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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第71話「続・英雄覇道(表)英雄の教え」

 ゆっくりと、だが、確実に親父は動き出している。

 一見、ただ普通に歩いているだけに見えるが……実際は違うのだろう。


『人類最強』


 俺の目の前にいるのは、まぎれもない――英雄だ。



「いくぞ。ユニク」



 その声と共に、土埃が舞った。

 うっすらと寒い夜風が俺の頬を撫で、次の瞬間には、そそり立つ肉の壁が目の前に迫り――。


 違うッ!これは拳だッ!!



「《瞬界加速スピィーディーッ!!》」



 ちっくしょう!速いッ!!

 間に合えぇぇぇ!!


 反射的に唱えた速度上昇のバッファ。

 もう既にリリンに掛けて貰っているが、一時的な効果の上昇はあるからだ。



「ふっ!」



 俺が狙ったのは、音を置き去りにして迫る親父の拳の前へ、地面に突き刺っているグラムを滑り込ませて盾代わりに使う事だ。

 持ち手を強引に掴んで向きを変えただけだが、狙い通り親父の拳はグラム刀身を穿ち、そして……。


 拳と金属が衝突したとは思えない、甲高い炸裂音が響いた。



「い”!?何だ今の音はッ!?」

「なんて事はねぇ。グラムを殴った音だ」



 いやいやいや、何かがおかしいぞ!?

 なんで素手で剣を殴った時の擬音が『バギィ”ィ”ィ”ンッ!!』なんだよ!?

 エルのヴァジュラとの剣撃だって、こんな音はしなかったぞッ!?


 明らかに人間の身体じゃないというのを再認識するも、それどころじゃねぇ!

 一度目の着弾から、僅か0.2秒。

 再び繰り出された拳もなんとか受け止めたが、今度は耐えきれずに僅かに後退した。

 そして、どんどんと後ろへ押し込まれ、受ける構えも乱雑になってゆく。



「おらおらおら、どうしたユニクッ!サンドバックになってるぞ!」

「ぐぅぅ!こん、ちくしょうめっ!」



 今のグラムの重さは約50kg。

 実は……その重さについては問題にならない。バッファの魔法があるからだ。

 ランク4以上のバッファを纏ってさえいれば、その程度の重量など問題なく振るう事が出来る……が、それは振るえるだけであり、剣技などとは程遠い。


 それに、グラムの惑星重力制御が封印された今、それを利用した動きは出来なくなっている。

 試しにグラムの力を引き出そうとしてみても――失敗。

 いつもは発生する力の奔流は起こらず、人間の体の限界を改めて認識した。



「受けるだけなんざ岩でも出来んだよ!お前は岩以下の石ころかなんかか!?ん!?」

「この野郎、好き放題言ってんじゃねぇッ!」



 繰り出される親父の拳を、グラムの側面でなんとか受け流し続ける。

 だが、このままじゃジリ貧になり、やがては手詰りに追い込まれるな。

 どうにか防御だけじゃなく、攻勢に転じ……。


 ここで、ふと思う事があった。

 どうして俺は、親父の攻撃を受け続ける事が出来ているんだ?


 親父の動きは、本気のリリンよりも格段に速い。

 本来なら対応できずに、一方的に攻撃されるはずだが……俺はギリギリの所で防御に成功している。


 その理由……。

 そうか!筋トレをしている最中も、俺は周囲の景色を見続けていた。

 だからこそ、その速さに目が慣れ始めているのか!



「んだよ親父、案外まともに教えてんじゃねぇか!」

「あん?」


「息子の底力を見せてやるって話だよッ!」



 視線と視野を研ぎ澄まし、グラムを打ち上げる。

 俺は、親父の拳が前に伸び始めた直後を狙ってグラムを下から叩き付け、腕を弾き飛ばしたのだ。


 まずはこの状況を打破。

 防戦一方から、攻撃の撃ち合いにまで持って行く!!



「おう?目付きが変わったな」

「あぁ、ちっと思う事があってなッ!」



 今度は俺の方から仕掛けに行く。

 この重いグラムを振るいながら意識するのは……『攻撃力』だ。


 一撃で相手を殺せる程の攻撃力を示せば、親父は防御も考えなくてはならない。

 ましてや、俺が持っているのは絶対破壊の剣。

 世界最強の攻撃力があると、キツネに太鼓判を押された剣だ。


 だが、グラムを振りあげ親父に叩きつけた後……その扱いの難しさに目を見開いた。

 振り上げるまでは良かった。

 だが、振り上げた後、グラムの刃を返す際に信じられない程の遠心力を感じ、身体が引っ張られてしまったのだ。



「しまっ……」

「……お前はアホなのか?ユニク」


「ぐごごごッッ!!」



 完全な隙を晒した俺の身体に、親父の拳が沈み込む。

 その衝撃は第九守護天使越しだとは思えない程に、鋭く重い痛打。

 思わず、口の中に込み上げて来た唾を吐き出すが、幸いにして血は混じっていない。内臓は無事みたいだな。



「がはッ!ガハッ!」

「グラムを離さなかったのは褒めてやる。それに、急所は守り切りやがったな」


「あぁ、心臓と脇腹は防いだ。……仕留め損ねたな、親父」



 親父の動きは、辛うじて目で追える。

 それは精錬されているからこそ狙いが分かり易く、最初の数発は対して力の入っていない牽制だというのが見えた。

 だからこそ、親父が本気で力を込めた数発だけを俺は左手で受け止めたのだ。


 まったく、掌がジンジンするじゃねぇかッ!!

 だけど……。

 今、確かめた動きの中に、攻勢に出るチャンスを見つけたぜ。



「お前は俺が思っていたよりかは強いのかもな、ユニク。だが、その程度でリリンサちゃんを守れるのか?」

「はっ、リリンの名前を出されちゃ……守ると言いきるしかねぇなッ!!」



 腕に貯めた筋力を爆発させ、50kgものグラムを自在に操る。

 今までグラムが自動で行っていた重心移動と力の向きを意思を以て統率し、支配下に置いたのだ。



「んだよ、やる気になれば出来るじゃねぇか」

「出来るようになったんだよ、親父をブチ転がしたい一心でなッ!!」


「はっ、やってみろよ。ガキが」



 俺が見出したチャンス。

 それは、腕立て伏せの恩恵によるものだ。


 腕立て伏せは、腕が縮み切った段階で筋力を爆破させ身体を押し上げる。

 これを繰り返す内に発見したのは、腕と肩は連動しているという、当たり前の事実だった。


 俺は今まで腕だけを意識してグラムを振るっていた。……だが、それじゃダメだ。

 肩、肘、手首、指。

 全ての筋繊維を連動させ、力の方向を統一させる。

 親父が指示した腕立て伏せは、漠然としていた『腕を使う』という動作を明確にさせる為の物で、それを意識し始めると楽に身体を動かせるようになったのだ。


 そして、今。

 俺は50kgもの重さの大剣を、以前と変わりなく振るう事ができている。

 いや、その速度は、以前よりも僅かに……速い。



「うおらッ!」

「ふん!」



 再びの、剣と拳の衝突。

 だが、先ほどとは違い後ろに後退する事もなく、その場に留まれている。


 そのまま俺と親父は何回か撃ち合い、地面に埋もれていた足を同時に引き上げた。

 砂利や石を踏むという僅かな誤差が、明暗を分ける攻防。

 ほんの少しのミスが致命傷に繋がるからこそ、俺は飛行脚で足場を作って踏み込んだ。


 一方、親父はそんな小技を使用せずに、ただ地面を踏み抜いただけだ。

 そう、それは本当に踏み抜いたと表現するべき、爆発を伴うありえない威力の踏み込み。


 ……。何だ今のッ!?

 明らかに必殺技的な威力だろッ!?


 もし地面に足を付けていたら、衝撃に足を取られたかもしれない。

 この野郎、一挙手一同が殺意に満ちてやがるッ!!



「運が良いじゃねえか!」

「せめて感がいいって言ってくれッ!!」



 激しく衝突しあう、俺と親父。

 それを可能にしているのは、効率的な回避の仕方を覚え、お互いにダメージを負っていないからだ。


 今までの俺は、回避するにも全力で筋力を使っていた。

 だが、それは愚策だったのだ。


 『スクワット』

 腕立て伏せと違い、スクワットは全身運動であり、身体中の全ての筋肉が稼働している。

 だからこそ、息切れせずに1000回を終える事は難しかった。


 何度も何度もやり直しをしている内に、ついに俺は気が付いた。

 スクワットの下降時と上昇時に筋肉を使い分け、常に体のどこかしらを休ませるという特殊な動かし方。

 力の緩急をつける事の大切さに気が付いたからこそ、俺は1000回のスクワットを終える事が出来るようになり、流れるような動きで回避ができている。



「どうした親父!意外そうな顔してるじゃねえか!」

「まぁな。もうちっと気が付くのに時間が掛ると思ってたからな!」



 攻撃と回避が出来るようになったのなら、後はこれを繋げるだけだ。

 それは、腹筋運動で学んでいる。


 腹筋を行う事で、日常生活では意識する事のない呼吸の難しさを知る事になった。

 腹筋は当然、腹部を鍛える筋トレであり、上体を起こす際に強制的に腹部が圧迫され肺から空気が押し出される。


 つまり、普段は無意識の内に行っていた呼吸が、腹筋の動きに強制される事になる訳だ。

 そして身体が酸素を求める周期と腹筋の動きが合わない場合は呼吸が行えず、すぐに酸欠となってバテてしまう。


 だが、呼吸の周期と腹筋が連動すると、それ以前とは比べ物にならないくらい身体が軽くなった。

 これが噂に聞くランナーズハイって奴か?

 はは、段々と面白くなって来たぜ!



「いいぞ!これなら冥王竜くらいには勝てんじゃねぇか?」

「そうだな!アイツにはリベンジしたいと思ってるぜ!!」



 親父と撃ち合いが出来るようなった俺は、その成長ぶりを実感している。

 リリンと訓練を始めた時も、日に日に強くなっていく感覚があったが……あの時はどこか、懐かしさのような物を感じていた。


 だが今は違う。

 俺は、正真正銘、人生経験で初めての戦闘方法を学んでいる実感がある。

 やべぇ!楽しくなってきたじゃねぇかッ!!



「いくぜッ!」

「来いッ!」


 

 **********



 どれくらい撃ち合いをしていただろうか。

 時間を忘れていたし見当もつかないが、結構な時間そうしていた気がする。


 首筋に伝う汗と心地よい疲労感が混ざり合い始めた頃、唐突に親父は拳の構えを解いて立ち止った。

 そして、まるで見えない剣でも握っているかのように右腕を前に出し、一切の揺らぎも無く真正面で構える。



「やるじゃねぇかユニク。素直に褒めてやるぞ」

「おう、じゃあ素直に受取っておくぞ」


「そんだけグラムを振れるんなら悪くねぇ。剣の構えはまだ雑だがな」

「そりゃしょうがねぇだろ。俺は剣の流派なんて知らねぇし、どうせ昔の俺にも教えてねぇだろ?」


「あぁ、教えてねぇな。そもそも、俺の剣自体が色んな剣士の型のごちゃ混ぜだ。じじぃなんかは技能タイプだから滅茶苦茶綺麗な技を使うが……あれこそ、人間には無理な話だな」



 ……じじぃ、だと?

 なんかその発音の仕方、妙にしっくりくるな。


 俺の脳裏に愛するべき憎たらしさの村長じじいが浮かんできやがった。

 なんかもう殆ど確定な気もするが……。逆に、こんな中途半端な状態で会いに行ってもロクでもない事になる気がする。

 今は色んな事がごちゃごちゃしているし、リリンに話をするのは、セフィナを奪還した後にしよう。

 確定ってわけでもないしな。


 俺は脳内に湧きあがってきた村長を闇に葬りつつ、目の前の親父に意識を集中させた。

 親父はどうやら、何か自慢をしたいらしい。

 ……顔が随分とドヤ顔だ。ぶん殴りたい。



「だがな、俺が体に馴染ませた剣の経験値は、お前千人分に匹敵するぞ」

「千人分か、随分とでかく出やがったな」


「そう思うか?じゃ、試しに俺に斬り掛ってみろ」

「そうか?じゃあ、遠慮無く行くぜ……。《重力光崩壊ガル・デストラクションッッ!!》」



 バカめッッ!

 英雄並みの体術を手に入れた俺に隙を晒すとは、血迷ったかッ!ユルユル全裸親父ッッ!


 身体の動きを意識する事によって得た、加速と横薙ぎ。

 惑星重力制御に頼らない剣筋は、今までの俺と比べても格段に速い。

 さらに、密かに溜めていたエネルギーを解き放ち、絶対破壊を起動して、未覚醒状態のグラムで最強技を放つ。


 だが、俺の動きに連動するように、親父も動き出していた。

 それは、まるで俺と同じ動き。

 腕力の溜めも、踏み込んだ足裁きも、体重移動もほぼ同じ動きだった。


 親父の手に剣は無い。

 だからこそ、俺が狙っている剣先での撫で斬りは出来ないはずで――。


 一瞬の迷いが生まれ、剣先が揺らいだ気がした。

 そんな、気のせいかもしれないという微量な揺らぎを、英雄の親父は見逃さなかった。



「ふっ」

「……え?」



 ガギィ”ィ”ィ”ィ”ィ”ン!という金属音。

 先程よりも更に高音であり、金属同士がぶつかったとしか思えない音が響いている。


 そして……。

 渾身の力を込めて振るったグラムは、見えない何かと衝突し真上に跳ね上げられていた。



「なんだ今のは……?剣で斬られた……のか?」

「ルール違反はしてねぇぞ。俺は見えない剣を持っている訳じゃないからな」


「なんだと……?だが、確かに何かがぶつかった手ごたえがあったぞ?それに、俺達の間には結構な距離がある。この距離じゃ腕は届かなかったはずだが……?」



 俺と親父との距離は4mもある。

 俺が腕とグラムを伸ばしても大体2m。

 親父は手を伸ばしてもグラムに届かないはずで、変な動きをした様子もない。


 だが、確かにグラムは空に向かって撥ね退けられ、しかもそれは……。

 どう感じても、剣と剣がぶつかり合う感触だった。



「それは嘘じゃねえのか?何らかの形で剣を持ってるだろ?」

「疑い深い事は良い事だが……ハズレだ。俺が掴んでいるのはな、そこら辺にあるタダの空気だからな」


「空気だと……?」

「剣の達人は木刀で鉄を斬る……なんて良く聞き話だが、俺がやってるのは、その先の話だよ」


「良く分からねぇ……何が言いたいんだ?」

「剣の達人は『鉄製の剣』と、『木製の剣』の性能差を技能で埋める。そして俺は、『神性金属で出来たグラム』と、『空気という名の剣』の性能差を技能で埋めたんだ」



 ……。

 …………

 ………………はぁぁ?

 なんだその超理論ッ!?!?

 タダの空気を、世界最強の剣と同等の性能にしたってのかよッ!?


 いや、落ち着け俺。

 この場合はそういう事じゃない。


 何も持っていない俺の力を『100』として、そこにグラムの力『10,000』を掛けたのが、現在の俺の攻撃力『100万』だ。

 一方で、親父の力『100万』に、空気が持つ攻撃力『1』を掛けたとしても、その攻撃力は……『100万』となる。


 つまり……親父はこう言いたんだろう。

『俺は剣を持っていなくとも、グラムを装備したお前よりも、剣士として優れている』、と。



「知ってるかユニク?英雄っつーのはな、強くなくちゃ名乗れねぇんだぜ」



 んなこと、現在進行形で思い知ってるよッッ!!

 まったく、ホント、剣無しの丸腰でも余裕で戦えるなんて……。


 ……全裸英雄の名は伊達じゃねぇぜ!

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