第7話「魔法適性」
「さて、ユニクにはどんな魔法の適正があるのか、……とても楽しみ!」
「あぁ、楽しみだな!」
若干の温度差を感じつつも、リリンはテキパキと何かの準備を始めた。
何枚かの紙を異次元ポケットから取りだし、ひい、ふう、みぃと数を確認。
うん、と頷いて顔を上げた。
「魔法の適正を計る為に昔から使われている方法がある。ユニク、これを見て」
「ん、どれどれ?『これで分かる!とってもカンタン!!火の魔法らくらくチェックシート』?」
とりあえず紙の表題だけ読み上げたわけだが、なんだか全体的に可愛らしいデザインの紙だ。
所々にイラストが描かれていて、下の方ではウサギが亀に向かって炎を放っている。
どうしたんだろうか?競争にでも負けたのか?
というか、これ、絶対に子供向けだろ。
基本的に難しい言葉が使われていない上に、ルビが振られているし。
まるで教材みたいだが……?
「これは、私が魔導学校に通っていた時に貰った魔法の適正の計り方を記した紙。この手順どおりに行えば適正が分かる」
「へぇ、そうなのか。ちなみに関係ないけど、その紙を貰ったのはいつ頃なんだ?」
「……えっと、1年生だったから7歳かな?」
「……だよなー」
まさしく教材で、低学年向けだった。
まぁ、リリンから見たら俺を教育するのはそんなイメージなのかもしれない。
だが、教材という事は効果が期待されているわけだ。
……おしえてください。リリンせんせー。
「それで、どうすれば良いんだ?」
「基礎知識として、『魔法は原典呪文を唱えれば誰でも使える』ことと、『適正があれば呪文は短く出来る』ことは理解した?」
「大丈夫だ」
「うん、では本題に入る。この紙に書かれているのは初心者向けの基礎的な魔法で、原典呪文が非常に短い」
「なるほど、生活魔法の一つ上って事だな?」
「そう。呪文が短い特性を利用して、最初は全文を読み上げて魔法を使う。成功したら、段々と呪文を短くしていき、その結果が短ければ短いほど適正が高いという事となる」
「……なるほど、分かりやすい。それで、短くするのには決まった手順が有るのか?この文字から減らすとかそういうの」
「それは無いし、それこそが本質と言うもの。原典呪文から何を削除し、何を残すのか、時には何かを足すのかは自分で見つけるしかない。魔法を発動する際の呪文は原典呪文を除き、他人とは異なる。自分だけの呪文を見つける能力こそが魔法適正であり、才能」
「……理解した。つまり、雷人王の掌を発動させたかったら、一冊の本から自分用の呪文を見つけ出さなければならないって訳か。確かに、場合によっては一生かかるだろうな」
ははは。なるほどこりゃ大変だ。
この方法で魔法を習得する情景は容易に想像できる。
一冊の本を前に研究と試作を重ね、長い年月を使って試行錯誤を繰り返す。一冊の本の文字の羅列の組み合わせなんてそれこそ天文学的な数字どころか無限に近いわけで。
気が遠くなりそうだ。
「そして、魔法には系統がいくつかあって、基本的には『五属性』と『身体強化』、『防御魔法』と『回復魔法』に分けられる」
「ん?五属性…火水風と後はなんだ?」
「火・水・風・地・光のこと。基本属性とも呼ばれ、普段よく見る魔法は大体このどれかに属する。ちなみに雷人王の掌は光魔法に属している」
「へぇ、大体はどれかに属するんだな。たとえば雷光槍は光で、第九守護天使は防御魔法か?」
「正解。えらい。おおよその冒険者は、この八系統の魔法のいくつかを得意属性として習得している」
「いくつか?全部覚えている訳じゃないのか?」
「それは私の様な高位の魔導師だけ。五属性のどれかと身体強化の攻撃重視、防御魔法と身体強化の防御重視などが多く、回復魔法を扱えるのはごく限られた人しかいない。実は私も、回復魔法は少しか出来ないので、大怪我をしたらなす術がなかったりする」
……え。
今知られざる、驚愕の新事実!
リリンは回復魔法が得意じゃなかった!!
というか、怪我したらなす術がないのに、俺を黒土竜と戦わせていたのか……。
もしかしたら、いや、もしかしなくても本当に臨死の危機だった?
うわ、ぞくっとしたッ!!
「リリンにも出来ない魔法があるんだな。ちょっと意外だったぜ」
「そうだけど、そもそもユニクは勘違いしている。回復魔法は医療知識がないと、本当に初歩的な事しか出来ない」
「そうなのか?よく本とかでは剣で切れた傷を治したり、切り落とされた腕を生やしたりするだろ?」
「それこそファンタジーの出来ごと。傷口を閉じることは出来ても、流れた血は元に戻らないし、ましてや腕を生やすなんて不可能」
「マジかよ」
「治癒魔法はあくまでも生命活動の活性化を促す魔法。傷口に治癒魔法をかけながら縫合すれば通常よりも早く治るし、解毒なども効率よく行える。しかし、治癒魔法を掛けたからといって一瞬で全て完治ということではない」
それも初耳だな。そして今この瞬間に確定した。
重傷を負っても、リリンには回復する術がないらしい。
それなのに黒土竜の群れに一人で挑むとか、正気の沙汰ではない。
さすがはリリンさん監修の超絶難易度の訓練メニュー。
この先待つ未来が、恐ろしい。
「それじゃ、回復魔法は特別としてもリリンは残りの全ての系統を扱えるのか?」
「全てではない。私にも扱いが難しい系統はある。実は八系統の他に、『星魔法』と『虚無魔法』、さらに、伝説上には存在しているとされる『創生魔法』なんてものもある。私は星魔法と虚無魔法はあまり得意ではない」
「『星』と『虚無』に『創生』?また凄そうなのが出てきたな……。まったくイメージが出来ないけど」
「星魔法はその名の通り、流星や隕石を模した魔法。または重力や天候操作など星そのものの力を行使する魔法の総称。虚無魔法は時間や異次元空間など理論が確立されていない魔法の総称」
「ん?その虚無魔法って異次元ポケットのことだよな?リリン、使ってるよな?」
「……なかなか鋭いとこ突いてくる。確かに異次元ポケットは虚無魔法。それに召喚魔法や転移魔法も同じで、私も便利だからと覚えた。しかし、虚無魔法の中では低ランクの部類に属していて、ランクの高い虚無魔法は、それこそ戦争終結の切り札として扱われるような大規模なものになる。私の師匠・エアリフェードも『絶望の雛』という虚無魔法を切り札の一つとしていた」
「確かランク9、人類最強の一人だったか?」
「そう。私もあの魔法が欲しくて頑張ってみたけれど、全然だめだった。明らかに勉強不足。それに星魔法も扱えない。星魔法は原典呪文が長すぎて、まともに勉強できていない」
「原典呪文が長い?」
「基本的に魔法というものは強力であればある程、原典呪文が長くなる。だけれど、星魔法は同じランク同士で比べても明らかに長く、場合によっては倍以上の物もある。まぁ、その分とても強力で、魔道師にとって発動を許してしまえば、絶対の致死とされる魔法『星の対消滅』なんてのも存在する」
リリンの話によると、虚無魔法は原典呪文が複雑で難しく、星魔法は単純に文量が多くて習得に時間が掛るということだった。
そうして、魔法の系統についての大まかな説明が終わった。
基本属性の魔法、『火・水・風・地・光』はそれぞれの特徴を生かした魔法。
防御魔法は、その名の通りに相手からの攻撃を防ぐ魔法。
身体強化は、対象者の身体能力を底上げし、それに視覚の共有や視野の拡張などの特殊能力も扱える。
回復魔法は、治癒能力の補助的な魔法で凡人ではあまり役に立たないらしい。
そして、星魔法と虚無魔法。
リリンですら満足に習得できていないその魔法は、とても強力な効果を秘めているという。
個人的には身体強化と防御魔法の適性が有って欲しい。
あぁ、虚無魔法も是非欲しい。というか異次元ポケットが欲しい。だってすごく便利そうだしな。
さぁて、いよいよ適性を調べてみるか。
まずは火属性からだな――。