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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第62話「英雄覇道(裏)④現れし希望、君臨せし絶望」

「……。儂の飯の邪魔をするのかの?英雄・ユルドルード」



 ワルトナを抱きかかえているユルドルードへ、那由他は覇気を叩きつけた。

 それは、先程の戦闘時のような温い敵意ではない。

 神の先兵として備えている力を剥き出しにした、本気の殺意だ。


 その殺意の余波を受け、ワルトナは震えている。

 覚醒シェキナの矢に喉を射ぬかれた事の意味を、本物のシャキナを持つからこそ理解できた。

 その矢は、どんな願いをも叶える『想像と創造の射矢』。

 そんなものが体内に、それも、人体の構造上の急所である頸椎に打ち込まれたというのは、事実上、生殺与奪の一切を握られたのと等しい。


 今頃になって状況を戦慄し始めたワルトナは震え、世界の頂きに立つ者達の言葉へ耳を傾ける事しかできない。



「飯の邪魔をするのかって?あぁ、場合によっては邪魔をするぞ。この子はな、まぁ、なんて言うか……俺の娘になる予定でな」

「それがどうしたというのじゃの?お前さんが儂の求愛に答えておれば話も通じろうが、現在は他人であることには変わるまい」


「……おい、なんか機嫌が悪そうだな?飯でも食うか?」

「飯かの?ならば急いで用意しておれ。儂がこ奴を痛めつけ過ぎない内に、の」


「それをさせない為の飯なんだけどッ!!つーか、ワルトはドラゴンほどタフじゃねぇ!そんなことしたら確実に死ぬ!」



 ……ドラゴンってなに?

 僕、ドラゴンと比べられるような状況なの……?


 頭の上で繰り出される舌戦の一字一句を吟味しながら、ワルトナはその光景を思い浮かべた。

 脳裏の現れたのは、真っ白いドラゴン。


 そしてワルトナは、偉大なるペットドラゴンが心無き友人達によって弄り回され、おもちゃにされている光景を思い出し、そんな未来は嫌だ!と必死に声を出した。



「あ、悪喰ッ!!」

「……なんじゃの」


「お前の命運もここまでだぞ!!人類最強のおじさんが来た以上、お前に勝ち目は無いんだからな!」

「あ、ちょ、ワルト!?」

「ほう?面白い事を言うが……。そも、今宵の強襲戦争は『個』での戦いだったはずじゃがの?」



 ワルトナの知る世界では、ユルドルードは最強だ。

 もっとも、知識としては蟲量大数に敗北した事を知っているし、白銀比などの七源の階級には及ばないかもしれないと理解している。


 だが、それでも、ワルトナにとってユルドルードは最強なのだ。

 どんな敵も一撃で殺す。

 化物も、超越者も、皇種ですら、ユルドルードが戦い勝つ光景を、ワルトナはユニクルフィンやあの子と一緒に幾度となく見て来たのだ。


 そんな偉大なる胸に抱かれているという安心感は、ちょっとだけワルトナの意地を刺激し言葉を荒げさせた。

 つい先ほど抱いた絶望が、那由他が常時纏っている認識阻害によって、かき乱されてしまっているとも知らずに。



「う、うるさい!おじさんの乱入は予期せぬ展開だったんだからしょうが無いだろ!……でも、僕の陣営のおじさんが戦闘を遮っちゃった以上、『個』での戦いは強制終了、これからは『(ぐん)』での戦いになるんだからね!」

「ふむ?今宵の強襲戦争、それは『むれ』での争いとなると、お前は言うのかの?悪辣」


「そうだッ!!そして、お前がどんな力を持っていようとも、おじさんには勝てない!!おじさんは神殺しすらも超える神愛聖剣を持っているんだぞ!!」

「なるほどの……。そちらの方が、より面白くなりそうじゃのー」



「なんか良く分からねぇが……、絶対にロクでもねぇ事になったのは間違いねぇな」



 落ち着いているというか、色々と諦めたユルドルードは、ワルトナを抱き起こしながら立ち上がり神愛聖剣を引き抜いた。

 その剣先には、殺意がまったく籠っていない。

 この場を収める方法の中で最も安全そうな手段として、那由他の思惑に乗っかっただけだ。


 そうして、『準指導聖母・悪喰の全軍 VS 指導聖母・悪辣と英雄ユルドルード』という布陣になった。

 この布陣にセフィナやメナファスは含まれていない。

 ワルトナは、守るべき友を人外の戦いに参加させるつもりはないのだ。


 だが、たとえ願ったとしても、それは実現しない。

 セフィナとメナファスが座っている岩とその周囲の3m。

 そこに実体のある光で出来た檻をエルドラドは出現させ、岩の周囲一帯を隔絶。

 その檻の上にゴモラが荘厳に立っているという、カツテナイ牢獄に二人は囚われているのだ。


 それをチラリと横眼で見たワルトナは絶句し、ユルドルードの皮鎧を控えめに掴んだ。



「くっくっく、たったの二人で、この儂の軍勢に立ち向かうというのかの?悪辣ぅ?」

「……。そうだッ!!つーか、お前だって二人だろッ!!」



 ワルトナは知らない。

 歴史に名を刻みしクソタヌキの同胞、兼、セフィナのペットが華麗に裏切っているなど、知りようが無い事だった。



「二人ぃ?確かに二()と言えなくもないがの、我が配下を見てもその態度が続けられるかのー?」

「はん!何をするつもりか知らないけど、こっちは英雄のおじさんがいるんだ!!」

「……すまん、ワルト。先に謝っとくがな、今から出てくんのは俺の手にも負えねぇと思うぞ」


「えっっ!?そんな事言わないでよ、おじさ……なんだこの!膨大な魔力ッッッ!?!?」

「あー、やーべー。ギンに怒られそう」



 那由他は不敵に笑い、覚醒シェキナから両腕を解き放って空を仰いだ。

 あまりにもでか過ぎる那由他の態度と、謙虚な事を言い出したユルドルードの顔色を交互に見たワルトナは……言いようのない不安に襲われている。


 そして無慈悲に淡々と、終わりの始まりが宣告された。



「来るじゃの、儂が、眷皇種!……《混沌召喚(カオスコール)・”あぁ、移し替えようムーブ・オブ・ゴッデス!”》」  

「え?えっ!?……け、眷皇種だってッッッ!?!?!?」



 唱えられた呪文こそ、神が世界へ下す命令術式。

 それを示された世界は、那由他とユルドルードが対峙するその中央に、九の魔法陣が出現させた。


 傍観者たるワルトナは、声にならない声を出して錯乱し始めている。

 なぜなら、その出現した魔法陣を目で捉え、絶対知覚を持つシェキナで解析してしまったからだ。


 つい先日、突発的に再会したユルドルードを接待している時に見た、謎の召喚魔法陣。

 その魔法陣を壊そうとワルトナはシェキナで矢を打ち込んだがビクともせず、粛々と召喚が行われていくのを、ただ見ているだけしかできなかった。

 それなのに、目の前で起動してゆく召喚魔法陣は、明らかにそれよりも高度なのだとワルトナの目に映ってしまったのだ。


 そして、この時点で、ワルトナは物凄く嫌な予感がした。

 安らぎを求め布団をめくり、タヌキに出迎えられる恐怖を超える何かが起ころうとしていると、ワルトナの危機感が警笛を鳴らす。


 やがて、那由他が世界に求めた結果が顕現した。


 それは……カツテナイ、絶望。

 ワルトナの矜持を一撃で破壊し、魂すらも粉砕する、世界で最も見たくないものだ。



「「「「ヴィギルオンッ!」」」」」

「ふぇ?」


「「「「ヴィーギルオォンッッ!!」」」」

「ふ、ふぇぇぇぇ……。」



 眩しい月夜が照らす草原に、8匹のカツテナイ害獣が君臨した。

 たったの一匹で簡単に大陸を滅ぼせる程の武力を持つが故に、あらゆる争いに打ち勝ち、ときには英雄すらも下してきた正真正銘の絶対強者。


 それらが一直線に横に並んだ中央に、とっても見覚えがあるクソタヌキを見つけたワルトナは……力無く膝から崩れ落ちた。



「なんだよこれ……。なんだよこれぇ……。こんなん、カツテナイじゃないか……」

「くっくっく、見よ!これが儂の可愛い配下達じゃの!」


「な、なんでぇ……?何でぇ悪喰がタヌキを召喚するんだよ……。コイツら歴史に名だたる害獣だぞ……」

「何でも何も、こ奴らは儂の眷皇種(・・・)。ここまで言えば分かるかの?」



 さらに愉悦に満ちた笑みを浮かべる那由多は小さい指で、うなだれているワルトナの帽子をぐりぐりと掻きまわし野次を飛ばす。

 されるがままのワルトナは、目に涙を浮かべるばかりで反応を示そうとしない。

 必死に頭の中で思考を巡らせようとするも、至る所でタヌキがチラつき、思考がまったく纏まらないのだ。


 そして、ようやく絞り出した声は、涙声での謝罪だった。



「…………………………。マジで、ごめんなさい」

「素直になったかの?なら飯を差し出せ」


「ぐすっ。ご飯でも何でも差し出すから……。許して……」

「ふ。………………我がタヌキ帝王達よ!!このアホウに格の違いを見せつけてやるじゃの!」


「にゃんで!?謝ったのにッ!!」

「謝罪した程度で、儂の腹の虫が収まる訳が無いじゃの!」



 いくら認識阻害が掛けられているとは言えど、限度はある。

 その限度をカツテナイ害獣に突き破られ現実を知ったワルトナは、涙をポロポロと溢しながらユルドルードに抱きついた。


 なお、ユルドルードは一応、神愛聖剣を構えている。

 ……が、遠い目をしながら現実逃避をしているので、反応を示すことはなかった。



「あらあらあら、英雄ユルドルードがいますね、ゲヘナくん!」

「いらっしゃいますね。再び相対する機会を与えて下さった我らが皇に感謝を」


「また遭ったな……ぶっ殺してやるぞ、ユルドルード!」

「待てや。闘技場の様に安全じゃあらへんし、帝王機を召喚した方が良いんちゃうか?」

「えーソドムっちのエゼキエル、動作確認がまだだから出したくないなぁ」


「ヴィギル―ン!」

「にゃーん!」

「そうでございますわね、では、各自の判断で召喚するのがよろしいかと」



 和気あいあいとした、絶望。

 まな板の上の鯉ってこんな気分なのかな。っと、ワルトナは震えている。

 そしてユルドルードは、いつでも離脱できるように密かにバッファを掛けた。



「ほないくで……」

「や、やめて!やめて!!」


「「「「《来いッ!!我らの帝王機(カイゼルヴァーズ)ッ!!》」」」」

「や、やめ、……帝王機(ソレ)禁止(ダメ)って言ったのにーーーッッッ!!!」



 声を一つにして召喚を行ったのは『エルドラド』『ゴモラ』『アトランティス』『エーリュシュオン』だ。


 月と見間違うほどの光輪が四つ。

 それが夜空にて瞬いた次の刹那には、カツテナイ帝王機の軍勢が降臨していた。


 皇たる那由他の背後にそびえ立つ、伝説の魔導巨人。

 それは、数千年もの長き刻にて研鑽され尽くしてきた、神すら認める殺戮兵器。


 並び立つ、4体の魔導巨人は荘厳に駆動音を上げた。

 その圧巻の光景に、ワルトナはガチ泣きしながら天に祈りを捧げている。



「……ぐす。おじさん……、こわいよぉ……」

「我慢しないで泣いていいぞ、ワルト。俺だって怖い」



 ユルドルードは帝王機に視線を向けているのではない。

 その前、那由他の横並びの位置に立つ、3人の人影に意識が集中しているのだ。


 その人物達こそ、『エデン』『ゲヘナ』『ムー』の人間形態。

 それぞれが悪喰=イーターを出現させており、見るからに危険な雰囲気を持つ武器で武装している。



「これこそが力というものじゃの、悪辣。我が那由他なる威光に触れ、己が矮小さを理解するがよい」



 そして、最後に、那由他は自身に掛けている認識阻害を解除した。

 それは、普段隠している神が定めし神聖な数字を全て解き放つ行為。


 その瞬間、ワルトナの目に幾つもの『―レベル999999―』という数字が映り、その桁を何度も確認して……。



 「キィィィィィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 ワルトナは、人生最大の悲鳴を上げた。

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