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第6話「魔道師たるもの」

「そろそろ私もユニクと稽古をしたい。遊びたい!」

「お、おう。よろしく頼みます」


 

 瞳を輝かせて、いや、ギラつかせながら俺の事を見据えるリリン。

 俺よりも身長が低いせいで上目遣いなのだが、何となく可愛さを感じられないのは気のせいだろうか?

 気のせいという事にしておこう。


 というか、「遊びたい」とはどういう事なんだ?

 具体的には、俺『と』遊びたい。なのか、俺『で』遊びたい。なのかで大きく意味合いが違ってくる。

 ……主に命の危険的な意味で。



「さぁ、ユニク、午後の訓練を始めよう」

「ちょっと待て。その前に聞いておきたいんだが、体で語り合おう(ボディランゲージ)ってなんだ?」


「それは特に意味が無い。師匠達が肉弾戦訓練の事を体で語り合おう(ボディランゲージ)、略して、『ボディラン』と呼んでいたので、つい使ってしまった」

「……そう、なのか?」



 ははは、なんだ、そうだったのか。

 そんな言い回しで女の子に誘われたらドキリとしてしまうじゃないか。

 実際ドキドキしている。色んな意味で。



「さて、ユニクには選択肢が二つある。一つ目は剣技中心に攻め立てられるか、もしくは魔法中心に攻め立てられるか」

「いやいやいや、攻め立てないでくれよッ!優しく丁寧に、そうだな……先ずは魔法から教えて欲しいかな?」


「それは意外。一にも二にも剣技を教わりたいと言うと思ってた」

「あぁ、そうなんだけどな。黒土竜と戦ってよく分かったよ、生活魔法だけじゃ辛すぎる」



 この一週間、黒土竜達と戦いに明け暮れ分かったことは、戦闘において、いかにして魔法でサポート出来るかが重要だということだ。

 そう、黒土竜達は竜鱗化ドラゴンハイボディをバッチリ使いこなしていたのだ。


 体の一部分を数分間だけ高質化する魔法だが、それこそ使い方で攻守一帯の便利な魔法となる。

 例えば、頭を高質化させ繰り出す突進などは、グラムを弾かれる上に突進の威力自体も上昇してしまい、非常に対処に困った。


 ……決して、黒土竜が魔法を使えるのに、俺が使えないのが悔しい訳ではない。

 


「じゃあ今日は、魔法を中心に教える事とする。ユニク、魔法を使うにはどうしたら良いと思う?」

「どうって、……呪文唱えて、魔力を流す?」


「そう。正解。ならば高位の魔法、例えばランク9の魔法、『雷人王の掌(ゼウス・ケラノス)』ならどうすればいいと思う?」

「それは長い間修行して、訓練と実践を繰り返しながら覚えるものだろ?」


「実は違う。例え経験の無いユニクでも、今すぐに雷人王の掌(ゼウス・ケラノス)を発動することは可能」

「なんだって!?今の俺にも使えるってのか!?」



 あの煌めく白金の空が俺のものに……!

 ここ最近、憧れや羨望ばかりを抱き続けていた俺も、あんな魔法を使う事が出来るらしい。

 俺が求めていたのはこれだよ!!

 ワクワクが止まらないぜ!!



「そう。発動させるだけなら特に訓練も努力も必要ない」

「本当か!是非使ってみたいんだけど、そんなに簡単なのか?」


「基本的に文字を読めて、言葉を話せれば条件は満たせる」

「すっげえ簡単じゃないか!早速教えてくれ!!」



 魔法ってのはそんなに簡単なのか?なんて疑問は、リリンの使った魔法への憧れの前では対した問題じゃない。


 煌めく空、爆ぜるウナギ。空飛ぶ俺!

 期待と希望に胸を膨らませていると、リリンは一冊の本を召喚した。



「はい。この本が『雷人王の掌(ゼウス・ケラノス)』の魔導書。この本の呪文を一字一句間違えずに音読できれば、ユニクでも発動できるよ」



 スッと手渡された一冊の本。厚さは1cm程。

 英雄ホーライ伝説と比べて四分の一、大体100ページといったところか。

 俺は仰々しく魔導書を手に取り、最初のページをめくる。



雷人王の掌(ゼウス・ケラノス)・原典呪文』



 最初は大きな文字で見出しが書かれている。

 うん、なるほど、雷人王の掌の呪文書で間違いないみたいだな。

 

 俺は期待を胸に、次のページへと指を進めた。

 そこで待っていたのは、ページ一面を覆い尽くす文字列、もとい、呪文だった。



「《我が名を呼びしは、名だたる英傑だというのか。溢れんばかりの血を杯に満たし、槍と剣を染色したならばこそ、雷は善が元に下るる。晴れた空にすらその光は輝かさんとするならば、千の言霊では足らぬと自覚し、虚負を以て根源を求めよ。我こそは雷人の申し子。我以外は選ばれぬ者と―――》



 ……。ちょっと別のページを見てみようかな?



「《はっは。それがどうしたと言うのだ?矮小で脆弱な貴殿らの命など、塵芥と同価値と知るがよい。大気を震わせ、命を奮わせ、怒りを振りかざす我が雷は易いものではないぞ?従えたくば、先ずは―――》」



 えぇい!次だ、次!



「《うぅむ、話してやろうか。その秘められし魔導の機構をな。昔、昔の事じゃった。在るところに、せ―――》」



 もっと次だ!いや、いっそのこと最後のページに行くぜ!



「《知り得たか?ならば今こそ、我が終の魔陣にて抱かれ、雷鳴と共に消えるが良い。雷人王の掌(ゼウス・ケラノス)》」

「以上が『雷人王の掌』の原典呪文となります。ご愛読、有難うございました。」



 ……長ぇよッッッ!!!!


 どこら辺が呪文なんだよッ!?

 本になってるじゃんッッ!

 明らかにストーリーっぽいし、途中に過去編入ってたじゃねぇかッッッ!


 つーか、最後なんだよこれ!?『ご愛読有難うございました』って、この魔法、攻撃呪文だったよな?

 なんでお礼言われてんのッッッ!?!?攻撃させる気が無ぇだろうがッッッ!!!



「……ユニク、折角だし唱えてみる?」

「やらねぇよッ!!なんだよこれ?リリンが使った時はもっと短かっただろ?本一冊まるまる呪文ってどういうことだよッ!?」



 あぁ、ツッコミが湯水のごとく湧いて出てくる。

 そりゃそうだろう。魔法を使おうと思って呪文唱えたら、朗読劇になっちまうんだから。

 何を言ってるのか、自分でも意味が分からない。



「確かに、魔法というものは決められた『原典呪文』を読み上げることで誰でも簡単に発動できる。しかし、実用性は皆無であり、それらを省略し簡略化させて、始めて魔法を習得したということになる」

「……それってつまり?」


「魔法の習得には相応の時間がかかる。特にランク9ともなれば人生を費やしても不思議じゃない」

「結局は使えねぇんじゃん!」


「まぁ落ち着いてユニク。息を吐いて吐いて吐いてー。吸うと見せかけてまだ吐いてー。ついでに魂も吐きだしてー」

「死んじゃうだろっ!あ、でもちょっと落ち着いてきたかも」



 期待していた分、裏切られた衝撃は凄まじかったが、落ち着いて考えてみれば簡単な訳がない。


 だってあんな魔法が簡単に使えるならば、人どころか生物が根絶やしになっていてもおかしくないし。

 全長15mの鰻を一瞬でこんがり焼いてしまうほどの威力。

 もし、町などに向かって撃たれたら……?


 あぁ、確かにそりゃあ、『灰塵が尽き無い』だろうな。



「で、結局、俺は魔法を使えるのか?」

「どうだろう。魔法には適正というものがあり、その適正が高ければ高いほど呪文が短くなると言われている。最終的に熟練すると魔法名だけで発動できるようになる」



 なるほど、だからリリンは簡単な呪文で雷人王の掌を発動できるわけだな。

 しっかし、魔法の適正……か。

 俺にあるのだろうか?

 ここは是非、英雄の実子ということで特殊な力に目覚めて欲しい。

 物語の主人公的な最強の力とかあってもいいんだぜ?


 ……ないかな?……ないよなぁ。



「さてと、ユニクは何の魔法系統が得意なのかテストをして貰おうと思う。どんな結果が出るのかすごく楽しみ」



 リリンはリリンで、すっごく楽しそうだ。

 不思議だな。あんまり表情が変わらないのにリリンの感情が俺には手に取るようによく分かる。


 ちらりと横目で、リリンの表情をもう一度確認。

 ……うん。俺『で』遊んでいるな。間違いない!!


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