第72話「続・英雄覇道(表)罠と虚偽」
「うらぁ!!」
「ふっ」
「もういっちょ!!」
「ふっ」
「ブチ転がれぇぇぇッッ!!」
「ふっ(笑)」
こんちくしょうめぇえええええええええええ!!
何度やっても、当たらねぇええええ!?
数百回、いや、数千回に届くかもしれない果てのない剣撃。
斬っても斬っても、親父はそれを無効化しやがった。
何度、試行錯誤を繰り返しても、どれだけ万全の状態でグラムを振ろうとも、俺の刃は親父には届いていない。
「ちくしょうめぇ……」
「ちぃーと俺が本気を出せばこんなもんだ。散々、俺の事をぶっ殺してやるとかほざいてやがったがな……その程度じゃ、擦り傷一つ付けられねえぞ」
親父が剣の構えをするようになった後、たったの一度も攻撃が成功しなくなった。
さっきまでは俺がグラムを振ると、親父は拳を撃ち込んで相殺。
この状態でも傷を負わせたわけじゃないが……まだ、攻撃しているという実感があった。
だが、剣の構えを取った後は、どんな攻撃も親父の素振りによって迎撃され、叩き落とされた。
それはマジでただの素振りだ。
剣を持っているように見えるってだけの手を、フルフルっと軽く俺に向かって振るだけの……児戯。
それをされると、絶対破壊の力を使ったあらゆる技でさえも、まるで剣で受け止められたかのように空気中で炸裂してしまうのだ。
ということで、『俺の全力=親父の素振り』という事が判明した。
……。
どんな訓練をしたら、こんな事が出来るようになるんだよッ!?
流石にどうかと思うし、ちょっと心が折れそうだぞッッ!!
こんの英雄全裸・フルフル素振り親父ィィッッ!!
「ただの素振りで神殺しを止めるとか、意味が分からねぇ……」
「そりゃ簡単には分からんだろ。……それが分かったら、第一段階修了って奴だからな」
「ん?第一段階修了?なんだそれ」
「あぁ、言って無かったがな、この訓練は俺がじじぃにやれされたものと同じだ」
なんだって!?
ちょっとそれ、聞き捨てならねぇんだけど!!
フルフル全裸親父の実力を思い知らされた後、心の底からブン殴りたい衝動が湧きだし始めている。
なんか近視感があるなと思ったら、まさかのじじぃが諸悪の根源だったらしい。
それにしても、英雄ホーライ直伝の戦闘訓練か。
リリンがいたら、垂涎の眼差しで食いつくだろうな。
……。
そのまま齧られてしまえ。
「なぁ、親父。じじぃってのは英雄ホーライの事だよな?」
「当たり前だっつーの。……あんな妖怪みてぇなじじぃが複数いたら堪らんだろ」
「……確かに。で、素振りの正体が分かるとグラムの基礎講習が終了するってどういう事だ?」
「おっと、喋りすぎたみたいだな。男は男らしく……剣で語るとするか」
だから、剣が何処にも見当たらねぇんだよッ!?
せめて持ってから言えよ!!
俺が心の中でツッコミを入れていると、親父は再び右腕を前に出して、剣の構えを取った。
さっきは我武者羅に攻撃しても無意味だったし、今度はしっかり観察してみるとしよう。
親父は足を肩幅に開き、右腕を腰の位置にまで下げている。
俗に言う下段の構えって奴だ。
視線は真っ直ぐに俺を見定め、肩の力は抜けている……ように見えて、実は違う。
親父は力を抜いているのではなく、力を込めていないだけだ。
そして、俺が動き出した瞬間に、筋力を爆発させて腕を振るうのだ。
一瞬の膠着状態。
剣で語ると言った親父は、ゆっくりと歩き出した。
「そろそろ、ただ相殺されるのにも飽きてきただろ?だからな……」
「つっ!?なんだこの殺気ッ!?」
「技を見せてやる。《重力破壊刃》」
なっッッッ!?!?
親父は下段の構えを僅かに右側にずらし、そのまま無造作に振り上げた。
先程と変わらない動きだが、俺は言い表せないくらいの危機感を感じ、反射的に右側に飛んだ。
その刹那。
まるで定規で線を引いたかのように真っ直ぐに地面が切断され……底が見えない程の割れ目が生まれた。
「何だ今のは……?」
「あん?《重力光崩壊》を思い出してんなら、重力破壊刃だって使えるだろうが?」
「いやいやいや!俺が驚いてんのは威力だからッ!!」
だから、何をどうしたら腕を振っただけで、数百mの断層が出来るんだよッ!?
俺はその地面に亀裂を恐る恐る覗き込んで石を投げ込み……いつまで待っても反射音が帰ってこないので、深さを知るのを諦めた。
「つーか、そもそも、グラムを持って無い親父が、なんでグラムの技を使え……」
俺は、ただ文句を言いたかっただけ。
特に考えて言った訳じゃなく、ただの偶然だった。
だが……。
ひとつ、新たな仮説が浮かんできた。
それはちょっと信じられないくらいの理不尽なものだが、確かめない訳にはいかない。
……もし俺の仮説があっているのなら、タダじゃ済まさないぞ、親父。
「疑問があるんだけどさ、質問して良いか?親父」
「あん?なんだよ?」
「このグラムって、惑星重力制御の力は封印されている。が、絶対破壊は正常に稼働中だって言ったよな?」
「おう」
「で、ついこないだ親父はこう言ったはずだ。『俺は魔法次元を通して、グラムを繋げてある』って」
「言ったな」
「ならさ……さっきから絶対破壊の力を使ってたり……しないよな?」
「おう!めちゃくちゃ多用してるぞ!!」
「ふっざけんなぁあああああああ!!親父ィィィッッッ!!」
何が『空気を掴んでる』だよッ!?!?
空気に絶対破壊の波動を流してただけじゃねぇかッ!!インチキも甚だしいッッ!!
俺が気が付いた仮説はこうだ。
『それっぽい構えをしてカモフラージュしているが、結局、手から絶対破壊の波動を飛ばしてグラムと衝突させていただけ』
なるほど、これならグラムを弾けるな!
だって同じグラムの力だし!!
「おい、散々カッコつけた癖にこれかよ。この詐欺師め!」
「まぁ、話を聞け。ユニク」
「あん?」
「確かに俺はグラムの絶対破壊を使ってる。しかも、そこに刺さってるギンの権能で創り出したニセモノなんかじゃなく、お前が持っているオリジナルのグラムの力を利用してるぜ」
「良くも抜け抜けと言いやがって!納得できるかッ!!」
「納得できねぇなら、俺にそれをさせなければいい」
「……なに?」
「じじぃが言った『第一段階修了』。それはな……。お前だけがグラムの力を扱えるように、その能力の全てを掌握しろってことだ」
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「パパ……。あっちで凄い音がする……なにかな?」
「どうせ筋トレか何かでしょう?もし違っても、父親と息子の触れ合いは拳で語る感じになると文献で読んだ事がありますし大丈夫でしょう。ささ、お勉強の続きをしましょうか」
そう言いながら、アプリコットは内心で呟いた。
「ユルドは脳味噌まで筋肉できているので、アレが普通です」
色んな意味で厚い信頼が見え隠れしているその言葉は発せられる事は無く、すぐに思考の海に溶けて消える。
アプリコットは、愛する愛娘との触れ合いよりも優先する事などありはしないと、優しげな笑みをリリンサへ向けた。
「まず初めに正しい魔法知識について覚えましょう。リリンサはランク9の魔法の上の存在を知っていますか?」
「ん……。パパが言ってた、ランク0?」
「そうです。そして、それは三つに分かれるのです」
「三つ……?創生魔法しか分からない」
「正解ですが、正しくはありません。厳密に言えば、『創生魔法』は二つに分かれるからです」
「ど、どういうこと……?」
「”生命を創る”と書く『創生魔法』と、”星を創る”と書く『創星魔法』の二種類があるのですよ」
「えっ!?そうなの?」
「そうなのです。そして、最も強大な魔法は……神が世界に強い影響を与える際に使用する『神撃魔法』と呼ばれる物です」
ユニクルフィン達から数百m程離れた森と草原が混じった場所で、リリンサ達は座学を始めようとしていた。
リリンサに手を引かれてここに辿り着いたアプリコットは、指をパチン!と鳴らして、可愛らしいテーブルと椅子を召喚。
その懐かしい思い出の家具に座ったリリンサは、平均的な興奮顔でノートとペンを取り出した。
背後からけたたましい爆裂音とかが聞こえて来るが、世界一信頼しているパパから大丈夫と言われた以上、それ以上心配する事は無いのだ。
そして、リリンサの興味はランク0と呼ばれる、大規模殲滅魔法を超えた先にある物へと移った。
その魔法さえあれば白い敵なんて速攻でブチ転がせると、可愛らしく鼻を鳴らす。
「ん!その魔法を使ってみたい。教えて!」
「えぇ、もちろんですとも」
「やった。全部覚えてユニクをビックリさせたいと思う!」
「おっと、それは難しいかもしれませんね」
「え?」
「残念ですが……リリンサには創星魔法の適正がないのです。そして、ランク0の魔法は呪文を唱えれば使える物ではない」
「……え。」
突然告げられた、残酷な真実。
高まっていた意識の出鼻を挫かれたリリンサは絶句し、大きな瞳を揺るがせた。
「私には才能が無いというの……?」
「あぁ!ビックリさせてしまいましたが驚く事は無いのですよ!リリンサは創生魔法の適正に溢れているのですから」
「創生魔法……?」
「そうです。そしてこの創生魔法こそ、魔導師の極地と言えるものです」




