表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
450/1329

第87話「再臨する絶望・エゼキエルオーヴァー=ソドム」※挿絵あり

 その姿は……。

 ――白く、

 ――神々しく、


 そして――。カツテナイ。




挿絵(By みてみん)





「は、はは、ははははは」

「流石に、これは私も困る……」



 俺達の目に映る、そびえ立つ巨躯。

 真白のボディには幾つもの装甲が重なり合い、何者を寄せ付けないという鉄壁の意思を称えている。

 それと同時に、理知の外側にある力を感じた。

 空に浮かび立っているだけという一切の動力が込められていない今でさえ、触れれば容易く死が垣間見えると本能が悟っているのだ。


 そんな、『絶対防御』と『絶対勝利』を前面に押し出した巨躯は、唐突に動き出した。



「《始動せよ。『摂食心核ライフエンジン』」



 タヌキ帝王・ソドムが言った。

 たったの一言、『始動せよ(目覚めろ)』と。

 そして、その宣言に従い、カツテナキ機神――俺の思い出の中に潜伏していやがった、絶望の象徴は産声を上げたのだ。


 唸り立つ駆動音と共に、肩、腕、脚ユニットが連動し閃光を噴き出す。

 推進力を得た巨躯は、薄いガラスを付き破ったかのように空間を砕けさせながら、僅かに前へ押し出された。

 召喚魔法の効果によって固定されていた座標から解き放たれ、己が巨躯に自由を取り戻したのだ。


 空にそびえ立つ、全長6mのカツテナキ機神。

 唸りを上げ駆動する肩と肘、それらは回転し周囲の空気を巻き込んで捕捉している。

 脚部にある大型ブースターもフル稼働し、その巨躯が飛行性に優れていると教えてくれた。


 そして、同時に巨大な右腕にも光が灯る。

 その光は、見る者をひれ伏せさせる、光輝色。

 覚醒グラムを軽く凌駕する光は、見ている俺達の目を眩ませ、息をするのすら忘れさせた。



「《搭乗せよ、帝王機(ダイブ・フォートレス)!》」



 更に声高く宣言する、ソドムの声。

 それは俺の記憶と符合する、絶望へのプロローグ。


 ヴゥーーン!という起動音と共に、カツナキ機神の胸部から光が発した。

 それは一直線にソドムに向かい、そのまま捉え、導かれるままに空へと昇ってゆく。


 輝かしい光に導かれ、天高く舞い上がる、タヌキ。

 そんな意味不明な光景を、俺とリリンは茫然と見続ける事しかできない。

 ……タヌキがロボを召喚して乗り込むなんて、見続けるしかできねぇだろ。常識的に考えて。 


 何らかの不具合が起きて、事故って絶滅すればいいのに。

 心の中で暴言を吐くしか出来ない俺を一瞥したソドムは粛々と移動し、胸の三角錐の前まで行くと展開した胸部機構に取り込まれた。

 ――そして。キュィィィィィン!という、脈動が鳴り響き始める。



「ゆ、ユニク……」

「お、おう、なんだリリン」


「思ってたのと違う……」

「……。だろうな」



 俺とリリンが当たり前の情報交換を済ませた瞬間、奴は動きだした。

 あろう事か巨躯は飛行能力を弱め、重力に従って一直線に落下してきやがったのだ。


 俺達の眼前10m先が爆裂し、跡形もなく消し飛んだ。

 それは、ただの着地。

 それでも、俺が知るどんな魔法攻撃よりも威力があったのは、カツテナキ機神が重すぎるせいだろう。

 ダイエットのために、両手両足をもいだ方が良いと思う。



「降ってきたよ……?」

「……。降ってきたな。そのまま爆発すればいいのに」



 湧き上る土煙によって、白き巨躯は一時的に身を潜めている。

 だが、それは直ぐに取り払われてしまった。

 駆動する左腕の回転が唸りを上げ、暴風が吹き荒れる。

 リリンの持つランク9の魔法『永久の西風(アネモイ・ゼピュロス)』に匹敵する暴風が、全ての煙幕を掻き乱し消滅させたのだ。



「ね、ねぇ、ユニク……?」

「お、おう、なんだリリン」



 どんな状況に置かれても、荘厳不遜を貫き通してきた俺のパートナー、リリン。

 そのふてぶてしい瞳は揺らぎ、いつもの平均的な表情はどこにもない。

 言葉に表せない程の、カツテナイ絶望を抱いているのが俺にも分かった。


 俺達の目に映る太陽光に照らされた巨躯は、まるで、生と死を司る機械天使。

 いや、まさにその化身だという確信が俺にはある。


 記憶の中から這い上がってくる言葉。

 ソドム自らが語ったそれは、当時は意味が分からなかったが……。

 今となっては、しっかりと理解出来るものだ。



「み、見て、レベルが……」

「ああ、すげえな。9がいっぱいだ」



 俺の目に映る、6つの『9』。

 それは、神が示せし限界値。本当の意味での頂きに立つ者の証明、『999999(ミリオン)』。


 だが、これがソドムの真の実力では無い。

 アイツは過去の俺にこう言ったのだ。


「俺は、カツテナイ(勝利する手段無き)タヌキ(化物)であり、お前らとは格が違う。なにせ俺は……『レベル10×20乗()』。文字通りの垓獣がいじゅうって奴だぜ!」


 それが意味するのは……。

 幾”億”蛇峰・アマタノの、()()()って事だ。

 つーか、俺がソドムをブチ転がすって言った時に、笑ってやがったのはこれを知ってたからか、ビッチキツネぇぇぇッ!!




「はっーははは!行くぞ、団子ども!」

「来ないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!」



 ひぃぃぃぃぃぃ!!

 思い出したッ!!思い出してしまったッッッ!!

 カツテナイ・絶望。

 幼き俺が三日三晩泣きじゃくった、人生が歪むトラウマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!


 視界の端で、僅かに動き出す白き絶望。

 俺達は、アレから、逃げなければならない。



「ちくしょうめぇえええええ!!逃げるぞ!!リリンッッッ!!」

「う、うん」



 あまりの事態に硬直していたリリンの手を引いて、俺は走り出した。

 向かう先は分からない、ただ、逃げなければという本能に従って我武者羅に走り出す。


 ……一秒でも、早く、逃げろぉぉぉッ!!



「なんだなんだ、また逃げるのか?まるで成長してねえな?」



 んな事言ったって、しょうがねえだろッッ!!クソタヌキィィィィィッッ!!

 てめえの理不尽さを理解しろッッ!!全長6mを超える機神が出てきたら誰だって逃げるわ、くそがッ!!


 全速力で草原を駆ける俺とリリン。

 幸いなことに、小石などが少なく走り易い。


 だが、完全に不意を突かれてバッファの魔法が十分でない以上、大した速度が出ていない。

 まずい、このままじゃ追い付かれる。

 そう思った俺は、背中に担ぐグラムに魔力を通しながら、おもむろにリリンを引き寄せた。



「えっ!?ちょ、ユニク!?」

「悪いリリン、抱きかかえるぞ!!」



 遥か後方から僅かに聞こえる吸気音。

 俺はその音が開かれた瞬間に、爆発的加速が起こるのを知っている。

 見上げる程の巨体が弾丸と化し突っ込んでくるのを、体感したから知っているッッッ!!


 急に引き寄せられたリリンはバランスを崩し、俺の前に躍り出た。

 それに合わせて俺は両腕を広げて突っ込み、出来るだけ衝撃が無いように抱え上げる。


 ……あ、これ、『お姫様だっこ』って奴だな。

 緊急事態なんだし、怒らないでくれよなッ!!



「えっ、えっ、ゆ、ユニク……?」

「リリン、バッファだッ!!ありったけのバッファを俺と自分に掛けろ!!」


「え、あ、分かった。《二重多層魔法連・瞬界加速ー飛行脚―第九識天使―…………》」



 リリンを抱えあげたのは、こうした方が最も速く移動できるからだ。


 親父と訓練をする前の俺は、グラムを経由しなければ惑星重力制御の効果対象に出来なかった。

 だが、今は違う。

 精密な魔力操作を覚えた俺は触れている者も効果対象とし、重量軽減をする事が出来るようになっている。


 つまり、俺がリリンを抱きかかえても、足に掛る負担は同じ。

 空気抵抗とか姿勢とか、僅かに差異はあるものの一人で疾走するのと変わらない。


 この状態ならリリンもバッファに集中できるし、なにより、これだけ顔が近ければ声を張らなくても作戦を練る事が出来る。



「ん、バッファは大体掛けた。私の大規模個人魔導、絶対強化空間レインフォースも発動済み」

「よし、必要最低限の準備は出来たか」


「ね、ねぇユニク……。」

「何だリリン?」


「やっぱりユニクは凄い!私はビックリして動けなかったのに、ユニクはまるで知っているかのように鮮やかな動きだった!」



 ……知ってるんだよッ!!絶望の果てをなッッ!!


 俺が絶句しながらも行動を起こせた理由。

 それは単純に、アレが何なのかを思い出したからだ。


 アレ――『帝王機・エゼキエル』は、ソドムが所有している失われし伝説。

 遥か昔に繁栄したとされる、魔導枢機霊王国に存在した魔導巨人だ。



「リリン、俺はアレに似てる奴を見た事がある。というか、クソタヌキが俺に向かってアレを召喚するのは2回目だ」

「えっ!?そうなの!?」


「そうなんだよ。当然、記憶を無くす前の話だから召喚に至る背景は分からないが……手も足も出なかったのは覚えてる」

「えっ!?英雄見習いだったユニクでも勝てなかったの!?」



 勝てる訳ねぇだろ。巨大タヌキロボだぞ。巨大タヌキロボ。

 泣きながら逃げだすので精一杯だったぜ!


 信じられない。と素っ頓狂な声を上げるリリン。

 流石の大魔王様も表情が強張り、俺の服を強く握って動揺してる。

 ちっ!俺だけは冷静じゃねえと、一気に窮地に立たされそうだ。


 って、もう窮地だろ!?どうすんだよこれ!?



「そんな……過去のユニクでも勝てないなんて」

「しかも、だ。俺の知ってるエゼキエルは黒かった。更に見るからに装甲が分厚くなってるし、肩に飛行ユニットも付いてなかったはずだ。どう考えてもパワーアップしてやがる」



 きっかけさえあれば、エゼキエルの詳細を思い出すなんて造作もない。

 ……トラウマだからな。


 浮かび上がってきた黒いエゼキエルとさっきの白いエゼキエルを見比べ……、あらゆる面が強化されているのを察した。

 昔の時点でまったく勝てる気がしなかったが……。


 ……うん、まるでカツテナイ。

 つーか、何があってそうなったんだよ、クソタヌキ!?

 前のエゼキエルで十分カッコ良かったぞ!!だから元に戻せッ!!



「確かに、右腕が巨大な重火器だった。あんなの凄い。レジェやメナフですら持って無い。カミナが見たら喜びそう!」

「カミナさんに見せたら喜ぶ?病院になんつうもんを付けるつもりだよ!?」



 確かにカミナさんなら喜びそうだな。

 そして、仕組みを理解した後は量産され、実験体なミニドラに装備されることになる。

 ……がんばれ、ロイ。

 ピエロドラゴンの配下に、機械竜軍団が加わりそうだぞ。


 って、ロイなんてどうでもいい!!

 アルカディアさんはどうした!?



「リリン、アルカディアさんが居ないんだけど、見かけなかったか!?!?」

「ん。アルカディアなら、ソドムが鎧の話をし始めた段階で逃げ出した」



 ……ちゃっかりしてんなぁ。

 というか、鎧の話を聞いて察したってのか?


 ここで電撃的ひらめきが走る。

 アルカディアさんは親父の関係者だ。

 確か記憶では、親父にエゼキエルの話をしてもまともに取り合って貰えなかった気がする。が、俺と別れた後でクソタヌキと遭遇していたとしたら……。


 ここで繋がる、点と点。

 ・エゼキエルを知る、英雄の従者。

 ・明らかにパワーアップしているエゼキエル。

 ・動作試験という、クソタヌキの言葉。


 これから導き出される答えは『白いエゼキエルは造られたばかりであり、そして、それをする必要があった』わけで……。



「マジかよ……。アレに勝ったのか……?親父……」

「どういうこと?」


「アレは強化されてるって言っただろ?それはもしかしたら、親父が前のエゼキエルをぶっ壊したからなのかと思ってな」

「それはつまり、ユルドルードはアレに勝てると?」


「どんな状況だったかは不明だが、たぶん間違いない気がするぞ」



 とは言ったものの、にわかには信じられねぇ。

 あんなのに勝てるってのかよ、親父。

 伊達に全裸英雄やってねぇな。尊敬するぜ!!


 適当に親父へ憧れを抱きつつ、目の前の状況を考察してゆく。

 一応、命の保証は取りつけている。なら、次に俺がやるべき事は……。



「リリン、出来る限りの事はやるぞ。エゼキエルを迎え撃つ」

「……分かった。私も頑張りたい」


「まずは状況把握、というより、目標設定だな」

「ん。エゼキエルに対抗する手段があるの?」


「俺が一つ、リリンが二つ対抗できる可能性を持っている。特にリリンの方は信頼性が高い」

「私も持ってる……?」



 俺のヒントを頼りに考え込むリリン。

 恐らくだが、その脳内で様々な選択肢を閃いては捨ててを繰り返しているのだろう。

 そして、すぐに答えに思い至ったようだ。


 リリンの口には、希望を頂く白天竜を召喚する笛が咥えられている。



「ピィィーー!……ユニク、これで合ってる?」

「正解だ。ホロビノはクソタヌキのライバル。つまり、エゼキエルと何度も戦ってるはずだからな」



 クソタヌキとホロビノは、それこそ数千年規模でライバルだという。

 一応ドラゴンであり、成長すれば20mを軽々越すであろうホロビノが、体長50cmのクソタヌキに苦戦していた理由。

 それはエゼキエルの存在があったからに違いない。


 ならば戦い慣れてるホロビノを呼ぶのは有効な手だ。

 リリンのペットだし、反則にはならないだろ。



「だが……。懸念するべきは、ホロビノも白いエゼキエルを知らない可能性があるって事だな」

「大丈夫。私のホロビノは強くてカッコイイ。ロボットなんかに負けたりしない!」



 ……でも、勝つ手無いからこその、クソタヌキなんだよなぁ。

 一抹の不安があるが、ホロビノだけに任せる訳じゃないし、逃げようものなら後でお仕置きをしよう。



「ユニク、私が持つ二つ目の対抗手段って白銀比様を呼ぶ札だよね?」

「そうだ。いつでも使えるようにしつつも、……今回は可能な限り温存しておく」


「了解。私達の腕試しが目的なら、白銀比様を呼ぶのは目的にそぐわない」



 これが、人類滅亡の危機だというのなら速攻で呼んでるが、そうじゃない。

 ここは温泉郷の敷地内っぽいし、その内ギンも勝手に出てくると思うけど……。俺達から呼び出すのは危険が差し迫った時。

 具体的に言うなら、白いタヌキ(エデン)とか、黒いタヌキ(ゲヘナ)とか出て来た場合だ。



「それで、ユニクが持つ可能性って言うのは?」

「これは希望的観測になっちまうが……。グラムを新しい形態に覚醒させて、まともに戦ってぶっ壊すって話だ」


「なにそれ、すごい!!是非やって欲しいと思う!!」

「そうだな。頑張ってみるぜ!」



 ……死なない程度に。


 そう、この作戦には大前提として、俺が追いつめられるという死亡フラグが存在する。

 もともとクソタヌキと戦おうと思ったのも、背水の陣を演じてグラム覚醒のきっかけを得るためだが……。


 うん、『背水の陣』というか、すでに『万事休す』な気がしてならない。

 生き残れるのか?俺。



「という事で、エゼキエルと戦いたいんだが……アレと戦う為の戦略がまるで浮かんでこない。どうにかならないか?リリン」

「私は魔導師。魔導師とは『魔法を使い導く者』であり、その真価は戦略を組み立てる事にある」


「おう、頼りにしてるぜ。リリン!」

「ふふ!任せて欲しい!!」



 そう言って、リリンは俺の胸の中で笑った。


 俺とリリンが格上相手に共闘するのは、これで三回目となる。

 ドラピエクロの時にはリリンは錯乱していたし、冥王竜の時はそんな余裕がなかった。


 だからこそ、リリンが何で笑ったのかが俺には理解できた。


『対等なパートナーとして、肩を並べて戦えるのが楽しい』


 きっとリリンも、俺と同じ気持ちに違いない。



 **********




「とりあえず起動させてみたが……。だいぶ使用感が違うな」



 ユニクルフィン達が逃げ出した後も、エゼキエルは草原にてそそり立っていた。


 ソドムは異空間にある操作ユニットの中央で思案を巡らせ、行動を起こしていない。

 その数千年の英知を以てしても、まず何から手をつければいいのか迷っているのだ。


 以前のエゼキエルリミット=ソドムは旧型であり、内部の操作ユニットは、ほぼ、魔導枢機エゼキエルのままで運用していた。

 そこは誰に何を言われようとも聞き入れなかった、ソドムのこだわり。

 その由来に大きな関わりを持つムーに言われても首を縦振らなかったのは、ホロボサターリャから”託された”との思いがあったからだ。


 だが、ソドム自身も気が付いていた。

 続々とモデルチェンジを繰り返すエルドラドやゴモラの帝王機に比べ、操作性や機動性が数段階落ちている事を理解していたのだ。



「新型の摂食心核ライフエンジンは起動中だし、増幅走行フレームも問題なく稼働中。後は走行信号を出せば走り出すはずだが……。ん?これは?」



 前足と後ろ脚に直接的に嵌めこまれている腕輪型の操作ユニットの他に、無数のレバーやボタンが目の前にあった。

 以前のエゼキエルは手足から思念を読み取り動作させる方式であり、そのサポートとして僅かなレバーや引き金があった程度。


 見るからに違う操作性にソドムは困る……が、そこはタヌキ帝王。

 すぐに自分の悪喰=イーターを呼び出し、那由他の悪喰=イーターを通して、ムーの悪喰=イーターから説明書をダウンロード。

 脳内で説明書を展開構築し、一通りの機能を理解した。



「ふむ、操作自体は前と変わらんのか。だが……なるほど、こっちのキーボードは遊び心ってやつだな?ムー?」

『ピンポーン!正解!!と言いたいけど、ちょっち違うんだよねー』



 このコクピットにはソドムしかいない。

 だからこそ、この軽快な声は備え付けられているマイクから流れているものだ。


 まるで楽しげな声の持ち主はムー。

 このエゼキエルを創り上げた、主任技術者の一匹である。



「飾りじゃないのか?」

「ちっちっち、違うんだよねー。カミナっちの知識ではさ、脳の構造的に腕に流れる神経信号を読み取るより、そういうアナログな操作ボードを介した方が駆動の精密性が上がるらしいんだよ」


「なに!?そうなのか?」

「無意識の神経信号より、目的を持った神経信号の方が速くて強いらしくてさ。実験した結果、ボードを操作する為の信号を受信する事で僅かなブレが無くなるんだよね」


「ほう?だが、トリガーを引いたりすると反応が遅れそうだがな?」

「実際にはトリガーを直接持たなくても良いんだ。それを意識する事と、操作ボードが入力を受け付ければ良い」


「そうか。操作ボード自体が自立して動くんだな?」

「そう。正確には、そのボードと腕輪とソドムっちの脳がリンクしてる。ボードの裏側にも頭脳処理媒体があって、そこでは別角度から情報の精査を行い、より精度の高い情報がソドムっちにカムバックされるってわけ」



 ちょっと人類には付いていけなさそうなこの会話も、実際は人間であるカミナが考案したものだ。

 ソドム、そしてムーがカミナに興味を持った理由。

 それは当然、人間にしては隔絶した機械知識を持っていると知ったからだが、真に期待していたのは、生物学――医者としての知識だった。


 機械工学では、この世界でムーよりも詳しい生物はいない。

 だが、機械工学に精通するあまり、ムーはそれ以外の知識が疎かになる傾向があった。


 もちろん、一般的な知識は悪喰=イーターを通して知っている。

 それでも、タヌキが知る訳がない人体工学などは、カミナの方が上だったのだ。



「というわけで、カミナっち考案のギミックを結構積んでてね。ソドムっちが使いこなせるかは別として、一通り動作チェックをして欲しいんだよね」

「馬鹿言えよ。俺が使えない訳ないだろ」


「だね!ソドムっちはエゼキエルの操作が超上手いし期待してるよ!」

「ちなみに、何処から観測してるんだ?いるんだろ?」


「もちろん。カミナっちと一緒に現地入りしてるよ。心配ご無用!」

「そうか。そんじゃまぁ、いっちょやるとするか。……《行くぞ!エゼキエルッ!!》」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ