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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第8章余談「たぬきにっき・アルカディアの理想郷!!!!」

「ヴィギルロン!」



 平均的なサイズよりも一回り大きいドングリを先頭として、2匹と3人の変則冒険者チームは森を進む。

 ただ、その前衛と後衛では足取りの重さがまるで違っている。


 ウッキウキな足取りで自分の庭を散歩しているのは、ドングリとアルカディア。

 セフィロ・トアルテが滅んだ後、定期的な探索が行われていないこの森は実質的な未踏領域であり、どんな危険があるか分からないと、最大限の警戒をしながら進んでいるタイタンヘッドとビリオンソードとサウザンドソード。

 とりわけ、この中でもレベル(経験値)が低いサウザンドソードは不安が色濃く浮かんでいる顔で、自分の上位者に質問を飛ばした。



「あの……。タヌキが先頭ですけど、良いんですか?」

「いいんだよ。なぁ、タイター」

「あぁ、これでいい」


「理由を聞いても良いですか?ちょっと分からなくて……」

「そんな事も分からねぇのか?一番大きい理由は土地勘だ」


「土地勘?」

「この森に住んでるんだろ?あのタヌキ。で、タヌキは弱者だ。で、俺達もこの森では弱者。弱者が歩む道を弱者が歩むのは道理だろ?」


「あのタヌキ、レベル7万もあるんですが……」

「……。そうだな。で、だからなんだ?タヌキがドラゴンをぶっ殺すとでも言いたいのか?」


「いえ、流石にそこまでは……」

「いいか、タヌキは弱者だ。レベルが高いのは……豊富な餌でも食ってんだろ。良いからお前は前をしっかり見とけ」



 イマイチ安心できない答えを貰ったサウザンドソードは、剣を握る腕にも力が入っている。

 それをめざとく見ていたビリオンソードは、「ち、だいぶ緊張してんな。このままだと死ぬぞ」と心の中で悪態を吐いた。


 実際の所は、卓越した技術と知識を持つビリオンソードとタイタンヘッドでさえ、この状況は頭を抱えたくなる程に意味不明。

 お互いに口に出す事はないが、「何でタヌキが先頭なんだよ!?そこは一番重要なポジションだぞッ!!」と叫び出したい気持ちでいっぱいなのだ。


 だが、事前の打ち合わせでは、このパーティーの先頭を進むのはアルカディアの役目だと決めた。

 そのアルカディアがこのタヌキに任せるというのだから、従うしかないのだ。



「タイター。どうだ?危険生物はいたか?」

「今のところはいないな。だが、安心はできん。アレを見ろ」


「……なんだあれは?」

「蛇腹痕だ」


「なんだとっ!?あのデカさでか!?」



 タイタンヘッドが指差したのは、木の幹が削ぎ落された大木だった。

 それは松系統の木であり、木の幹に螺旋を描くように何かを擦りつけた跡が残っている。



「タイタン支部長、蛇腹痕ってなんですか?」

「蛇腹痕ってのは、蛇が通った後に出来る模様の事だ」


「えっ、でもあの模様、太さが30cmくらいあるんですけど……」

「あぁ、だからあの木に登っていった蛇の太さは1mを超えているだろうな」


「太さが、い、1mですか……?」

「デカイ獲物を飲み込んだ後だったのか、それとも普通にデカイのか。人間という害敵が居ないのなら巨大化は十分にあり得る。注意しろ」



 セフィロトアルテの森が危険領域に指定されてから、10年もの時が流れようとしている。

 天命根樹の影響により活性化した植物は、更にその分布を広げる為にたくさんの実を付け、そしてそれらを動物に食べさせた。

 動物の体内で消化されなかった種は体外に排出され、別の地で芽を出すからだ。


 植物の繁栄は、小動物の繁栄。

 そして、小動物の繁栄は危険生物の飽和につながり、それらを狩る人間はいない。

 その結果、セフィロ・トアルテの森は、果実を好む小動物と生存戦略に生き残った大型生物が共存している魔郷と化しているのだ。



「だ、大丈夫ですよね?師匠とタイタン支部長なら勝てますよね?」

「蛇ならな。ドラゴンだと流石に困るが」

「いや、俺は蛇でも困った時があるぞ」


「支部長!?」

「何の話だ?タイター」

「蛇峰戦役だよ。アレはバケモンだった」



 経験豊富なタイタンヘッドは、当然、蛇峰戦役にも参加している。

 当時は指揮官では無かったが、それでも、有用な冒険者として周囲からは期待されていたし、事実、ボディファントム直属の遊撃部隊に選ばれてもいる。

 なお、最高責任者たるエアリフェードとは既知が無く、当然、その横に青い髪の幼女が居た事は知らない。



「それって皇種って奴ですよね?流石にそんなのと比べられても……」

「そうだ。拙者も肝が冷えたぞ」

「俺なりの冗談だ。まぁ、あれくらいじゃないと蛇なら問題ないって事が言いたかった。蛇は冒険者にとって最も身近な生物の一匹だしな」



 新人冒険者試験がそうであるように、蛇というのは冒険者にとって身近な存在だ。

 蛇は戦闘力が高く無く、瞬発力こそあるが締め付けが攻撃の主である為に即死する事も少ない。

 複数人で対処すれば、熟練冒険者ならまず負けない相手なのだ。


 ただそれは……常識の範囲内での話。

 ここはセフィロ・トアルテの森。

 人間が知らぬ、未踏領域。


 そんな地で、人間が決めた常識など通用するはずもない。



「ヴィギロロ!」

「なんかいた?あー」


「おい、どうしたんだ?」

「サウザンド、バッファ掛けとけ」

「は、はい!《瞬界加速!》」



 突然立ち止ったドングリとアルカディア。

 その視線の先には……巨大で白い膜が張られていた。



「う”ぎるあ。アレに触ると蜘蛛が来る。気を付けるし」

「蜘蛛だと?って事は、あの巨大な壁は蜘蛛の巣って事なのか?」


「そうだし。んー。あ、いた。こっち見てるし」

「こっちを見てるだと……?馬鹿な!アレはッ!!」



 巨大な蜘蛛の巣を見上げたアルカディアに釣られ、男3人衆も視線を上へと向けた。

 するとそこに居たのは、全長1m程に丸まっている巨大な蜘蛛。

 足が折り畳まれているからその程度だが、その八脚を広げれば優に3mは超えるだろう大きさだ。



「調べろ、サウザンドッ!!」

「もう調べましたよ!!アイツの名前は『大恐慌蜘蛛メガラクネ』。巨大な渓谷などに蜘蛛の巣を張って罠を作り、空を飛ぶドラゴンを捕まえて食べるって書いてあります。……えっ!ドラゴン食べる!?」



 サウザンドソードが持っているのは、高位冒険者用の危険動物図鑑。

 それは不安定機構の支部長クラスに配布されているものであり、無用な混乱を避けるために秘匿されている機密文書。

 それを持ち出したタイタンヘッドは、自分の用心が実を結んでしまった事実にギリリと奥歯を軋ませた。



「推定危険度は、SSSS(フォース)。あの蜘蛛の巣に捕まってしまった場合、まず逃げ出せません!」

「レベルは……89000か。厄介だが、手を出さなきゃ襲ってこない。違うか?タイタ―」

「その通りだ。幸い蜘蛛の巣の下の方は隙間だらけ。通り抜けるのは難しくない。慎重に潜るぞ」



 的確な指示を出したタイタンヘッドは、謎のタヌキを先導させた自分の直感を褒め称えたい気分だった。

 束なっている蜘蛛の巣は発見しやすい。

 だが、一本分の蜘蛛の糸は透明で見えづらく、そして、その一本に触れた瞬間、死が背中を突き刺すのだ。


 それを未然に回避できたのは、前を歩いていたタヌキが安全なルートを辿りつつも、危険があると教えてくれたからだ。

 タイタンヘッドは、しばらくタヌキは食わないでおいてやろうと心に刻みながら、魔法を唱えた。



「……《朝霧光フォッグ》」



 フワっ、っとタイタンヘッドの手から霧が立ち上り、進路方向へ打ち出された。

 それは触れたものに結露を付着させるという、ランク2の水魔法。

 攻撃魔法というよりも便利魔法に分離されるこの魔法は、不可視の存在を浮かび上がらせるのだ。


 そうして、穴だらけだと思った蜘蛛の巣の隙間のいくつかに細い糸が張り巡らされているのを知覚し、蜘蛛の狡猾さを思い知った。



「見ろ。あのまま適当に進んでたら餌食にされたぞ。一つ勉強になったな、サウザンドソード」

「はい、流石ですねタイタン支部長」


「まあな。俺の経験上、あの大きさの蜘蛛の巣の粘度はしゃれにならん。くっついたら取れんぞ」

「触っちゃダメって事ですね。分かりました」


「岩投げるし!」

「そうだ。触っちゃダメだし、岩も投げちゃダメだぞ。蜘蛛が襲いかかってくるからな」


「「ちょっと待てぇえええええ!!」」

「う”ぎるあ!!」



 ドグシャアアア!っと音を立てて、蜘蛛の巣へ叩き付けられる、岩。

 その勢いは凄まじく、乱回転し高速で打ち出されたそれは、もはや攻城兵器じみている。


 だが、そんな程度では、空を飛ぶファイナル・風・ドラゴンを捉える為に編み出されたこの蜘蛛の巣は貫けない。



「キシャアアアア!」

「蜘蛛が来たァァァッ!!」



 そして、激怒した蜘蛛が襲いかかってくるのは必然だ。

 しかも、鋭い牙を前に突き刺し、一撃で獲物を仕留めようとする蜘蛛の速度は並ではない。


 その落下速度は、時に音速を超える。

 図鑑には記載されていない事だが、巨大な蜘蛛の巣が紡ぐ模様は速度上昇の魔法陣。

 その効果を全身に乗せた蜘蛛の動きを捉える事など、常人には不可能だ。



「う”ぎるあ!《隕石橙破爆撃ヴィギルアコメットバースト!》」



 ……そう。常人には捉えなくても、タヌキ将軍には捉えられるのだ。


 アルカディアがこの森を納めていた時代にも、大恐慌蜘蛛メガラクネは生息していた。

 蜘蛛の巣の隙間を抜けられるタヌキにとっては別にどうでもいい相手だったが、実は、アルカディアは大恐慌蜘蛛メガラクネを積極的に狙う時期があった。


 理由は単純に、『美味しいし!』である。



「一撃だと!?いや、何故触ってもくっつかなかったッ!?」

「背中はくっつかないし!」



 村の長老タヌキが何気なく言った、一言。


「あの蜘蛛はのぉ、焼いて食うと美味い。ぷりぷりの実が蟹みたいで、たまらんのぉ」


 それを聞いたタヌキ将軍アルカディアはすぐに実行に移した。

 アルカディアのみが使える魔法、『隕石橙破爆撃ヴィギルアコメットバースト』での直火焼き。

 そうして手に入った焼き蜘蛛は、アルカディアの美食コレクションの一つとなり、お祝い事などにタヌキ集落で振る舞われる料理の一品となったのである。



「良いお土産が出来たし!!ドングリも蜘蛛は好きだし!」

「ヴィィギルロロォーン!」


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