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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第76話「続・英雄覇道(裏)・出会いの物語―ノウィンとアプリコット―」

「というか、おじさんもだけど!ノウィン様がドエスなんて、根も葉もない事を言わないでよ!!」



 和気あいあいと談笑している、真っ白い黒幕一味。

 その中心人物たるワルトナは、厚い信頼を置いているおじさんに異議を申し立てている。

「そんな事を言われるとノウィン様に対する見方が変わっちゃうから!唯でさえ混乱してるのに!」と憤っているのだ。



「あー、すまん。俺は昔から一言余計だとよく言われててな」

「……そうだったよね。余計な事を言って化物を怒らせるの得意だったもんね。冥王竜をマジギレさせたもんね」

「くくくっ、まぁ落ち着けよワルトナ。このおっさんも、お前を困らせるために言った訳じゃねぇだろ。という事で、続きをよろしく!」



 憤っているワルトナとは対照的に、メナファスは酷く楽しげだ。

 メナファスの良く知るワルトナは、純粋悪辣・完全無慈悲がモットーであり、簡単に人の感情を踏みにじる加害者。

 そんなワルトナの新たな一面『恋するいじめられっ娘』を垣間見る事になり、面白すぎて腹筋が捩れそうになっているのだ。


 だからこそ、更なる爆笑を求めるべくユルドルードにお願いをした。

 ちゃっかり豊満すぎる胸を寄せて抱き付き、上目遣いでオネダリするあたり、メナファスも百戦錬磨の心無き魔人達の統括者だ。



「まぁ、ノウィンさんがドエスなのは境遇のせいだからなぁ」

「お?なんか本当に面白そうな話になりそうな予感。やるじゃねえか、おっさん」

「……え。この流れって、ノウィン様とおじさんの過去を語る感じなの?」


「ノウィンさんには内緒だぞ?」

「もちろんだぜ!大聖母に逆らうなんて恐ろしい事するもんか。攻撃されたらどうすんだよ」

「僕、もう攻撃されてるんだけど」



 やるせない感情を存分に押し出したワルトナの低い声は、控え目な抗議を呟いている。

 だが、その場から立ち去ろうとしないのは、内心では興味津々だからだ。

 それを横目で確認したメナファスは、ユルドルードに目配せをして話の続きを促した。



「今でこそ分かる事だが、ノウィンさんは大聖母であり神との対談役。そして、その席に座る事は子供の時から決まっていたらしいんだ」

「そうなの?」


「あぁ、直接聞いたから間違いねぇ。リンサベル家……というか、リィンスウィル家ってのは、不安定機構を作った七賢人の長・カーラレス・リィンスウィルの直系子孫であり、才能を持つ子は小さい頃から専用の教育をされて大聖母になるらしい」

「なるほど。ノウィン様はエリートなんだね」


「だが、そのプレッシャーに何度も何度も押し潰されそうになったんだそうだ。どんな相手にも笑顔を絶やさず、丁寧な言葉と態度を維持し、人を導く者として正しくあれ。そんな生活に嫌気が差していた時、ノウィンさんは俺達と出会った」



 ノウィンが神との対談役に任命されたのは、5歳の誕生日だった。

 その時点での大聖母――ノウィンの実の祖母『メトロノア』は病に犯されており、余命いくばくもない。

 そして、静かな病室で余生を過ごすだけとなっていた彼女は、次代の後継者としてノウィンを指名したのだ。


 代々、神との対談役たる大聖母は女性が勤めており、メトロノアの実子は男性で、その子供たちも男子ばかり。

 メトロノアの孫で唯一の女の子として白羽の矢が立ったノウィンは、幸か不幸か、その条件を満たせるだけの器量と才能を持っていた。


「頑張ったら頑張っただけ、両親が褒めてくれるのが嬉しかった」

 そんなありふれた価値観のノウィンは、聖母の意味も知らないまま、その道を歩み――やがて、『大聖母』という存在意義そのものへと変貌してゆく。

 自分を押し殺し私情を一切表に出さない、世界を安定化させる舞台装置となったのだ。


 そうして、ノウィンという個人が消えてなくなりかけた頃。

 放置できない悪ガキ三人衆+一名が、目の前に現れた。



「俺がノウィンさんと出会ったのは、セフィロトアルテの魔導学院だった」

「へぇー。おじさんって学校に行ってたんだね。なんかイメージと違うなぁ」


「あぁ、イミル――、妻が学校に行ってみたいって言うんでな。ちょっとそこら辺の危険生物を絶滅させる勢いで狩りまくり、ざくっと金を稼いで入学した訳だ」

「うわぁー。美談だねぇ、忌憚だねぇ」


「で、そん時の生徒会長がノウィンさんだった訳で、色々あって仲良くなった」

「……その色々の部分が大事だよね。くわしく」



 段々と話に乗ってきたワルトナは、興味の視線をユルドルードに向けている。

 その横ではメナファスも興味深げに話を聞きながらジュースを飲んでおり、ゴモラもさりげなく着席した。

 高まった場の空気を感じながら、どう語るべきか言葉を吟味したユルドルードは、「そうだな……」と語り出す。



「俺とアプリとプロジア、イミルの四人が入学した目的は、『ゆったりと学園生活を満喫しよう』だ。だから、勉強で一位を目指そうとか、青春の一ページとしてスポーツに打ち込もうとか、そんな事をするつもりは全くなかった」

「……勉強はともかく、運動でおじさんに勝てる奴なんて居ないでしょ」


「言っておくが、俺だってテストで100点を取った事くらいあるんだぞ?」

「えっ、ホントに?」


「おう!五教科の合計点数が100点ピッタリだったぜ!」

「……だめじゃん」


「だが、アプリの奴はいつも500点満点だった。アイツの脳味噌にはバッファが掛ってるんじゃないかと、俺は心底思ってる」



 その言葉に、ワルトナとメナファスは凍りついて心を一つにした。


「「えっ、じゃあ何で娘はアホの子なんだよ。脳味噌が常に空腹だぞ?」」


 そんな的確なツッコミを心の中で入れ、催促の視線を向ける。



「アプリの奴は、ちっとばかり意識高い系の奴でな。すり寄ってくる女性を片っ端から遊んでは捨てていた。こればっかりは悪趣味と言わざるをえないな」

「え、それもなんか意外なんだけど……」


「で、ノウィンさんの下僕……ごほん。生徒会の書記をやってた一年生もアプリに告白し、例にもれず、一週間ぐらい恋人ごっこをしてから捨てた訳だな。……一応言っておくが、アイツにはアイツの考えがあったらしい。『恋人とは対等であるべきです。私に依存する様な人に、その資格は無いのですよ』が口癖だったしな」

「それ、ちょっとだけ分かる気がする。僕もユニに追い付こうと頑張ってる訳だし」


「んで、自分の部下を傷つけられて怒ったノウィンさんは、持っている人脈を使いアプリの事を調べ上げた。氏名・住所・年齢・生年月日。好きな食べ物、得意なスポーツ、嫌いな物、昔飼ってた猫の名前、今朝食べた朝食、小さい頃のトラウマなど、一冊本が書けるレベルでだ」

「……それ、明らかに大聖母の権力を使ってストーカーしてるよね?職権乱用じゃない?いいの?」


「万全に準備を終えた上で、ノウィンさんは仕掛けて来た。偶然を装いアプリに接触して既知を得つつ、教師陣を買収。学年を超えた『全校生徒学力テスト』を実施し、アプリに真っ向から勝負を仕掛けたんだ」



 自分という物を失っていたノウィンだが、有能だと評価していた下僕が泣き崩れているのを見て僅かに心が動いた。

 それは『与えた仕事に遅れが出るかもしれない』程度の小さい揺らぎだったが、人の上に立つ事を過剰に意識していたノウィンは放っておく事が出来なかったのだ。


 さらに、ノウィンは壊れかけていた。

 だからこそ、普通の感性なら行わないであろう過剰な報復を計画し、アプリコットを徹底的に叩きのめしたのだ。



「しかもそのテストは、試験問題の全てをノウィンさんが作ったっつー特別製でさ。試験を受けた生徒の平均点は驚愕の8点。こっそり行われたという教師陣の平均点数ですら45点だとかいう、トンデモねぇもんだった」

「ちなみにおじさんは?」


「おう!当然、平均点を下げる側だぜ!」

「……だよねー。でもさ、そんなのテストとして成立しないよね?試験範囲外の問題を出せば難易度なんていくらでも上げられるんだし」


「それがな、ノウィンさんが出した問題は、全て教科書に載っている内容だったんだと。これには80点代だったアプリも笑うしかなかった。抗議しようと思ってアラを探せど、まったく見つからねぇんだからな」



 ノウィンが仕掛けた全学年学力テストの概要はこうだ。


 まず、1年生の持つ教科書から出題された試験を全学年に実施する。

 そして、2年生はそれに加えて2年生分の試験を、さらに3年生には3年生分の試験を追加で実施。

 その教科毎の点数を平均値にしたものが、試験結果となるのである。


 当然の事であるが、ノウィンは出題者であり、当たり前に満点だ。

 そして、普段のテストで満点を連発し、ふんぞり返っていたアプリコットの試験結果は奮わず、大体が80点台となった。


 人生で初めて敗北を経験したアプリコットは混乱し、唯一の上位者だったノウィンに突っかかる事になる。



「それからアプリコットはノウィンさんに突っかかり続けた。試験もそうだが、運動や学校外活動、絵画コンクールやらお料理教室にまで押しかけて勝負をし、そのほとんどで負けた」

「うわぁー。そうなるように暗躍したんだろうなーノウィン様。その光景が目に浮かぶねぇ」


「しばらくそんな生活をして、アプリコットはついに気が付いた。『ノウィンさんこそ、自分が求めていた対等な女性なのではないか』ってな。実際には負けまくってボッコボコにされてたが」

「ノウィン様、容赦ないもんね。分かるよ、さっき経験したからさ」


「で、アプリはラブレターを書いてノウィンさんに告白をしたんだが……これまた、こっ酷くフラれてな」

「ちなみに、どんな風にフラれたの?」


「全校生徒が集まる合同朝礼で、ノウィンさんはラブレターを最初から最後まで音読。その上で『文法が間違っている』だの『この表現では感情が伝わらない』だのと散々こき下ろし、最後に『このような駄文を書かない様に、皆さまも勉学に励みましょう』で締めくくったぞ」

「さすが、全世界の頂点に立つお方。僕とは比べ物にならないねぇ、参考になるねぇ」


「そんな訳で、アプリコットは……ドエムに目覚めた」

「は?」


「そして、ノウィンさんも、ドエスに覚醒した」

「は?」



 人生最大の屈辱を、何度も何度も魂に刻み込まれたアプリコットは、無我の境地に至ってしまった。

 ノウィンから与えられる責め苦を、極上のご褒美として認識。

 今まで他人から蔑まれた事のなかったアプリコットは、その妙な背徳感が癖になってしまったのだ。


 そしてノウィンもまた、一切の手加減もなく、思いついた感情をそのままぶつけられる悦びを知った。

 周囲全てに対して仮面を被り続け無ければならないという、途方もないストレスの捌け口を得たのだ。



「つー訳で、色んな意味で相性バッチリなあの二人は意気投合し、調教せいか……。新婚生活を始めた訳だな」

「うん。良い話風にまとめたいんだろうけど微塵も安心できないからね?どう考えても、僕に死亡フラグが立ちまくってるし」

「ヴィギルーン!」


「お前は肯定すんな!ニセタヌキッ!!」



 ユルドルードの話を聞いたワルトナは、これから来るであろう未来を考えて……戦慄。

 そのあまりの恐怖に背筋を凍りつかせ……。


 どうにか気分を変えようと、別の話題を切り出した。



「所で話は変わるんだけどさ、メナファスも僕らの物語に微妙に関わってるって昨日言ってたよね?あれってどういうことなの?」

「あぁ、あれはな……。話してもいいか?メナファス」

「いいぞ。面白い話を聞かせて貰ったしな!」


「くぅ!じゃあ僕も、キミの過去を聞いて楽しんでやる!高らかに笑ってやるから覚悟しな!」



 話題の転換に成功したワルトナは、ちょっとだけ元気を取り戻した。

 残っていた弁当を食べながら、緩ーく構えてユルドルードの話を聞く。


 そして、ユルドルードは語り出す。


 名のらぬ老爺と名もなき戦闘マシーン。

 その出会いに至る物語を。


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