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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第59話「英雄覇道(裏)①策謀と暗躍とイタズラ」

「改めて言っておこうかね。……キミに決闘を申し込むよ、悪喰(プアフード)

「受けて立つじゃの、悪辣(ヴィシャス)



 それは、まるで静かな、宣戦布告。

 世界の実権を握る指導聖母同士が行う戦争の火蓋が、ここに切って落とされたのだ。



「良い月が鮮やく夜じゃ、『個』で争うにも、『群』を交えて争うにも適しておる。お前はどちらを望むのじゃの?」



 大きな岩に腰かけたまま、草原に立つワルトナを見下ろして那由他は問うた。

 それはまるで、玉座にて君臨する皇たる振る舞い。

 実際に王を友人に持つワルトナでさえ萎縮する程の圧力を発し、那由多はニヤリと笑っている。



「はぁ、まったくやりづらいねぇ。僕は指導聖母で、キミは準・指導聖母。僕の方が格上のはずなんだけど」

「そんなもの、もともと序列を持つ儂にとって意味が無いからの。美味い飯が食えるだけの肩書きがあれば、それでよい」


「……?まぁ、それくらい図太くないと指導聖母なんてやってられないしねぇ。僕は指導聖母の中で一番の若輩だし、ここは素直に胸を借りて選択させて貰うとするよ」

「ふむ、ならば選ぶじゃの」


「僕が指定する強襲戦争ラグナレイドは……『個』。僕とキミとで1対1、正真正銘の決闘だ」



 指導聖母同士が行う戦闘には、形骸化されたルールが存在している。

 それは、『強襲戦争ラグナレイド』と呼ばれ、指導聖母同士の覇権争い、及び、現存する指導聖母からその名と席を奪う為の戦いだ。

 その名の由来は、仕掛けた側が水面下で準備し、相手へ強襲をかけることから来ており、この戦いでは純粋な戦闘力よりも、策謀を遂行する能力が重要となる。


 典型的な例でいえば、格下たる準指導聖母が格上の指導聖母に対して仕掛ける事が多い。

 下位者は自身が有利になるように暗躍し、万全の状態を準備。

 そして、上位者へ一方的に開戦を告げ、戦うフィールドへ引きずり込むのだ。


 その時、おおまかな戦いの選択肢として、『筆頭者同士による決闘』か『お互いが持っている最大戦力を投じての総力戦』の二つがある。


 前者の場合は、全ての暗躍を終えており、後はトップを潰して支配下の置くだけというシンプルなもの。

 仕掛けた側は敵に知られないように暗躍し、仕掛けられた側は気付いていると知られないように暗躍する。

 高度な頭脳戦の果ての仕上げとして指導聖母同士が戦闘する、または協議をして敗者を支配下に置くという、比較的小規模な戦いだ。


 一方、後者の場合は、血で血を洗う大戦争に発展する場合が多い。

 指導聖母同士の能力が近しい場合はこちらになる事が多く、お互いに手段を選ばないが故に戦火が増大し、国を巻き込む戦争となる。

 歴史をひも解いてみれば、大国同士の戦争を指揮していたのは指導聖母でしたという事は良くある事なのだ。



「個、かの。そう答えるとは思っておったが、後ろの二人は見物客という事でいいかの?」

「そうだよ。宿に置いておくと何をしでかすか分かっ……ごほん、キミにイタズラされると困るから、連れて来たのさ」



 今回、ワルトナが選択したのは、前者。

 だが、長い年月の暗躍と策謀の総仕上げとして挑んだ訳ではない。

 それは、荒れ狂うワルトナの内心が語っていることだ。



 ホント良くもまぁ、ぬけぬけと言いやがったもんだよ。

 お前がセフィナにイタズラをしなけりゃ、こんな面倒な事にはならなかったってのに!


 僕と悪喰は同盟協定を結んでいる。

 それは、闘技場でふと出会い気まぐれに話をして、クソタヌキが持つ意味不明な巨大ロボの出所がコイツの国だって判明したからだ。


 あんなもん、マジでカツテナイ。

 というか、幼かった僕とユニは、カイゼルヴァーズなるタヌキロボに成す術なく敗北し、三日くらいガチ泣きした。

 それをコイツが製造してるってんだから敵対する気は無かったんだ。


 だが、ここまでコケにされて黙っている程、僕は大人しい性格じゃない。

 セフィナに変な魔法を教えた上に、僕の計画を一度ならず二度までも破綻させようとしてくるなんて、紛れもなく敵だし。

 僕を蹴落として指導聖母に成り替わるつもりなんだろう。


 で、総力戦をしても勝ち目が無い。

 なにせ、悪喰は神殺しを4つも持っているらしい。

 ヴァジュラ以外にも神殺しを3つも所有しており、そのうちの二つは魔導鎧なるものの核になっていると悪喰は言っていた。


 僕とセフィナは神殺しを持っているけど、メナファスは持ってないし、総力戦となればまず間違いなく負ける。

 だが、悪喰と僕が戦うのならば、絶対的な差は無いはずだ。

 いくつも神殺しを持っていようとも、一人が扱える神殺しは一つが限界だろうしね。



「儂相手に一対一を申し込む、なるほど、面白くはあるの」

「僕は平和主義者でね、神殺しを複数使った殺し合いなんて趣味じゃないのさ。そもそも、お前は従者を一人しか連れて来てないし不公平じゃないか」


「くっくっく、このエルに対しての評価がそれかのー。こ奴がその気になればこの大陸程度、簡単に撃ち滅ぼすがの」

「ちょ、悪喰様、そんな大げさな事を言い振らすの、ほんま堪忍してくれやー」



 おもしろげに事態を眺めていた褐色肌の男――エルドラドは、ちょっとだけ声を荒げて主に抗議をした。

 己が威信よりも面白き事を優先するエルドラドは、こういった過大な評価を好まない。

 最もそれは過大でも何でもなく事実なのだが、ワルトナは知る由もない事だ。



「悪辣さん、ほんまそんなこと無いでっせ。ワイはごくごく一般の商人やから、たいして強くはあらへんで」

「神殺しを覚醒させられる人物が一般人な訳ないだろ。だが、実力はユニクルフィンと一緒くらいなんだろうし……超越者としては下位だろうね」



 ワルトナは闘技場で、エルドラドとユニクルフィンの戦いを見ている。

 当然、その結果が引き分けに終わった事も把握しており、その後のセフィナ暴走事件でユニクルフィンの実力は調査済み。

 そうして導き出した答えにエルドラドは含み笑いを溢してから、「そうやな」とだけ言って、傍らに下がっていった。



「ほな、そちらの可愛い子ちゃん達はワイと一緒に観戦しましょか」

「あ、はい。ゴモラ、行こう?」

「ヴィギル―ン!」

「……オレの事を可愛いと表現するのかよ。コイツも、ただもんじゃないだろうな」



 セフィナとゴモラ、そして鋭い観察眼で様子を窺っているメナファスは、言われるがままにエルドラドが座っている岩の方に向かって歩き出した。

 その後ろ姿を複雑な表情で見ていたワルトナは、これでいい。と一人で納得すると、再び視線を那由他に向けた。



「散々、僕の要望に乗って貰って悪いねぇ。悪いついでにもう2つ程、条件を増やしてもいいかい?」

「好きなだけ付けるがよい。儂はお前さんよりも上位者じゃからの」


「戦闘方法は一対一、で『どんな攻撃手段を使っても良いが、相手を殺してはならない』それと『身の丈以上の魔道具の召喚の禁止』だ」

「くく、これまた露骨に鎧対策をして来たの」


「だってあれ、卑怯だし!」

「指導聖母同士の戦いで卑怯とは、片腹痛いがの……。よい、使わぬと約束するじゃの」



 それを聞いて、ワルトナは内心で拳を握りしめた。

 唯一の懸念材料が取り払われたからだ。



 よし!あの魔導鎧が出て来ないなら、それに越した事は無いねぇ!

 アレは強さ云々の前に、精神的トラウマがあるから見たくないし。


 だが、どうしてこうも僕の要望を飲むんだ?

 自分に不利な条件を締結して、重要な局面で反故にする?

 それは指導聖母として定石でもあるけど、なんか違和感があるんだよなぁ。


 まさか、シェキナを持つ僕相手に、本気を出すまでもないと思ってるのか?

 それほどまでの戦闘力を持っている?

 ワンピース一枚しか装備していないコイツが?


 なんにせよ、注意するに越したこと無いか。

 ちょっと探りを入れておこう。



「ところで、勝者が手に入れる権利の話をしていなかったねぇ。条件は僕が決めてるんだし、キミが欲しいものを必ず用意すると約束するよ。僕に勝てればね」

「飯じゃの!」


「それしか言う事が無いのかよ!?」

「ないの。飯よりも優先する事など存在せんからのー」


「なるほど、分かったよ。お前……、勝敗とかどうでもよくて、暇潰ししたいだけだなッ!?」

「くっくっく、そう見えるかの?」



 コイツの笑顔……、クソタヌキ並みに腹が立つなぁ。

 ワルトナは、ついそう呟きそうになったが、セフィナの教育に悪いと口を閉ざす。


 さらに気分を変えようと、条件のまとめに入った。



「じゃあ、キミが勝ったらこの温泉街のあらゆる施設で提供している食事を無料で食べられるチケットをあげるよ。束で!」

「うむ、チケットならば配下に分ける事が出来るし丁度良い。お前に勝った暁には、この温泉街を喰い尽くしてやるじゃの」


「……なお、その束は1000枚つづりだから。チケット一枚で一品の引き換え、つまり、無料で提供されるのは1000食だから」

「1000食かの?次の委員会はここで開いてやろうかと思うたが……。ま、儂の側近達と楽しむ分には問題あるまい」



 危ない危ない。数の制限をつけなかったらトンデモ無い事になるとこだった。

 流石に、十万人とか連れて来られたら温泉郷が破綻する。

 ……コイツ、本当に僕を破綻させようとするの好きだな。


 あー面倒だ。

 さっさと戦って、さっさと勝とう。



「ということで、僕が勝った時の権利は……、『キミの知っている事を全て話して貰う』だ」

「ふむ、そんな事でいいのかの?」


「そんな事というが、その情報は金ひと山よりも価値が高いだろう?超越者には何をすればなれるかとか、凄く聞きたいし」

「確かに、おいそれとは話せん事ではあるじゃの」


「それを含めた情報の全て、僕が聞いた事を嘘偽りなく話して欲しいって事。それが僕の求める権利だ」

「よかろう。盟約の文言を口にするがよい」



 指導聖母の強襲戦争のシステムは形骸化している。

 色んなルールが追加されては消えてゆき、いつしか、幻のように実態のないものへと変わっているからだ。


 だが、古来より変わらないものが一つだけある。

 それは、戦いを始める前の、誓いと祈り。

 賭けるべきものを宣言し、その戦いを天上から見下ろしている神に捧げる。

 それをする事によって、お互いの権利は神の力によって強制され、抗う事は許されなくなるのだ。



「じゃあ、僕からさせてもらうよ。《ここに強襲戦争の開始を宣言し、武力を以て打ち倒し、権利『悪喰が知る限りの情報の懺悔ざんげ』を得る事を、神に誓うものなり》」

「うむ、儂も答えるじゃの。《挑まれし強襲戦争の開始を宣言し、武力を以て返り討ち、権利『1000の食事』を得る事を、神に誓うものなり》」



 その瞬間、弾けたように雷鳴が響き、二人の左手の甲に魔法陣が刻まれた。

 あまり知られていない事だが、『神に誓う』という文言は、それ自体が特殊な魔法であり、それを使った約束は必ず履行される。

 神の力によって強制力が働くからだ。



「さぁ、これで戦いの準備は整った。後は戦うだけだね」

「じゃの。どれ、先手は譲ってやるからの。好きな攻撃をしてくるがよい」


「まったく、どこまでも余裕だねぇ。《サモンウエポン=神栄虚空・シェキナ》」

「うむ。真名での召喚は身に付けておるようじゃの」


「あぁ、そうさ!そしてその伸びた鼻をへし折ってやるよ!!《あぁ、親しき友人よ、キミは僕に全てを与え、そして全てを失った。それが僕は気にいらない――》」

「ほう?覚醒じゃの」


「《だから僕は……神の定めし理さえも壊すと決めたんだ。神栄虚空・シェキナ=神命への反感行為オーバーヘイト・ヘルヴィム!》」


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