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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第57話「英雄覇道(表)②・父と子」

「………うそ、パパ……」



 目に涙をいっぱい貯めたリリンは呟き、そっと静かに俺達から離れた。


 その視線は現れた男へ一直線に向いており、ゆっくりと歩き出し、次第に歩幅は広がってゆく。

 やがて、全力で駆けだしたリリンは、男に飛び込み抱きついた。

 優しく受け止められたリリンは、堅そうな黒茶の魔導服に頬を埋めながら、思い出の中にある名前を、何度も何度も呼んでいる。



「パパ……パパ……、ぐすっ、パパだぁ……」

「おや?甘えんぼさんのままのようですね。パパとしては嬉しい限りです」



 その男の背は俺よりも高く、藍色の髪を持ち、荘厳な魔導服を着ている。

 だが、その雰囲気は温和で優しげだ。

 土木作業員っぽい親父とはまったく違う、例えるのなら……書士とか、法務官とか、そんな感じだな。


 この人が、リリンの父親のアプリコットさんか。

 過去の親父のパーティーメンバーであり、その実力はリリンを遥かに凌駕している。

 なるほど、これは納得だ。

 持っている杖から立ち上っているオーラが凄すぎるし、リリンが抱きついているのも関わらず、隙が見当たらない。


 それに、俺の直感では、となりにいる親父よりも強い気がする。

 間違いなく、出会って来た人たちの中でも、ぶっちぎりに最強クラスだな。



「ん、何でパパがここにいるの?もしかして、パパも生きているの……?」



 暫く抱きついていたリリンは唐突に顔を上げ、アプリコットさんへ質問を投げかけた。


 その質問は俺も気になる所だ。

 セフィナ達とアプリコットさんでは、亡くなった時期が違う。

 アプリコットさんは、リリンが家族と別れる約2年前に亡くなっており、その死は偽装とは関係が無いはず。


 だからこそ、アプリコットさんの死は偽装なんかではなく、再会できると思っていなかった。

 思わぬ吉兆に、俺もリリンも思わず笑顔が零れる。


 だが、アプリコットさんは静かに頭を横に振った。



「リリンサ、私は死んでいます。今ここにいる私は、ギンの権能の力を借りて姿を維持しているだけの存在に過ぎません」

「そう……なんだ……」


「えぇ、あなたの父は死に、本当の意味での再会をする事は出来ないです。ですが、こんな私でよければ、これからはいつでも逢う事が出来ます。いくらでもお話を聞く事が出来ますし、昔は教えてあげられなかった事も今なら教える事が出来ます」

「うん……。話したいこと、聞きたいこと、色んな事がいっぱいある……」


「語り合いましょう、リリンサが過ごした8年の時を。見た景色、感じた想い、溢した笑顔、落した涙、どんな話でもいいのです。私は……その人生を知りたいのですから」

「うん、分かった。いっぱい聞いて貰う……。8年分聞いて貰うまで、絶対やめないよ……」



 優しげな声色で語るアプリコットさんは、今にも泣き出しそうなリリンの頭を撫でている。


 あぁ、なんて感動的な親子の再会なんだろう。

 神をも殺す絶対破壊の剣で斬り掛った挙句に返り討ちにされ、その後、筋トレと称して行われた暴行とは大違いだ。



「おい、アプリ。思い出話もいいが、しっかり訓練もしろよ?リリンサちゃんは原初守護聖界をお望みだぞ」

「ふ、なにを馬鹿な事を。その程度の魔法など、リリンサならばすぐに覚えてしまいますよ。10分も掛りません」

「……。10分は厳しいと思う……」


「親バカめ。いくらお前の子だろうと、ランク(オーバード)の魔法をそう簡単に覚えられるわけがねえだろ」

「馬鹿はあなたですよ、ユルド。リリンサはとても賢く繊細な子なのです。同じく繊細なランク(オーバード)、とりわけ創生魔法とは親和性が高いに決まってるでしょう」

「え。ら、ランク0ってなに……?そ、創生魔法とか、本当にあるの……?」


「あぁ、なるほどな。創生魔法が得意なダウナフィアさんに似ればそうなるだろうよ。だが、大雑把なお前に似ちまったら大変だ」

「私が大雑把?ははは、別次元に戦闘フィールドを作った時の事を言ってるのですか?あれは、あなたが戦いやすいようにですねぇ――」

「えっ、お母さんは創生魔法が得意……?別次元に戦闘フィールドって、ど、どういう事なの……?」



 おい、自重しろ、オヤジども。

 理不尽を振りまわす超魔王さんが困惑してるぞ。



「待て待て、落ち着け、親父!アプリコットさんも熱くならないでくれ!」

「ほう?これはこれは、ユニクルフィンくんじゃありませんか。それなりには育っているようですが……、この程度では、娘を一人たりともくれてやる気にはなりませんね」

「ん!ユニクは私の恋人になっている!!キスだってしたし、混浴にも一緒に入った!!」


「こんなタイミングで暴露ッッ!?!?」

「へぇ……。子供の頃の戯言かと思って、笑って許してやろうかと思いましたが……。すでに不純異性交遊をしているとはね」



 やべぇ!!ギンの殺気よりも数段やべぇ!!

 一歩でも動こうもんなら、爆殺されるッ!!



「待て待て、こんなのでも息子だし、痛めつけられちゃかなわん。お前らはあっちで思い出でも語ってろ」

「えぇ、そうですね。私としてもあなたの様な野郎を見ているより、可愛い愛娘を見ていた方が幸せです」


「そうしとけよ。俺と違い、お前はここでしか会えねぇんだ。しっかり娘と触れ合っとけ」

「お気遣いありがとうございます。っと、これだけは言っておきますね……。ユニクルフィンくん、リリンサを手にいれたくば、私を倒してからにしていただきましょうか」



『ここから先に行きたければ、私を倒してからにしろ』って、もっと中ボスが言う言葉だろッ!?

 断じて、ラスボスクラスが言っていい言葉じゃねぇ!!


 優しげな表情で俺を眺めているアプリコットさんの目は、ぜんぜん笑っていない。

 うん、この目は手加減する気はまるでないって目だな。殺意が漲っているぜ。


 アプリコットさんは親父と同じ強さであり、公表こそしていなかったが英雄であるらしい。

 というかそれ以前に、『ランク0の魔法』とか、『別次元に戦闘フィールドを作る』とか、聞くからにヤバそうな言葉が飛び交っている。


 新たに俺へ課せられた試練。『英雄アプリコット(お義父さん)を倒す』

 ……ちょっと目標が高すぎる気がする。



「おら、そうと決まれば筋トレだぞ、ユニク」

「だな。よし、昨日は腕立て伏せをしたから、今日はスクワットから……」


「馬鹿かお前は。筋トレは準備運動なんだから、全部やるに決まってるだろ。腕立てからやれ」

「……ちくしょうめ!やってやるよッ!!」



 新たな目標を達成する為、俺は筋トレを頑張るぜ!!



 **********



「ここなら二人きりですし、静かにお話しが出来るでしょう。さぁ、存分に甘えていいのですよ」

「……ん、膝の上に座ってもいい?」



 ユニクルフィンとユルドルードが筋トレを始めた場所から暫く歩き、アプリコットは立ち止った。

 そこは月夜が照らす草原。涼しい風が吹き抜ける心地よい場所だ。



「もちろんですとも。さぁ、おいで、リリンサ」

「うん……」



 サワサワと風に揺れる草に腰を下ろしたアプリコットは腕を広げ、娘を手招いた。

 年相応よりも幼い表情の少女は、ちょっとだけ恥ずかしげに迷ったあと、温かな膝へ腰を下ろして堅い胸板に背中を預ける。



「あぁ、少し重くなりましたね。これが16歳になった娘の重みですか」

「重いとか2回も言わないで欲しい。デリカシーが無いと思う!」


「ふふ、これは失礼しました」

「パパは、いつもママにそうやって怒られていた。罰として、ほっぺを叩いてあげる。えいっ、えいっ」



 ぺちぺちと、リリンサは力弱くアプリコットの頬を叩いた。

 そして、薄ら生えた髭の感触を思い出し、リリンサは笑みを溢す。


 リリンサが平均的な表情をするようになったのは、家族を失った後の事だ。

 この暖かな膝の上にいた頃は、年相応な少女の表情で毎日を過ごしていた。

だからこそ、父と子は自然に笑い合うことができた。



「あぁ、本当に懐かしい。私の興味を引きたいときは、特にそうやって頬を叩いてきましたから」

「パパ……あのね、私はすごく頑張ったんだ」


「ほう、どのように頑張ったのですか?」

「パパが死んじゃった後、取り戻さなくちゃって思った。今まで幸せだった家庭を取り戻さなくちゃって、セフィナを笑顔にしなくちゃって思って頑張ったんだ」


「えぇ、リリンサが頑張ったというのなら、それは世界一の頑張りだったのでしょうね」

「ううん。その時はまだ頑張りが足りなかったんだと思う。そのあとママとセフィナがいなくなって、独りぼっちになって、師匠や澪に出会って……色んな事に翻弄されっぱなしだった」



ぽつりぽつりと、リリンサは語りだした。

久しく忘れていた距離感を探るように、ずっとずっと我慢していた感情を解きほぐしてゆく。



「確かに世界は広い。人類最強の魔導師などと呼ばれていた私でさえ、旅をすれば驚きの連続です。幼い身ではさぞ苦労したでしょう?」

「うん、とても大変だった。でも、でもね……大切な友達が出来たよ。ワルトナ、レジェ、カミナ、メナフ、あとドラゴンのホロビノ。かけがえのない友達と一緒にユニクを探す旅。それはとても楽しくて、大変な事も、辛い事も、失敗もいっぱいあったけど、それでも楽しかったんだ」



 それはただの、思い出話。


 リリンサは、本当は、こんな話は後にするつもりだった。

 今まで忘れていた、あの子の存在。

 自分とユニクに関する過去、白い敵とは誰なのか。

 質問するべき事はいくらでもあり、それらを優先させるべきだと理性では理解していたのだ。


 だが、言葉が止まらない。

 一度語り出してしまえば、思い出と感情は止まる事がないのだ。



「パパ……。えっとね、あのね……」

「ふふ、とても複雑な表情ですね。それだけ想いの詰まった人生だったのでしょう」


「そう、色んな事があって……それで、ぐすっ、どれから話せばいいか、わからない……」

「一個ずつ、ゆっくり話を聞いて行きましょう。リリンサは話をしながら笑ってもいいし、泣いてもいい、怒ってもいいし、拗ねてもいいのです。例えこの世界中を敵に回しても、ギンや神様と決別しても、パパはリリンサの味方なのですから」

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