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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第90話「再臨する絶望・エゼキエルオーヴァー=ソドム④」

 ホロビノは頭上の魔法陣から出現させた巨大なアギトをエゼキエルに噛みつかせ、その顎力を存分に振るった。

 挟みこまれたエゼキエルの腹部は細く、しっかりと両脇から捉えられ、ミシミシと神性金属が軋む音が響く。


 そしてーー。



「《天王の輪(ウラヌスインパクト)!》」



 ただひたすらに真っ白い、世界を壊して浄化する精錬無垢な炎光がアギトから漏れた。

 放出されている火花は、まるで星を燃料にしているかのように美しく、煌々しい。


 森羅万象、あらゆるものを無に帰すこの炎光は、ホロビノが持つ必殺の一撃。

 そんなリリンの説明を聞いた俺は「勝てるかもしれない」と僅かに高揚感を抱き……。

 クソタヌキの、くっそ楽しげな声を聞いた。



「くはははは!良い連携だったぞ、褒めてやる!」

「きゅあ”あ”ん!?」


「だがな、ホープ。ライバルであるはずのお前を、この俺が意識しないはずがねぇだろ。つーことで、光魔法は特に気合を入れて対策してあるぜ!《魔討鏡装甲アマルガム・ミラーコート!》」



 ホロビノ・アギトから僅かに漏れている炎光は、いわば破壊の残滓だ。

 エゼキエルに撃ち込まれている光の余剰分であり、それが少ないという事はホロビノが優勢だという証となる。


 だが、クソタヌキの声が響いた直後、ホロビノアギトから大量の光が溢れ出した。

 それは留まる事を知らず、むしろ、どんどんと光を強めてゆく。


 俺が抱いてしまった一瞬の安堵の対価は、唐突に示された。

 溢れだした光が逆流し、ホロビノアギトを貫通。

 鋭い牙を無残に破壊し脱出したエゼキエルは振り返り、ホロビノ・アギトを左腕で叩き潰した。



「この装甲は光魔法を反射する。お前の天王の輪は封じたぜ!」

「きゅあらぁああああ!!」


「そんで惜しかったな、団子ども。俺と戦い慣れてるホー……ホロビノなら決定打を与えられると思ったんだろ?」

「くっ!」


「確かにそれは正しいぜ。だが、ホロビノが俺と戦い慣れてんなら、俺もホロビノと戦い慣れてるってこった」



 ……確かにその通りだなッッ!クソタヌキィィィィィッッ!!


 俺の目の前に立ってるのは表情の無い機械だ。

 だというのに、クソタヌキの腹の立つ満面の笑みが手に取るように分かる。

 あぁ、マジでクソタヌキ。

 歴史に名だたる、クソタヌキッ!!



「ユニク、確かにソドムの言うとおりだと思う!」

「まさかの追撃ッ!?!?」


「ん、そうじゃなくて、今のホロビノの攻撃は本当に惜しかったということ。見て、エゼキエルの胴体にすすが付いてる」



 大魔王さんに背後から殴られたかと思ったら、どうやら俺の早とちりだったようだ。

 リリンが指差した先は、ついさっきまでホロビノ・アギトが噛み付いていた場所。

 そこにあるのは薄らと付いた煤であり、俺とリリンが与えられなかった『攻撃痕』だ。



「ソドムはホロビノの攻撃を防御した。それはつまり、防御しなければ危険だということ!」

「なるほどな。人の身体で例えるのなら、ショートナイフくらいの脅威度はあったわけか」



 俺の例えにリリンは頷き、状況を察する事が出来た。

 当たり前の事だが、人間は刃渡り15cm程度のナイフでも、刺されれば死ぬ。

 当然、急所を刺したり、防御をされないなどの前提はあるものの、命を奪うには十分な脅威だ。


 だからこそ、俺はその難しさを実感した。

 俺とリリンの手には敵を傷つけられるナイフ(ホロビノ)がある。

 だが、実際にダメージを与えられるかどうかは別問題だ。


 格闘の達人相手にナイフが届かない様に。

 目の前にそびえ立つ、カツテナキ機神には――。



「きゅあら!」



 俺が答えを出しそうになった刹那、気の抜けたホロビノの声が響く。

 それは、まるで状況を理解していない駄犬の鳴き声。

 いや、それを演じて俺達を鼓舞している、偉大な天王竜の背中が目に映る。



「くはははは!やる気は十分みてえだな、ホロビノ」

「きゅあらん!」



 アギトは破壊されたものの、ホロビノにはまだ6つの魔法陣が残されている。

 ホロビノは、それら器用に操作し体を覆うように展開、すべての魔法陣をそれぞれの系統を表す色へと変貌させた。

 そして、右手中段で金色に輝く魔法陣を前に押し出し、その中から生えている腕をエゼキエルへかざす。



「きゅあろん!」

「くっくっく、挑発のつもりか?だったら付き合って貰うぞ。一億年続けなくちゃならねぇ、俺の覇道の二歩目としてな」



 対峙する白き竜王と白き機神。

 その前者たるホロビノは、数千年の時を身に刻む偉大なる過去の王。

 そして、後者たるエゼキエルは、これからの数千年にて語り継がれるであろう未来の王だ。


 ゴクリ。と唾を飲んだのは俺だけじゃなかった。

 隣に居るリリンも平均的な表情に緊張を浮かべ、揺るがぬ瞳で両者に視線を送っている。



「行くぞ。《天討つ硫黄の火(メギドフレイム)戦火槍装ウォーランス!》」



 エゼキエルは宣誓でもするかのように右腕を天高く突き上げ、告げた。

 それは世界に示す宣言であり、魔法と見間違うべきもの。

 事実として、超状の現象が起こったのだから魔法と言っていいはずだ。


 光輝を称えているエゼキエルの巨大な砲身。

 その先端がガギン!と音を立てて閉じ、同時に、上下から銀色の突起が無数に突き出す。


 決定的な変化はここからだった。

 突き出した突起全てが灼熱の炎を吐き、砲身全てを包み込む。

 そして、キィィィィ……という駆動音と共に回転し始めたのだ。


 音と炎の揺らめきが乖離している以上、回転速度は音速を超えている。

 そんな機械という特性を十分に発揮し出来あがったのは、深紅の突撃槍。

 全長3mもあるそれが出現した事により、周囲一帯の温度が急上昇してゆく。



「きゅあら!?!?」

「今更驚いても遅いんだよッ!!ホロビノッ!!」



 俺は、世界の頂きに立つであろう二匹の超越者から目を離したつもりはない。

 しかし、俺の目は二匹を見失い……数百m離れた位置から光と熱波が迸る。



「《金塊槌(きゅあら・きゅあろ)!》」



 ホロビノがエゼキエルに向けて突き出していた、金色の腕。

 その表層が琥珀色の金属で覆われ高質化。

 更に膨張し、エゼキエル本体と同じ大きさの大型金槌となる。



「力比べか!おもしれぇ!!」



 空に飛び立ったホロビノは大型金槌の魔法陣を振りかぶり、躊躇なく振り下ろした。

 俺の腹に響く、重爆な激突音。

 天から降り下ろされた金槌は、エゼキエルが下から突き出した深紅の突撃槍と激突し、発せられた衝撃波が周囲の木々を蹂躙している。



「きゅあろ!?」

「ふっ。俺の勝ちだ!」



 その激突の均衡は、わずか1秒にも満たなかった。

 打ち付けたホロビノの金槌は砕け散り、その破壊が腕を通して伝播。

 ホロビノの金の魔法陣はあっけなく崩壊し、エゼキエルの突撃槍がホロビノ自身へと向く。



「きゅあ!《水刃裂きゅらら!》」



 バシィィィィッ!!と水塊が爆ぜ、周囲の草花を茹で上げた。

 ホロビノは、左腕の魔法陣を前に滑り込ませながら活性化。

 水色の腕を突き出すようにして突撃槍へブチ差し、鋭き爪を水で出来た刃へと変化させたのだ。


 高温の化身である突撃槍と、魔法で作られた冷水刃。

 それらが混ざり合う化学変化は凄まじく、一気に気化した水蒸気が俺とリリンを吹き飛ばして、二匹から更に遠ざかる。


 そして……。



「はっはぁ!文字通りの焼け石に水だぜ!!」

「きゅぐろぉ……」



 翼を広げて空気抵抗を強めたホロビノは、僅かに後退したものの、その場に留まっている。

 だが、突き出されている左腕は無残に破壊され、あっという間にボロボロと崩れて落ちた。


 二つの魔法攻撃を受けても、エゼキエルの深紅の突撃槍は……無傷。

 その回転の勢いを一向に衰えさせず、おもむろに、ゆらり。っと空間へ突きを出した。



「きゅあら!?」

「《射撃刺突レイピアバーン!》」



 ホロビノとエゼキエルの距離は15m程はあり、どう考えても槍の攻撃射程じゃない。

 それなのに突き出された突撃槍は、一つの結果を生み出した。


 高速回転するエゼキエルの右腕が更に唸りを上げ……突撃槍が爆発的に伸長。

 15mもあった距離を瞬時に詰め、ホロビノへと迫る。



「《吊るす年輪(きゅーあろぅ)!》、《我が拳に纏え(きゅあろ)核黒の炎(きゅあら)!!》」



 右腕に絡み付く深緑の木々。

 左腕に絡み付く暗黒の粒子。

 それらを纏う両腕を創り上げたホロビノは、自身を光の粒子へと変えて突撃槍へ突っ込んだ。


 突き出された槍を軸にするように光の粒子(ホロビノ)が駆け抜け、その後に、大地から生えた深緑の弦が覆い尽くす。

 ホロビノが行ったのは、耐えがたい熱量の炎槍へ深緑の腕を突き刺しながらの直進。

 そこから深緑が芽生え、大地から生えた深緑と結合。

 輝く草木が猛る炎槍を覆い尽くすという理解不能な光景を、俺は一生忘れないだろう。


 そして、その深緑もろとも、暗黒の粒子腕が握り潰してゆく。

 ホロビノが元いた位置から、掌に触れた先端を飲み込むようにして崩壊侵攻し、逆に、エゼキエルの本体へと迫る。



「ほう!《炎光置換コンバートッ!・絶対勝利の剣(エクスカリバー)ッッ!!》」



 エゼキエルの腕の根元まで暗黒の腕が迫った刹那、深紅の突撃槍回転を止め、姿を変えた。

 砲身から吹き出す光輝。

 それはまるで、神にすら勝利する栄光の剣。

 そこには、俺が知るどの神殺しよりも圧倒的格上の存在が顕現していた。



「きゅっあらッ!?《天王の輪(ウラヌスインパクト)!》」



 吹きすさぶ駆動音と、旋風。

 瞬きの間に、エゼキエルは深緑と暗黒の腕の両方を切り裂き、さらに追撃を狙う。

 それに対し、ホロビノは苦し紛れに必殺技を自身の口から放って相殺を試みた。


 だが、その光の波動は低調で、あっという間に押し負け――。



「ちぃ!!《悪化する縮退星ディジナレイト・コラプスッ!》」



 勝算を考慮している時間は無い。

 考えうる最良の選択肢をグラムの切っ先に宿し、溜めていた重力流星群(ガル・ミーティア)のエネルギーを解放する。


 俺はただ、茫然と観客に徹していた訳ではない。

 周囲に散りばめた重力流星群(ガル・ミーティア)から発せられる引力と斥力を身体へと注ぎ続け、今までは不可能だった速度を出すべく期を窺っていたのだ。


 肉体の限界を超えた速度を出す『肉体重力制御ボディガル』 + 物理法則を無視した疾走を可能にする『次空間移動ディメンジョンムーブ』。

 それらを行使して突き出したグラムは、ギリギリの所でエクスカリバーとホロビノの間に割り込んだ。



「くぅぅ”!!腕が、ちぎれっ、そうだッ!!」

「生身で支えてるだけで大したもんだと思うぞ。紅団子」



 クソタヌキッ!冷ややかな声で野次を飛ばすんじゃねぇッ!!

 ちょっとくらい焦って、そこらの石につまずいて絶滅しろォォォッ!!


 割り込ませたグラムの先端には、万象を飲み込むブラックホールを設置してある。

 エゼキエルの光剣がいかに凄いものであれど、光すら飲み込んで閉じ籠める悪化する縮退星ディジナレイト・コラプスの前では無力。

 そう判断した俺の戦略は正しかった。


 俺の腕の筋繊維がブチブチと音を立てて断裂し、痛覚が悲鳴を上げる。

 それでも、突き出したグラムはその場から揺るがない。

 奇しくも、エゼキエルの絶対勝利の剣(エクスカリバー)の反対側からはホロビノの天王の輪が放たれており、刀身に受ける力が拮抗しているからだ。


 動的平衡する光のエネルギー。

 その全ては、グラムへと注がれてゆく。

 ほどなくして両撃の勢いが弱まり、そして、グラムは満たされた。



「俺だけの力じゃ、その装甲は壊せねぇ。だから使わせて貰うぞ、お前らが積み上げた――数千年の研鑽をッ!!」



 深淵暗黒のグラムが新たな色を発生させている。

 それは、虹色に輝く銀河の光『クエーサー』。


 エゼキエルとホロビノが発したエネルギー、それを糧とした光がグラムの刀身を包み込む。

 天地万物と呼ぶべき虹色の輝きは、世界の理から外れた証明。


 異常にして異質。

 温度という概念は存在せず、ただひたすらに破壊を追求した概念を追い求めた結果がここにある。

 銀河を生まれ変わらせる為には、まず、全てを破壊し尽くさなければならない。



「喰らえよ、クソタヌキ。《終焉銀河核(クェーサー・クロス)ッ!!》」



 光を吸われたエゼキエルの腕は最初の形態に戻り、僅かに動きが鈍っている。

 その隙を突いて腕を返した俺は、引力と斥力に導かれエゼキエルの胸部を目指した。


 まるでそれは、素振りのように。

 絶対破壊を宿したグラムには空気抵抗など存在せず、真っ直ぐに胸部の三角錐へと迫り……。



「喰らってやるともッ!!《悪喰=イーターッ!!》」



 開口展開した金色の球体と衝突。

 ここまでは良い。この展開も予測どおりだ。


 俺には妙な確信がある。

 その胸部からでてくる、悪喰=イーター。

 それこそがお前の力の源であり、それを壊さない限り俺達に勝利は訪れないんだろ?


 グラムと悪喰=イーターは互いを食い潰すべく、バチバチと火花を散らす。

 セフィナが使用した物とは比べ物にならない強度に俺は眉を潜めつつ、無理やりにグラムを押し込んでゆく。


 ピシリ。

 そんな小さな音が確かに鳴り、グラムの刃が僅かに進んだ。



「覚悟はいいかッ!!クソタヌキッッ!!」

「……まさか、抜かされるとは思って無かったぜ。認めてやるよ、ユニクルフィン!」


「滅びろォォォッッ!!」

「《神喰途絶しんじきとぜつ=エクスイーター!!》」



 突き刺したグラムの先端が、ピシリ。と音を立てた。

 そんな小さな音が確かに鳴り、深淵暗黒色だったグラムの刀身に無数の亀裂が走る。


 そして、驚愕を口に出す暇もなく、グラムの覚醒体は粉々に砕け散った。

 一気に押し寄せた『破壊』が、俺に敗北を告げる。



「《原初守護聖界セラフィムオリジンッッッ!!》」



 悪喰=イーターから突きだされた『白と金が交差するグリット模様の剣』が、通常形態に戻ってしまったグラムを軽々と弾き飛ばし、その先端を俺の腹に触れさせた。


 流れ出る熱さに背筋が凍え、それを感じた瞬間にリリンの声が響き、痛みが切り離された。

 リリンが全力で張った『原初守護聖界セラフィム・オリジン

 それを以てしても、数秒の時間稼ぎにしかならないだろう。


 認知できない程に遠くなった視野が割れ、再び現実に戻る。

 そして、俺は――。



「掴まれッ!ユ二ッ!!」



 差し出された腕へ、希望を託した。

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