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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第8章余談「たぬきにっき・アルカディアの理想郷⑪」

「……10mの蛇だぞ?正気かよ。タコ野郎に師匠……」



 一人呆然と立ち尽くしている男の名は、サウザンドソード。

 心無き毒吐き食人花に『剣』と『プライド』と『自尊心』をズタズタに切り刻まれ、『服』と『賭け金』と『恋心』を追い剥ぎされた哀れな男だ。


 満身創痍であったはずのサウザンドソードを支えたのは、同じようにして貯金全額を失ったスーター・レイネダンだった。

 明日の生活費すら失った彼らは、可能な限り出費を抑えるために同棲を決意し、晴れて恋人同士となったのだ。


 そんな悲劇の果てに結ばれた二人だが、結局、生活資金に困る事に変わりはない。

 仲間の冒険者も小遣いをスッているため、借りる訳にも行かないのだ。


 そんな二人に舞い込んだのは、にこやかな支部長が持って来た割の良い仕事『オレンジの植林』だ。

 任務期間は3日間という短期でありながら、支払われる報酬は『427万エドロ』と超破格。

 仕事内容も、深い森に木を植えに行き、その場で生きている人間に話を聞くという楽な仕事だ。


 あまりの高待遇ぶりにスーターは訝しんだが、タイタンヘッドの「金が欲しいんだろ?だったら金を賭けるん(闘技場)じゃなくて、命を賭けて仕事しろ。お前は冒険者だろ?」という一言が決め手となり受けた。

 だが、現実はそう甘くなかったと、サウザンドソードは後悔している。



「あぁ、くそ……。なんなんだよ。どいつもこいつも……。なんで、なんで、あんなにすげぇ動きが出来やがる!?」



 仕事初日、指定された場所に行ってみたら、師匠が居た。


 サウザンドソードが「高位危険生物の討伐しか受けない師匠が、なぜ?」と問い掛けると、返ってきた答えは「危険生物が居る可能性の高い原生林に行くからだ」だった。

 この時点で妙な違和感があったが、その師匠もオレンジを植えに行くだけの簡単な仕事だと楽に構えている。

 そんなもんか?と思ってしまったサウザンドソードは、427万エドロの使い道に想いを馳せながら、タイタンヘッドと同行者を待った。


 そして、受付に降りて来ても仕事をしているタイタンヘッドを遠巻きに眺めていると、最後の同行者が現れた。

 その人物こそ、ビリオンソードを完膚なきまでに叩きのめし、木端微塵にして成仏させ、控え席の端で横たわっていた所に追撃のバナナ葬を叩きこんだ、謎の冒険者アルカディア。


 スーターとイチャイチャするのに忙しかったサウザンドソードは、無残な師匠の姿をあまり良く見ていなかったが、それでも、どんな事になったのかぐらいは把握している。

 その晩に行われた宴会では、あれだけバナナ嫌いだったサウザンドソードが、バナナを両手に構えて華麗な剣舞?を披露。

 その高速の太刀筋?に叩きのめされたドンキブルを見て、サウザンドソードは「……良く分からんが、師匠は頭が狂ったようだな。後で剣道場も退会しよう」と心に決めた。



「あぶねぇ!師匠ッ!!」

「……《秘剣・殱切り》」



 だがそれは早計だったと、サウザンドソードは考えを改めた。


 目の前で乱舞する剣技と、粗ぶる巨大蛇。

 ドングリが連れて行った蛇の20mに比べれば格段に小さいとはいえ、それでもこの蛇は10mもある。

 そんな正真正銘の化物が、たった二人の男達と戦い――圧倒されているのだ。



「タイター。切っ先4cm程だが、剣が肉に届いている。指示をくれ」

「4cmか!それだけあれば鱗を支える外皮質を貫通してるかも知れねぇ。鱗を削げ!」


「承知した」



 ビリオンソードが両手に持っている剣の名は『千枚牛刀』と『竜筋引き』という片刃の長刀だ。

 その刀身はどちらも110cm程であり、細く美しい薄紅色の波紋が特徴的。

 魔法効果として、『切れ味維持』『筋力上昇』『摩擦抵抗軽減』の魔法陣が刻まれており、純粋な剣としての性能は非常に高い。


 そんな剣が蛇の鱗の間を縫って、舞う。

 強靭すぎる鱗とまともにぶつけ合えば、直ぐに刃は割れてしまうだろう。

 それを知っているビリオンソードは、持ちうる技術を総動員して、数千枚の蛇鱗の間へ刀を滑り込ませているのだ。



「《剣舞・半月斬り》」



 差しこんだ剣を半回転させる様にして外皮が削ぎ落とされ、鋭い鱗がキラキラと空中に舞う。

 鱗自体は堅く、両断を狙うのはあまりにも無謀。

 ならばとタイタンヘッドが指示したのは、鱗が生えている外皮質の切断だった。


 最初に遭遇した蛇では、鱗が巨大過ぎて刀身が届かなかった。

 だが、僅か4cmとはいえ、今回は届いている。

 それは、勝敗を逆転させる明確な分岐点だ。


 ビリオンソードは精密機械のごとく、刃を差し込み続けた。

 剣の先端の数cm以外は一切蛇に触れる事はない。

 蛇がどんなに暴れようとも、噛みつこうとも、髪の毛の先ほどにも触れる事が叶わない。



「おっと!蛇は尻尾にも注意が必要だよな。まるでヤスリ見てぇな形状してるが……《脚技・地引網壁アースセイヌ》」



 そして、奮闘しているのはビリオンソードだけでは無い。

 反対側の尾の近くに位置どったタイタンヘッドは、蛇の胴体のうねりを見て、次の行動への対応策を打った。


 蛇が放とうとしたのは、逆立つ鱗を纏っている尾での薙ぎ払い。

 それは剣士数十人に剣を向けられるのと大差なく、まともに食らえば、体の表面が鎧ごと全部引き削がれる事になるだろう。


 だが、そんな攻撃を不安定機構の支部長が喰らうはずが無い。

 ましてや、防御に重点を置いた格闘家であるタイタンヘッドが、そんな失策をするはずが無いのだ。


 タイタンヘッドはバッファを纏っている脚を大地に突き刺し、思いっきり蹴り上げた。

 戦っているこの場所は湿地帯であり、土壌は粘土質。

 さらに、表面に隙間なく生えたコケが接着剤の役目を果たし、一枚の土の壁が出現する。



「いくら鱗が鋭かろうと、泥にまみれちゃナマクラだろ」



 蛇の尻尾の軌道は既にタイタンヘッドに――いや、その前に出現した土壁に向かって動いていた。

 強大すぎる体を持つ弊害。

 蛇は自身の尾の軌道を変えられるはずもなく、そのまま土壁へと叩きつけるしかなかった。


 粘り気のある土が、鱗の間で弾けて詰まる。

 この瞬間、触れられない程の鋭利な鱗は価値を失った。

 そして、小汚ない蛇の鱗など、タイタンヘッドにとって格好の的だ。



「《魚灯連撃(ライト・バラ―ジ)!》」



 タイタンヘッドはガントレットに刻まれた魔法陣『ダメージ浸透』を発動し、最も手数が多い技を繰り出した。

 魔法陣の効果は、鱗を粘土越しに殴っても衝撃を浸透させるというものだ。


 だが、そこから繰り出された殴打の群れは、一撃の威力があまり高くなかった。

 それでも、蛇の鱗の向きを僅かに変える事はできる。

 そしてそれこそが、タイタンヘッドの狙いだった。


 蛇は僅かな痛痒を感じ、反射的に尾を振り回した。

 鱗に着いた邪魔な土を取り払うべく、周囲の木や岩に無造作に尾を打ち付けたのだ。


 本来ならば、それで鱗は輝きを取り戻す。

 鱗よりも岩や木の方が柔らかく、くっついている土は更に柔らかい。

 日常的に行うそれは、蛇に再び、数千枚の剣を取り戻させるはずなのだ。


 だが。



「ギャシャァアア!?」



 弾けて吹き飛んだのは、蛇の鱗の方だった。


 鱗の生えている向きや体の動かし方などは、遺伝子に刻まれている情報であり、蛇は意識していない。

 だからこそ、鱗を叩きつけた時の入射角によっては破壊耐性値を超えてしまうなど、露にも思わなかったのだ。


 タイタンヘッドは、蛇が薙ぎ払いをした時に、鱗を支える外皮質にダメージが集中するように向きを調整していた。

 それは格闘家が得意とする、相手の剣を叩き落とす格闘術『柄取り』。

 野生動物にそれを仕掛けるという離れ業は、並みの格闘家に出来る技ではない。



「鱗が無きゃ尻尾の薙ぎ払いは大した威力が出ねぇ。余裕が出てきたな」

「タイター、ならば直ぐに仕留めるがよかろう。無為に傷を負わせる必要もあるまい。皮の価値が下がる」


「そうだな。これだけデカイ蛇だし、上手く売ればいい値段が付く」



 攻撃力を失った尻尾を無造作に蹴り飛ばしたタイタンヘッドは、ゆっくりと撫でつけるように蛇の身体へ視線を這わせた。

 そして、ニヤリと笑うと、しっかりとした足取りで頭の方へと歩いてゆく。



「せっかくだ、サウザンド。蛇の倒し方についてレクチャーしてやる。アルカディアは蛇の頭を殴ってたが、それは悪手だ。蛇にとって頭は最大の攻撃手段。そこに近づくのはただのアホだぞ」



 尻尾側から歩いてゆき、中央を程良く過ぎた場所でタイタンヘッドは立ち止った。

 蛇の胴体の中でも最も太いその場所を見据えて、拳を構える。



「だから、熟練の冒険者は大蛇と戦う時は心臓を狙う。覚えておけ」

「心臓って……、そんなのどこにあるか分かりませんよ!」


「お前にゃ分からなくても俺には分かる。陸上に住む蛇で、木の上や水の中を行ったり来たりする奴は……全長を5等分して、前から2番目の中心付近に心臓はある!!」



 ふぅぅ。と吐息を吐きながら、タイタンヘッドは構えた拳に魔力を注ぐ。

 薄らとガントレットが発行し、内部に仕込まれた魔法陣が起動。

 その魔法陣の効果は、使用者の魔力の殆どと引き換えに発動される、絶対なる防御魔法だ。



 「起動しろ……《第九守護天使セラフィム》」



 僅かに身体が発光し、防御魔法は効果を発揮した。

 どんな鋭き刃でも傷つけられないと言われている無敵の防御を身に纏ったタイタンヘッドは、慣れた手つきで……拳を撃ち放つ。



「で、殴る時はぁ……!真横からズドンだッ!《奥義・捕鯨銛砲ホエールカノンッ!!》」



 タイタンヘッドが放った両腕での殴打。

 それは、左右で僅かにタイミングがずれており、先行していた左手が、鋭き鱗を撥ね退けて着弾する。


 左腕が堅い外皮質を突き破り、内部の肉へ爪を立てた。

 恐るべき握力で肉を握りつぶし、タイタンヘッドは腕を引き戻ろうと唸る。

 そして、掴んだ肉を引き込んで加速した右腕が、突き刺さった左腕に沿うようにして深々と突き刺さった。


 第九守護天使の効果により無傷なタイタンヘッドは、突き刺した腕を抉り引き出しながら身を返す。

 一度しか使えない切り札を使用しただけ成果が、両腕に握られているからだ。


 深紅の液体を噴き出す臓器。

 10mの身体へ血液を循環させていたそれは、タイタンヘッドの頭ほどもある巨大な心臓だ。


 バシャバシャと血飛沫を溢すそれを、タイタンヘッドは誇らしげに掲げた。



「もう一つ、大事な事を忘れておるぞ。タイター」



 スパァン!っと気持ちのいい音を響かせて、蛇の頭が撥ね飛ばされた。

 それは、鱗を削ぎ落した事により、刃を深々と差しこむ事が可能になったビリオンソードが行った剣技によるものだ。



「蛇は執念深いと古来より言い伝えられている。それは、死んだと思った蛇に噛みつかれたという話が後を絶たないからだ」

「し、師匠……?」


「よいか、サウザンド。致命傷を与えたからと油断をするな。大蛇を討伐する時は、首をはね飛ばしてから半刻程は放っておくくらいの用心深さが必要だぞ」

「は、はい!」



 サウザンドソードは心の中で悔いた。


 あぁ、バナナ狂いになっても師匠は師匠だった。

 というか、もともとバナナが嫌いな方向に狂ってたから、何にも変わってねぇや。

 ははは、俺も基礎からやり直す必要がありそうだな。リリンサに言われた事でもやってみるか。


 まるで厄でも落ちたかのように、サウザンドソードは安らかな顔をしている。

 結局の所、サウザンドソードは中途半端だったのだ。


 中途半端に強いから、他者の意見を聞く気にならない。

 そうじゃないんだよ。っと反論を用意できてしまう。


 そんなサウザンドソードは、この瞬間に気持ちを改めた。



「支部長、師匠。逃げるとか散々アホな事を言って済みませんでした。これからの俺について、10人の仲間たちとゆっくり話し合おうと思います。はは、あいつら、タヌキがヤバいって聞いたら驚くだろうな」



 会心したサウザンドソードは、ちょっと照れくさそうに声を絞り出した。

 師匠たちの人柄は知っている。ここからは少しだけ野次られて、その後はいつもどおりだ。


 そう思って顔を上げたサウザンドソードは、鬼の形相を浮かべている二人を見て戦慄した。



「えっっ!?」

「逃げるぞッッ!!ビリオォォォォォォォォォォオッッッ!!」

「当たり前だッッ!!タイタァアアアアアアアアアアッッ!!」


「えぇっ!?」



 両サイドから腕を引かれ、訳も分からず後退するサウザンドソード。

 だが、振り返ったその目は、師匠達が錯乱した理由をしっかりと捉えた。


 そこには……太さ4mにまで肥大化した蛇と、膨大な量の隕石を降らせようとしているアルカディアの姿があった。


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