第83話「続々・英雄覇道(表)覚醒へと至る道」
「うおらぁぁぁッッッ!!」
「ふん!」
バギィィィィィィッッッ!!と激しく刀身が軋み、俺のグラムは弾かれた。
……親父の素手に。
お取り込み中なギン抜きで4度目の訓練を始めた俺は、颯爽と筋トレを突破。
腕立て・腹筋・スクワット1000回ずつを25分で終え、待ち構える英雄全裸フルフル親父へと特攻を仕掛けた。
……が、まるごし全裸親父にはグラムがまるで届きやしねぇ。
どんな角度で斬り掛ろうと、親父は素振りで絶対破壊の波動を飛ばし、相殺してきやがる。
一時間ほど色々と試してみたが……今の所、攻略の糸口は見えない。
「どうしたユニク。まだグラムを支配できねえのか?こりゃぁ、リリンちゃんの尻に敷かれる日も近いな」
「……。残念な事に、もう敷かれてるぜッ!!」
「尚更ダメじゃねぇか。もっと頑張れよ」
この丸腰フルフル親父めッ!精神攻撃まで仕掛けてくるんじゃねぇよッ!!
絶対にグラムを支配下に置いて、ぶった斬ってやるからなッ!!
俺は昨日同様、惑星重力制御を封印された状態でグラムを振るっている。
つまり、50kgもの金属の塊を振り回して、人類最強に攻撃を仕掛けているわけだ。
ハッキリ言って、無茶苦茶だと思う。
唯でさえ絶対的な力の差があるというのに、使い慣れない武器、それも武器と言えるのか非常に疑わしい金属の塊で攻撃を当てるなど、クソタヌキが見ていたら鼻で笑われるレベルな気がするし。
だが、この方法が最も効率が良いらしい。
「親父、もう一度確認するが……、この状態で訓練をする事がグラムを支配下に置く近道なんだよな?」
「そうだ。神殺しってのは大抵二つの能力を持っているが、グラムはまったく系統の違う能力がセットになってる。両方が扱える状態より、片方が封印されてる状態の方が分かり易いからな」
戦いながら受けた説明では、神殺しには二つ以上の能力があるらしい。
グラムには『絶対破壊』と『惑星重力制御』。
セフィナの持つメルクリウスには『魔法』と『魔術』。
白い敵の持つシェキナは『想像』と『創造』。
このように神殺しは二つの能力を秘めているが、通常、能力同士は競合し、お互いを高め合うようになっている。
だが、グラムの二つの能力はそこまで競合性は無く、それぞれ独立した能力として使用した方が強力な攻撃ができるようになるというのだ。
「ユニク、神殺しってのはな、使用者と深く結びついた時に『覚醒体』と呼ばれる状態になる。それは知ってるよな?」
「あぁ、知ってるし使えるぞ。もっとも、能力が封印されてる今は使えないみたいだがな」
「神壊戦刃グラム=神への反逆星命か。だがそれは覚醒グラムの初期段階であり、もっとも初歩的な……言っちまえば、初心者用の覚醒だぞ」
「なんだって!?」
俺の最大最高戦力の神への反逆星命がお手軽初心者セットみたいに言われたんだけど!?
ちょっとそれは聞き捨てならねえぞ!!
「いやいや、初心者用ってどういう事だよ?グラムの覚醒ってそんなに一杯あるのか?」
「ある。……というか、覚醒ってのは本来、使用者個人専用の技で、使用者の数だけ覚醒体があるんだ」
「個人専用?だけどさ、親父も神への反逆星命を使ってただろ?」
ギンが酒に酔った勢いで出しやがった牛鳴灼火・ファラリスタウラスを真っ二つにした時に、親父はグラムを覚醒させている。
そん時は俺と同じ技を使ってこうも威力が違うものかと感嘆を抱いたし、間違いないはずだ。
「だから神への反逆星命は初心者用だっつてんだろ。つーか、アプリが調べた話じゃ、その状態がグラムの基本状態で、普段お前が所持しているグラムは封印状態にあるんだと」
「そうなのか?だが、普通の状態でも絶対破壊を使えるぞ?」
「それは本当の絶対破壊じゃねぇ。一撃で破壊出来ない物が割とあるだろ?」
確かに、言われてみればそんな気もする。
というか、英雄全裸親父に傷一つ付けられねぇ。
「そうだな。今の所、親父を切り捨てられそうもない」
「切り捨てる気でいるのかよ……。話を戻すが、神への反逆星命ってのはグラムの初期段階。神殺しを扱う資格がある者が最初に辿り着く境地だ」
それから続いた親父の説明では、『神殺し』とは、使用者が持っている才能を増幅させ神の領域へと届かせる為の武器であるという。
そして、神壊戦刃・グラム=神への反逆星命とは、より深く使用者とグラムを結びつかせる為の準備段階。
この状態のグラムを使い続ける事で、俺の持つ才能がグラムと融合し、専用の覚醒体が生まれるというのだ。
「そしてユニク、お前には神壊因子がある。言うまでもないが、それは神から与えられし才能であり、当然それは――」
「絶対破壊を持つグラムと親和性が高い……だな?」
「そうだ。神殺しの能力っつーのはな、神の因子を参考にして創られたという話もある。つまり、グラムの絶対破壊はお前の持つ『神壊因子』を元に造られた可能性もある訳だ」
神をも殺す破壊の刃と謳われたグラムと同じ能力が、俺に宿っている?
それはつまり、俺はグラムの化身だという事で、もしかしたら素手を振うだけで絶対破壊の波動が出せるのかも……って出せる訳ねぇだろ!!俺は人間だぞッ!!
親父もグラムと魔法空間で接続しているからできる芸当だし、流石にそんな事は出来ないと思いたい。
……素手でクソタヌキを爆裂させられたら楽しいと思うけど、そもそも、奴らと素手で戦う勇気が俺には無い。
「結局、覚醒させない事には話にならないけどな!」
「くっ、自分が出来るからって調子に乗りやがって……」
「まぁ聞けよ。グラムの覚醒体には二つの系統がある。『惑星重力制御型』と『絶対破壊型』だ」
「だろうな。察するに神への反逆星命はどっちにも寄って無い基本形って事か?」
「分かってきたじゃねえか。で、実は俺は、惑星重力制御型の方が相性が良い。別に絶対破壊の覚醒体を使えない訳じゃねえがな」
「へぇー。そんな脳筋みたいな体つきしててスピードタイプなんだな?」
「悪かったな、ゴツイ身体しててよ!謝罪の代わりに拳でも受け取ってくれ。ふっ!」
ぐぁぁぁぁ!!脇腹がッ!!
腕っ節じゃ勝てないからと言葉攻めしてみたら、普通に腹を殴られた。
それは一見してただのジャブ。
だが、英雄のジャブは伊達じゃなかった。
拳が脇腹に着弾した瞬間、纏っていた第九守護天使が崩壊。
砕け散った魔法の残滓が煌めく中で、俺は遥か後方に吹き飛ばされた。
滞空時間が長かったから受け身を取る暇があったが、場合によっちゃ重傷を負うとこだぞ!?
今日はギンがいないから程ほどにするって言ってただろ!!
「ガフッ!ガフッ!ぐるげぇ……」
「なぁ、そのちょくちょく挟まる『ぐるげぇ』ってのはなんなんだ?」
「……しいて言うなら、俺の才能かな」
「おう、それを才能というのはやめとけ。グラムが奇妙な鳴き声を上げだしたら堪らん」
「……。確かに」
うおおおおお!覚醒せよッ!!《神壊戦刃グラム・女王様への親愛声明ッ!!》
……。
…………。
………………。
本気の戦闘をするとゲロ鳥が寄ってくるとか嫌過ぎる。
というか、間違いなくワルトとクソタヌキに爆笑されるだろ。
「よし、ふざけるのもこれくらいにして、さっさと親父をブチ転がすぜ!」
「ふざけてねえんだな?それは俺を挑発してるって事で良いんだよな?」
あぁ、それでいいんだ。親父。
口に出して言う事はねえが、これこそが俺の作戦なんだから。
俺がグラムの新しい力を手に入れる時は、いつだって絶体絶命のピンチだった。
だから今回も命の保証がある温い訓練じゃなく、死を感じるような状況になれば新しい事が出来るようになるかもしれないと思ったのだ。
親父は拳を構え、ゆらゆらと揺れている。
その眼光は鋭く、まるで獲物を狙うタヌキのようだ。
「いくぞ!ユニクッ!!」
「こいッ!!英雄丸腰全裸・ユルユルおパンツおじさまぁぁぁッッッ!!」
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「がはっ……がはっ……」
「ちっと痛めつけすぎたな。少し休憩するか?ユニク」
た、確かに俺は、死を感じるような状況が好ましいと思った。
けども!!これは流石にやり過ぎだろッッッ!?!?
俺の挑発に乗った親父は、期待通りに粗ぶってくれた。
具体的に言うと、今まで素振りだった拳が俺に着弾するようになり、更に蹴りまで飛んでくるようになった。
そして、途中途中に挟まる『命を巻き戻す時計王』なる謎の魔法。
あ、俺、死んだ?って思った時には大抵飛んでくるので、たぶんこれは回復魔法って奴だな。
臨死→回復→臨死の無限ループとか、まじ怖い。
「で、グラム覚醒の光明は掴めたか?ん?」
「つ!?なんでそれを!?」
「そりゃあ簡単な話だ。これと同じ事を昔やられたからな。お前が8歳の時に」
「……もしかして、俺、知能レベルが8歳児並みなのか……?」
昔もやってたなんて、恥ずかしいなんてもんじゃねえぞ!?
記憶が無い弊害がこんな形で出てくるのかよ!?
色んな意味でショッキングだが、落ち込んでいる暇はない。
なにせ、親父に痛めつけられたにもかかわらず、まったく何も思いつかなかった。
うん、痛い思いをしただけとか、ホント何やってんだと思う。
「これじゃ埒が明かなそうだな?少しコツを教えてやるか」
「コツがあるのかよ。そういうのは先に言って欲しいんだが」
「本当の天才ってのは、何も言わずにできるもんだぞ」
「ちなみに親父は?」
「俺か?俺はじじぃに散々痛めつけられたが?」
「それを聞いて、ちょっと安心したぜ」
本当の天才は直感で出来るとか言うから親父もできたのかと思った、が違うらしい。
じゃあ誰の事を言ってるんだよ!?と思うが、たぶん、アプリコットさんかダウナフィアさんのことなんだろう。
「ユニク、グラムに魔力を循環させているだろ?それを意図的に乱してみろ」
「……こうか?」
グラムを握る手に力を込め、無理やり魔力を流し込む。
すると帰ってくるのは増幅された魔力の反動。それを押し返したり逆に受け入れたりしながら、魔力の波を作ってゆく。
「ん?なんか変な感じがするな?俺とは別にもう一つ、波の発生源がある?」
「それがグラムの核だ。それの出す波とお前の波が一致した時に覚醒体が発動する」
「ほう?」
「ここで大事なのが、お前がグラムの波に合わせるんじゃ無く、グラムの波をお前に合わさせる。それが支配下に置くって事だ」
「波を一致させるだけなら、俺がグラムに合わせた方が早いだろ?」
「それだと、他の誰かがグラムに干渉を仕掛けてきた時に簡単に支配権を奪われる事になるぞ。今、俺がやってるようにな」
「なるほど。この波は親父が立ててんのか」
「そうだ。そして、俺がワザとさざ波立ててるから惑星重力制御がつかえねぇし、神への反逆星命も出来ない。まずはこれをお前の波に塗り変えろ」
親父から貰った具体的なヒント。
非常に分かり易く、こんな説明ができるなら最初から言って欲しいと本気で思う。
そこら辺をやんわりと言ってみたら、どうやらこれは、じじぃから受け継いだ伝統らしい。
……ブン殴りたくなる系の村長の顔が脳裏に浮かぶ。
グラムの真の覚醒が出来るようになったら会いに行くから、待っててくれ。村長。




