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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第8章余談「たぬきにっき・アルカディアの理想郷!!!!!!!」

「う”ぃぎるあぁ~~!」



 打倒した巨大な蛇の頭の上に登り、アルカディアは勝利の雄叫びをあげている。

 それを眺めているタイタンヘッド達も、正直にいえば同じ気持ちではある。

 瞬時に死を覚悟する化物と出会い、自分の運の無さを悲観した。

 そんな未曾有の脅威から解放されたのだから、雄叫びをあげたくなるのは当然なのだ。


 だが、アルカディアが上げている雄叫びには異常な程の興奮が含まれていた。

 それはまるで、長年の宿敵を倒したかのような熱い叫びだ。



「う”ぎるあ!!」



 暫く雄叫びをあげて満足したアルカディアは蛇の頭から飛び降り、ドングリの前に着地。

 尊敬と若干の恐れが混じった瞳で見上げているドングリの頭を、両手ではさみ込んだ。



「で、なんでこの蛇がここに居る?もっと北の森に居たはずだし」

「ヴィギルオゥ……」


「……なんでいる?」

「ヴィギルロ……ギギア」


「う”ぎるあッッ!!絶対に行くなって言ったのに!!何で行ったし!!」



 アルカディアに頭を挟みこまれたドングリに逃げ場はなく、特大の叱責を受けた。

 ドングリが、アルカディアが集落の長の時代に定めていた『タヌキ戒律』を破ったからだ。


 アルカディアがこの地域を納めていた時代、セフィロトアルテを挟んだ北の森には『ティターンボアー』が君臨していた。

 豊富な食料を探してそこに辿り着いたアルカディアは、果実が実りまくっているその地を見て大興奮。

 すぐに安全と果実の味を確認するべく森の奥深くに入り、信じられない物を発見する。


 それは、見上げる程の巨大な――蛇鱗の壁。

 普段から蛇を狙う事もあるアルカディアが見間違える訳が無く、瞬時に抗えぬ化物が居ると理解、この地を絶対不可侵として定めたのだ。



「ドングリ!あの蛇に見つかるとヤバいからダメだって言ったし!!それなのになんで行った!!」

「ヴィギロ……」


「しかも見つかって追いかけられたって、ダメダメだし!!」

「ヴィ、ヴィギルオォン……」



 アルカディアが旅立った後、食料事情を改善する為に同じ事を考えたドングリは、同じようにして果実が実る地を発見。

 そうして、再びティターンボアーが立ちはだかったのだ。


 違う点は、アルカディアはティターンボアーに戦いを挑まなかったのに対し、ドングリは挑んだという事だ。

 タヌキ代官・ドングリは未熟だった。

 かの敵と自分との間に、どのくらいの力量差があるのかが分からなかったのだ。

 だが、そこには違う感情も含まれていた。


『アルカディアが倒せなかった蛇を、俺が倒す。そして……求愛するんだ!』


 これは、戦闘感が鈍いドングリと、恋心に鈍いアルカディアが生み出した奇跡。

 同行者にとっては、いい迷惑である。



「ヴィギルロ、ギギルギア」

「ドングリ、謝って欲しいのはそこじゃない」


「ギルロ?」

「こんな状況なら、直ぐに私を呼んで欲しかった。頼って欲しかったし……」



 俺が未熟なせいで、すまない。


 ドングリの誠心誠意の謝罪は、アルカディアにとって的外れだった。

 アルカディアは知っている。『誰しもが失敗をする。ソドム様だって、割と怒られる!』と。

 だからこそ、アルカディアは群れ壊滅の危機を教えて欲しかったのだ。

 自分の群れに危機が迫っているのなら、それを潰すのがタヌキ将軍アルカディアの仕事なのだから。



「でも、蛇は倒したし!戦ってみたら割とあっけなかった。私は強くなった!う”ぎるあーん!」

「……ヴィギルロ」


「う”!?」

「ヴィギロロー、ギルギィー」


「う”ぎるあ!?まじ!?」



 再び勝利の雄叫びをあげ始めたアルカディアに、ドングリは申し訳なさそうに告げた。

 それは、最も恐るべき事態。

 アルカディアが危惧した群れ壊滅の危機は、まだ終わっていなかったのだ。


 そして、それを機敏に感じ取ったタイタンヘッドは、アルカディアがタヌキを会話しているという意味不明な状況を度外視しつつ、事態の確認をした。



「で、どういう状況なんだ?アルカディア。なぜ、ティターンボアーがいた?」

「困った事になった……。このままじゃ群れが全滅するし……」


「集落が全滅?どういうことだ?」

「ここから南下した湖のほとりに、もっとデカイ蛇が居るし」


「おいおいおい……。もっとデカイだと……。それじゃ、まさか!」

「デカイ蛇が卵産んだし!!さっきのは子供だし!!」


「うげぇえ!やっぱりぃぃぃぃ!!」



 **********



 ノウレッグスアドベを襲撃したティターンボアーと、先ほどの巨大な蛇は別個体だった。


 知られざる事実を突きつけられたタイタンヘッド達は、速攻で地面へ崩れ落ちた。

 目に見える形で興奮していたのはアルカディア一人だけだが、実際には、沸々と湧きあがる興奮が男三人衆を包んでいたのだ。


 高位冒険者達にとって、ティターンボアーの名は伊達ではない。

 事実として15000人もの人間を殺した超級の化物であり、その首が目の前に転がっている。

 これから自分達が受ける喝采を想像し、興奮しない方がおかしいのだ。


 だがそれは、生き残れたらの話。

 いまだに自分達はかの蛇の支配領域から抜け出せておらず、しかも増えたとなれば、大の男だって泣き崩れるのだ。



「あ、アルカディア……。帰ろうぜ?な?一度戻って大規模な討伐部隊を編成した方が確実だ」

「ダメ。帰ったらその間に群れが全滅する。絶対に帰らないし!!」



 戦略的撤退を懇願する冒険者と、タヌキ。

 その価値観が違うのは当たり前だ。


 もっとも、それはタヌキだからという訳ではない。

 ノウレッグスアドべにてティターンボアーを迎え撃とうとして散っていった冒険者も、今のアルカディアと同じ気持ちだった。



「ドングリ。最短ルートで集落へ案内して!まずは長老に会うし!!」

「ヴィギルオ!!」


「……長老、まだ生きてるよね?」

「……ヴィギルロ、ギーアー?」



 一週間くらい前に見たぞ。だから大丈夫だろ?


 タヌキ代官と言えど、毎日群れ全員の顔を確認する訳ではない。

 しかも、アルカディア達が長老と呼ぶタヌキは群れ最年長であり、その歳が幾つなのかも不明だ。


 困った事があると長老を訪ねていたアルカディアと違い、ドングリは若いタヌキと相談して物事を決める。

 そういった考え方の違いから、ドングリは長老と会う事が少ないのだ。



「タイタン支部長。これって、特殊個別脅威に戦いを挑みに行くって事……ですか?」

「おう。そうだぞ」


「おう。そうだぞって、あんた支部長でしょ!?なに諦めた顔しちゃってんですか!?」



 タイタンヘッドは事の重大さと、それを成せる為の難しさを理解して、達観した顔をしている。

 そして、心の中で静かに呟いた。


 特殊個別脅威ともなれば、指導聖母が出張ってくる案件だ。

悪辣ヴィシャス』『悪性マリグナンシィ』『悪才アンジニアス』『悪質マリシャス』『悪逆アトロシス』『悪食プアフード』『悪徳ヴァナラティ』。

 七人いるとされる聖母は、一人残らず真っ黒で利権まみれ。

 あのヤジリが悪逆アトロシスで一番マシってんだから、どんだけヤバい集団なのか分からねぇぞ。


 それに、先日、捕獲された特殊個別脅威『アルティティメット・竜・ジョーカー』の資料を見たが……。とてもじゃねぇが、俺達の手に負えない。

 指導聖母の中でも上位者の悪辣様と悪才様の二人連名で発表された極秘資料だから、ビリオ達は知らねぇだろう。

 その報告書では、ドラゴンジョーカーの戦闘力も『確実なる死(デスカンファム)』。

 ただ馬鹿デカイってだけで認定されていたコイツだが、直接戦闘した悪辣様はランク9の魔法を融合させ、ランク(オーバード)なる魔法を切り札に使ってようやく捕獲出来たらしい。

 もう、どんなのか訳分からん。ランク(オーバード)ってなんだよ。



「支部長!?おい、話を聞けこの野郎!!」

「あ”ぁ”今なんつった?サウザンドソード」


「あ、いえ」

「どの道、俺達が打てる手段はアルカディアに同行する以外はねぇんだ。諦めろ」


「帰ればいいじゃないですか!!そして、闘技場に出ている名の知れた冒険者を片っ端から連れて来て討伐しましょうよ!!アルカディアさんは……」

「置いて帰るってのか?やってみろよ、サウザンド。転送陣の鍵は貸してやる」


「1人でなんて無理ですよ!」

「3人でも無理だって言ってんだよ!!蛇に出会っちまったら成す術もなくパックンちょだッ!」


「師匠と支部長が最大限の警戒をして戦闘状態になっているのにですか?」

「さっき蛇を転送する時に鱗を調べたろ?鱗の大きさがビリオの持つどの剣よりも長かった。つまり、逆立った鱗の上から剣を刺す事が出来ねぇ。当然、俺の拳もだ」



 タイタンヘッドは考えうる全ての知識を総動員して、打てる手段を撃ちつくしている。

 死んで萎んだ蛇の太さは、約1・2m。

 通りすがりの木に付けられていた蛇腹紋の持ち主はコイツだったかと知り、直ぐに行動を起こした。


 タイタンヘッドは、アルカディアに頼み込んで蛇の尻尾以外は買い取った。

 代金は、数えきれないくらいの果物の木だ。


 なお、蛇の尻尾を残したのは、アルカディアが群れに持ち帰ると言ったからである。

 蛇は焼くと美味しいから、この蛇も美味しいし!長老も喜ぶし!!とはしゃいでいた。



「既に不安定機構には連絡を入れてある。だが、増援が来るのは早くても3日後だろうな」

「何でそんなに時間が掛るんですか!!」


「逆に、ロクな準備もしないで直ぐに来るような愚か者が来た所で何の役にも立たん。俺なら最低3日は掛けて準備する」



 そういいつつ、タイタンヘッドは自分の愚かさを嘆いた。

 タイタンヘッドは、アルカディアと約束した次の日にオレンジの木を調達し、その次の日にここに来ている。

 つまり、3日掛けていないのだ。

 先ほどの言葉は、特殊個別脅威がいる可能性を考慮しなかった自分を戒めたい悔恨から出た言葉なのだ。



「いいか、俺達は既に捨て駒だ。不安定機構はそう判断している」

「そんな……」


「逆に、3日以上生き残り増援部隊と合流できて、なおかつ情報収拾を真っ当に行えていたのなら、俺達の株は急上昇だ。そう思うだろ?ビリオ」

「無論である。20年前のティターンボアー捜索には、今代の剣皇シーライン様も参加されている。今回も出陣なされる可能性が高いであろうな」

「剣皇様って……、あの人類最高の剣技『 天羽々斬(あまのはばきり)』の……」


「そうだ。惜しくもアマタノ討伐には至らなかったが、ティターンボアーごとき両断して下さるだろうよ」



 尊敬する人物達の力強い言葉に、サウザンドソードは強く頷いた。

 この人たちについていけば生き残れると、確かな希望を抱いたのだ。


 もっとも、その両者は内心で震え上がっている。

 なにせ、行く末を決める大事な先導役が、タヌキ。

 不安を感じない方がおかしい。



「ドングリ、蛇は何匹残ってる?」

「ヴィギルサ。ヴィアー、ギル、ギル!」


「今は3匹?……今は?」

「ヴィギロォーン!ギギロギア!!」


「う”ぎるあ!?凄いし!!」



 ドングリの誇らしげな声を聞いてアルカディアは感嘆の声を上げた。

 ドングリは言ったのだ「今残っているのは3匹だ。4匹の子供の内、2匹は俺が倒したからな」っと。



「どうやって倒した!?ドングリだけでやったし!?」

「……。ヴィギル」


「チームでやった?でも、凄いし!!」



 アルカディアよりも力も魔法技術もないドングリが考え出した、群れを守るための防衛手段。

 それこそが、ドングリ自らが選び鍛え抜いた戦闘部隊『タヌキ奉行』だ。


 動きの良い若いタヌキで敵を牽制し、卓越した技術を持つ老獪タヌキが敵を討つ。

 特に奇襲戦において無類の強さを発揮するこの『タヌキ奉行』はティターンボアー以外には負けた事が無いという、精鋭チームなのだ。


 そして、それを創り上げたドングリは、創ってよかったと心底思っている。

 アルカディアに抱き締められ、巨大な膨らみに体の半分が埋まりそうなこの展開は思っていたのとはだいぶ違うが、それでも、惚れたメスの抱擁。

 ドングリは幸せを満喫した。



「見えて来た。あそこが私の集落だし!」

「やっとか。距離的には大したことねぇが、精神の消耗が酷い。休める場所があると良いんだが」



 まったく息を切らしていないのは、タイタンヘッドとアルカディアだけだ。

 この場所へは、全力疾走で森を駆け抜けて来た。

 しかも、周囲へ最大限の警戒をしながらだ。


 ビリオンソードは肩で息をし、サウザンドソードに至っては到着と同時に吐いた。

 精神と肉体の両方が疲弊し過ぎているのだ。


 そして――。



「こ、ここが集落……だと?建屋が一軒も無いじゃねぇか」



 ドングリに案内された場所は、柔らかな落ち葉が生い茂る樹木地帯。

 近くからは水音が聞こえており、水源が近い立地はさぞかし住みやすいだろう。

 だが、それだけだ。

 人類が生み出した建造物は一つもなく、当然、人が住んでいる気配は無い。


 ここは言わずと知れた、タヌキ集落。

 人類未踏の地である。



「ヴィギルロォォォォォォ!」



 人間どもの困惑など気にも止めていないドングリは雄叫びをあげた。

 タヌキ代官・ドングリが命じたのだ。


 《全てのタヌキよ、集結せよ!!》……と。



「ヴィギルー!」

「ヴィギルー!」

「ヴィギプルーン!」



 そして、3匹のタヌキが穴倉から出てきた。

 タヌキ代官ドングリの自慢たる、タヌキ奉行のメンバーである。



「……。3匹しかいないし?みんな餌でも探しに行ってるし?」

「……。ヴィギロロ?」


「ギィアー」

「ギィアー」

「ヴィギプルン!」



 いや、大体の奴が穴倉に居るけど?

 どっか行ってるのは、一匹タヌキ(一人身)の寂しい奴だけだ。あ。お前もか。

 みんな子育てに夢中です!可愛いですよ!!


 ドングリは顔を見せてくれた忠臣の3匹に、なんとか上手い事を言って欲しいと、お願いの視線で語り掛けた。

 だが、帰ってきた答えにドングリは悲しくなった。



「みんないる?じゃあ呼ぶし!!う”ぃぎるっあぁーーー!!」



 そして放たれる、アルカディアの号令。

 タヌキ将軍アルカディア。その戦闘力の高さを知る熟練のタヌキ達は、その意味を理解してすぐさま行動に映した。


 瞬時に自分の周りに居た子タヌキを叩き起こし、葉っぱで顔を拭かせる。

 最低限の身支度を済まさせた後、一家全員で駆けだした。


 一糸乱れぬ動きで出現した。無数のタヌキの群れ。

 次々に穴倉からタヌキが飛び出してくるという緊急事態に、タイタンヘッドは『ここが地獄か』と覆わず呟いた。



「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」「ヴィギル!」



 総勢100匹を超えるタヌキの大軍勢。

 20年以上も冒険者を続けているタイタンヘッドですら、あまりの光景に腰を抜かしそうになっている。


 やがて、湧き起こったのはアルカディアを称える声だ。

 身近な絶対者たるアルカディアの偉業は、いまや、伝説と化している。

 何度も語り継がれた逸話を口々に語り、タヌキ達は待っているのだ。


 ――アルカディアが持ってくる、極上の餌を。



「う”ぎるあ!私は帰って来た!!これはお土産だし!!」



 天高く掲げられたそれは、村一番の御馳走、『焼き蜘蛛』

 大恐慌蜘蛛は取るのが難しい上に、火を扱えるタヌキも少ない。

 そう簡単に食べられるものでは無く、定期的に食べていた昔を知るタヌキ達からは、アルカディアの不在を惜しむ声が上がっていた程だ。


 アルカディアは手持ちに2匹の焼き蜘蛛を残し、集結したタヌキに「焼き蜘蛛食べていいし!」と指示を出した。

 残った一匹は、姿を現していない長老の分。

 もう一匹は、ドングリを含めた自分の家族の分である。



「ヴィギプルルル!ヴィギィルルル!」

「めっちゃ睨んでくるし……」



 突然始まった焼き蜘蛛祭りに歓喜するタヌキは、一直線に御馳走に齧り付いている。

 だからこそ、その場に残ったのは、安息の地は無かったと絶望している冒険者3名と、アルカディアとドングリ。

 そして、ドングリの呼びかけに反応して現れた、若きメスタヌキだ。



「ヴィギプルルル!ヴィギー!」



 そのタヌキの額にはドングリよりも薄らと、『×マーク』が浮かびつつある。

 ただのタヌキから抜けだそうとしているそのタヌキは、突然現れた上位者に威嚇を放っているのだ。


 複雑な心境をひた隠しにして。



「見たこと無い顔だし。最近生まれた?」

「……。ヴィギルロー、ギギア」


「う”ぎるあ!?まじ!?」



 アルカディアにとって、この程度の威嚇など可愛いものである。

 つい先日、全てのタヌキ帝王及び、皇たる那由他との謁見を果たし、ついでに死にかけた。

 それに比べたら、年下のタヌキの威嚇などまったく気にならないのだ。


 だが、ドングリが呟いた一言は、アルカディアを驚愕させた。

 ドングリはこう言ったのだ。



「最近生まれたというか……。コイツはお前の妹だぞ」


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