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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第79話「知られざる疑惑」

「ただいま~」

「ただいま~」


「って、誰もいないけどな」

「……タヌキがいる可能性が僅かにあると思う」


「訓練で疲れてるのにボス戦だとッ!?」



 手から絶対破壊の波動を飛ばしてくる英雄全裸フルフル親父との訓練を終え、俺達は部屋に戻ってきた。

 時間的には朝4時って所だな。

 うっすらと朝日が昇り始めたのを見た親父がそろそろ上がろうと言い出し、アプリコットさんが賛同。


 結局、俺は一度も親父に攻撃を当てられずじまいで、不完全燃焼だ。



「ふぁーあ。リリンの方はどんな訓練だったんだ?」

「ん……。私は……。」



 あれ?随分と眠そうだな?

 どうやら、リリンはアプリコットさんと魔法の勉強をしていたようで、基礎学習を終えた後で実技をしつつ、魔法理論について話し合っていたっぽい。

 当然、激しい運動はしておらず、肉体的よりも頭脳的に疲れているようだ。


 そして、リリンは夜ぐっすり寝るタイプ。

 勉強中は気が張り詰めていたから何とかなっていたらしいが、訓練を終えた瞬間から口数が少なくなり、今じゃ殆ど寝かけている。


 こくりこくりと頭が揺れ始めたリリンを誘導して布団に座らせ、俺も自分の布団を用意。

 よし、これで戻ってきたらすぐ寝られるな。



「じゃ、先にリリンは寝てていいぞ」

「ん。ユニクはどこ行くの?タヌキを探す……?」


「タヌキは探さないぞ。ちょっと汗をかいたから風呂に入ってくるだけだ」

「そうなんだ……。ん、いってらっしゃい……」



 昨日と違い、俺は体力的に余裕がある。

 前回の訓練は休みなく筋トレをしていたが、今回は親父との戦闘訓練が中心。

 ずっと身体を動かしていたものの、効率よく身体を動かす事を覚えた俺は、適度に手抜き……休憩する事を覚え、持久力を得ているのだ。


 さて、リリンは布団に速攻で包まって寝息を立て始めたし、俺も風呂に行くとするか。

 ……いつ匂いを嗅がれてもいいように、念入りに洗っておこう。



 **********



「ぐるげ~ぐるげ~ぐるぐるげ~~」



 鼻歌交じりに廊下を歩き、俺は温泉にやってきた。

 実は、結構温泉に入るが楽しみだったりする。


 一昨日は浮かんだり沈んだりしている内にセフィナが乱入し混沌と化したが、昨日の朝は普通に温泉を楽しむ事ができた。

 その時にゆっくり漬かる事ができた俺は……温泉の素晴らしさに目覚めているのだ!


 それはまさに、極楽浄土。

 この宿の温泉は、温泉郷の中でも最も湯船の数が多い。

 昨日は目に付いた順に入ってみたが、結局、半分くらいしか入れなかった。


 数が多すぎて回り切れなかったというより、炭酸風呂にどっぷり漬かって満足したのが原因。

 他にも、電気風呂とかラベンダー風呂とか気になっているのがいくつかあったが、今日のお楽しみにと取っておいた。



「さ!ゆっくり漬かるぜ!……ん?あれは?」



 温泉の暖簾のれんに手を掛けた瞬間、曲がり角から人影が近づいてくるのが見えた。


 ……ん、こんな早朝に誰だ?

 朝風呂にしたって早すぎるし、夜勤明けに風呂に入りに来たってことか?

 なんとなく誰が来たのか気になったから待っていると……その人影は、可愛らしい獣耳と尻尾をフリフリさせていた。



「帝主さまなのです?」

「おう。おはよう、サチナ」


「おはようございますなのです」

「サチナも風呂に入りに来たのか?」


「そうなのですよ。今日の朝は厨房のお手伝いの日なので、体を清めにきたです」



 へぇー。流石、宿自慢の幼女将おさなおかみ

 衛生管理もしっかりしてる。



「厨房に行く時はいつも風呂に入るのか?」

「当然なのです。サチナが厨房に入る時は尻尾と耳を念入りに洗うのです」



 さらに櫛でしっかりブラッシングもして、専用のかっぽう着に着替えるという念の入れよう。

 万が一にも毛が混入しない様に気を使っているらしい。



「帝主さまもお風呂に入るです?」

「おう、ちょっと汗をかいちまってな」


「じゃあ、一緒に入るですよ」



 ……なんだって!?


 ……。

 …………。

 ………………いや、別に驚く事じゃないな。


 サチナの年齢は8歳。

 いくら女の子だといえど、意識をするのはおかしい年齢だ。


 ……うん、だから大丈夫、だよな?

 具体的に言うなら、ビッチの血を引いているけど大丈夫だよな?

 油断してたらギンが乱入してきて、美味しく召し上がられるとか……ないよな?

 一応確認しておこう。



「ちなみに、サチナは一人でここに来たのか?」

「そうなのですよ」


「……ギンは?」

「母様は『ふぁー。寝るなんし』って言って、寝床に潜ったですよ?」


「そうか。じゃ、入るか」

「なのです!」



 ギンが寝てるのなら一安心だ。

 サチナは静かな方だし、俺もゆっくり温泉に漬かる事が出来る。

 それに、どの温泉がお勧めだとか聞けるし、玄人向けの温泉の楽しみ方とかも知っているかもしれない。


 よし!こうなったら、サチナと一緒に温泉を満喫するぜ!!

 俺はサチナに続いて暖簾をくぐり、適当な脱衣籠に服を脱いで入れて行く。

 そして、しっかりと腰布を装備して……よし、準備完了だ!



「サチナ、俺は準備できてぇえぇえええええええ!?」

「?帝主さま、温泉で騒ぐのはマナー違反なのです。め!なのですよ」



 いや、それは分かってるッ!!

 だけど、だってそれ、そ、その……。


 …………尻毛がッッッ!?!?!?

 なんだその、流麗な尻毛!?

 どっかで見たことあるんだけどッ!!



「さ、サチナ……そのなんだ……。その、し、尻毛は……?」

「尻毛?あぁ、これはお尻の毛じゃないですよ。尻尾なのです」



 ……えっ。

 だってそれ、どう見ても尻毛なんですけど。

 俺の初恋を爆殺した、恐ろしき悪夢なんですけど。


 ど、どういうことだ……?



「待ってくれ、それって尻尾なのか?」

「そうですよ。このとおりです」



 そういってサチナは尻毛……もとい、尻尾をブンブンさせた。

 うん。そうしてみると尻尾にしか見えないな。

 ホロビノも納得する程の、良い振りっぷりだし。


 ……。

 …………。

 ………………えっ。



「えっ。えっ?アルカディアさん?」

「帝主さま、どうしたですか?サチナの尻尾に興味があるですか?」


「いや、そうじゃなくて、ちょっと考え事を」

「……悩み事なのです?サチナでは解決できないです?」


「あぁ、ちょっとな」

「そうなのです?じゃ、後で主さまに伝えておくです」



 いやいやまてまて、あり得ないだろ!?

 アレが尻尾だというのなら、アルカディアさんも人間じゃないって事になっちゃうだろうが!?!?


 唐突に判明した、あり得ない仮説。

 それに思い至った瞬間、俺の頭の中でアホタヌキが高らかに鳴いた。

 ……お前は呼んでない。どっか行ってろ。しっし!!



「じゃあ、サチナは先に行ってるですよ」

「お、おう」



 おおおお、落ち着け、俺ッ!!

 いくらアルカディアさんがタヌキ少女だと言えど、タヌキそのものなはず無いだろ。

 これはきっと、タヌキをリスペクトし過ぎて、尻毛を尻尾っぽく伸ばし……そんな奴いねぇだろ。常識的に考えて。


 混乱する俺。

 静まり返る脱衣所。

 閉まった扉の奥から響いてくる湯の音を聞いても、まったく心が安らぐ気がしない。


 あぁ、疲れを癒すどころじゃねぇ。

 ……精神が!!アホタヌキに蝕まれてゆくッッ!!



 **********



「おかえり、ユニク」

「お、おう。起きてたんだな……リリン」



 アレから湯船に漬かる事、約2時間。

 思いのほかゆっくり入っていた訳だが……、全然、心が休まらねぇ。


 まぁ、汗臭いのは取れたし、身体の凝りも解れたから良しとしよう。

 俺は、火照る身体にラベンダーの匂いを纏わせて、朝飯を食べてるリリンの向かい側に座った。



「美味そうだな。俺の分はあるか?」

「ない」


「……え。」



 え?マジで?

 いつもなら俺の分も頼んでおいてくれるよな?


 そういえば、何処となくリリンの雰囲気が重い。

 というか、これ……平均的なジト目だな……。


 あれ!?どこで地雷を踏んだ!?



「じぃー。もぐもぐ」

「……。なんかすまん」


「何に対して謝ってるの?」

「……。そのジト目に対して……かな」


「むぅ!ユニクはなんにも分かっていないと思う!!」



 あ、やべ。頬まで膨らんだ。

 このままじゃ間違いなく襲われる。もちろん、そのままの意味で。


 風呂上がりに美少女に襲われるなんて夢のような展開だが、それはただの美少女の話だ。

 俺の目の前にいるのは美少女ではなく……微笑な魔王。

 こんな薄い浴衣一枚じゃ、到底耐えきれない。



「あぁ、確かに何の事かさっぱり分からねぇ。もしかして、一人で風呂に行ったのがダメだったのか?」

「一人じゃないって聞いた」


「……あ。」

「サチナと一緒に入ったって聞いた!私と二人きりはまだなのに!!」



 どうやら、この大魔王さんは俺とサチナが一緒に風呂に入ったと聞いて拗ねているらしい。

 だが、それはほぼ無罪な気がするんだが?


 サチナは8歳だし、そもそも脳内アホタヌキと戦っていたから、そんな事を気にする余裕は俺には無かった。

 それに、サチナとは湯船の中でゆっくり話しをしていない。

 30分後には厨房に行かないといけないらしく、サチナはテキパキと体を洗うと「ではでは、ごゆっくりなのです~」と言って出て行っちゃったし。


 そんな感じの事を言いつつ、リリンをなだめながら俺も朝飯を注文。

 すぐに来たモーニングセットに舌包みを打ちつつ、これからの予定をリリンと立てる。



「もぐもぐ……。今日もタヌキ帝王を探すんだよな?リリン」

「もちろん探す。というか、ゴモラとセフィナを探したい」


「なるほど。確かワルトの話では、セフィナが一人で出てきたら捕まえてもいいんだったよな?」

「そう。混浴に乱入してきた時も白い敵はいなかったし、セフィナはここに一人で来ているかもしれない。チャンス」



 うん、チャンスなのは分かるんだが、目がギラ付き過ぎだろ。

 リリンは俺がサチナと一緒に風呂に入ったのが納得できていないらしく、ソーセージをフォークで雑に突き刺し、先端を噛みちぎった。


 ……その行動に深い意味は無いと信じたい。



「ん。そういえば、さっきワルトナから電話が掛って来た」

「ワルトから?なにか新しい情報でも手に入れたのか?」


「ううん。普通に雑談だった。ただなんか『僕、もう、お嫁にいけない……』って言ってた」

「どういう事だよッ!?!?」



 もうお嫁にいけないって、まず、嫁に行く気があったのかよ!?

 策謀しまくって逃げ道を封鎖した後、告白という名の脅迫をして想い人を手に入れるって言ってたじゃねぇか!



「なんか、すごく恥ずかしい事があったらしい?正直、眠かったから良く聞いてなかった」

「まぁ、呑気に電話を掛けてくるって事は切羽詰まってないだろ。放置で」


「了解した。放っておく」



 そうだ、今はワルトの初恋に構っている場合じゃない。

 俺の初恋の相手に尻尾があるかもしれないという疑惑の方が大事だしな。

 ……だけど、それも後で考えよう。



「ふぁ~あ。風呂に入って飯を食ったら急に眠くなってきたな。俺もちょっと仮眠をとるぜ」

「ん。じゃ、私も」



 俺は敷いておいた布団に入り、ゆっくりと体を伸ばす。

 あぁ、冷たい布団が気持ちいい。

 程良く身体も疲れているし、気持ちのいい夢が見れ……そうにない。


 ちくしょうッ!!

 目をつむると脳内でアホタヌキがうろうろしてやがる!


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