第8章幕間「リリンサの手記8」
9の月、5の日 セフィナが生きていると知った次の日。
私とユニクは隠された秘密を探るため、エルドとアーベルに会いに行った。
ユニクの冒険者登録をしに行った時にアーベルには会ってるけど、エルドは凄く久しぶり。
エルドもアーベルも私に良くしてくれるとてもいい人。
そんな二人に会うのは、セフィナが生きていた事を伝えるため。
受付に居たアーベルのお腹はとても大きく、赤ちゃんは双子なんだそう。
子供が双子なら、間違いなく幸せな家庭になる。
優しげに笑うアーベルのお腹をさすりながら、凄く羨ましいと思った。
……私も将来、大きいお腹をさすりながら、あんな風に笑いたい。
その為にはユニクを頑張って籠絡させないと。手段は選ばない!!
そして、私達は事情を話し、セフィナの生存を知ったエルドはコーヒーを噴き出した。ちょっと面白い。
いつもクールなエルドでも、流石にビックリしたらしい。
でも、すぐに立ち直って私達にアドバイスをくれた。
その中でも驚いたのは、お母さんが敵に協力していたという事。
私の家には認識阻害が仕掛けられていて、エルド達はみんな騙されていたらしい。
そして、それをしたのがお母さんだとエルドは言った。
流石はお母さん。
私達が嫌いな野菜も美味く誤魔化して食べさせてくれたし、凄い技術だと思う!
エルドはこれからについてもアドバイスをくれた。
その内容は、「墓荒らしをした方がいい」というもの。
ワルトナも「墓荒らしはするべきだねぇ」と言っていたけど、これで確実性が高まった。
エルドが言うには、お父さんが眠っているお墓には、小さい私が書いていた日記帳があるらしい。
昔の日記帳に何を描いたのかは思い出せないけど、凄く真剣に書いていた気がする……。
きっと当時の私にとって、とても重要なことだったはず。
なら、何らかの手掛かりがあるのは確定的。
日記帳を手に入れた後はワルトナに相談して、一気に白い敵を追い詰めたい!!
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9の月、6の日
ユニクとカミナと一緒に墓荒らしをして、とてつもないお宝を発見した!
ユニクと訪れた霊園は相変わらず綺麗に整備されていて、とても清らかな雰囲気。
そういえば、不思議とこの霊園の中では野生動物を見た事が無い。
周囲の森にはいっぱいいるから、誰かが管理しているのは間違いないっぽい。
で、お地蔵様に挨拶をして、中に入った。
なお、ホロビノにはカミナを迎えに行って貰った。
そして、なぜか怯えていたミニドラも一緒についって、カミナに捕獲された。
4匹とも幸せに暮らして欲しい。
ユニクに言われて気が付いたけど、確かにこのお墓だけ異常に大きい。
これは何かある!と思って中を確かめようとしたらユニクに止められた。雷光槍はダメらしい。
ユニクがグラムでお墓をこじ開けると、そこには階段があった。
え?っと驚きつつも中に入って下ってゆくと、見慣れたドアが出て来た。
間違いない、これは私の部屋のドア。でも何でこんな所にあるの?
そんなふうに困惑していると、ユニクが中に入ろうと促してきた。
ユニクがドアを開き、中に敵がいた場合、私が殲滅する。
密かに星丈ールナをルーンムーンへと覚醒させ、いつでも雷人王の掌を撃てるように準備。けど、それは不必要だった。
ドアの先にあったのは、やっぱり、見慣れた私の部屋だった。
燃えて無くなったはずの私の部屋。
思い出から切り出してきたかのように、その部屋は私の記憶とまったく同じ物。
セフィナと遊んだぬいぐるみも、お気に入りのシーツやカーテンも、歯型が付いた鉛筆もそのままあった。
……鉛筆はユニクに見られないように速攻で隠した。流石に恥ずかしい。
そして。
ユニクと部屋を物色していると、とんでもないものが出て来た。
それは『英雄ホーライ伝説』の原書。
ホーライが直筆で書いた超ド級のお宝。
この本は、とてもじゃないけど値段が付けられない。
物流に詳しいレジェが言うには、ホーライ伝説は全巻を集計すると1億部以上も売れているという。
そんな全世界でベストセラーになっている本の原書。しかも、愛好家がこぞって懸賞金をかけている。
あとでレジェに見せびらかせよう。
きっと凄く羨ましがって、貸してって言ってくると思う。
そしたらレジェに貸してあげて、ゆっくりホーライ伝説について語りたい。あ、ワルトナにも貸さないと。
そんな事を考えながら夢中になってホーライ伝説を呼んでいると、ユニクが日記帳を見つけてしまっていた。
先に日記帳を読むなんてダメだと思う!
プライバシーの侵害は極刑だって、ワルトナも言っていたし!
日記帳には、色んな情報が乗っていた。
・ユルドルードはお父さんと友達で、家に遊びに来ていた事。
・私は昔、ユニクに出会っているという事。
・白銀比様が重要な情報を知っているという事。
そこら辺をワルトナに相談しようと思ったら、連絡が付かなかった。
だから魔道具にメッセージを残しつつ、明日は白銀比様に会いに行く。
サチナと会うのも久しぶり。とても楽しみ!
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9の月、7の日。
ユニクが白銀比様に攫われた。
……白銀比様に会いに来た私達は、サチナと触れ合った後、白銀比様といろんな話をして真実を知った。
その点については感謝してるし、昔にお世話になった事も踏まえて、あとでしっかりお礼をしたい。
けど、それとこれとは話は別。
昔話を終えた私達が帰ろうとすると、白銀比様はユニクだけ残ってと言った。
きっと、え、えっちな事をするつもりだとおもう……。
ユニクはカッコイイ。だからそうしたい気持ちも分かるけど……。でも、ユニクは私のなのに。
頑張って告白もしたのに。レベルが一緒になったら添い遂げるって誓ったのに。
でも、ユニクは私の必死の誘惑すら断っている。だから、きっと、白銀比様の誘惑も断ってくれると信じたい……。
……。
…………。
………………胸は白銀比様の方が3倍くらい大きいから、ちょっと不安……。
どうすればあんなに大きく育つというの?カミナに教えて貰ったマッサージも効いてるのかどうか分からないし。
むぅ、むぅ、すごく不安。
もし、もしもユニクが誘惑に負けていたら……。
きっと私は泣きながら、ユニクを襲うと思う。
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9の月、8の日
今日は色々な事があった。
セフィナやユルドルード。
そして……パパに会った。
私は、朝帰りしたユニクを襲った。
だって、ユニクは誤解する様な事を言ってから寝てしまった!
すごくすごく鬼畜だと思う!!
あんな事を言われた私が、ユニクが寝ている2時間の間、どんな気持ちで過ごしたのか。
それをたっぷりと体に刻んであげた。浮気はダメ!絶対!!
その後、ユニクとワルトナと一緒に混浴していたらセフィナが出て来た。
え?どうして?って混乱して、気が付いた時には、魔王シリーズ全部出してセフィナを追いかけていた。
……で、逃げられた。
むぅ。あの時、ワルトナに抱きつかれて無ければ追い付けたのに。
しかも、後でワルトナに怒られた。
『魔王なんて物騒なもんを妹に向けるんじゃないよ!このお馬鹿!!』って、『魔王とアホウは使いよう』って言ってたのもワルトナなのに……。
セフィナに逃げられて落ち込みそうになったけど、ユルドルードに会えるって考えたら立ち直れた。
フランべシモーべのお店に行ってご飯をいっぱい食べた後、ユルドルードに会いに白銀比様の所に行く。
ユルドルードは、想像していたのの10倍くらいカッコ良かった。
ユニクとはあんまり似てないけど、歴戦の英雄的なオーラを感じる。すごい。
舞い上がってしまった私は、ユルドルードに魔法を教えて欲しいとお願いした。
でも、魔法を教えるのは違う人が良いって言われてしまった。
英雄より凄い人なんていないのに。
そんな風に思っていたら……出て来たのは、パパだった。
びっくりして、パパって呼んでしまった。
私はもう16歳で大人。本当はお父さんって呼ぶべきなのに。
でも、懐かしくて、ついパパって呼んでしまう。
……いいよね?パパ。
パパは白銀比様が創った分身体。本物のパパじゃない。
でも、紛れもなくパパだった。
パパは優しい笑みを溢しながら、私の話を聞いてくれた。
楽しそうに笑い、優しく頭を撫でてくれて、零れてしまった私の涙も拭いてくれた。
ずっと会いたかった。
お話をしたかった。寂しかったよ。パパ。
これからは白銀比様に言えば、いつでもパパに会いに来れる。
白銀比様には感謝してもしきれない。
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9の月、9の日
この日から本格的に魔法の訓練が始まった。
パパが教えてくれる魔法の理論は凄くて、でも、とても分かり易くて。
今までの常識が覆されてしまったけれど、私は確実に強くなった。
雷人王の掌には、原点となる魔法が存在した。
それは 原初に生まれし雷人王っていう凄い魔法らしい。
他にも第九守護天使や命を止める時針槍にも原点が存在し、それらは魔法十典範っていうとても凄い魔法なんだとか?
これを覚えたら、私は英雄にぐっと近くなるらしい。
英雄ホーライも、雷人王を体に纏ってバッファの魔法みたいに使っていたというし、魔法の可能性は無限大。
私も頑張って覚えて、ユニクを光らせたい。
パワーアップしたユニクは最強無敵。白い敵を一撃で倒すと思う!!
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9月、10の日。
ソドムと戦った。
今日の日中の予定は、セフィナと一緒に居るゴモラを探すはずだった。
助っ人としてアルカディアも呼んでいる。というか、毎日ご飯を食べにくるから協力を要請した。
アルカディアはタヌキなので、ゴモラとも顔見知り。
でも、何処に居るのかは知らないらしく、見かけたら連れて来てくれるようにお願いしてある。
そして、やってきたアルカディアはソドムを抱えていた。
あ。惜しい。そっちじゃない。と思ったけど、良く良く考えてみれば、ソドムとゴモラは双子で仲がいい。
きっと居場所も知っているはず。そう思って餌付けを試みたら成功した。ちょろい。
……そう。この時まではちょろいと思っていた。
妙に楽しげなソドムは、急に召喚陣を起動し、無理やり空間転移を仕掛けて来た。
着いた場所は温泉郷の近くの山の草原。
そこでソドムは私達と訓練をして遊びたいと言ってきた。
で、ユニクにどうする?と聞かれた私は挑戦したいと答えてしまった。
パパに教えて貰った魔法の実験がしたかったし、ユニクの訓練の成果も見たかった。
ソドムも超越者だというし、その強さがどれくらいなのかも知りたかったから、色んな意味で丁度いいと思った。
だけど、それは失敗だったという他ない。
ソドムは、滅茶苦茶かっこいいロボット『エゼキエルオーヴァー=ソドム』を召喚してきた。
うん、比喩的な意味じゃなくて、本当にロボット。凄くカッコイイやつ。
今、思い出してもズルイと思う。
だってロボット。あんなの持ってたらみんなに自慢できるし、カミナなら間違いなく徹夜で研究する。
そんなロボットをいきなり出されて、凄く困った。
何それズルイ。私も欲しい。
……しかも、超強い。
パパとの訓練をした私の魔法は、150%も威力が上昇している。
新しい魔法理論を覚えた事で、効率の良い発動が出来るようになったからだ。
でもソドムのエゼキエルには効かなかった。
装甲に魔法が弾かれて届かない。あんな無力感はアマタノと戦った時以来だと思う。
色々と試している内に追い詰められて、ユニクに怪我を負わせてしまった。
ユニクは大丈夫って言ったけど、全然大丈夫じゃない。
私の原初守護聖界が未熟だったせいでの怪我。到底、許せるはずもない。
ワルトナが助けに入ってくれたから大事には至らなかったけど、それは運が良かっただけ。
ユニクが笑っているのに私が取り乱す訳にも行かないから、必死に取り繕うとして――かっこ可愛い狼がいる事に気が付いた。
ラグナガルムっという名のこの狼は、ワルトナの新しいペットらしい。
気持ちを落ち着かせる為に撫で回してみた。もふもふしてた。
でも、気分は落ち着かなかった。
私は高ぶった気持ちを抑えるのを辞め、魔王を全て出して装備。
この状況なら魔王シリーズは最大のパフォーマンスを発揮する。
感情に任せて振り回したら、角を折る事に成功した。ふっ、ちょろい。
……と思っていたら、エゼキエルに尻尾が生えた。
しかも、その尻尾は魔王シリーズの『魔王の脊椎尾』。
その破壊力は私の魔王よりも遥かに上で、カッコイイレーザーとか出せる。ズルイ!
この時点で、私はあの尻尾を奪い取ると決めた。
だってレーザーとはズルイし、それに……魔王シリーズを集めると合体してロボットになるらしい。
もともと一体のロボットを分解して作ったのだから、7つ集めれば合体できるはず。
合体できると知ったカミナなら、何が何でも創ってくれるはずだし。
私が持つ魔王は3つ。
そして、目の前に1つ、レジェが持ってるのが1つ。
後2つはどこにあるのか分からないけど、絶対に見つけて合体させたい。
セフィナを捕まえた後は、魔王シリーズの捜索に力を入れよう。
そうと決まれば、まずは目の前の尻尾を奪い取ろう。
怒っていた私はパパに教わった魔法を使う事を決め、ワルトナに協力してとお願いした。
ワルトナとユニクは私の要望どおりにエゼキエルの動きを止めてくれた。
そして、私のオリジナル魔法『 聖界に満ちる雷人王』が炸裂し、見事に尻尾を弾き飛ばせた。
この『 聖界に満ちる雷人王』は、パパの助言を元にして考えた魔法。
というか、何かに導かれるように閃いた。
直感で作ったなんてユニクに言う訳にはいかないけど、その効果は桁違いに凄い。
脆弱な部位を狙ったとはいえ、堅い装甲を一撃で吹き飛ばす程の威力。
たぶんだけど、この魔法なら冥王竜を狩れる。
今度戦う機会があったら試したい。
そうして、私は吹き飛んだ尻尾を奪い取ることに成功した。
4つを共鳴させた魔王シリーズの名称は『禁忌む魔王の超異体』。
これで私もレーザービームが出せるようになった。
色々とすごく楽になると思う。侵略とか。
最後に、ユニクがグラムの新しい覚醒体を使用した。
その名も、『神壊戦刃グラム=終焉にて語りし使命』。
こっちもすごくカッコイイ。
カッコイイ手甲が出て来たのも良い。もう英雄って名乗ってもいいと思う!
最終的には、私達の戦いは引き分けに終わった。
ユニクの渾身の攻撃はエゼキエルの腕を壊したけど、本体は無事。
まだまだ油断ならない状況だけど私達の方が有利で、このまま行けば勝てると思った。
……流石に、巨大戦艦はズル過ぎると思う。
あんなの、ちょっと勝つ手ない。
なにあれ、いいの?
空を飛んでくるとかズル過ぎる。いいの?
茫然としていたら、ソドムに逃げられてしまった。
とても残念。エゼキエル自体を奪い取れれば、カミナに私のロボットとして改造して貰おうと思ったのに。
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「ふぅ……。ユニクまだかな……」
温泉宿『極鈴の湯』の一室、独りぼっちの部屋でリリンサは自分が書いた日記を読み直していた。
その行為自体に深い意味はない。
ただ、気持ちを落ち着かせるために選んだ行動が、日記帳を読み直すという事だっただけだ。
「……今日、白銀比様は用事があって出掛けた。訓練は無いから時間はたっぷりある」
状況を自分に説明する様に呟いたリリンサは、閉められているドアへ視線を向けた。
その先には部屋の出入り口、そしてその間にはユニクルフィンが使用している浴室がある。
白銀比から2日程出掛けてくると言われたリリンサ達は、昨日と今日は休日として温泉街を満喫していた。
タヌキと白銀比との間に協定が結ばれた今、エデンを筆頭とする脅威は去り、ついでにセフィナの姿も全然見かけない。
そんな中、夜の訓練すらも無くなったとなれば、素直に温泉街を満喫するのは自然な流れだった。
そして、その1日目を楽しんだ二人は揃って就寝し、気持ちよく寝ざめた今日の朝、リリンサは己が過ちに気が付いた。
あ、ユニクを誘惑するのを忘れてた。
せっかくのチャンスだったのに。
それに気が付いたリリンサは、今日1日かけて計画を練り、これから実行に移そうとしている。
すでに計画は盤石。
リリンサは日中何度も温泉に入って体を磨き、これから起こるであろう激しい運動に備え、今日は特に念を入れて高カロリーな夕食を食べた。
計画の最終段階。ユニクルフィンは部屋の風呂に入りに行っている。
食事を済ませた後にアヴァロンと遭遇し、食後の運動がてら徒手格闘を繰り広げて汗をかいたからだ。
「ん。ユニクは同じレベルになったらと言っている。でも、その意思を陥落させてこそ恋人なのだとレジェが言っていた。今日の私は気合いが違う。一気に攻め滅ぼす!」
この決意をユニクルフィンが聞いたのならば、速攻でグラムを覚醒させて逃げだすだろう。
だが、幸か不幸か、その言葉は届かなかった。
何も知らないユニクルフィンは、「ふぅー。いい汗かいたぜ!」などと気の抜けた事を言いながら、リリンサが見つめるドアに手をかける。
ともすれば、ドアが開いた後で視線が交差するのは必然だった。
浴衣姿という無防備な格好で、カツテナキ存在との、予期せぬ邂逅。
良く冷えた牛乳瓶を握りつぶしながら、ユニクルフィンは叫び声を上げた。
「タヌキリリンに魔王の尻尾が生えてんだけどッッッ!?!?」
「ふっふっふ。今度はタヌキな私と戯れて欲しい!」
いくらリリンサがふてぶてしい性格をしていようとも、意中の男性を襲うには勇気がいる。
肝心な所で奥手な性格のリリンサは、あんまり連絡が付かなくなったワルトナの代わりにレジェリクエに相談し、
「あはぁ。添い遂げる勇気が無いのなら、魔王シリーズを使うと良いと思うわぁ。ちょっと大胆になれるものぉ」
という、大魔王なアドバイスを忠実に実行。
常識とモラルを大胆にブッチ切ったリリンサは、浴衣装備なユニクルフィンに襲いかかった。
この夜、ユニクルフィンが普通の訓練をするよりも格段に疲れたのは言うまでもない。




