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第4話「無尽灰塵VS壊滅竜」

 


「ホロビノ……飼いドラゴンに手を焼かれるとは、まさにこの事……。しばらく遊んであげてない内にグレてしまった?」

「きゅあらー。きゅあらららー!」



 眼前で広がる光景。

 今まさに、優しげな少女が真っ白な体のドラゴンと対峙している様は、神秘的な雰囲気さえも纏っている。……見かけだけは。


 そう、俺はリリンが恐ろしく強いことを知っている。

 誰が言ったか、無尽灰塵むじんかいじんなんて呼ばれているくらいだしな。

 そして、この少女の飼いドラゴンこと、ホロビノも恐ろしく強いはずだ。

 颯爽と裏切りを繰り返し、ついには主人たるリリンと対峙するまでに至ったコイツも壊滅竜なんて呼ばれているらしいからな。


 内情を知ってると、まったくもって、見方が変わる。


 俺には、人智を足蹴にして君臨する魔女と、幾千の血を啜ったドラゴンの因縁の対決にしか見えない。

 この草原どころか、山が吹き飛ぶんじゃないだろうか?


 あ、見てくれ。さっきまで元気一杯だった黒土竜達が怯えている。

 6匹が纏まって、まるで土団子のようだ。


 ちょっと俺も混ぜて欲しいなと思いつつも、それは死地だとも思う。

 結局、リリンの魔法を受けてしまったら絶命は必至。

 だったら身軽に動き回るのが得策かもしれない。



「ホロビノ、遊んであげよう。あ、ユニクは危ないから下がってて」

「おう。ちなみに、どのくらい下がれば安全なんだ?」


「……。私たちがじゃれ合えば、安全な場所などないので下がりようがなかった。大人しく、そこで見てて」

「お、おう。死なない程度に頼む!」


「ホロビノ。竜滅咆哮ドラゴ・カタスフィー源竜意識ドラゴ・アイデンティーは使用禁止。私も最高ランクの魔法は使わない」

「きゅあ!」



 おい、ちょっと待て。竜滅咆哮ドラゴ・カタスフィーってなんだ?

 明らかにヤバそうなんですけど?

 草原?いやいや、町が一つぶっ飛びそうですが?



「あとユニクに攻撃は禁止。これは絶対の約束」

「きゅあら。きゅあらん!」


「私も黒土竜を狙うなと?うん、分かった。故意(・・)には狙わない」

「……きゅあ」



 うん。約束って大事だよね。

 そこは是非、裏切らないで欲しい。

 リリンも故意には黒土竜を狙わないらしいから、どうか頼むぞ、ホロビノ!!


 ん?故意には?

 ……。

 …………。

 ………………まさか、無差別攻撃とかして来ないだろうな?



「ユニク、高位の者達の戦闘は、最初にバッファの魔法や防御魔法、視野拡張などの準備を行う。例えばこう……。《多層魔法連―物理隔離パージアタック幻想郷ファンタジア対滅精霊八式エーテルダウン・エイト》」

「魔法の同時使用だと……!?」


「そして、こういう魔法もある。《我は欲する。知識、物理、原理の全てを感じ、この身に留めて昇華するのだ。 次元認識領域トライ・キュービクル・スフィア》」



 リリンが使った三連の魔法の効果は、俺にはさっぱり分からなかった。

 しかし、最後の次元認識領域トライ・キュービクル・スフィアをリリンが発動させた時、俺の体にも異変が現れる。


 そして、視界が、世界が、切り替わった。


 訓練開始時にリリンが俺に掛けた視野を共有するという『けるびむ』のおかげか、俺にもバッファ魔法の効果が出たらしい。


 今の俺の視野は、まるで別次元から覗き込むように自分と周囲が俯瞰して知覚できる。

 例えば、ボードゲームを観戦するようなものだ。

 

 そして俺は、リリンの使った三つの魔法を感覚で理解した。

 それぞれが、物理攻撃超耐性、魔法攻撃超耐性、物理反撃魔法だ。


 この共感覚中ならば、リリンが纏っている魔法の効果が理解できるようになるらしい。

 恐ろしい事に、リリンの手の甲の魔方陣が飛びきりに危険な破壊力を秘めている事も分かってしまった。


 そして、対するホロビノも不敵に笑っている。

 その表情は、まさに今から遊んでもらえると喜ぶ犬と大差無いもので。

 この裏切りドラゴン、恐怖を微塵も感じていないだと……。



「ユニク。これは高位の者同士の戦い、つまり、ホロビノもバッファを使う。来るよ、目を反らさないで見てて欲しい」

「な、なんだ!?」

「《きゅあら・きゅあ!!》」



 ホロビノは突如飛び立つと、天空にて翼を広げた。

 通常の四足歩行ではなく、より人間に近しい直立の姿勢を取り、短く何度か啼く。


 そして起こったのは、肉体の変化だった。


 同じ太さだった前足と後足は、それぞれの役割を果たすべく進化。

 前足は力と拳で相手をねじ伏せる腕に、後足は膨大な体重を二本で支えられるように太く逞しい脚へ。


 そして、背に纏うは二対の魔方陣。

 その魔方陣からは光で出来た翼が生え、その周囲の光をねじ曲げてしまっている。

 ホロビノ自身のものと合わせて三対六枚の翼は、圧倒的な存在感を持ってこの草原を照らし続けていた。


 壊滅竜の戦闘形態は、破壊を実現する為の形となって、天空を支配する。



「ホロビノ、きて」



 優しく両手を差し出したリリン。

 ペットと戯れるような仕草で微笑みながらも、その手に持つ星杖―ルナが怪しく光る。


 その瞬間、ホロビノの居た空間が爆ぜ、ホロビノの体が前に打ち出された。


 ホロビノの光の翼からエネルギーが放出され、大質量を乗せた拳がリリンに迫る。

 しかし、ホロビノの拳はリリンの手前1m程で何かに遮られ炸裂し、爆炎に巻かれた。

 

 轟く爆音と灰色の煙。

 その煙の中を縫うようにしてリリンは駆け、そして、突き出されたままのホロビノの拳へ星杖―ルナを打ち下ろす。



「《対滅精霊エーテルダウン!!》」



 激しい閃光の後に続く、けたたましい爆音。

 叩きつけるように上から振るわれた星杖の衝撃は容易くホロビノの体を傾けたのだ。


 一瞬とはいえ視界が白く染まるほどの威力。

 なぁ、ホロビノの腕、大丈夫か?


 だが、そんな心配は杞憂だった。

 ホロビノの腕先から肩口までは煌めく鱗に覆われ、傷一つ無い。

 最初の攻防は高度な魔法戦の結果、ホロビノの姿勢を崩したのみ。


 そしてそれさえも、野生に生きるドラゴンには些末な事だった。



「きゅぐろッ!!」

「《瞬界加速スピーディー!》」



 ドドドドドドと連続で空間が爆ぜている。

 ホロビノは不充分な体勢から直ぐに姿勢を建て直すと、リリンに向かい殴打を仕掛けたのだ。

 

 もともとリリンの背よりも二倍はあろうかという身長に加え、空に立つという地の理を生かした立ち振舞いは、野性的とは程遠い、『戦い』を知る者の行い。

 しかし、その拳は惜しくもリリンには届いていない。ことごとく手前1mで迎撃され、両者の体をすすで汚すのみだ。


 続いた攻防は一際激しい爆発の後、唐突に終りを告げた。 

 両者は互いに地上にて距離を取り、視線を交わす。



「ふむ、対滅精霊エーテルダウンには竜鱗化ドラゴンハイボディで対応っと。ならば、これはどうする?《サモンウエポン=殲刀一閃・桜崋》」



 リリンは星杖―ルナを空間に放り投げて収納すると、両の手を合わせ一本の刀を召喚した。


 俺のグラムとは対照的な、きらびやかな漆黒の陶磁器のような持ち手と、美しく伸びる漆黒のさや

 細く、美術品のような雰囲気すら纏うその刀をリリンは音もなく鞘から引き抜き、薄紅色の刀身を晒した。

 吸い込まれるような輝きは武骨な俺ですら魅了してしまう程の美しさを振り撒き、ホロビノに向けられている。



「ふふ、ホロビノ。この刀は鱗じゃ防げない。さぁ、どうする?いくよ!」



 ホロビノに向かい駆け出したリリン。

 そしてホロビノは「きゅぐろん!?」声を震わせ、絶叫を呼ぶ。


 光り輝く翼から枝分かれするようにして魔法陣が展開し、空に散開した。

 その魔法陣から放たれたのは光の砲弾。

 一発一発が重い音を放ちながらリリンを接近させまいと、地形を歪めていく。


 幸いにして、魔法弾が打ち込まれたのは俺の居る方角ではなかった。が、不運にも黒土竜たちは近くに居たようだ。


 あぁ、可哀そうに。ゾッとしただろうなーとか思いながら眺めていたら、黒土竜達は土煙を上げながら必死に逃走。

 って、おい!こっちにくんな!ちょ、まっ!



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」



 6匹の黒土竜が繰り出す必死の突進は、真っ直ぐに俺の方へとやって来た。


 ……直撃だった。


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