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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第58話「英雄覇道(表)③それぞれの準備」

「おら!ペースが落ちてんぞ!!またブン殴られてぇのか!!」

「ちくしょうめ、886!今に見てろよ、887、絶対ブチ転がしてやる、888!!」



 伝説の英雄全裸親父との訓練二日目。

 今日も俺は、ひたすら筋トレに励んでいる。

 昨日教えられた腕立てを二度のやり直しを経て終えたまでは順調だった。

 だが、今は苦戦の一言だ。


 汗だくになった俺を待ち構えていたのは、スクワット。

 それもただのスクワットではなく、体の隅々まで惑星重力制御を行き渡らせて行う英雄仕様だ。


 親父のスクワットは、身体を上下させた時の効果音が『フォォォォン!』。

 明らかに何かがおかしいッ!?

 どこをどうしたら、金属楽器みたいな音になるんだよッ!?!?


 だが、実際に鳴っている以上、納得するしかない。

 親父の体はオリハルコン(伝説の金属)よりも硬いんだと思う。



「身体を降下させるときも惑星重力制御を使えっつってんだろ!誤魔化してんじゃねぇ!」

「んな事言ったって、足で魔力操作なんてした事ねぇんだから、しょうがねぇだろッ!」



 現在の俺は、地面の上に寝かせたグラムの刀身の上に立っている。

 あぁ、なんて不謹慎なんだろう。

 世界最強、十の神殺しを足蹴にして筋トレしているなんて神にバレたら天罰が下りそうなんだけど。

 というか、何も知らないリリンがこの状況を見たら、「……サーフィンの練習?」とか言われそう。


 で、問題なのは、俺は手でグラムに触れている訳ではないという事だ。


 惑星重力制御はグラムの機能であり、当然、それを使う為には触れている必要がある。

 英雄全裸親父はグラムを使いすぎたせいで、手に持ってなくても『惑星重力制御』と『絶対破壊』が使えるようになったらしいが……俺は人間なので出来ない。


 そんな訳で、グラムに触れながら筋トレをする訳だが……、腕立て伏せは、地面に寝かしたグラムに腕を立てていたから惑星重力制御は問題なく使えた。

 だが、スクワットはそうはいかない。

 どうやるのか悩んでいると、親父は俺にグラムの上に立つように指示し、そのままスクワットをやれと命じてきやがった。


 声には出さないけどな、正直、グラムをこんな雑に扱っていいのかって思ってるぞ、親父。

 ……英雄は、神をも恐れない。



「足でやるからいいんじゃねぇか。身体中のどっかしらがグラムに触れてさえいれば、いつでも最大のパフォーマンスが出来るようになって、やっと一人前だ」

「んだよそれ、955!第一、956!今は靴越しなんだけど957!!」


「おう、衣服越しでも力が使えるようになって二人前だな。そうやって段々と離れていって、空気を媒介にして能力の伝播が出来るようになれば三人前だ」

「そういう仕組みなのかよ、978!ちなみに、979!親父はどのくらいグラムと離れていても力が使えるんだ?980!!」


「俺か?俺は魔法次元を通じて常に繋げてあるから、距離制限とかないぞ」

「思いっきりズルじゃねえかッ、997!!偉そうに言いやがってッ、998!!」


「あぁ、確かにズルだがな、俺がグラムの能力を引き出したからこそ、そういう効率の良い手段を考える事が出来たんだっつーの。始めっからズルをしようとするお前とは違うぞ」

「くっ、999!!言い返せねぇ……。1000ッ!!」



 何度も何度もスクワットを繰り返し、またこれだけで訓練が終わってしまう……と思った矢先、段々とコツを掴んできた。


 俺がやろうとしていた事は、例えるのならば、足で箸を持って豆を掴む様なものだ。

 手では簡単にできる事でも、そういった動作をした事が無い足では途端に難しくなる。


 親父にどつかれながら、必死に試行錯誤を繰り返していたら、段々と出来るようになって来た。

 一度コツを掴んでからは展開が早く、今はもう手でグラムを掴んでいる時と遜色がない。

 そして、調子に乗って叱責を喰らう事はあっても、やり直しを命じられる事は無くなり、ついにスクワット1000回を終えたのだ。

 音だって、『フュュュン!』くらいになったしな!!



「はぁ、はぁ、……ふぅ。どうだ見たか親父!スクワットをやりきってやったぜ!!」

「まぁまぁだな。レベル99999なら圧倒出来るだろうが、超越者は厳しいぞ」


「くっ、手厳しいぜ……。実際にどの程度の敵を倒せるのかも分からねぇし……」

「そうだな、覚えてないかと思うが……、お前が昔戦った強いドラゴンに『黒トカゲ』ってのがいてな。この筋トレに慣れれば余裕で勝てると思うぞ」



 ……なに?この筋トレを続ければ、黒トカゲを倒せるだと?

 黒トカゲこと、冥王竜と戦ったのは闘技場に出る前、つまり、グラム覚醒前だった。

 今ならあるいは……?と思っていたが、この筋トレを覚えれば余裕で勝てるようになるらしい。


 筋トレの効果、凄すぎんだろ。



「黒トカゲって冥王竜だろ?戦って負けたから知ってるぞ」

「なに?」


「グラムの覚醒を思い出す前だったんだよ。一応、戦っている最中にグラムの技をいくつかを思い出したが、それでも及ばなかった。リリンの魔法も封じられてたしな」

「なるほどな。良く生き残ったと褒めてやるが……、天龍嶽に行ったって事でいいのか?」


「あぁ、違う違う。ドラゴンピエロをボコってたら出てきやがった」

「……なんか面白そうな話だな。休憩がてら聞かせろよ」



 お?なんか休憩していいらしい。ラッキー。

 丁度喉も乾いていたし、ここはお言葉に甘えよう。


 俺は予め用意しておいたジュースをポシェットから取り出して、喉と身体を潤した。

 良い笑顔でビッチキツネが酒の入ったコップを差し出してきたが、それはガン無視するぜ!



「あんときは、俺とリリン、それとワルトと一緒にドラゴンを追い返そうとしててな」

「ん?ワルト?」


「あぁ、リリンの友達の女の子だよ。ランク7で指導聖母をやってる子だ」

「指導聖母……。なるほどな」



 そう言って、親父はギンから差し出されたコップに口を付けた。

 さっきの妙な返事が少し気になったが、それよりも言いたい事がある。


 ……おい、それ、酒だろ。

 訓練中に飲むんじゃねぇよ。



「そんで、クソタヌキが――」

「急に湧きやがったな、クソタヌキ」

「あ奴はクソタヌキでありんすから、どこにでも湧くなんし」



 取りとめのない話をしつつ身体を休め、俺は隙を窺っている。

 酒に酔った後なら、一発入れられるかもしれないからな!



 **********



「それで、ユニクは私と相思相愛になった!ずっと一緒!」

「あぁ、流石はユルドの息子ですね。これほどのダメージを私に与えるとは……」



 泣いたり、笑ったり、怒ったり。

 アプリコットが知らぬリリンサが語った冒険譚も、佳境に入っている。


 セフィナとの再会も語り、その事後も全て語りつくしたリリンサは満足そうにアプリコットの膝の上に座り、堅い胸により掛っている。

 一方、リリンサの頭上にあるアプリコットの表情は、悪鬼夜叉明王菩薩。

 喜怒哀楽を超えた表情であり、愛娘が必死に行ったアプローチを保留にするという暴挙を許せないでいるのだ。


 アプリコットは、リリンサを溺愛している。

 父親である以上、恋の先に何が起こるのかは知っているが、それでも娘の身体を好きにされるのを笑顔で迎えられるわけがない。

 だが、娘のアプローチに答えなくていいのかと言われれば、それは別問題なのだ。


 つまり、ユニクルフィンは、どうあがこうと目の敵にされる運命。

 隙を窺って魔法弾でも撃ち込んでやろうかと、アプリコットは本気で画策している。



「パパ、教えて欲しい!どうやったらユニクを籠絡させる事が出来ると思う?」

「籠絡ですか……。難しい質問ですね。炎上なら簡単なのですが」


「燃やしてはダメ。恋焦がれるのはいい!」

「そもそも、リリンサは本当にユニクルフィンくんの事が好きなのですか?」


「好き。どの食べ物よりも一番好き!」

「比較対象が食べ物の時点で……。まぁ、リリンサがそれでいいのなら何も言いません。ならばこういう風に聞きましょう。ユニクルフィンくんはリリンサの事が好きなのですか?」



 アプリコットは、リリンサが過大に話をしており、その内容も主観的だと気が付いている。

 幼いリリンサ達と一般家庭を演じていた頃、リリンサ姉妹は大げさに物を言う癖があった。

 その癖は子供特有のものだと思っていたアプリコットだが、今のリリンサを見て、幼き頃と変わっているとは思えなかった。

 だからこそ、リリンサに確認する様な問いを出したのだ。


 なお実際は、ワルトナの策謀により更に拗らせているのだが、流石にそこまでは見抜けていない。



「ん、たぶん相思相愛……だと思う。ブローチや指輪も貰っているし……」

「指輪ですって!?」


「……見たい?ちなみに、ブローチはこれ」



 リリンサは振り返り、正面座位になって胸に付けているブローチを見せびらかした。

 眩しい月に照られされたブローチは妖艶に光り、それに秘められた魔導規律陣を浮かび上がらせる。



「くぅ、これならば及第点です……」

「及第点?あ、パパはこの中の魔法陣がなんなのか分かるの?」


「分かりますとも。そしてそれは、リリンサが知りたかったものでもありますね」

「私が知りたかったもの?」


「このブローチに仕掛けられている7つの魔法陣、その一つは『原初守護聖界』です」

「えっっ!?」



 リリンサがユニクルフィンから貰ったブローチ『絢爛詠歌の導き(エンプレス・オリジン)』。

 その中に刻まれている魔導規律陣の第5層は『原初守護聖界』だった。


 それに驚いたリリンサは、思わず魔導服からブローチを外し、両手に持って月にかざした。

 宝石越しの月光がリリンサの顔に落ち、赤くなった頬を更に色付かせてゆく。



「すごい……英雄が使う魔法が込められているなんて……」

「このブローチは相当に手の込んだ造りをしています。装備者を自動で守る目的で造られたものですが、上層4つはリリンサが習得しているようなランクの低い防御魔法で構成されていますね」


「友達に見て貰った時、第4層は第九守護天使だって言ってた」

「えぇ、そうです。これは魔力消費が少ないが故に常時発動していて、装備者の他にブローチ自体を守る意味も含まれていますね」


「なるほど……。で、5層が原初守護聖界?」

「原初守護聖界は消費魔力が大きい為に常時発動には向きません。従って、装備者の命の危機に応じて発動する仕組みになっています。これと魔力の供給源が第6層ですね」


「ん、じゃあ、7層には何があるの?」

「7層は、エンブレムの価値を証明する魔導規律陣です」


「ブローチの価値?」

「このブローチは師匠ホーライが自ら作ったものですので、その意匠などが彫られているのですよ」


「えっっっ!?!?」



 唯でさえ、ユニクルフィンから始めて貰ったプレゼントという付加価値が付いているブローチに、新たな価値が判明した。

 リリンサはその言葉を聞いてうっとりとブローチを眺め、笑みを溢す。


 それを複雑な表情で見ていたアプリコットは、このままでは娘を取られてしまうと話をすり変えた。



「ささ、指輪の方も見せてください。二級品が出てこようものなら……魔法を添えて送り返してあげましょう」

「それは大丈夫。指はもっと凄くてきれい!」



 男性から女性に指輪を送る事の意味を知っているアプリコットは、チープな指輪が出てきた場合、ランク0の魔法と共に叩き返してやろうと本気で思っている。

 先程のブローチを軽々超えるような品でなければ許容しないと、息を巻いているのだ。


 指輪とは、それほど意味合いの強い品。

 そのプレゼントを認めてしまえば、覆せない何かが決まってしまうと思ったアプリコットは、鋭すぎる眼光でリリンサの手元を覗いた。



「見て驚いて欲しい!これがユニクに貰った、婚約指輪!」

「婚約指輪ですか。これはとても厳しく査定をしなければなりませ…………」


「……パパ?」

「馬鹿な……。ソロモンの指輪……だとっ……」



 リリンサが取り出した指輪を見たアプリコットは、苦笑をした。

 その指輪こそ、この世界のあらゆる指輪の中で元も力を秘めた至宝。


 神ですら欲したとされるこの指輪こそ、蟲量大数を攻略する為にアプリコットが探し求め、ついに手に入れる事が出来なかった『切り札』だった。



「ソロモン?」

「ははは、困りましたね。これでは合格点をあげざるを得ないではありませんか」


「ん、っと……。この指輪も凄い?」

「えぇ、とてもね。さて、そろそろ訓練を始めましょうか、リリンサ。予定よりも深く魔法の深淵を覗く必要がありそうですから」



 **********



 同時刻。

 白銀比の社がある山の向かい側にある山頂にて。



「……やぁ、待たせてしまったかい?悪喰」

「今宵は良い月が出ておる。それを見ながら団子を食っておったから、気にせんでよいじゃの」


「そうかいそうかい。待たせたお詫びに、その団子代は請求しないでおいてあげるよ。さて……」



 サワサワと草木が鳴っていた草原、そこにあった岩の上に座っているのは褐色肌の少女だ。

 その傍らには、同じく褐色肌の青年が立ち、おもしろげに事態を眺めている。


 一方、やってきた白い髪の少女の横には、さらに二人の人影が追従していた。

 赤い髪の女と、純黒の髪の少女。

 そのどちらも言葉を発せず、緊張した表情で事態に身を任せている。



「改めて言っておこうかね。……キミに決闘を申し込むよ、悪喰プアフード

「受けて立つじゃの、悪辣ヴィシャス

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