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第8章余談「たぬきにっき・アルカディアの理想郷(終)」

 

「う”ぅ~ぎるあ~~!もぐもぐ、う”ぎるお~~!もぐもぐ」



 ティターンボアーの上に馬乗りで座っているアルカディアは、鼻歌交じりに肉を千切って頬張っている。

 皇の紋章によって、アルカディアの意識の90%以上を食欲が占めており、ならばこそ、美味そうな肉を食べる為の戦いに勝利した今、戦利品を実食するのは当たり前の事だ。


 アルカディアは肉を頬張りながら、可愛らしい笑みを溢した。

 大きくなればなるほど美味くなると言われている蛇肉。

 その巨体120mに凝縮された旨みは、素焼きしただけで並みの高級料理を凌駕しており、アルカディアはその味に満足しているのだ。


 そんな恐るべき食物連鎖を、戦々恐々としながら眺めている者達が居た。

 その者達は……タイタンヘッドと愉快な剣士たち。

 冒険者だと名乗っている彼らは、数百年は語り継がれるであろう伝説の目撃者。

 唯一腰が抜けていない男タイタンヘッドは、若干内股になった剣士ビリオンソードへ視線を向けた。



「なぁ、さっきのはなんだ?ティターンボアーが死んだんだが?」

「死んだな。ふっ、流石は拙者を二度殺した女よ」


「2度目は恥だから隠しとけ。じゃなくってだな、さっきの黒いオーラ、アレはなんだ?あれ纏ってから動きがまるで変わったぞ?」

「うむ。殴れど傷つかなかった鱗を引き剥がしおったな、素手で。タイター、拙者が知る限りの最高の拳闘師であるお前は、同じ事が出来るか?」


「出来る訳ないだろ。ティターンボアーの鱗は物理攻撃無効。どれだけ強く殴っても受け流され――!」



 そこまで言った所で、タイタンヘッドは一つの可能性に辿り着いた。

 それは、打撃のように極地的に集中した衝撃は無効でも、柔術や絞め技のような体術ならば有効だった可能性だ。


 事実、その仮説は正解だった。

 ティターンボアーに準ずる超大型蛇種が高い物理耐性の鱗を持つのは、巨大な体が発する衝撃を緩和させるためだ。

 気の緩みから放った尻尾のバタつきでさえ、発揮される力は数千tを超える。

 その時に身体を傷つかせないために、超大型蛇種の鱗は強靭になるのだ。


 一方、柔術のような体術が有効なのは、移動するときの運動エネルギーを体に伝える必要があるからだ。

 外部から受けるエネルギーの全てを無効化してしまっては、ティターンボアーは動けなくなってしまうのである。


 それを過去のタヌキ帝王は解き明かし、近しいタヌキと情報共有した結果、超大型蛇種は絶滅の危機に瀕している。

 あえなく散ったティターンボアーも、非常に数の少ないレア個体だった。



「だが、理由はどうであれ、ティターンボアーを、俺達冒険者チーム(・・・・・・・・)が倒した事は事実だ」

「あぁ、まさか拙者達だけで倒せるとは……剣皇様からお褒め頂けるかもしれぬな」

「師匠何もしてなくないですか?アルカディアさんが戦い始めたら逃げましたよね?」


「ちゃんと倒しただろ、小さい奴を。これで俺達は200億エドロ以上ゲットだ。ふっふ、しばらく高級酒が飲めるな。ヤジリにでも奢ってやるか」

「特別恩賞として、大師範の資格を承れるかもしれぬ。あぁ、天上に登るような気持ちだ」

「横取りですか?それでいいんですか?不安定機構・支部長」


「……お前もこっち側に来い、サウザンド。それとも……オレンジの木の肥料として根元に埋まるか?」

「拙者、証拠隠滅の為のみじん切りは得意なり」

「すみませんでしたッ!!」



 荷物から取り出した替えのズボンに履き替えたサウザンドソードはヤサグレていた。

 こんな冒険じゃスーターに自慢できないと、自暴自棄に陥りそうになっていたのだ。


 だが、裏を返せば、15000人を軽々とすり潰した化物と遭遇して、失ったのがズボンとパンツとプライド。

 これは上出来だな?と気分を持ち直したサウザンドソードは、やっとの思いで現実に舞い戻り、自分の生を実感し始めた。



「あぁ、ホント大変なことになったが……生き残ったな。ビリオ」

「だな。正直、拙者は今度こそ死んだと思ったぞ。タイター」



 そして、サウザンドソードに聞こえない様に二人の熟練冒険者はポツリと呟いた。

 偉そうな事を言っていた二人だが、実際は、サウザンドソードと同じように逃げ惑いたかったし、泣き叫びたかったのだ。

 だが、下位者がいるという状況が二人のプライドを刺激し、僅かに奮い立たせていた。



「街に帰ったら、焼き蜘蛛を酒場に持ち込んで、三日三晩飲み明かそうぜ」



 密かに約束した二人は、アルカディアに喰われて1mほど短くなった蛇を眺め、「タヌキは一生食わねぇ」と神に誓った。



 **********



「う”ぎるあ!!めっちゃ美味いし!!」

「ヴィー、ギギロロア?」



 無我夢中でティターンボアーに喰らいつくアルカディアへ、ドングリは声をかけた。

 その横にはプラムがおり、そして、ちょっと離れた草葉の陰には集落に属するタヌキ全てが集結している。


 プラムはタヌキ奉行たちと合流した後、すぐにこの場に戻りアルカディアの戦いを見守り始めた。

 そうこうしている内に情報が伝わった集落に住むタヌキ達も、「アルカディアの戦いを見ながら焼き蜘蛛喰おうぜ!なぁに、あのドングリが逃げられたんだ。アルカディアならワンチャンス倒すまである!」と気楽に見物しに来たのだ。


 だが、そんな舞台劇を見に来た様な和やかな雰囲気は、アルカディアの雄叫びによって粉々に砕け散った。

 アルカディアの咆哮。

 それは、誰もが聞いた事が無い、全身の毛が逆立つ程の恐ろしいもので。


 基本的に優しい性格のアルカディアの激昂に、集落に住むタヌキ達の半分が恐怖のあまり腰を抜かした。



「ヴィー!ギギロロン!」

「……。」


「ギギルギロギロ!ギロギア~ン!!」

「……。」



 おい、ドングリ。アルカディアはお前のメスだろ?慰めて来いよ


 心を一つにしたタヌキ達は、ドングリの尻を優しく叩いた。

「後はお前に任せた。頼むぞ!タヌキ代官!!」と、こんな時ばかりドングリを褒めたたえる。


 そう言われてしまえば逃げ道はなく、命の危機を感じならもドングリはアルカディアに声をかけたのだ。

 そして、その懸念は正解だった。



「……。」

「ヴィギ……ロア?」


「……じゅるり。」

「ヴィ!?」



 無言で蛇から飛び降りたアルカディアはドングリの前に華麗に着地し、その体を抱えあげた。

 同じ高さで絡み合う視線。

 想いタヌキにじっと見つめられるという本来ならば嬉しい状況も、その相手がよだれを垂らしていたら台無しだ。


 ドングリは、本気で命の危機を感じている。



「ふっくらしてるし……。りんなんちゃらに貰ったコッペパンと同じだし……」

「ヴィ!?ギギロギア!?!?」


「……。じゅるり」

「ギギロア!ギーアー!!」



 蛇肉は美味しいけど、そればっかりだと飽きてくるし。


 そんな事を考えながら、アルカディアはドングリを見つめる。

 その視線は、悲しい事に、ドングリが今まで向けられた視線よりも格段に熱を帯びているもので。

 命の危険と食欲に負けた深い悲しみにサンドイッチされたドングリは、色んな意味で覚悟を決め――ようとして、アルカディアの視線が自分に向いていない事に気が付いた。



「ヴィギプルル!」

「プラム?」


「ヴィギプラ!ギルプルー!!」

「ん。それは良かった。頑張ったかいがあったし!」



 仲間の制止を振り切って駆け寄ったプラムは、アルカディアの足にすり寄った。


 凄い凄いと聞かされていた、姉の存在。

 プラムにとってそれは、『幻想』で『悪夢』で『憧れ』。

 だが、聞いていたものよりも何倍も凄い物を見せられてしまっては、抱いていた感情など何の価値もない。

 プラムは、真っ直ぐな声で姉に想いを伝えた。


「おねーさま、すごい!びっくりするぐらい、すごいです!!」


 そんな純粋な憧れが、アルカディアの意識を僅かに取り戻させた。

 腹がパンパンに膨れているのも後押しし、会話ができるくらいに意識を回復させたのだ。



「プラム、困った事があったら今度は遠慮なく言って欲しい。どんな所に居てもすぐに駆けつけてやっつけるし!」

「ヴィ~ギプルン!」


「ということで、みんなで勝利の宴を開くし!唯でさえ美味しい焼き蛇、みんなで食べたらもっと美味しいし!!」



 う”ぅ”~~ぎるあ~!みんな出てきて!!



 再びの咆哮は、タヌキ達が良く知る優しい鳴き声。

 アルカディアが御馳走を持ち返った時の、みんなが待ち焦がれている至福の時間の合図なのだ。


 我先にと草むらから飛び出し、焼き蛇に喰らい付くタヌキ。

 ソレに負けじと飛び出して、重要な証拠物件であるティターンボアーの頭を確保しにく熟練冒険者一同。

 皆が笑顔を溢す中、背中に熱い視線を感じ続けていたドングリも隙を見計らって逃げ出し、同じく蛇に喰らい付いた。

 そんな中、一匹になったアルカディアはひっそりと呟く。



「……良かった、集落を守れたし。私の故郷はこれからもっと大きくなる。ドングリに任せておけば大丈夫だし」



 アルカディアとて、ティターンボアーを恐れていなかった訳ではない。

 ただ、ソドムや希望を頂く天王竜のような超上位者と触れ合う機会が多かったから、取り乱さなかっただけ。

 自分が敗北する可能性は十分に考慮していたし、だからこそ、皇の紋章を真似るという無茶をしでかしたのだ。



「ドングリ。もし、私の任務が終わってここに戻ってきた時は……。その時に、まだ一緒に居てくれるならだけど……」



 その先の言葉は発せられず、誰にも届いていない。

 それは、アルカディアのみが分かっていればいい事。

 アルカディアは笑みを溢し、美味しそうな肉を貪っている、おいしそうな幼馴染に駆け寄った。



 そうして、タヌキ大宴会が始まった。

 主催はこの群れのボス、アルカディア。

 メイン料理は、高級焼き蛇と焼き蜘蛛のフルコース。

 タイタンヘッドが持ち込んだ乾パンも良い味を出しており、ビリオンソードがジュース樽を召喚してからは騒ぎが一層大きくなった。


 アルカディアのタヌキ生の中でも、トップクラスに楽しい宴。

 その声はだんだんと大きくなり、やがて、『アルカディア』コールが響き始めた。



「う”ぎるあ!みんな食べてる!?」

「ヴィッギル!」


「遠慮はいらない!好きなだけ食べるし!!」

「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」  「おい。」  「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」  「めっちゃ興奮しとるやん。ウケルんやけど」  「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」


「う”ぃぎるあ~~!!」

「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」  「俺の話を聞け、アルカ」  「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」  「聞こえてへんな。もうちっと声をでかくしたらどうや?」  「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」


「う”ぅぎるっ!あ”あ~~」

「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」「ヴィッッギルア!」  

「……おいッッッ!!アルカディアッ!!」



 放たれた怒号と共に、絶対的なオーラが撒き散らされた。

 それは、タヌキ帝王が纏う『覇王なる覇気』。


 支配階級が繰り出すその咆哮は、その場に居たウマミタヌキ達を一瞬で委縮させ、熟練冒険者たちはズボンにシミを作った。



「ソドム様とエルドラド様だし?何しに来たし?」

「お前が呼んだんだろうがッッ!!ぶっ飛ばされたいのか?あぁん?」


「そうだったし!忘れてたし!!」



 会話が可能になったとは言え、アルカディアの脳内は未だに食べ物の事が85%を占めている。

 そんな状態ではタヌキ帝王の波動に当てられようともダメージは薄い。



「お、おぉ……、いきなり声をかけてすまない。俺の名はタイタンヘッド、不安定機構の支部長をやってるもんだが……」

「これはこれは、ご丁寧にどうも。エルドラドっちゅーもんです」


「率直に聞くが、お前はこの森に住んでいる原住民って事はないよな……?」

「違うで。ワイは世界を旅しながら行商しとるからな」


「行商……()、ってことか?」

「ご想像に任せるで」



 その答えを聞いたタイタンヘッドは、言いようのない不安に駆られていた。

 実は、このエルドラドについては部下に調べるようにと指示を出している。


 拳闘大会午前の部の予選、ユニクルフィンと共に理解不能な戦闘を繰り広げていた人物こそ、エルドラド。

『無敵殲滅・メナファス・ファント』が街を去った現状、次に警戒するべきはエルドラドとアルカディアだと、タイタンヘッドは判断したのだ。


 なお、今回のオレンジ植林自体も、アルカディアを探る為の試金石にするべく計画されたものだ。



「あぁ、そうそう、ワイは準指導聖母・悪喰プアフード様の配下や。ちなみにアルカディアもやで」

「なに!?それは本当か!!」


「ホンマやで。で、ちと聞きたいんやけど、今回、おっさんの後ろに居るんはヤジリ様か?」

「ヤジリは飲み友達だ。……アイツが指導聖母として仕事をしてるのなんて見た事ねぇぞ?支部長としての情報が無ければ絶対に信じん」


「ヤジリ様やないんやな?」

「今回、俺の端末に調査依頼を出したのは準指導聖母・悪徳ヴァナラティ様だ」


「そうかい。じゃ、この件は準指導聖母・悪喰様の案件になるやろうな。そのつもりで上手く立ち回れよ、おっさん。この情報は駄賃代わりにくれてやるわ」



 それだけ言うと、エルドラドはアルカディアの元へ歩いて行った。

 その足元には偉そうな顔をした『人間の言葉を喋るタヌキ』が並んでいる。

 そして、ソレを見たタイタンヘッドは驚きを隠せないでいた。


 頭に星のあるタヌキだと……?

 リリンサ向けの依頼に乗ってた奴じゃねえか。

 いや、それは過ぎた事だしもう良い。それよりも……。


 ついに喋り出しやがったな、タヌキ。

 何でもあり過ぎだろ。


 心の中で溜め息を吐いたタイタンヘッドは、じっと小柄なタヌキの後ろ姿を眺めた。

 そして、妙な近視感を覚え――直ぐ近くから悲鳴が上がった。



「支部長!!支部長ぉぉぉ!!」

「どうした?ティターンボアーを倒すのに比べりゃ、タヌキが喋るのくらい許容範囲だろ?」


「違いますよ!これを見てください!!」

「危険動物図鑑……。あぁ、なるほどな……。二匹目か」



 サウザンドソードが開いているページの背景は黒く、乗っているのも写真では無く絵だった。

 だが、その絵は目の前に居る生物とそっくり。

 頭にある純白の星マークなど特徴的すぎて、見間違うはずが無い。



「あのタヌキ、と、特殊個別脅威ですよ……!ティターンボアーと一緒!!」

「違うぞ」


「えっ。違うんですか!?」

「ティターンボアーと一緒じゃねぇ。その図鑑に載ってる『タヌキ帝王・ソドム』の危険度は、『大陸滅亡の危機カンタナント・カタスフ』。『確実な死(デスカンファム)』の上の上だ」



 タイタンヘッドは溜め息を吐いた。

 サウザンドソードが開いているページは、支部長の間でも眉唾な情報として、冗談の種として使われるほどの存在。

 伝説上の生物が降臨したとあっては、タイタンヘッドなど、笑いながらため息を吐くしかないのだ。



「おい、アルカ。お前何をしでかしたか分かってんのか?」

「う”ぃ?」


「お前が使った皇の紋章は那由他様が禁止している魔法だ。おら、何か言いたい事があるだろ?言えよ、アルカ」



 無言な圧力を発し、ソドムはアルカディアに謝罪を促した。

 那由他が決めた戒律に逆らうなど、タヌキ帝王ですら恐れる行為。

 謝罪程度で済ますはずもないが、まずは言葉からだとソドムは言っているのだ。



「ほら、言いたい事を言ってみろ。アルカ」

「せやで。こういうのは気持ちが大事や」

「ソドム様は……あんまり美味しくなさそうだし!ドングリの方がふっくらしてるし!!」


「……。」

「……。」

「ソドム様は小さいから、あんまり食べるとこなさそう。あとなんか堅そうだし!ドングリのほうが断然いいし!!」


「……なぁ、エル。シバき倒して良いと思うか?」

「良いと思うで。2、3発殴れば正気に戻るんちゃうか?」


「だよな。《極限なる覚醒者サウザンド・ハンドレッド!》」



 イラっとしたソドムは躊躇なくアルカディアをシバき倒すべく、超越者が使用できるバッファを発動させた。

 漲る力を唸らせたソドムは静かに跳躍し、天空とび蹴りをアルカディアに仕掛ける。


 だが、バッファ中のアルカディアはギリギリの所で回避した。



「てめぇ……!」

「つい避けちゃったし!」


「覚悟は良いんだろうな?いいよな?良いって事にするぞ?」

「全然良くないし!」


「もう遅え!!《サモンウエポン=魔王の脊椎尾(デモンテール)!!》」



 **********



「その後、めっちゃボコられたし。ソドム様の尻尾まじヤバい。ギュンギュンするし!」

「……。」


「エデン様?」

「この私をここまで驚愕させるとは、本当にやりますね、アルカディアさん……」


「驚愕?どうしてぎるぎる?」

「皇の紋章は、本来、使おうと思っても使える物ではありませんよ。那由他様がプロテクトを掛けてますから」


「プロテクト?でも使えたし?」

「それは私も気になる所です。たかがタヌキ将軍風情が、私に解けないプロテクトを突破できるなど……トウゲンキョウに話を聞くのが早そうですね」



 エデンから漏れ出たオーラ。それは、僅かな嫉妬と絶大な好奇心によるものだ。

 神から知識の権能を与えられし、始原の皇種・那由他。

 そんな存在が本気で組んだプロテクト(防御機構)など、そう易々と解ける物では無い。

 事実、それに何度か挑戦して失敗しているエデンは、アルカディアが擬似的とはいえ模倣出来たという事に活路を見出した。


 なるほど、これは嫌らしい仕掛けですね。那由他様。

 そんなに私が貴方と同じ力を手に入れるのが怖いのですか?


 ……我らが皇は、随分と臆病なのですね。

 そんなんだから、いつまで経っても蟲量大数を喰えないんですよ。



「う”ぎるあ?エデン様は長老と顔見知りだし?」

「えぇ、もちろんです。昔は良く一緒に戦ったものですし」


「え?エデン様と一緒に戦った?どういう事ぎるぎる?」

「トウゲンキョウはタヌキ帝王だったですから。腰を悪くして那由他様に地位を返上してますけどね」


「う”ぁ!?マジ!?」

「マジです。トウゲンキョウは、第二席次まで登りました強かなタヌキですよ。破竹の勢いで成長したゲヘナくんに席を奪われましたが」


「ゲヘナ様だし?長老よりも年下って事だし?」

「あぁ、年齢でいえば、トウゲンキョウは私よりも上です。2~3年ですけど」


「う”ぎぎるあ!?大マジ!?!?」

「はい、大マジです。神殿で飼われていたタヌキの中でも、トウゲンキョウは一番年上です」


「……神殿だし?」

「あぁ、神殿というのは、ずっと昔に七賢人という人達が住んでいた場所の事で、私やトウゲンキョウはそこで飼われていました。色々あって滅んじゃったんですけど、私達は生き残った仲間を連れて那由他様の支配下に入りました」


「つ、つまり、長老はエデン様と同じくらい凄いタヌキぎるぎる?」

「そういうことです。なお、私と仲の良かったエーデルワイスが生んだ子がソドム君とゴモラさんで、シアン・リィンスウィルによって育てられ、リンサベル家の守護獣となるのですが……そこには興味がなさそうですね」


「長老めっちゃ強いらしいし……。イラっとした時に頭とか叩いたことあるし……。ヤバすぎるぎる」

「興味が出た時にでも、エルにでも聞いたらいいと思います。あの子って私と遊んでくれないんですよねー、思春期って奴ですかねー」



 そんなエデンのぼやきよりも、アルカディアにとっては長老の正体の方が一大事だ。


 う”ぎるあ。ドングリとプラムが心配になったし。

 調子に乗ったドングリが怒らせないと良いけど。

 ドングリは割と自爆するし!



 そんな想いも、アルカディアはこれから日記帳に書くだろう。

 トウゲンキョウに会いに行くと言い残しエデンが去った今、室内に居るのはアルカディアのみとなっている。


 静かになった部屋で、アルカディアはオレンジジュースを飲みながら再び筆を走らせた。


予定の4倍長くなりましたアルカディアの里帰り編、完結です!


そして、お待たせしました!!

次話はリリンサの手記です!!

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