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第9章プロローグ「神が知った思惑」

「ぼく側に付け、悪逆。一緒にラルラーヴァーを倒そうじゃないか」



 大仰にして不遜、傲慢にして横暴。

 ノウィンがいた時とはまるで違う態度で悪性は悪逆へと告げ、返答を待っている。


 そして、可愛らしい子供を眺めるような視線を向けた悪逆――神はニヤリと笑った。

 話を聞くに値する価値があると思ったのだ。



「敵対してんのは分かったけどさ、その情報だけじゃ何とも判断しがたいよね。もうちっと詳しく教えてくんないかな?」

「もちろんだとも。キミと対立する訳にはいかないしサービスするさ」



 当然ながら、神はワルトナとノウィンの関係を知っている。

 それどころか、この世界の主要者……英雄や数千年を生きた大魔獣共の戦闘力について、神より詳しい者など存在しない。


 だからこそ、何にも持たないただの人間であるはずの彼女が対抗しうる力を持つには、ボクの力に頼るしかないと分かっている。

 これは、たとえそれが偶然でも、最善手に辿りつこうとしている彼女の引きの強さに興味を持ったが故の対談だ。



「背景設定として、ぼくは指導聖母の過半数を従えていた。『悪性ぼく』『悪才アンジニアス』『悪質マリシャス』『悪徳ヴァナラティ』。七分の四を掌握した訳だから、後はゆっくり統一するだけだった」

「なるほどね。だがそれをラルラーヴァーにひっくり返されたと。『悪辣ヴィシャス』『悪喰プアフード』『悪弾デスパレード』。よりにも寄って警戒していた者どもが結託してしまっている。しかも、ノウィンまで肩入れしてそうな雰囲気と来た」


「あぁ、これには本音で参った。こんな事ならリスクを承知で、悪喰かキミを収得しておくべきだったね。そして今に至る」

「ちなみにさ、ボクと悪喰を後回しにした理由って何なん?」


「確定情報として、キミら二人が指導聖母で最古参であるという事。それと、ノウィン様への態度だ」

「ノウィンへの態度?」


「敬うべき絶対上位者に対しタメ口を叩く、そんな事は普通はあり得ないんだよ。失礼だろ」

「どうかなー。悪性もノウィンにしてみたら良いじゃん、タメ口。案外に気に入ってくれて私室に呼ばれる(・・・・・・)くらいの関係性になるかもよ?」


「冒険と無謀は違う。ぼくは人生には失望しているが死を望む程に衰えちゃいない。で、これからは仮説だが……」

「仮説?聞こうじゃないか。好きだよそういうの」


「ノウィン様にだって指導聖母だった時代があったはずだ。そしてその時代で、悪逆と悪喰(キミら)とは同期であり親しい間柄だったんだろう。丁度、ぼくと悪質、悪徳との関係の様に」



 うんうんなるほど、惜しいねー。

 正解は、『悪逆』と『悪喰』が『神』と『タヌキ』だからでしたー!……って言えたら超面白いんだけどなー。


 悪性の仮説を聞いた神は、「確かに筋は通っているし常識の範囲で考えれば妥当な判断」だと納得。

 だが、神とタヌキに常識は無い。

 むしろ、この者達は非常識が常識だというイレギュラー。

 そんな状態で、ただならぬ存在だと見破った悪性は非常に優秀だと言えるだろう。



「まぁ、ノウィンと親しいってのは間違ってないよ。悪喰もね」

「……。やっぱりキミらを後回しにしたのは正解だったね」


「ん?」

「さっきのは真実を探るための話術だ。……『超状安定化バランシール』。不安定機構の上位に位置していると言われている謎の組織の名さ。聞き覚えがあるだろう?」


「あるよ」

「やはりか。ならキミらは構成員で、ノウィン様と実質的には同格。ぼくら若い世代の指導聖母を導くために隠れていたって訳だ」



 超状安定化の名が出て来た事により、神は悪性の評価を一段階上げた。


 神が『神に由来する()しか、神と名乗れない』という概念を作ったように、超状安定化という名前には魔法が込められている。

 そこへ至る資格無き者は、長く『超状安定化』という言葉へ意識を向けていられない。

 表の英雄ユルドルードと裏の英雄アプリコットに始まり、初代英雄ホーライ、新しき英雄ローレライ、人間の皇、大聖母、大教主、大神父などの、理すらも壊しかねない超越者が在籍しており、認識錯誤の魔法によって厳重に秘匿されているからだ。


 そんな存在があると、悪性は確信していると言った。

 つまりそれは、在籍する資格があるという証明であり、そこへ至る為のチケットだ。


 自分のパシリが増える事に寛容的な神は、「なるほど、『神の因子』もちゃんと持ってるんだね」と僅かに目を細めて笑っている。

 なお、悪質と悪徳はそんな組織があると微塵も知らされておらず、「あら、なんか上位者に喧嘩を吹っかけたみたいですわ、私……」と、泣きそうな顔で困惑している。



「ぼく側に付けというのは、そのままの意味だ。ラルラーヴァーに悪喰がお目付け役として付いたのなら、キミはこっち側に居るのがバランスが良い。そうだろ?」

「確かにね。悪喰を止められるのなんか、(ボク)と蟲くらいしかいないし」


「はは、悪喰は昆虫嫌いか。可愛いとこもあるじゃないか」

「いや、大好物だと思うけど?喰おうとしてたし」


「えっ?」

「えっ?……あぁ、いや、なんでもない。流石に蟲はないよねー!」



 そんな適当な事を言って神は誤魔化した。

 那由他と蟲量大数の間には、果てしないエピソードがある。

 簡単に触れて良い物では無いのだ。



「話が逸れたが……。それで一考して貰えそうかな?別に本気で対立しろというんじゃない。ラルラーヴァーの手助けになる様な事をしないでいてくれればいい」

「そこは、『助けてください!神様!!』って言うとこじゃないの?」


「神様か。人並みぐらいには存在を信じているけどね、神様なんて不確定要素は計算の中に入れないさ」

「不確定要素、ね。よしっ!その考え方は好きだし、キミの意思を汲んであげよう」


「じゃあ指導聖母として明確に宣言してくれないか?ぼくは疑り深い性格で」

「いいよ。『このボク、純指導聖母・悪逆は、キミ達の戦いに於いてラルラーヴァーと結託しない』。このボクボク()に誓って宣言しよう」



 その言葉は、悪性が最も望んでいたものだ。


『神に誓って』


 これは、指導聖母が己の席を賭けて戦う強襲戦争に置いても使用される文言であり、魔法的強制力が発生する。

 幾多の契約をこの文言の名のもとに履行してきた悪性にとっても親しいものであり、この概念を覆せる者など神を置いて他にはいない。

 そして、指導聖母・悪逆が『神に誓って、今回の戦いでは大牧師・ラルラーヴァーに味方しない』と宣言したのは、悪性が立てた計画の最重要項目だ。


 内側では、悪逆と悪喰は繋がっているはずであり、この仕組まれた戦い(・・・・・・・)では片方が圧倒する殲滅戦ではないと悪性は判断している。

 悪性が求めた大前提は、『悪逆(上位者)が敵に加担せず、味方にもならないのなら、悪喰(上位者)もまた、敵にも味方にもならない』。


 この条件をクリアしなければラルラーヴァーとの純粋な戦いにはならず、ノウィンと同じ階級の者同士が介入した争いなど不確定要素が多すぎて危険だと思っていたのだ。



「さ、目的は果たしたが……キミはこのままここに残って話を聞いても良いし、帰ってもいい。どうする?」

「一応、(ボク)も陣営に組み込まれた訳だし話を聞くよ。キミの考察にも興味があるしね!」



 神は、こういった暗躍が大好きだ。

 悪性がどこまで真実に迫っているのかというのも、非常に気になっている。



「では、早速作戦会議といこう。悪質、悪徳、悪才、いいかい?」

「良いですわ」

「えぇ、私めも大丈夫ですよ」

「私もだ。この会議には金ひと山の価値があるだろう」


「では、対ラルラーヴァー戦の戦略会議を……する前に、どうしてそうなったのか、何故そんな事をしなくてはならないのか。そこから話そう」



 場の空気を整えて仕切り直した悪性は、ノウィンが座っていた壇上へを赴き……一礼してからその席に座った。

 持っていた荷物はワルトナの机に無造作に投げているあたり、敬意の表し方に随分と差がある。



「指導聖母の完全掌握まであと一歩、そんな所でラルラーヴァーに戦況をひっくり返された。キミらはそう思うかな?」

「思うも何も、そうではありませんか。まったく忌々しいですわ、無敵殲滅と同盟を結ぶなんて」


「いや、それは違う」

「どういう事ですの?事実、無敵殲滅が来ていますわよ?」


「無敵殲滅はさ、指導聖母・悪辣としてのアイツと同盟を結んでなんかいない」

「良く分かりませんわね。回りくどい言い方はやめて下さいまし」


「じゃあ、キミにも分かるように言ってやる。アイツ、大牧師・ラルラーヴァーは……心無き魔人達の統括者の『戦略破綻』だ」

「なっ!?!?」



 いきなり核心を付いた発言に、悪質は絶句した。

 適当な事を言って悪性を持ち上げておこうと思っていただけに、本気の驚愕をして声が出ないのだ。



「流石に突飛が過ぎますわ。なにも辻褄が合いま……、」

「合わないか?本当に?」


「……そうだと仮定するならば、いえ、そうだと仮定しない限り、説明できない事がいくつかありますわね……?」

「せっかくだ。ぼくの口から説明するとしよう」



 パチン。っと指を鳴らして、悪性は2m四方の黒板を召喚した。

 本来ならば魔法名を唱えなければ、そのような事は出来ない。

 だが実際に黒板は召喚されており、僅かに光った指輪が魔道具であると思わせた。



「心無き魔人達の統括者という存在は、酷く歪んでいる」

「歪んでいる?」


「レジェリクエとメナファス・ファントばかりが目立ち、他の人物像の情報がまったくない。正確には信用に値する情報が無い。無尽灰塵は料亭を更地にするとか、意味分からないし」

「ですわね。食いしん坊だという噂ですから、巨漢だと思いますが……」


「あれだけ大暴れしているにもかかわらず、身元が分からない構成員が殆ど。おかしいだろう?」

「それは悪辣が隠していたからでは?」


「出来ないんだよ。心無き魔人達の統括者の名を馳せたのはフランベルジュ国戦争の直後だ。そして、その時には指導聖母・悪辣は存在していない。その席には悪典バリアブルが座っていたんだからね」



 指導聖母・悪典バリアブル

 ながらく、その席を守り続けた人物であり、この場に居る指導聖母の前の時代の人物だ。


 あまり知られてはいない事だが、悪性を指導聖母に推薦したのは悪典だ。

 その後の指導聖母同士の戦いで悪典は悪性の傘下に入る事になったが、かなり自由度が高い立場に居た。

 だからこそ、悪典が破れたと聞いた時に、悪性は「悪辣は、ぼくが潰そう」と決心したのだ。



「時期はかなり近い物があるが、2カ月程はズレれている。それを除いたとしても就任したての指導聖母にそんな力がある訳もなく、完璧な情報封鎖なんて不可能だ」

「なるほど。さらに言えば、心無き魔人達の統括者であったからこそノウィン様は悪辣を指導聖母に御認めになったと」


「そうだ。ラルラーヴァーは指導聖母になるべく悪典に強襲戦争を仕掛けて、その地位を勝ち取った。だがね、そもそも強襲戦争を仕掛ける人物は現存している指導聖母の傘下に入っているものだ。だが、ラルラーヴァーにはそれが無かった」

「えぇ、そうですわ。私は孤立していた悪辣に尋ねた事があります。あなたは派閥を作りませんの?と。その時は「そんなものに興味はない」と返ってきた訳ですが……」


「派閥を作らないんじゃなく、作る為の足場が無かった。だから作れなかったんだね」

「だからこそ、指導聖母以外から人材を集めて派閥を作り……その者を指導聖母にする事で乗っ取りを企てている……と?」


「心無き魔人達の統括者は7名だ。最近になって『有償救世』ってのが増えたらしくてね。ほら、ぼくらと同じ数だろう?」



 ……闘技場で魔王シリーズを出したアホの子はともかく、ドラゴンが混じってるけどいいんかなー?

 再び傍観者に戻った神は、楽しげに話を聞いている。



「なるほど。悪辣は仲間全員を指導聖母にするつもりでいた。だけど、予定外に自身が昇格したが為に席に空きが出来て、その席に悪食を座らせたと」

「優先順でいえば次は悪逆だろう。むしろ、ノウィン様との兼ね合いでこの二人は排除予定外だったかもしれないね」


「じゃあ、私達は皆殺し?って、問題はそこじゃありませんわ!ノウィン様がこの事実を知っているのなら、水面下で黙認しているという事ですわよ!?」

「落ち着きなよ、馬鹿」


「ばっ……。はい、落ち着きましたわ」

「ノウィン様はラルラーヴァーの企みを全て知っているし、それを手引きしていた節すらあるのは事実だ。だが、ぼくらにはまだチャンスがある」


「この状況でですの?」

「この状況だからだよ。ノウィン様の発言を思い出してごらん。おかしい所があっただろ?」


「……。レジェンダリア国には見習うべき所があり、レジェリクエの手腕を評価している。でしたか?」

「それはカモフラージュだよ。ノウィン様は最初にこう言っていた。『レジェンダリア国は二極化し、危機的状況にあった』ってね」


「……!それは、レジェンダリア派閥に属する悪辣と、ブルファム王国派閥に属する私達の比喩だったと?」

「だろうね。ノウィン様はこう仰られたのさ『二極化している指導聖母の権力を統一し、安定化させる』と。その為に大牧師なんていう特別な地位を作り、問題を表面化させた」


「それは……やはり私達を排除する為では?」

「違う。ここで表面化したのはラルラーヴァーにとっては悪手であり、僕らにとっては起死回生だ。ラルラーヴァーの正体が戦略破綻だと気が付かなければ、ぼくらのブルファム王国は戦争に負けていたからね」



 悪性の言うとおり、指導聖母の上位に居るラルラーヴァーとノウィンが組んでいる状況だったのならば、ブルファム王国に勝機は無い。

 指導聖母がいくら暗躍に特化していると言えど、組織に在籍している以上は上司の命令に面と向かって逆らう事は許されないからだ。

 目の前で小言を言うのがギリギリであり、明確に敵対していると判断されれば更迭もあり得るのだ。


 だが、ノウィンはそれをしないばかりか、ラルラーヴァーの存在が露見するように仕向けた。

 だからこそ、悪性は「この戦いは仕向けられた」と言ったのだ。



「ノウィン様がラルラーヴァーに近しいのは間違いない。だが、戦うチャンスをぼくらに与えて下さった」

「それはつまり……、ブルファムとレジェンダリアの戦争で勝利した側に在籍していた者が、大聖母の後継者になるということですのね」


「国を勝利に導けない者が、世界を安定化させられる訳がない。そう仰りたいんだろう」



 そうして、舞台の情報共有が済んだ。

 これは、大聖母によって計画された『後継者争い』。

 そう結論づけて疑わない指導聖母達を、神は優しげな目で眺めるばかりだ。



 うわー、盛り上がってるコイツらに水を差したい。

 大聖母になるには血統が重要だとか、リィンスウィルの血を引くからこそ影の大聖母・ゴモラと契約できるとか、ワルトナはむしろ大聖母になるの嫌がってるとか、あらゆる情報ぶっちゃけたい。

 でもなー、流石にそれはダメだよねー。



 神は、生温かい目で指導聖母達を眺めるばかりだ。

 しばらくして戦争に関する戦略を相談し終え、段々と話の内容が雑談じみて来た頃。

 暇を持て余していた神が唐突に切り出した。



「ところでさ、キミらが大聖母を目指す理由って何なん?教えてよ」



 そんな軽い質問に込められた意味を考え、指導聖母達は静かになった。

 ノウィンと繋がっていると明言している以上、不用意な発言は問題を起こす。


 だが、それこそ、この問い自体が問題である可能性を彼女達は考慮して本音で答えた。

 己が意を宣言し実現する姿を見せてこそ、世界を導く者たりえると思ったのだ。



「私が大聖母になった暁には、我が家をブルファム王国で確固たる地位に就かせますわ!」

「なるほどねー。でも、それって家の人が実力を示さないと、どの道失敗して破滅するんじゃない?」


「……。そ、そんなこと……あ、ありませんわよ……!いざとなったら私が王家に嫁入りとか、そういう最終手段も、あ、ありますし?」

「今思いついたでしょそれ。ちなみにそれは無理じゃないかな?ブルファム国王の直子は姫しかいないらしいよ?」


「えっ。」



 凄まじい威力を誇る神撃に討たれた悪質は硬直している。

 そう、彼女の階級は……『準』指導聖母。

 この程度だからこそ、スペア扱いされるのである。



「私はブルファム王国の運営に関わりたいのだ。巨万の富は手に入れた。次はそれを有効に使いたい」



 硬直している悪質の代わりに声を上げたのは、指導聖母・悪才。

 彼女の願いは非常に現実的であり、そして、神にとってはありきたりでつまらない物だった。

 神という最高の権力を持っているからこそ、その話を適当に聞き流してスルーしている。



「私めは、大聖母というよりも、神との対談役という恩賞に興味があります」

「うん?なんだって?」


「神と言葉を交わし、世界を導く。いえ、そんな大仰な物でなくともよいのです。私めは信仰を捧げている神と対話したい。一寸の時でもいいですから、御姿を拝謁したい。信仰者としての願いなのです」



 今まで存在感が希薄だったその女性の名は、準指導聖母・悪徳。

 うわー。っという愛想笑いを浮かべている神の、敬謙な教徒だ。



「へぇー。きっとその願いは叶うと思うよ。……本人が気づくかどうかはともかく」

「そうですね。この世界の創造神たる『アルタ・マンユ』様はこの世界を天覧し、私めにも恩寵を与えてくださ――」


「え、ちょっと待って。今の誰!?」

「……?創造神・アルタ・マンユ様ですよ。もしや、指導聖母でありながら創造神様の恩名を存じていないのですか?」


ボク()に名前があるって初耳なんだけど!ボク()ボク()でしょ!?」

「本当に存じていないのですね……。よくありありません。それはよくありません……」



 ぜんっぜん良くねーよ!!(ボク)が知らないってどういう事!?!?


 つーか、創造神・アルタ・マンユってなんだよ!?

 明らかに悪神アンラマンユから取った名前で、どう考えても悪口じゃねーかっ!!

 しかも、神の文字が入ってるって事はそれなりに定着しちゃってるし!!


 名付けた奴、出て来いぃ!

 神罰落しちゃる!!



「ちなみにさ、それ、ノウィンは知ってるの?」

「知ってるも何も、ノウィン様から教えて頂いた恩名ですよ。「神とは善悪混沌なる存在であり、様々な顔を併せ持ちます。特に、お酒を嗜む時などは人知を超えた行動をなさる事多く、そうですね、『アルタ・マンユ』とお呼びして良いと思います」と」



 酒癖が悪いの、ノウィンに根に持たれてるうゥゥゥ!?!?

 というか、アルタ・マンユって、『アルター(変わる)』+『アンラマンユ(邪神)』って事!?!?

 なにその無駄に精錬された誹謗中傷ッ!?!?


 前々から思ってたけど、ノウィンのセンスが凄い。

 (ボク)ボク()の名の下に宣言するよ。


 ……ネーミングセンス、マジ、神が掛ってる。



「で、悪性は大聖母になって何がしたいん?神を苛めたいのかな?」

「……ぼくは……。特に何も」


「はい?」

「しいていうなら、偉くなれば、世界を手に入れれば、何かが変わるかもしれないって思っているよ。……いや、きっとそれも、たぶん虚しいだけ。出来る事が増えれば増える程、つまらないぼくの人生は失望で染まってゆくんだから」



 それは、あまりにも空虚な答え。


 聞いた人が凡人ならば、趣味でも見つけなよと、ほざくだろう。

 聞いた人が秀才ならば、膨大な思惑を隠す為の口実だと思うだろう。

 聞いた人が神官ならば、可哀そうなこの子が救われますようにと祈るだろう。


 そして、聞いた者が神だとしたら――。



「生涯なんてのはキミ程度が失望できる程、小さくない。全知全能なる神ですら娯楽を見つけて楽しんでいるんだからね」

「神様でも……?神様はどんな事でも出来るんだから、喜びなんて感じないでしょ」


「そんなこと無いさ。人生は一度きりなんてありきたりな言葉の通り、精神は過去には戻れない。それはボク()ですら同じ。この世界の絶対不変だ」

「過去には戻れない?神ですら?」


「そうだよ。だから全知全能の神ですら取捨選択をしている。せいぜいキミも、一度きりの人生に全力を出す事だね。それがきっと、人生を楽しむたった一つの方法だ」



 **********



「はぁー。今回の会談は長かったなー。ボク()の柄でもない事も言っちゃったし」



 悪性を中心とした指導聖母達の会談が終わり、ノウィンの私室に乱入した神は、調教されてぐったりしているワルトナを見つけた。

 随分と濃い汗の匂いから察するに、だいぶきつく絞られたんだろうなと判断。ノウィンに言う小言を最小限へと止めた。


 適度な雑談をノウィンと那由他と交わし終えた神は、のこのこと神域へと戻ってきている。

 すぐに定位置にあるソファーに身を預け、疲れた足をぬいぐるみアヴァロンに沈めた。



「それにしても、ブルファム王国とレジェンダリアの戦争か。過去の超技術が眠るセフィロトアルテが無い以上、戦力は五分五分って所だね。今のところは」



 そう言いつつ、神はブシュ!っと缶ビールを開けた。

 ここは神域。いくら酒癖が悪くとも文句を言う人物はいない。



「戦争のキーパーソンは、神殺しを覚醒させたユニクルフィンと、特殊な装備品(・・・・・)を持つリリンサ。これは面白くなりそうだね!」


長らくお待たせしました!


次話から本編に戻ります!!

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