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第9話「訓練の開始」

 試験の結果も発表し終わり、失意に暮れる俺に向かってリリンが口を開いた。



「ユニク、この結果は魔導師を目指すならば物足りない結果だと思う。しかし、魔導剣士パラディン、つまりは魔導師の上位互換を目指すのであれば、むしろ好ましいものと言える」

魔導剣士パラディン?それって……?」


「そう、魔導剣士とはその名の通り、魔法と剣を操る、双方の上位互換たる存在。地を駆け、空を駆け、海を駆け、剣を奮う。万の軍勢を前にしても瞬時に魔法でその数を百以下に減らし、残った猛者すらも瞬く間に切り捨ててしまう。そんな存在になりたくはない?」

「す、すっげぇなりたい!……なりたいけどさ、まず、そんな奴いるのか?いくら強くも1対10000じゃ勝負にならないだろ?」


「そんなことない。少なくとも、そんな事ができる魔導剣士パラディンを私は二人ほど知ってる」

「いや、流石に簡単には信じないぜ。だってその一万にはリリンやホロビノみたいに洒落にならない程の魔法を使える者も居るはずだからば」


「そこまで分かっているなら話は早い。つまり、それこそ数の問題なんかではない。結論、一万の軍勢が一人の魔導剣士パラディン を傷つける術を持たないのであれば、魔導剣士パラディン の勝利は揺るぎ無い」

「……!」


「気付いた?ユニク。そう、強き者の絶対条件は、『傷を負わない』こと。身体強化は肉体の質を上げ攻撃を回避しやすくなり、防御の魔法は攻撃そのものを無効化する。そして、その資質が高いユニクは十分に強者になりうると私は思っている」

「そうだったのか……!俺は、まだまだ知らないことばかりだな!」


「……ちょろい。」



 最後に何か聞こえた気がしたが、気のせい気のせい。

 ま、思えば悲観的になるほど状態は悪くない。ただ狼狽えたのはここ最近思い通りにならなかったからだろうか。


 思えば、このリリンと出会ってから、ろくでもない………訂正。驚きと感動な目に有っているわけで、少々心が弱気になっている気がする。


 第一、こんな目に有っているのはすごく幸運なことのはずだ。

 村の生活を思い出してみろ、毎日違うのは飯と天気ぐらいで、変化の無い日々を無駄に過ごしていただけ。


 俺は高望みし過ぎだったのかもしれないな。



「あ、それともう一つ。ユニクは魔力量が多そうということ」

「?」


「半日ほど魔法を使い続けたのに、欠乏症になっていない。気分悪くないよね?」

「あぁ、そういえばそうだな。こんなもんじゃないのか?」


「ううん。才能の無い人なら魔法を10回も使えば吐く。ちょっと可哀想なくらい辛そうにのたうち回るよ」

「……へぇ。その情報は早く欲しかったな」


「結果おーらい。」



 リリンが稽古をつけると言い出してから、約半日。

 結果的には魔法の発動の仕組みと初期魔法を覚えただけだ。

 だがしかし、俺には出来なかった魔法が出来るようになったのは大きな前進だろう。


 そして、俺たちは帰路につくため、ホロビノの背に乗り空へと飛び立った。

 いつもそうなのだが、黒土竜達は俺らの姿が見えなくなるまで頭を下げ、敬意を表している。

 誰にって?もちろんホロビノとリリンに対してだろう。


 俺でもそうするし。



 **********



「ユニク。今日からは魔法を使った鬼ごっこをしようと思う」



 翌日、慣れた手つきで午前中のドラゴン攻めを捌ききった俺に、これからの訓練の説明があった。

 どうやら、午後からは魔法の練習も踏まえてリリンが相手をしてくれるらしい。


 しかし、鬼ごっことは、これまた懐かしいものが出できたな。

 小さい頃、レラさんとよく鬼ごっこで遊んだ。

 ルールは簡単。じじぃを怒らせて二人で協力しながら日没まで逃げ切るというものだ。


 ちなみに、俺は逃げ切れたことはない。

 じじぃは時に存在を消す妖怪だからな、気が付くと後ろに立っていたりする。



「鬼ごっこか。二人で捕まえたり逃げたりするのか?三回交代とかでさ」

「ううん。ユニクは鬼専門で捕まえるだけ」


「ん?それじゃ直ぐに飽きてしまうんじゃないか」

「飽きる飽きない以前に、私が鬼だとユニクは瞬殺しゅんころ。走り出す隙すら与える気はない」


「えげつねぇ!けど言葉が返せない!!」

「ふふ、私としても捕まえるより捕まえられたいし」



 呟かれた言葉の意味を理解しないままに、俺は話を流した。



「こほん、ルールを説明する。フィールドはこの広場全体。ここを駆け巡りながら私の体に魔法を打ち込むか、グラムで触れればユニクの勝ち」

「分かりやすいが、魔法打ち込んだりグラムで切り付けたりして大丈夫か?」


「問題ない。お互い(・・・)に防御魔法を掛けておく」



 どうやら安全面での配慮はしてくれるらしく、その面は心配要らないとリリンは言った。

 俺はちょっとだけ何かが気に掛りながらも、続いて始まった細かな説明に耳を傾ける。



「昨日の夜、私が教えた身体強化魔法と防御魔法は予習できてる?」

「それはバッチリだ。見ててくれ」


 

「《地を駆けよ、息吹。 地翔脚(ラピッドステップ)》!」

「《鉄の盾砕け落ちようとも、この意思は砕けない。空盾エアロシール!》」



 二つの呪文を続け様に唱え、俺はその効果を確かめた。

 昨日の夜、風呂上がりのリリンに教えて貰ったランク2の強化魔法と防御魔法。

 いつもより長めに汗を流してきたリリンは、俺の髪を乾かしながら明日からの訓練に使うからと教えてくれたのだ。


 二つともランク2だけあって呪文の分量も少なく、全文を読んでも30秒もかからないほどの魔法。

 しかし、その効果は驚くほどだ。


 地翔脚ラピッドステップは文字どおり足が速くなる魔法で、発動すれば身体が薄らとした光に包まれる。

 そして筋力の最適化はもちろん、足を使う動作の全てが強化される。

 つまり、走る、飛ぶ、蹴る以外にも、着地や方向転換、ブレーキをかけたり滑ったりなんてことも思いのままに行えるようになるのだ。

 まさに、近接戦闘職の要って感じだな。


 さらに、空盾エアロシールは、とてもシンプルに使いやすい魔法盾だ。

 発動すれば手の平20cm前あたりに六芒星の魔法陣が現れ、通常の盾として使用可能。

 昨夜発動させた俺は、その盾でグラムを叩いてみたが気持ちのいい金属音がした。なかなかの硬度のはずだ。



「ユニクの準備はできたね。じゃ、私も魔法を使う。《二重奏魔法連デュオマジック第九守護天使セラフィム》」



 ……?

 どうして今、リリンの持ちうる最高の防御魔法を使ったんだ?

 

 これから行うのは鬼ごっこのはず。

 鬼ごっこって子供の遊びだよ?それなのに超ド級の魔法を無力化するような防御魔法なんていらないはずだよな……?

 俺の問いかけにリリンは「……念のため」と何か不測の事態を想定している様子だ。


 まさか本物の鬼とか召喚しないだろうな?



「さて、準備は整った。始めるよ。ホロビノ!よろしく!!」

「きゅあらららー!」

「えっ、なんで!?」



 鬼は召喚しないが竜は出てくるらしい。ホントにヤメテ欲しいと思いつつも事態は悪化の一歩を辿っていく。

 ホロビノの(いなな)きに答えるように、控えていた黒土竜達が一斉に立ち上がった。

 そして、各々が別の方向へと縦横無尽に走りだしたのだ。


 今まさにこの広場は6匹の黒土竜達が舞い踊るドラゴン地獄と化した。

 ドドドドドと音を立てながら走る黒土竜たちは、ホロビノに何か言いつけられているっぽい。

  全力疾走で眼が血走っている。マジ恐い。



 「さぁ、ユニク。舞台は整った。ドラゴンが駆け巡るこの草原の中で、私にグラムか魔法を当てられたらユニクの勝ち。もしも今日中に出来たら、なんでも一つお願いを叶えてあげる」



 なんでも一つ願いを叶えてくれる……だと!?

 なんて甘美な提案だろうか。条件達成どころか、命の危険もありうる気がするぞ。

 一層と気を引き締めながら、俺とリリンは草原の中心へ歩みだした。


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