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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第8章余談「たぬきにっき・アルカディアの理想郷!!」

「ほら、着いたぞアルカディア。だから俺から離れろ」

「う”ぎるあ……。転移魔法終わり?もう大丈夫?」



 ふくよかな胸をタイタンヘッドの大胸筋へと押し当てているアルカディアは、空気の中に散ってゆく転移の光を見て目を細めた。

 その横には、目のやり場に困っているビリオンソードと、顔を赤らめているサウザンドソード。

 今回のオレンジ植林を行う4名のメンバーは、不安定機構・支部に必ず備え付けられている都市間の転移ゲートを用いて目的地にやってきたのだ。


 ここは『セフィロ・トアルテ』の南入口。

 転移ゲートが設置されるのは街の内部と決まっており、セフィロ・トアルテも例外ではない。

 だが、軋むドアを開いて抜け出た四名を出迎えたのは壮大な大森林だった。


 未曾有の大災害の後に完全放棄されたこの街は、たったの数年で人類文明を自然が飲み込み、古代遺跡のような環境を創り出している。

 それを予期していたタイタンヘッドは、それでもその自然に圧倒されながら場の空気を整えるべく口を開いた。



「お前でもダメなもんがあるんだな。アルカディア、転移魔法は怖かったか?」

「めっちゃ怖いし!」


「素手で大の男を殴殺しまくったお前がなぁ。……可愛げがあるじゃねぇか」

「品質が悪いからめっちゃ怖いし!がたがた揺れるし!!」



 アルカディアの良く分からない言い訳をタイタンヘッドは華麗にスルー。

 これ以上の転移魔法なんて存在しないと、長きに渡り支部長を続けて来た経験が思考を停止させたのだ。


 もっとも、どちらも間違っている訳ではない。

 タイタンヘッドが使用したのは、不安定機構の支部長のみが起動できる機密性の高い魔導規律陣で創られた転移ゲート。

 人類の英知と技術が惜しげもなく使用されたこの魔道具は、多少乱暴に使用しても転送事故が起こらないなどの、複数の有用性が備わっている。


 一方、アルカディアの頭の中にあるのは、ソドムの転移魔法陣『堕ち逝く都こそ楽園』。

 人類程度の英知を結集させた所で、比べ物になる訳が無い。



「タイタン支部長、ここが噂に聞くセフィロ・トアルテですか?」

「そうだぞ、サウザンドソード。この街はかなりの都市……というか、この大陸の中心の都と言っていい場所だったんだ」



 人と、命と、魔法の街。『セフィロ・トアルテ』

 この街がそう呼ばれなくなったのは、意思を持つ大災害、世界の終りの使者『皇種』の降臨が起こったからだ。


『皇種』を一言で言い表すのならば、それは『死』である。

 他種族にとって、皇種が降臨するというのは寿命と同意義。

 その存在が人類の生活圏内に出現した場合、一度の攻撃でそのレベルと同じ数の命が失われると言われている。



「俺達の大陸で最も栄えている街は『ブルファム王国の王都』。不安定機構が売ってる教科書にはそう書かれているが、……知ってるか?」

「えぇ、もちろんです」


「だが、このセフィロ・トアルテが放棄される前は、この街こそ真実の王都だという声もあった」

「ふむ、声だけではござらんな」

「師匠?」


「このセフィロ・トアルテには、確かに王都と呼ぶべき妙な品格があったものだ。売っている剣も質が良かったしな」



 屈強な男達が滅びた街をネタに知識を深め有っている最中、まったく空気を読まない奴が一匹。

 キョロキョロと周囲を見渡し、野生の直感で目的地を探しだしたアルカディアは思いのままに口を開いた。



「う”ぃーーーぎるあああー!」

「この街には有名な魔導学校があってなぁ。そこに入学するのが、俺の子供の頃の夢だったぜ」

「タイタン支部長も夢とか見るんですねー」

「サウザンド。コイツの顔はこんなだが、浪漫が分かる奴だぞ。剣の目利きも出来るしな」


「う”ぃぃぃ~~ぎ!るっ!あ”あ”””~~~~!!」

「こんな顔ってのは余計だ、ビリオ」

「支部長。そういいつつ顔芸するのやめて貰えません?笑いそうになるので」

「笑っとけ。適度に緊張が解れて良いかもしれんぞ?」


「う”””””ぅぅぅぅ~~ぎ==るあん!」

「「「お前はさっきから何やってんだよ!?少しは緊張しろ!!ここセフィロ・トアルテだぞ!!」」」


「道案内を呼んだ。久しぶりだから集落の場所が変わってると困るし!!」



 セフィロ・トアルテが繁栄と栄光を極めたのは過去の話だ。

 天命根樹降臨の影響によるものか、植物の異常繁殖を起点とし、野生動植物の生態系が崩壊・進化。

 この大陸でトップ5に入る危険度の森がセフィロ・トアルテを取り囲むように広がり、その面積を年々増加させている。


 その中でもアルカディアの故郷があるとされる南部は、比較的、強力な野生動物が少ないとされている。

 が、それでもランク5~6の生物は平然と生態系を営んでいる。

 つまり、人間4人などという少数で森に入るのは、『無謀を通り越してタダのアホ』だと言われる様な、あり得ない行動なのである。


 そして、この4人がこんな無茶な行動を起こしたのには、当然理由がある。


 三人の人間の中で最年少、20代前半なサウザンドサードは『金が無い』。

 奇しくも、闘技場に出場した理由の『想い人に告白し、恋人となる』という目標は達成されている。

 だが、恋人二人は揃いも揃って貯金ゼロ。

 サウザンドソードの勝利に全財産を賭け、無慈悲な毒吐き食人花に全てを奪われたからこそ、タイタンヘッドが提示した高額の依頼報酬に目が眩んだのだ。


 三人の人間の中で中堅、30代半ばなビリオンソードは『自信が無い』。

 自分の自信そのものだった77本の剣全ては、タヌキを自称する少女によって真っ二つにへし折られた。

 ゆえに、ビリオンソードは己が技量を見つめ直す為、タイタンヘッドの打診を受けたのだ。


 そして、三人の人間の中で最年長、40代前半のタイタンヘッドは『確信が無い』。

 タイタンヘッドは天命根樹降臨の後に行われた調査の指揮官だった過去を持つ。

 それも、組織図上ではかなり高位の位置におり、最高責任者のノウィンの次の次くらいの権限を持っていたのだ。


 タイタンヘッドが行った調査報告は、『セフィロ・トアルテ周囲の森に人命無し。危険動物の流出を防ぐため、高位結界にて地域を封鎖するべし』。

 セフィロ・トアルテを中心とした森は超高位冒険者のみが侵入できる禁域指定区域となり、内部に生息している生命は空間魔法を使わない限り脱出不可能となった。

 だが、アルカディアの存在が、終わったはずの任務を再燃させたのだ。


「まさか高位生物が住まうセフィロ・トアルテに、人間の生き残りが居るってのか?だとしたら、全力で保護するべきだ」


 とても悲しい事にタヌキに化かされてしまったタイタンヘッドは、居る訳がない人間の為にこの地にやってきたのである。



「いいか、まだ街の中に居るとはいえ、ここは禁域指定区域。いつ化物が襲って来てもいいように剣を抜いておけ」

「言われなくても、拙者達は戦闘態勢に入ってるであろう。タイター」



 ビリオンソードの言うとおり、この場に居る全員が既に戦闘態勢に入っている。

 それに、警告を発したタイタンヘッドとて、声に出して注意をする必要があるとは思っていない。


 それでも、この場において最もレベル(経験)が低いサウザンドサードは、念のためと視線を一周させた。



 自分の手には……、愛刀『マサカノ』

 師匠たるビリオンソードの手には……、国宝級刀剣『後我の無剣』

 タイタンヘッドの手には……、赤褐色のガントレット『古代巨人の腕(フルイテ)

 アルカディアの手は……、素手。


 あれ?何かがおかしい。

 そう思ってしまったサウザンドサードは、ツッコミを我慢できなかった。



「アルカディアさん素手じゃないですか!」

「問題ないし!」


「問題なく無いでしょう!?ここ、禁域指定区域ですよ!?」



 そのツッコミは至極当たり前のものだ。

 武器を抜けと高位冒険者から指示がある以上、それに従わなくてならない。

 レベルこそアルカディアの方が高いが、タイタンヘッドは不安定機構の支部長であり、20年以上も冒険者を続けている熟練者。

 その声を無視し、あまつさえ素手で問題ないというなど、サウザンドソードの常識では信じられなかった。



「別に無くても困らないし。というか、ガントレットが必要な程のが居たら群れが全滅するから困るし」

「あーもー!師匠も何か言って下さいよ!」

「……バナナ食うか?」


「食べるし!」

「ししょぉおおおおおお!?!?」

「バナナでも食って落ち着けって事だ、サウザンド。アルカディアに武器は必要ない」


「う”ぎるあ~~ん!」

「なぜでしょう?」

「そりゃぁ簡単な話だ。素手で俺より強いからだよ、このたわけ!」



 サウザンドソードはリリンサに破れた後、観客席から身を乗り出しているスーターと想いを通じあった。

 だからこそ、ビリオンソードが惨敗する場面を見逃しているのだ。


 こんこんと怒られるサウザンドサード。

 そんなものにまったく興味を示さなかったアルカディアは、懐かしい匂いを感じ街の外へと続く道へ視線を向けた。



「う”ぎるあ!久しぶりだし!」

「ゼーハーッ、ゼーハーッ……。ヴィギロローン!」



 そこには、見るからに全力疾走で森を駆け抜けて来ただろう、一匹のタヌキ。

 頭の額に薄らと『×』マークが浮かびあがりつつあるそのタヌキこそ、アルカディアへ恋しながらも、とうとう想いが通じあう事のなかった幼馴染のオスタヌキ。


 アルカディアの留守中に群れを預かっている『タヌキ代官・ドングリ』だ。


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