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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第8章余談「タヌキにっき・アルカディアの理想郷⑬」

「う”!?ヴィギィあぁァあァァあ”ア”あア”ア”あ”ぁぁぁぁぁ!!!!!!」




 けたたましい、咆哮

 聞くに堪えない、叫び。

 うら若きメスタヌキたる彼女は、頑張って創り上げた理想郷を守るべく、禁忌に手を出した。


 タヌキ帝王が定めた『上位タヌキ戒律』には触れてはならない禁則事項がある。

 それは、最上位者たる那由他が意図的に隠している情報を、悪喰=イーターを使用して再現する事だ。


「暴虐憮然と振る舞っている儂だが、世界がバランスを崩し人類が滅ぶ事は望んでおらん。美味い飯が食べられなくなるからの!」


 そんなタヌキらしい理由で、那由他の持つ強大な力の一部は封印されている。

 そして、アルカディアが手を出した力こそ、禁則事項のド真ん中ドストレート。

 皇種以外の者が使用するべきではないと、那由他は『皇の紋章』を配下が使う事を禁止しているのだ。




「う”ぅ~う”うぎぃぃ~~」

「シャシャパアッ!?」



 ゆらゆら揺れながら唸りを上げるアルカディアと、硬直し困惑するティターンボアー。

 混沌とする空気の中には妙な均衡が生まれ、どちらからも仕掛けようとしていない。


 アルカディアは、大絶賛・混乱中だ。

 那由他に皇の紋章を使用された時は、わずかに高揚感を感じたものの、正気を保っていた。

 だがそれは、那由他がアルカディア専用に効果を調整した結果であり、今回の条件には当て嵌らない。


 アルカディアは当時の身体の条件を再現するべく、直感と本能に従い魔法を使用。

 そして、上辺だけの力が身体から溢れだし……ついに、名実ともに暴走を始めた。



「う”ッ!!これ邪魔だし!!」

「シャグァバ!?」



 ズガァン!と何かが蛇の頭に叩きつけられ、その巨体を揺さぶった。

 並みの鉱物よりも遥かに硬い蛇鱗の上からの一撃。

 本来ならば大したダメージを与えられないはずの物理攻撃は、確かなダメージをティターンボアーに与えた。


 叩きつけられた鼻腔周辺の平たい鱗には亀裂が走り、ポロポロと破片が落ちていく。

 ティターンボアーにとって、鱗が破壊されるなど、経験にない程のあり得ない事態。

 そんな理解不能の境地で慌てながら、投げつけられた物体へ視線を向けた。



「シャぁ!?」

「う”ぅう”ぅ~~う”ぃぎぃぃ~~」



 ティターンボアーが視線でとらえた物体。

 それは、漆黒のガントレット『千海山を握する業腕』だ。


 理性を失ったアルカディアにとって、ガントレットの使用方法など知ったこっちゃない。

 ただ、腕に突いている『変なの』が邪魔だった。

 だからこそ、その『変なの』を引き剥がし、ついでに投げつけただけなのだ。


 腕に重石が無くなってすっきりしたアルカディアは、脳内を駆け巡っている力と自分を混ぜ合わせてゆく。

『皇の紋章』は、その種族に属する者から力を引き出し、己がものとする魔法だ。

 通常ならば、能力値が高い配下の持つ能力を選んで使用する。

 だが、暴走状態なアルカディアの脳内は、世界中のタヌキの能力と意識が飽和している状態だ。


 アルカディアの脳内にて蠢く、数千万を軽く超えるタヌキ意識。

 あらゆる方向に意識が引っぱられたアルカディアの精神は掻き乱され、次第に、一つの大きな纏まりへと統合してゆく。

 それは……。



『食欲』



 そう、タヌキは食欲の化身だ。

 生息場所が違くとも、数千年を生きようとも、果物の木を育てようとも、群れのボスに好意を寄せようとも、タヌキが食欲を疎かにするなどありえない。

 だからこそ、アルカディアはギリギリの所で自我を失わずに済んだ。



 ……オレンジ。

 バナナ、スイカ、メロン、大根、鮎、ザクロ、鳶色鳥、ごぼう、桃、大豆、稲、栗、たんぽぽ。

 三つ葉、ドングリ、蜘蛛、熊、ゼンマイ、みょうが、人参、ゴーヤ、キノコ、サツマイモ、ネギ、ナス、ブドウ。


 あらゆる食材がアルカディアの脳内を駆け廻り、意識を一食に染め上げる。


 無限に湧く食欲こそ、タヌキの根源。

 決して底を見せぬ食欲こそがタヌキたる証明であり、全てのタヌキが持つ生きる意味(ライフワーク)


 その身に収まりきらぬ程の食欲を得たアルカディアは口を開け、ぺロリ。っと舌で唇を舐めた。

 目の前に、皿に収まりきらぬ『御馳走』がいたからだ。


 タヌキは、まるまる太った蛇肉が大好物だ。



「う”う”っ!ぎるあ”~~!!」



 湧きだした食欲のままにアルカディアは走り出した。

 目に映っているのは、強大な――肉。

 その肉に堅過ぎる鱗があろうとも、今のアルカディアには関係ない。



「う”ッッ!!ぎるあッッ!!」



 バギィィィッ!!っと音と共に、ティターンボアーに衝撃が走った。

 攻防一体となっていた無敵の鱗が無残にも引き剥がされ、地面に落ちたのだ。


 突進を仕掛けたアルカディアは、ティターンボアーが迎撃態勢を取るよりも速く切迫し、無造作に腕を伸ばした。

 それは、先程まで繰り広げていた理性ある戦いからは考えられない程の……自爆行為。

 ましてや、腕を保護するガントレットは投げ飛ばしてしまっている。

 そんな生身の状態で鋭すぎる鱗に腕を伸ばせば、傷つくのはアルカディアの方なのだ。


 だが、そうはならなかった。


 アルカディアの脳内に駆け廻っている純粋な食欲。

 その中には欲求を満たすのに必要な知識が付随しており、『堅過ぎる外皮を持つ生物の食べ方(倒し方)』も当然のように備わっているからだ。


 アルカディアは『堅過ぎる鱗は破壊せずに剥く方が楽』という、過去のタヌキ帝王が考えた最も効率のいい方法を決行。

 刃のようになっている鱗の内側に指を引っかけ、そのまま円を描くように突き上げてもいだのだ。


 巨体を支える鱗には相応の強度があるが、そんなもの、皇の紋章を纏い力が溢れているアルカディアには問題にならない。

 重なり合ったカードを反対側にめくり直すように、力任せに鱗を引き剥がす。

 肉が露出した場所は、ティターンボアーの首筋。

 蛇の構造上で最も反撃がしにくい場所だ。



「シャアァ!?」

「う”ぎるあ~ん。いただきます!!」



 ガブリ。

 捕食者が肉に歯を付き立てると、獲物は抵抗するために悲鳴をあげる。


 ガブリガブリ。

 捕食者が肉を喰い進めると、獲物は暴れてたうちまわる。


 ガブリガブリガブリ。

 捕食者がさらに肉を喰い進めると、獲物は痛みに耐えながら水の中に潜った。


 ガブリ、ガブ……ゴボゴボゴボ。

 捕食者は溺れた。



「う”ぎるあ!?」



 ティターンボアーとて、数十年の時を生き抜いた強者だ。

 流石に首筋に喰いつかれた事はなかったが、命の危機を感じた事は何度もあり、その度に窮地を出してきた。


 水中に引きずり込もうと画策したティターンボアーと、食事を邪魔されたアルカディアは睨み合う。

 水面から頭を出して激情に震えているティターンボアーに見切りをつけたアルカディアは陸上に舞い戻り、威嚇を発しているのだ。

 そのどちらもが激怒し、目的を統一させた。



「う”ぅぎぃぃぃぃィ!!!」

「シャパァアアアア!!!」



 まずは殺そう。話はそれからだ。


 奇しくも目的が一致した両者は、それぞれが持つ必殺の構えを取った。

 ティターンボアーは身体中の筋繊維を膨らませ、全ての鱗を直角に突き立ててゆく。

 そして、アルカディアは……、


 グッ。っと拳を強く握り、大地を蹴飛ばして跳ねた。



「う”ぅぎぃィ!!ぎるぎるぎるぎるぎるぎる!!ぎるあぁぁ!!」



 ほぼ同時に両者は相手へと突進し、その影が重なる。

 いや、そう見えただけだった。


 ティターンボアーと衝突する寸前、アルカディアは大地を軽々と蹴飛ばして大跳躍。

 ぶれる姿は残像となり、ティターンボアーはそれと知らずに突っ込んだ。

 まるで手ごたえのない感触に失敗を悟るが、その時には既に別の感触が身体を支配していた。



「う”ぅー!!ぎぃるあッッッ!!」



 アルカディアは、鱗を剥がすのに成功している。

 ならば、もう既に勝負は決したも同然だった。


 一枚剥がせたのなら、延々と繰り返せばいい。

 ソレを成す為の全ての条件が、ここには揃っているのだから。



「全力だし!!《大規模個人パーソナルタヌキ(タヌキ)魔導ソーサリィ・一匹で文武駆茶釜ッ!》」



 アルカディアは駆ける。

 大地を、空を、蛇の上を、……鱗に指を引っかけながら、我武者羅に駆け抜ける。

 タヌキの群れの切り札を一人で再現するべく走り抜け、やがて黒褐色のドームが出来上がった。


 そして、連続する痛みを受けたティターンボアーは、成す術が無かった。


 黒褐色のドームは頭のすぐ後ろを包み込み、身動きが取れず、ティターンボアーは大地に縫い付けられている。

 頭を押さえつけられた蛇は、信じられないくらいに――無力だ。



「う”う!!ぎるぎるぎるぎるぎるぎるぎるぎるぎる!!」



 ティターンボアーは必死に身体をくねらせ脱出を図るも、周囲の環境を破壊する事しかできない。

 無理矢理に鎌首を持ちあげようと試みるも、上下左右360度から隙間ない連撃を放たれていては不可能だった。


 やがて、衝撃を受け流す自慢の鱗、その最後の一枚が引き剥がされた。

 ともすれば、そこにあるのは生身の肉体。

 アルカディアは、その柔らかそうなティターンボアーの首筋に狙いを定めると、空中で溜めに溜めて……渾身の一撃を叩きこんだ。



「蛇は!焼くのが美味しいし!!《隕石橙破爆撃ヴィギルアコメット・ヴィルヴィ!》」



 戦闘開始時に放ったのとはまるで違う、直系3mはあろうかという巨大な隕石。

 それを片手で軽々と持ち上げたアルカディアは、躊躇なく蛇の頸動脈へと叩きつけた。


 刹那、肉が焦げるいい匂いが放出し、蛇の首が大地に落ちる。

 焼き斬られたティターンボアーの首は無念を晴らすべく僅かに動くも、何も残せずにこの世を去った。


 そして、軽やかに着地したアルカディアは、高らかに雄叫びをあげたのだ。



「勝ったし!!う”ぅ”~~ぎるあ~~~!!」


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