィナが居ない以上どうしようもない俺達だが、一縷の希望を毎朝かならず用意している。

 それは、黄金色に輝くアップルパイ。

 クソタヌキは確かにこう言っていたのだ。

『アップルパイでも用意してれば、その内出てくるかもな』と。


 それをしっかり覚えていたリリンは、毎朝必ずアップルパイを購入し机の上に置いている。

 分かり易いように『ゴモラ用、食べていい』というネームプレートまで準備し待ち構えているという用意周到さだ。


 ……最近になって気が付いたが、ただ純粋にアップルパイが食いたいだけじゃないよな?リリン?



「こんなんで出てきたら苦労は……」

「あ。」

「ヴィギルゥーン!」



 ……出てきやがったんだけど。

 つーか、音もなく気が付いたらそこに居て、美味そうにアップルパイに齧りついていやがる。

 お前は忍者か何かか?ニセタヌキ。




「……《覚醒せよ、ルーンムーン》」

「ガツガツ……ヴィギルーン!」


「《天樹の揺り籠、ゆらゆら揺れて、閉じた世界に二人きり。生命樹の技巧(セフィロトアーツ)聖母守護天使(セラフマリア)!》」

「《ヴィギルーン!》」



 そして容赦なく、リリンの最高の魔法が叩きこまれた。

 この魔法の名前は『生命樹の技巧(セフィロトアーツ)聖母守護天使(セラフマリア)』。

 対象物を結界に閉じ込めるものであり、内部に捕らわれてしまった場合、外界からの情報の一切が遮断されるという防御魔法を応用して作った魔法だ。


 この魔法は言うならば、最高硬度の防御魔法で出来た檻。

 破壊する事は並大抵では出来ず、その内部に攻撃魔法を直接流し込む事で効果を数倍に高めるという、超魔王様の奥義だ。



「よし!完全に魔法が決まったな!」

「……。だめ、失敗した」


「えっ?何処が失敗なんだ?ゴモラは結界に閉じ込められてるだろ?」



 今もなおアップルパイを貪っている姿は、確かに余裕たっぷりだ。

 だが、魔法は完全に決まり、ゴモラを閉じ込めている半透明な白い箱も出現している。

 何処からどう見ても、リリンの魔法は正常に発動しているんだが?



「何処にもおかしい所なんてないだろ?ニセタヌキの態度以外は」

「良く見てユニク。この聖母守護天使(セラフマリア)、二重になってる」


「えっ?あっ!」

「つまり、内部にはゴモラが張った聖母守護天使(セラフマリア)があるという事で、私の魔法はそこには流しこめない。閉じ込めたのは確かだけど、逆にいえば籠城されたという事」



 ……なんだと?

 だとすると、あの一瞬でリリンと同じ魔法を、しかも、後出しで使用して先に顕現させたってのか?

 お前はクソタヌキとはまた違ったカツテナさを持っているようだな、ニセタヌキ!



「どうする、リリン?予定じゃゴモラを脅してセフィナの居場所を吐かせるつもりだったんだろ?」

「……放っておく」


「放っておく?」

聖母守護天使(セラフマリア)はその性質上、内部で空間魔法や召喚魔法を使用できない。そして、食べ物はアップルパイしかなく、もう食べ終わりそう」


「つまり、兵糧攻めをするって事か?」

「そう。何も食べ物が無いというストレスは凄い。2時間くらいで根を上げると思う!」



 ……2時間は早すぎないか?アップルパイを喰った直後だぞ?


 だが、言いたい事は分かるし非常に効果的だとも思う。

 タヌキは食い意地が張ってるからな、兵糧攻めは効果的な気がするぜ!


 そうこうしている内にニセタヌキはアップルパイを完食した。

 皿まで舐めているあたり、だいぶ気に入ったようだな。



「じゃ、ここからは根気の勝負か。と言っても俺達は眺めているだけだし楽でいいけどな」

「そんなこと無い。少しでもゴモラにダメージを与える為に、今から私達はご飯を食べ続けなければならない。すごく楽し……大変な戦いになると思う!」


「何だその超発想!?自分が食いたいだけだろ!」

「まずはアップルパイを頼もう。ゴモラが食べているのを見ていたら私も食べたくなったし」



 くっ!攻防一体の妙案を考えやがって!!

 俺の2倍までという食事制限がどうやら効いているらしく、ここぞとばかりに喰いまくる気だな!?


 リリンはデリバリーメニューを楽しげに手に取り、秋のスイーツコーナーをゴモラに見せつけた。

 平均的な大魔王顔で、「セフィナの事を話すなら食べさせてあげる」と挑発。

 その提案を聞いたゴモラは嬉しげな表情で、聖母守護天使(セラフマリア)から皿を差し出してきた。



「えっ。」

「えっ。」

「ヴィギルーン!」


「え、ちょっと待って、今はまだない。クッキーで良い?」

「ヴィギル!」


「……はい。どうぞ」

「ヴィギルーン!」



 リリンが差し出された皿にクッキー缶を乗せると、ゴモラは嬉しそうにひと鳴きして回収。

 さっそく缶の蓋を開け、クッキーを貪り始めた。



「リリン、今のは……?」

「し、信じられない。ゴモラは聖母守護天使(セラフマリア)を出入りできるというの……?」



 なんかもう、凄過ぎてツッコミしきれないぞ。ニセタヌキ。

 つーか、その聖母守護天使(セラフマリア)はクソタヌキですら慌てふためいた魔法なんだが?

 何、簡単に出入りしちゃってんだよ!?!?



「ヴィギルーン!」

「あ、出てきた」



 クッキー缶を完食し満足したニセタヌキは、まったく悪びれずに悠々と聖母守護天使(セラフマリア)から抜け出てきた。

 まるで巣穴から出てくるかのような、自然体な動き。

 クソタヌキはド直球に腹が立つが、コイツは絡め手で俺達を煽ってくるな。


 ……腹黒さでは、ニセタヌキの方が上かも知れない。



「ヴィギルーン!」



 そして、要件は済んだとばかりにニセタヌキは転移の魔法陣を作成。颯爽と飛び乗って消えた。

 その時間、僅か0.1秒。

 飯を喰ったらさっさっと帰るとは、流石はタヌキ帝王。本当にやりたい放題だ。

 完全に食い逃げだし。……って、何だあれ?



「リリン、アレは何だろうな?」

「封筒っぽい?調べてみよう」



 ニセタヌキが消えた場所には、一通の白い封筒が残されていた。

 明らかに間違って落とした感じじゃないし、何らかの意図があると思われる。


 恐る恐る封筒を手に取ったリリンは、その表面に書かれている文字を見て、驚愕の声を上げた。



「ユニク!これはセフィナからの手紙!!」

「なんだって!?」



 震えているリリンの手元に視線を落として確認すると、白い封筒には、『おねーちゃんへ』と書かれていた。

 若干、情報不足な気もするが、これは間違いなくセフィナが書いた手紙だな。

 頑張って綺麗な字で書こうとしたらしく、何度も消しゴムで消した跡がある。



「ユニク……どうしよう……」

「リリンが手紙を読むのが怖いなら、俺が先に内容を確かめても良いぜ。それでいいか?」



 思いがけないセフィナからの手紙。それを読むのは、さぞかし勇気がいるだろう。

 ましてや、会うたびに魔王様で追いかけ回しちゃったわけで。

 うん、姉妹の絆は魔王様に打ち勝っていると祈るばかりだ。



「ん……。私が音読するから、一緒に聞いてて」

「分かった。いつでもいいぞ」


「うん、じゃ読むね」



 意を決したようにリリンは封筒の封を切り、中から手紙を取り出した。

 真っ白い便箋は、やはり何回も書き直したようで、ちょっとシワシワになっている。




『おねーちゃんへ』


『この間のこと、まだ怒ってますか?

 あの時はビックリさせちゃってごめんなさい。

 おねーちゃんがいるなんて知らなくて、あの後、急に出てきちゃダメって言われた私は、また、おねーちゃんに嫌われるような事をしちゃったって反省してます。  

 嫌いにならないで、おねーちゃん』



「……こんな心配しなくていいのに。私がセフィナを嫌いになるなんてありえない事だから」

「そうだな。俺としても姉妹仲が良好なようで嬉しいぜ!」




 あぁ、本当に良かった。

 二度の魔王の襲来でも姉妹の絆は壊れなかったようだ。

 これで安心してセフィナを奪い返しに行けるってもんだぜ!



「ユニク、手紙には続きがある。読むね」

「おう?そうだな。頼む」



『それと、今回お手紙を書いたのは、おねーちゃんにお知らせがあるからです』


『この間、ラルラーヴァさんの事を調べていたワルトナさんを捕まえました。

 ワルトナさんは逃げられないって知ると抵抗を止めて、大人しくしています』



「……えっ!?」

「なんだと!?」


「うそ……、ワルトナが捕まったというの……?」

「そんな馬鹿な……だって、あの狡猾なワルトだぞ?」



 そう言われてみれば、ここ一週間ほどはワルトと連絡を取っていない。

 リリンが電話を掛けても留守番メッセージが流れるだけであり、音信不通。

 忙しいんだろうと差して気にしていなかったが……まさか、敵に捕まっていたとはな。



「そんな、ユニクどうしよう……。セフィナに続き、ワルトナまで……」

「確かに、危機的状況だが……。ワルトの奴、ワザと捕まって敵の懐に侵入したって事はないか?」


「あっ!それ、ありそう……。というか、ワルトナが戦略破綻と名乗っているのは、敵の懐に潜り込んで内部から作戦を破綻させるからだし」

「だとすると、時期を見計らってセフィナを連れて脱出するんじゃないか?メナファスもいる事だしな」



 もともとメナファスは、裏切る為に敵と行動している。

 そこにワルトが加われば、格段に動きやすくなるはず。

 敵だって馬鹿じゃないだろうから、そう易々と思い通りには行かないだろうが……。


 それでも、ワルトの賢さなら達成してくれそうな気がするぜ!



「まだ続きがあるから読むね」

「おう」



『なお、ワルトナさんは逃げられません!

 いっぱいのゴモラが常に見張ってるので、絶対、絶対、逃げられません!!』



 前言撤回。ワルトの自力脱出は諦めた方が良さそうだ。

 リリンの最強魔法を簡単に無効化する大魔獣が群れで見張ってるとか、なにそれ、カツテナイ。



『ワルトナさんに会いたくなった時は、ブルファム王国まで来て下さい。

 私達みんなはそこで、すごく悪い心無き魔人達の統括者の女王様を迎え撃つ準備をしています。

 悪い人をみんなやっつけて、おねーちゃんを取り戻すの!


 よく分からないけど、全部終わったらワルトナさんは用済みなので、その時におねーちゃんが居たら返してあげても良いってラルラーヴァさんが言ってました。

 だから、おねーちゃんも、悪い人とお友達なユニクルフィンさんと早く別れて、私やワルトナさんと一緒にいるのが良いと思います。


 また魔法を教えて欲しいな、おねーちゃん』



「むぅ。この文章を読む限り、セフィナは完全に騙されてる」

「だろうな。ワルトどころか、メナファスが心無き魔人達の統括者だって知らないっぽいもんな」


「それに、白い敵はワルトナを返すつもりが更々ないという事も分かった」

「あぁ、全部の戦いが終わった後でワルトナを返す。って、心無き魔人達の統括者を全滅させた後ってことだろ?で、そこにはリリンも含まれる訳だ」


「……セフィナを誘拐したばかりか、ワルトナを拉致して、みんなを殺すとまで言うなんて」



 言葉を溢したリリンは平均的な表情だ。

 だがそれは、荒れ狂う怒りに身を任せているからこその、無表情。

 滾り感情のままに鋭い歯をギリリと噛みしめたリリンは、静かに想いを吐露した。



「もう許さない……。私の持つ全権限、全戦力、全軍を以て、白い敵を、――撃滅する」



 **********



 同時刻、絢爛豪華な貴賓室にて。



「くっくっく、今頃リリンは怒り狂っている頃合いか?」

「だろうね。僕が手紙を貰ったとしたら、随分と腹が立つ内容だしねぇ」



 いきなり転移してきたニセタヌキを見ても何の反応を示さない二人の名は、ワルトナとメナファス。

 彼女達はノウィンとゴモラが組んでいると知った後、若干、態度を改めている。


 ゴモラの扱いを『ただの害獣』から、『便利な珍獣』へと昇格。

 今回の手紙の運搬も、アップルパイ3つと引き換えに依頼したものだ。



「しっかし、この手紙ホント良くできてるぜ。全方向に喧嘩を売るスタイルが面白すぎる」

「全方向つったって、リリンとユニに対してだろ。過大評価過ぎるんじゃない?」


「そーでもないぜ。ほら見てみろ」

「ん?」



 メナファスが持っているのは、手紙の複製だ。

 事前に手紙を読んでいたメナファスは、これは面白い!と手紙を複製して隠し持っていたのである。



「お前の名前、ラルラーヴァになってるぞ。揃って幼虫ラーヴァって呼ぶとは、やっぱり姉妹だねぇ。始末に負えないねぇ。くっくっく」



 非常に愉快げな笑みを浮かべたメナファスは、プルプルと震えるワルトナを指でなじっている。

 あろう事か口調まで真似をしたその嘲笑は、流石は心無き魔人達の統括者というものだろう。



「……。セフィナァァアアアッ!!」

「ひゃい!?」



 特大の叱責が、部屋の中に響く。

 室内に当事者しかいないというのが、せめてもの救いだ。


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