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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第92話「再臨する絶望・エゼキエルオーヴァー=ソドム⑥」

 

「《大規模個人魔導(パーソナルソーサリィ)価値観の崩壊(カラプス・エヴリディ)》」



 俺の左側に立つワルトが静かに口を開き、仕切り直した戦闘の一手目を打つ。

 これはドラゴンフィーバー戦で見せた、心無き魔人達の統括者としての本気の戦闘『慈悲なき(スクウェア・)絶死圏域(オブ・ハードデヴィル) 』の前準備。

 これにより、この場で使用された魔法効果が統合され、リリンとワルトが発動した魔法の改変が可能となる。


 そうして、俺達は準備を終えた。

 悠々とそびえ立つ、カツテナキ機神――エゼキエルオーヴァー=ソドム。

 それに向かい立つ俺達の瞳には、クソタヌキへの確固たる殺意が灯っている。



「ワルトナ、本気でブチ壊しに行く。手伝って。」

「……決行だねぇ、激怒だねぇ」



 そう、いつもはタヌキに対して寛容なリリンでさえブチギレている。

 その表情は平均的な肉食獣。

 鋭く細められた目は、クソタヌキを獲る事しか見えていない。


 うん、正直に言って怖い訳だが、その原因は俺が怪我をしたからだ。

 俺の傷が完治し安堵したリリンは、目の前にエゼキエルが降り立った瞬間、並々ならぬ殺意を解き放って睨んだ。

 ボソリと「絶対に許さない。」と呟き、ギリリと奥歯を噛み鳴らしている。


 あぁ、これはもう戦闘管制とか無理そうだな。

 そこら辺はワルトに期待しよう。



「ユニク、私も前衛をやる。文句は受け付けない。」

「分かった。サポートは任せろ!」



 一応、リリンには決定打を与える攻撃力は無いはずだが……。

 そんなもの、どうとでもしてしまうくらいの迫力が漲っている。


 で、そんなリリンをチラチラ見ている駄犬と負け犬。

 二匹とも尻尾を丸めており、明らかに怯えているな。

 俺はお前らにも期待してるんだぞ?しっかり囮を務めてくれ。



「くははははは!行くぞッ!!」



 エゼキエルが横薙ぎに砲身を構え、その光を一層強めた。

 先端から光で出来た剣が噴き出し、草原を焼き焦がしてゆく。


 炎揺らめく中に立つ、鋼鉄の巨駆。

 あぁ、まったくふざけた存在だな、クソタヌキ。

 そろそろいい加減に……滅べッッ!!



「ウォォォォォオォォォォンンッッ!!」



 ラグナガルムが放った咆哮を合図にして、俺とリリンが同時に走り出した。

 その咆哮は空気に干渉し、エゼキエルを押し潰さんと迫る。

 更に、俯瞰する視野を全員と共有するべくホロビノは空へと飛翔、ラグナガルムが稼いだ時間で、前衛・中衛・後衛の役割を瞬時に果たした。



「《無限壁牢獄(タルタロス・アバドン)ッ!!》」



 咆哮の圧力から抜け出したエゼキエルが僅かに前傾姿勢を取った瞬間、リリンが魔法を放つ。


 数十枚の障壁がエゼキエルを覆いつくすように乱立し、完全包囲。

 それはまるで、幾重にも花弁が重なり合う薔薇のようだ。

 それら一枚一枚が明確な殺意を持ってエゼキエルへと押し寄せ、幽閉の蕾が形成された。


 だが……。



「《消滅放出光増幅(イレイザー)!》」



 嘲笑うように響く、クソタヌキの声。

 蕾の中心を真横に割るように切り裂かれ、湧きだした熱量が有爆を起こす。

 エゼキエルは一回転するように右腕を薙いだらしく、炸裂したエネルギーが無限壁牢獄(タルタロス・アバドン)を瞬時に吹き飛ばした。


 ヤスリで削いだように、周囲一体の草原がボロボロと崩れてゆく。

 それでも、俺もリリンも疾走を止める事はない。

 ホロビノが天空から打ち出した光の散弾が飛んできた残骸を消滅させ、俺達の進路を切り開いたからだ。


 僅かに先行しているリリンは、不意に空へと踏み出すと星丈―ルナを大ぶりに構え、殺意を声に乗せる。



「《白き極冠(アイスポラ―ル)》と《水害の王クラーケン・オブ・タイタニカ》を融合ッ!!《凍芸術の異形ルスカ・オブ・ダイダロスッ!!》」



 刹那、エゼキエルの左腕に喰らい付いたのは、巨大な氷で出来た『異形の化物』だった。

 鮫のような巨大な口を持ち、下半身はタコのような触手が蠢く。

 それら全ては氷でで出来ており、先端に触れた物を瞬く間に凍結し取り込んで巨大化してゆく。


 この一撃により、エゼキエルの高機動を担っているブースターから白煙が噴き出し、動きが目に見えて鈍った。

 それでも、発せられている熱のせいでエゼキエルの右腕は無事。

 その先端が振りかぶられ、一直線に凍芸術の異形ルスカ・オブ・ダイダロスへと向かう。



「させねえよッ!!《光縛バインドライトッ!》」



 エゼキエルの右斜め前に到達した俺はグラムを振りかざし、刀身に秘められた星を解放。

 発生した強力な引力で、光の剣を引き留める。


 これでエゼキエルの動きは封じたぜ!

 そして、それを感知した後衛が既に動き出している。


 ぶちかませ!ワルトッ!!



「絶滅しなよ。……クッソタヌキィィィィッッ!!!!!」

「ちぃ!」


「《増殖せし害、欲求が生みし飽和する羽音。万象一切噛み潰し砂漠とせよッ!!蝗害なる黒蠅(ベルゼ・フルート)ッ!!》」



 白い髪を振り乱したワルトが空間から出現し、エゼキエルの前へ降り立った。

 手に持っているのは漆黒の管楽器。

 ワルトは、フルートの様にもクラリネットの様にも見えるそれを魔法で創り出し、躊躇なく息を吹き込む。


 響き渡る、殺意の音程。

 一音ごとにワルトが抱いている殺意が形となり、楽譜のように空間に並べられてゆく。


 空間から無数に湧き出た『黒』から生み出されたのは、仰々しい蟲。

 おおよそ人類が造り出したとは思えない悪魔めいた造形の蟲が、一直線にエゼキエルへと向かってゆく。



「ベルゼフルート?俺の知らない魔法だが……。忌々しい奴を思い出させる名だな」



 羽を広げ飛んだ蟲の全ては、エゼキエルの装甲に激突するとあっけなく砕け散った。

 いや、泡沫となって付着したという方が正しいのかもしれない。


 暗黒を溢した滴で汚れたエゼキエルは、不気味なくらいに沈黙している。

 数秒の時が流れ、そして、気高き黒蠅笛(ベルゼ・フルート)の真の効果が発露した。



「なんだこれ……?」



 思わず俺の口から声が漏れ出るほどの、理解しがたき現象。

 真っ黒に染められた部分が歪み、捻じれ、ひび割れてゆく光景は、とてもじゃないが見覚えがない。


 まるで、紙に描いた絵をくしゃくしゃに丸めていくかのように、バキバキと音を立ててエゼキエルは空間に飲み込まれた。

 そして、一片の欠片すら残さずに姿を消し、その場には俺達だけが取り残される。



「ワルト、今のはなんだ?」

「ランク9の虚無魔法。別世界に巣食っているとされる『蠅なる王』への生贄。この魔法を受けたものは噛み砕かれながら別世界に転移し、存在そのものが消滅すると言われている」


「説明からして凶悪すぎる……」

「僕の最強の攻撃魔法だからね。これ」


「……つまり、やったということ?」

「あ。」

「あ。」


「くっくっく、やったか?って聞くとは、分かり易い失敗フラグだな。《那由他なる時空跳躍(タヌキ・スリップ)!》」



 それは言っちゃダメな奴なんだよ!!リリン!!


 あわててワルトがリリンの口を塞ぐが、もう遅い。

 空間転移をして来たかのようにエゼキエルは何事もなく出現し、俺達の前にそびえ立った。

 リリンが打ち込んだ凍氷界の異形ルスカ・オブ・ダイダロスや、ワルトが撃ち込んだ気高き黒蠅笛(ベルゼ・フルート)が与えた影響は綺麗に取り払われており、時間が巻き戻されてしまったかのような感覚に陥る。


 だが、俺は奴がブースターを吹かし込んだ時に、確かに見たぜ。

 逞しい太ももの裏側にあるブースターの一つが、動いていなかったのをな。


 これだけ連携して与えたダメージが、ブースター一個の破壊。

 いや、壊せる事が分かっただけ、一歩前進だ。



「だが今の連携も良かったぞ。アイツを彷彿させる名だけあって威力も高かったしな」

「おい!僕の最強の魔法だぞ!?滅べよ、クソタヌキッ!!」


「ホロビノが光魔法を多用するように、虚無魔法は王蟲兵が良く使うんでな。対策はバッチリだぜ!」

「あぁん?蟲だってッ!?」



 虚無魔法を使う蟲ってなんだよ!?

 蟲ってもっと原始的な奴だろ!!

 脳味噌が入ってなさそうな昆虫が、人類の英知を使ってくんじゃねぇ!!


 ……っと思ったが、タヌキがロボを召喚するんだし今更だな。

 蟲が魔法を使うのだって、ロボに比べれば許される。



「……ねぇ、何を楽しく喋ってるの?タヌキ」



 すたん。っという軽い音の発生源は、エゼキエルの頭の上。

 そこに居たのは、超魔王フル装備・ヤンデリリン様だった。



「なんだとっ!?!?」

「なんだとっ!?!?」

「なんだとっ!?!?」


「ブチ壊せ、《魔王の右腕》」



 俺とワルトとクソタヌキの声が重なり、リリンの無慈悲な声が続く。

 そして無造作に振るわれたのは、殺意剥き出しの腕と、殺意剥き出しの恐怖の波動。

 ブチギレているヤンデリリン様はタヌキだろうと容赦をしない。

 ついでに周囲も考慮しない。


 ……。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖いッ!!



「グガガガガッ!《あ、悪喰ミサイルッ!!》」



 数十発の爪打撃がエゼキエルの頭に叩きつけられ、その大体を受けたのは二本の角だ。

 リリンが魔王の右腕を繰り出す激しい音が響く中、エゼキエルの肩が展開しミサイルポットが出現。

 そこに納められていたのは、セフィナが使った簡素な模様の悪喰=イーター。


 それらが数十発射出され、一直線にリリンへと向かう。

 赤と黒のベールに包まれるエゼキエルの頭部。

 そして、エゼキエルの頭部から……ボギン!っという悲しい音が響いた。



「ふっ、壊せた。ちょろい」

「……。」

「……。」


「……俺の!俺のエゼキエルの!!カッコイイ角がッ!!」



 魔王的な嘲笑顔のリリンが、何事もなく空間から現れた。

 どうやらワルトが転移の魔法を使ったらしく、リリンは俺の近くに創られた魔法陣から飛び出てきて、戦利品を自慢してくる。


 リリンは魔王の右腕で掴んでいたエゼキエルの角を満足そうに眺めた後、不敵な笑みを浮かべながらポイ捨て。

「次は本体」っと、魔王な挑発をクソタヌキに突きつけた。


 そして俺とワルトは、そそくさと恐怖抑制シールをおでこに張る。

 ……超魔王リリンさん、マジ怖い。



「角を折りやがったな、リリンサ!俺のかっこいい角を!!」

「そんなに大事なら、百本ぐらい生やせば?」


「それじゃ栗だろッ!!二本だから良いんだよ!!」

「ふっ、栗のように皮を剥いでバラしてやる。」



 唐突にリリンは走り出し、魔王の右腕とエゼキエルの左腕が交差した。

 リリンが右腕を突き出せば、エゼキエルは左腕でガード。

 リリンが左腕を叩きつければ、エゼキエルは右腕で迎撃。


 重なり合う巨大な影が繰り広げる、一進一退の攻防。

 あぁ、おおよそ魔導師とタヌキの戦いとは思えない。


 あのさ、お前ら……魔法はどうした!?

 どっからどう見ても、ロボ同士で戦ってるようにしか見えねぇぞ!!



「《魔王の左腕!エゼキエルの弱点を教えてッ!》」

「ちい!サムエルの左腕かッ!!」


「見えた。破壊痕を責める!」

「調子に!乗るなッ!!」



 ……サムエルの腕?

 なにそれ?凄く気になるんだけど。

 なんか知ってるようだし、俺も参戦するぞ。クソタヌキ。



「うおお!《重力光崩壊ガル・デストラクション!》《重力光崩壊ガル・デストラクション!》《重力光崩壊ガル・デストラクション!》」

「ちょろちょろと!うざってぇ!!」


「サムエル?ってのが何か教えてくれたら止めてやるぞ、クソタヌキィ!!」



 エゼキエルの足元に走り寄った俺は、執拗に右太ももの内側を狙う。

 そこは壊れたブースターがある場所、つまり、一番装甲が脆くなっているであろう場所だ。


 リリンも破壊痕を狙うと言っていたし、仮説どおりなら防御魔法が薄いはず。

 そんな所に絶対破壊の波動を流しこまれたくないだろ?

 だから早く話した方が良いぜ?クソタヌキ。



「《重力光崩壊ガル・デストラクション!》《重力光崩壊ガル・デストラクション!》《重力光崩壊ガル・デストラクション!》」

「ちぃぃ!そんなに知りたいなら教えてやるッ!!」


「ふ、やけに素直だな?クソタヌキ」

「吠えづらかきやがれッ、ユニクルフィン!!

《サモンウエポン=魔王の脊椎尾(デモン・テール)!》」


「…………。は?」



 俺の視界に黒いものが横切り、吹き飛ばされた。

 そして湧き上がる恐怖。

 それは超魔王リリンから発せられているものでは無く、明確に俺へと向けられたものだ。



「がはッッ!がはッッ!!」



 エゼキエルと距離を取ってしまった俺には、その全貌が見えている。

 俺を吹き飛ばしたのは、鋼鉄が重なり合う『漆黒の尾』。

 純白のエゼキエルの背後から伸びているそれは、間違うこと無き……魔王の証明。



「これが答えだ、ユニクルフィン。魔王シリーズっつーのはな、『魔人枢機デモンヴァーズ・サムエル』の残骸から造られた魔導兵装の総称だ」

「な……ん……、だと……?」


「人類はな、ぶっ壊れたサムエルを再建造するよりも、エゼキエルの武装として仕立て直して強化させ、一点突破を図りやがったんだよ」

「……つまり、魔王シリーズってのはエゼキエルの武器だってことか?」


「そういうこった。ちっ、やっぱりカラーリングが合わねぇな。あとで白く塗る必要がありそうだ」



 俺の目の前に君臨していた、純白の天使、エゼキエル。

 だが、漆黒の尾が生えた以上、もう天使とは呼べそうにない。


 そこにあるのは、カツテナイ――絶望。


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