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第3話「竜の戦略」

 そして、現在。

 俺は、走っていた。



「うわぁぁぁ!死ぬッ!死ぬッッ!」

「大丈夫。人間は簡単には死なない。………………たぶん」



 俺の叫びに、律儀にも返答を返してくるリリン。

 リリンは簡単に人は死なないと言うが、この状況なら普通に怪我人または死人が出ていてもおかしくない。

 いや、自分可愛さで言ってるんじゃなく、ガチだ。


 まず俺を追いかけ回す二匹の黒土竜。

 コイツらはホロビノに指示出しされた後、目まぐるしく動きが変わった。

 常に俺の腰の辺りに視線を定め、隙あらば噛み付きを狙うようになったのだ。


 狙われて分かったが、腰は体の中心に位置するために回避行動が非常に難しい。

 無理矢理かわそうとすると姿勢が崩れ、足が止まる。

 そしてそこに二撃目を繰り出されれば、グラムで受け止めるしかない。

 だが、そこに直ぐに最初の黒土竜がもう一度攻撃を仕掛けてきて、それの繰り返しになる。

 そして、段々と取れる手段が狭まってしまうのだ。


 だから、俺は逃げ出した。

 しかし、ここで空で戦闘管制を行っている黒土竜が嫌らしい攻撃をしてきた。


 それは、投擲攻撃。


 草原に落ちている小型の岩や、倒木、土の固まり等を空から投下。

 場合によっては勢いを付けて投げつけてくる訳だが、コレが非常に厄介だった。


 人の頭ほどの大きさの岩や倒木が降ってくる。

 当たれば当然大ケガじゃ済むわけがないし、岩は砕けるまで何度も回収されて、投下され続ける。

 リサイクル精神たっぷりで大変にエコロジーだな。


 さて、俺の頭の頂辺には、当然、目は無い。というか、人間ならば普通は無いはずで、頭上からの攻撃なんて知覚出来ない。

 なんとなく、リリンなら見えていそうだなと思いつつも、リリン自体が規格外なので参考にもならない。

 多分魔法でどうにかするんだろうし。


 俺はどうしたものかと考えた結果、走り続けて狙わせないという事にしたわけだが、それでもまったく意識しないわけにもいかず、意識散漫なまま、二頭の黒土竜の苛烈な攻撃を受け続ける事になっている。


 幸いにしてリリンの掛けてくれた防御魔法はしっかりと効果を果たしている。

 左手をわざと噛みつかせてもダメージはなく、痛みも感じなかった。

 防御の魔法は信用できると理解しつつ、いきなり吐いてくる炎は防げるかどうか分からない。

 


「ち!ドヤ顔で連携をかましてきやがって!調子に乗るなよ!!」


 

 ちょっとここらで、思いついた戦略を試してみよう。

 俺は逃げの姿勢からかかとを返し、黒土竜に向かい合った。


 ―グラムよ。俺はお前に、自在の重量を求める。


 軽く軽く、重く。

 剣を加速させるときには軽く速く。

 腕が延びきり、威力を蓄える時には重く、だが、速く。

 まるで振り子のようにして、右へ左へと往復する度に、速さと重さを掛け合わせるようにして、運動エネルギーをグラムに、注ぐ。



「オンギュラァァァァ!!」



 目の前の一匹が雄叫びを上げ、何度目かの突撃を繰り出した。

 ……だけどな、黒土竜。それはもう見飽きてるぜ。



 メキャリ。



 乾いたこの音は黒土竜の土手っ腹にグラムが食い込んだ音だ。

 そのまま力の限り振り抜いたグラムは左へと流れ、黒土竜はその勢いを殺せずに地面へ激突し、そのまま気絶した。


 その場では、信じられないといった残りの黒土竜たちの視線が飛び交う。


 そして、その視線の集まる先、一際目を見開いているのは、ホロビノだ。

 黒土竜たちの指導役、裏切りドラゴンのホロビノは、どうやら俺の敗けを信じて疑わなかったようである。

 いきなりの黒土竜の脱落に、若干慌てながらも何度か短く声を上げた。

 ドラゴン語なんて知らない俺にはさっぱりだが、残りの黒土竜達が色めき立つ。


 何かが変わったのだろう。


 俺は再び、グラムにエネルギーを溜めるために意識を集中させた。

 最初は、かるく―――



「ユニク。」

「ちょ、!吃驚した!!どしたいきなり耳元で!」



 急に囁かれた鈴とした声に俺は驚き、耳元で言わなくてもいいよな!?と振り返える。

 ……が、そこには誰もいなかった。

 あれ?かなり近い声だったんだけどな?

 辺りを見渡してみても、リリンは何処にもいない。



「そこに私はいないよユニク。私はホロビノの上から指示を出している。声が届くのも意識と認識を共有する魔法の効果によるもの、安心して欲しい」

「さっきリリンが使った二つの魔法の片方か?」


「そう。さて、どうやら黒土竜達の雰囲気が変わった。奥の三匹も参戦するようで立ち上がっている。ここからは一人では辛いので、私が戦闘管制を出す」

「お!それはいいな。よろしく頼むぜ!」



 部分的ではあるが黒土竜5体VS俺+リリンという構図になった。

 そして、リリンの戦闘管制により、戦況は著しく激変する。


 まずは俺の体の変化だ。

 視野が拡張され、全方位を同時に認識出来るようになった。

 なんでも、リリンは俺の視野と自分の視野を魔法で直結させているらしく、遠巻きからリリンが見た情報が、視野として理解できるらしい。

 今のリリンは俺を周囲ごと見ているため、俺の視野は360度全方位になったわけだ。


 そして、黒土竜達との戦闘でもリリンの戦闘管制の効果は劇的だった。



「――次。右上から黒土竜の爪攻撃がくる。グラムの剣先で弾いて、そのまま左へ全力で薙ぎ払いして」

「了解!」



 言われた通りにグラムを振るえば、黒土竜が巻き込まれてゆく。

 それは文字通りそのままの光景を産み、まるで紙切れを纏わせているように、グラムの軌跡に合わせて黒土竜が舞う。



「次は下と上から尾と噛み付きが来る。かわして、グラムを上方向に振りかざして」



 その予言めいた戦闘管制は寸分の狂いもなく実現し、俺は自身の体を動かすことに没頭できた。

 5対1という、前回ならば手も足も出なかった布陣でも不自由なく立ち回り、黒土竜を軽くあしらう事が出来るのだ。


 なんだこれ!すげぇ面白い!!



「ユニク、黒土竜を一匹減らす。力の限りグラムを降り下ろして!」

「よっしゃ!ここだァァァァッッ!!」



 まるで誘導でもされているかのように、黒土竜は無防備に脇腹を晒していた。

 俺は見えている弱点に向かい、グラムを打ち下ろす。


 ……そして。



 「ガキィィィィィンッ!!」



 響いたのは、予想だにしない程の高音だった。

 グラムで硬い岩を殴った時のような鉄の高音は、決して生物を攻撃した時に鳴る音じゃない。

 しかし、現実として黒土竜の鱗が、グラムを受け止めて音を奏でたのは間違いない事実。


 俺はもとより、リリンでさえも驚愕で固まってしまった。

 分かるのは、黒いだけだった黒土竜の鱗がいつの間にか異様なほどに光沢を帯びているという事だけだ。



「……馬鹿な。その鱗はどう見ても、ホロビノの竜魔法ドラゴンアーツ一つ、竜麟化ドラゴンハイボディ

「それって?」


「黒土竜が自然に使えるような技ではない。明らかに誰かの意志が介入している」



 そう言ってリリンはホロビノから降り、頭の方へと歩きだす。



「ホロビノ。黒土竜に魔法教えた?」

「……。」



 ぷいっとリリンから視線を逸らし、無言を貫くホロビノ。黙秘の主張だな。

 何も答えないが、どう見てもコイツが犯人だ。

 第一、目が挙動不審だし、尻尾が落ち着きなくブンブンと揺れている。



「……まだ何か隠していそう……。ホロビノ、黒土竜達に教えたのは、竜麟化だけ?」

「……。」



 またもやプイっと視線を逸らす、ホロビノ。

 他にも何かやらかしてるのか?この野郎。


 リリンが言うには、二重三重に裏切りを行うこの駄ドラゴンは、高位の竜が扱う魔法をいくつか黒土竜に教えてしまったらしい。

 そして、一部の黒土竜が魔法を扱えるようになってしまったというのだ。


 そうとなっては話が別。

 ホロビノはあの光線ウナギよりもレベルが高く、強い。

 つまりあの雷撃並みの魔法を黒土竜が使ってきても不思議じゃないってことで。


 うん。俺、よく生きてたなッ!!



「こうなってはしかたない。私も参戦する」



 リリンが予定外だと言わんばかりの態度でこちらに歩いてくる。


 俺の後ろでは黒土竜達がなにやら騒がしくしているが、攻めてくる様子はない。

 その隙あらばと、リリンは黒土竜を蹴散らすべく杖を構えた。


 その瞬間だった。

 

 俺たちの頭上を飛び越え、白いドラゴンが黒土竜の群れの中に舞い降りた。

 とうとう見ているだけでは飽きたらず、ついに参戦の意思を示したホロビノ。


 二度ならず三度目の裏切り。それは間違いなくホロビノの意思によるもので。



「……ホロビノ。そっちにつくの?」



 飼い主たるリリンの乾いた声が、戦場に響く。


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