第77話「続・英雄覇道(裏)・出会いの物語―ホーライとメナファス―」
「幼い頃のメナファスを拾い育てた『名乗らぬ老爺』、それは紛れもなく、じじぃ。……英雄・ホーライだ」
ワルトナの計画の中で『メナファス・ファント』という存在は、偶然が重なってできた友人以上の意味は無い。
もともとメナファスは、ワルトナとリリンサ、そしてレジェリクエが結託し、フランベルジュ国の掌握を始めた際に仕向けられた刺客だった。
そして、有象無象の謀略と裏切りと葛藤の末にワルトナ達の手を取る事を選んだメナファスは、こうして心無き魔人の統括者として活動をする事になったのだ。
だが、そこには確かな策謀があったらしいとワルトナは知り、ごくりと唾を飲む。
それが意味する事、それは……自分達の旅でさえ、ワルトナが仕える主人の掌の上だった可能性を浮き彫りにするからだ。
「待っておじさん、メナファスの育ての親がホーライ様だってのはいい。だけど、それは偶然なのかな?」
「……さてな。ただ、メナファスの存在をノウィンさんは知っていたはずだ。だからどこまで計算づくかは知らねえが、たぶん、一枚噛んでると思うぞ」
そのユルドルードの言葉に思う事があったメナファスは、「くっくっく」と声を漏らすばかりで、それ以上を語ろうとしない。
だが、その瞳の中に答えを見つけたワルトナは、小さく「そんな……」と呟いた。
「まぁ、出会い方はどうであれ、オレ達は友達だろ?なぁ、ワルトナ」
「そうだけどさ。……ノウィン様、暗躍し過ぎて、まじこわい」
「で、ここまでの話はオレも聞いたんだけどよ、なんで伝説のホーライ様とやらがオレに関わりを持ったんだ?教えてくれよおっさん」
「……いいぞ。だがおっさん呼びはやめろ。俺はまだ30代だからな」
そうしてユルドルードはポツリポツリと語り出した。
その片手には茶碗。
塩気のある味噌汁で喉をうるおしながらも、その目は遥か遠くを見据えていた。
「事の発端は、俺達が蟲量大数に戦いを挑むという話になった時、じじぃが反対した事から始まる」
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「なんでだよ、じじぃ!じじぃがいればどんな強い奴でも問題ねえだろうが!!」
「そうです!ホーライ師匠がいれば文字通りの百人力ではありませんか!」
静かな村の中央広場にて、激しく言葉を荒らし、口論をする人たちがいた。
それは、英雄と呼ばれ日が立ち始めた若きユルドルードとアプリコット。
その横で、ただひたすら黙って話を聞いているノウィン。
そして、憮然としたホーライだ。
「愚かじゃ。ユルドよ、それは愚かな事なのじゃよ。蟲量大数など人が手を出して良い領域ではない」
「だから諦めるってのかよ!?あの子の命を!」
「えぇ、師匠らしくもない。万の伝説を創ったと言われているあなたに似合わない言葉だ!」
「いや、それであっておるぞ。万の伝説を作るには生き続けなければならない。決して勝てぬ戦いをしないからこそ、儂は生き続けておるのじゃから」
ユルドルードが怒声を叩きつけても、アプリコットが罵声を浴びせても、ホーライは揺るがなかった。
一貫して、ホーライの結論は『無干渉』。
ホーライは蟲量大数と戦うことに対し、一切の協力をしないと言っているのだ。
「あの子の命。それが何物にも代えがたいというのは分かっておる。特に、イミリシュアを亡くした経験を持つお前さんが熱くなる気持ちもな」
「あぁ、あんときは相手が神だった。だが、今回の相手は神じゃねぇ。倒せる方法はあるはずだ」
「そんなものは無い。600年に差しかかる儂の人生でも、かの皇には指すら届かぬ。あまつさえ、奴が守りし『ヴィクトリア』の力を借りようだなどと……」
その時のホーライの表情は……深い悲しみと憂いを秘めたものだ。
一瞬、その表情を見てほだされ掛けたユルドルードだが、その瞳の奥にある何かを感じ黙りこむ。
そして、ホーライは決定的な言葉を付きつけた。
「蟲量大数と戦うというのなら止めはせん。だが、儂は一切、協力をすることも助言をすることもせんぞ」
「……なんだじじぃ。助言すらねえとは随分だな?なんかあんのか?」
「何度でもいうてやろう。蟲量大数なぞ、人が手を出して良い領域でない。それが出来るというのなら……この儂は――」
こんばんわ、青色の鮫です!!
ちょーっといろいろ大変でして、文章が短いです。
次の更新の時に割増しますので、ご容赦ください!!
あ、リリンサの冒険の方、2章が完結してますので、そちらでもどうぞー!
(露骨な宣伝!)




