表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

416/1329

第53話「激動の混沌温泉」

 カポーン……。


 一早く危険を察知し、空気が張り詰めているこの場から逃げ出したアルカディアさんが、手桶につまずいてすっ転んだ。

 どことなくアホタヌキ感があるな。

 シリアスムードなんだから自重して欲しい。


 それはともかく、視線の端っこに、ほんの一瞬だけ肌色が見えた。

 しっかり見てしまうと、『滝のように湧き出す絶望』を認識してしまうので、あくまでもチラ見だが……。眼福だぜ!


 って、そんな事してる場合じゃねえだろッ!!

 どうすんだよこの混沌ッ!?

 まさか、白い敵までこの宿に泊まってんのかッ!?!?


 リリンの自宅に泊まりに来るとか、いい度胸してるじゃねえかッ!!



「何でこんな所に、おねーちゃんがいるの……!?」

「ヴィギルーン!」


「え!?あ、そうだよね。……謝らなくちゃ、だもんね」



 前から思ってたけど、セフィナってニセタヌキと会話してるよな。

 昔からずっと一緒にいたというし、意思の疎通が出来るのは愛のなせる技……な訳ねぇだろ。

 どう考えてもニセタヌキが何かしている気がする。


 そういえば……。

 白い敵とニセタヌキって同時に出現してねぇよな?

 もしや、白い敵=ニセタヌキって事もあるのか?

 ちょっとワルトに聞いてみよう。



「ワルト、新しい可能性に気が付いたんだが」

「なんだって?」


「もしかしたら……白い敵の正体はニセタヌキかもしれない」

「黙れ。潰すぞ」



 すげぇ辛辣な返事が来たんだが……。

 いや、今のは俺が悪いな。


 ワルトにとっては、これが白い敵の一味と初邂逅となる。

 レベルだって同じくらいだし、タヌキに構ってる状況でもない。


 混沌とする空気の中、セフィナの視線はリリンに向いている。

 それ以外は眼中にないと言った感じで、色んな感情を灯した瞳でリリンと対峙しているのだ。


 そして、体の前面に張り付いているニセタヌキ。

 その手が掴んでいるのは、麗しの双丘だ。

 あぁ、なんという事だ……。

 リリンとワルトよりもデカイじゃねぇか。



「あ、あのね、おねーちゃん、ごめんなさい」

「……それは、なんに対しての謝罪?」


「この間はビックリさせちゃったから……。あの後、メナファスさんが『アレじゃ驚かせちまうぜ。リリンに会ったら、ちゃんと目を見て謝ろうな』って慰めてくれて、失敗したって気付いたの。もっと他に方法があったって反省してるの……」

「……そう。しっかり謝れて、偉いと思う!」


「ゆ、許してくれる!?おねーちゃん!!」

「うん、許してもいい。……大人しく捕まって、お仕置きを受けるなら。」



 いやいや、今の流れだったら許してやれよッ!?

 それに、「許すから、私の部屋で美味しいお菓子でも食べよう?」とでも言っておけば、捕獲も完了すると思うんだがッ!?


 だが、今日のリリンはご機嫌ナナメな超魔王さんで、超怖い。

 主に俺のせいなので、文句を言えないのが辛い所だぜ!



「え”っ。」

「それはそう。何度も襲撃を仕掛けておいて、謝罪だけで許されるはずがない。昔から、悪戯をしてはダメだと教えて来たはず《サモンウエポン=私の鈴》」


「あっ、あっ……。」



 そう言ってリリンは、簡素な造りの鈴を取り出して、荘厳に振り回した。

 リィーン、リィーンと鳴り響く鈴の音。


 あぁ、これは確か、セフィナとの再会の時に鳴り響いた、世界が終る時に鳴るという……終末の鈴の音アポカリティックサウンドだ。



「怖いの!その鈴はダメなの!!お仕置きはダメなの!!」

「ふふふ、ここであったが3日ぶり。もう逃がさないっ!!」


「ふにゃあああ!!ダメなの!!お姉ちゃんはまだオコなの!!」



 決別の言葉を聞いたセフィナは一目散に逃げ出し、リリンは一直線に走り出そうとした。

 その目はギラつき、まるで、バナナを見るクソタヌキの眼光の様に鋭い。


 セフィナとの距離は10mも無く、完全に意表を突いている。

 これなら捕らえられると思って、俺は油断していた。


 だが、ここで予想外の事が起きた。

 リリンの背中に抱きついていたワルトが、リリンが走り出すのを邪魔したのだ。



「わ、ワルトナ!?離して!!」

「無理無理!!だって見られちゃうから、僕の全部がユニに見らちゃうからっ!!」


「見られても減らないと思う!それより今はセフィナ!!」

「減るから!!僕の矜持とか色々減っちゃうから!!」



 ……そんなに俺に裸を見られるのが嫌なのか。


 まぁ、普通に考えれば嫌だよなぁ。

 聞いた話だと、ワルトには一応、想い人がいるらしいし、変態と名高い英雄の息子に裸を見られるのは辛いものがあるのかもしれない。

 ……。

 今日一番のダメージを受けた気がする。



「つっ!……ユニクッ!!どっかいって欲しい!!」



 そして、リリンからも無慈悲な追い打ちが飛んできた。

 あぁ、まるで不審者扱い。

 ここは混浴温泉、一応、合法的に女の子と一緒にお風呂に入れる場所のはずなんだが……。



「ご、ゴモラ!?良く見たらユニクルフィンさん居たよ!?何でいるの!?」

「ヴィギルン!」


「そうだよね!?変態さんだよね!?」



 おい、合法だって言ってんだろうがッ!!

 今すぐ周り込んで捕まえてや……タオル一枚でそれをやったらマジで変態だな。

 やめておこう。



「ほら、さっさとどっか行けって言ってんだよユニ!しっし!!ほら、しっし!!」



 そして、ワルトにまでどっかいけコールをされた。

 何だこれ、極楽温泉の住人が、全力で俺の心をへし折りに来ているッ!?



「……どうやら俺は戦力外みたいだな。あっちの男湯に避難しているぜ!」



 最大限の見栄を張って、俺は大人しく身体を返した。


 セフィナを捕まえるのに協力した方が良い気もするが……。

 それをした場合、怖いおねーちゃんと変態の俺に挟まれたセフィナは怯えて、収拾がつかなくなる。


 ワルトが正常なら協力しろとでも言っただろうが、今は逆に俺を殺しに掛って来る可能性が非常に高いしな。

 もう一度、俺は心の中で呟いた。

 俺は戦力外。だから、男湯に避難するのが最善なんだッ!!


 もうちょっとだけリリンやワルトの水着姿を見ていたかったなぁと思いつつ、俺は静かに混浴温泉を後にした。

 後ろの方で、「共鳴覚醒・死を抱く魔王の上位体デモン・エクストラボディ!」とか聞こえるし、触らぬ魔王に祟りなしだ。



 **********



「ふぅー。満場一致での退場とはいえ、イマイチすっきりしねぇな。こうなったら……温泉を堪能し尽くして、嫌なもんを全部流しきってやるぜ!」



 しばらくは男湯の露天風呂で不測の事態に備えていようと思ったが、すぐにリリン達は女湯の奥に行ってしまったらしい。

 流石にそこは禁域だ。

 童貞の俺では立ち入れない絶対不可侵領域だ。入れば死ぬ。


 こうなってしまうとやれる事はないし、素直に温泉を楽しもう。

 もしリリンがセフィナを捕まえていても、男がいない方が話がスムーズに進むかもしれないしな。



「さて、ここは男湯で一番奥になる訳だが……。右側からぐるっと一周、時計回りに入っていくとするか」



 じゃぶじゃぶと露天風呂の中を移動し、右側の奥に向かって歩いてゆく。

 途中で壁に地図が掛っているのを発見して、向かう先に何があるのかを確かめた。


 右側奥は、地中深くから汲み上げている高温風呂。

 看板によると、地面を掘った深さが違うらしく、腰痛や精神痛に効くらしい。

 心身ともに衰弱している俺にピッタリな温泉だな!



「へぇー。ここのお湯は透明なんだな。むしろ不自然なくらいに透明で、お湯があるように見えないくらいだ」



 辿りついた高温風呂は、思ってたよりも広かった。

 澄んだお湯が静かに中央から湧きだし、湯気の量も多い。

 だが逆に足元の湯は澄んでいて、ぶっちゃけ丸見えになる。


 だが、ここには俺しかいない!

 ならば今こそ、最後の砦を解放する時!!


 俺は堅く結んだシールドに手を掛け、勢い良く剥ぎ取った。



「覚醒せよッ!俺ッ!!」

「男らしい、良い脱ぎっぷりじゃのー」


「えッッ!?」



 ちょっと待って!?誰かいたんだけど!!

 しっかり確認をしないとか、馬鹿なんじゃねえのか、俺!?



「え、っと、あぁ、すまん。はしゃぎ過ぎちまったみたいだ」

「よい。風呂とは裸で入るものじゃし、そもそも、服を着ている事の方が動物としては異端じゃしのー」



 慌てて腰布を巻き直しながら、俺の後ろに立っている人物に謝る。

 不慮の事故とはいえ、俺の尻なんて女の子に見せつけていいもんじゃねえしな。


 ……ん?女の子っておかしくないか?

 いや、どう聞いても女の子の声なんだけど、ここは男湯だよな?


 俺は慌てて振り向き、そこには、褐色肌の幼女がいた。



「……。」

わっしの美貌に見惚れておるかの?別に隠しはせんから、存分に堪能するがよい」



 うわ、なにこの子。まったく隠さない所か、胸を張っていらっしゃる。

 ちょっと大胆すぎるんだけど。


 自分の中で言っておくが、俺は幼女趣味など無い。

 だから目の前で一糸まとわぬ断崖絶壁が公開さていても、感じるものはない。


 ……だが、思う事はある。

 俺は、この子の将来が心配だ。



「えっと、ここは男湯のはずなんだけど……?間違って入って来ちゃったのか?」

「うむ、女湯の方から来たのかと問われておるのなら、答えは否じゃの。ここにはパパと一緒に来たからの!」


「あぁ、そういうことか。確かに父親同伴なら納得だな」



 見た感じ、この子は8歳くらいだ。

 うーん、大体サチナと同じくらいか。

 世界の常識がどうなっているのかは知らないが、男湯に入っても問題ない……のか?

 そこら辺は人によるが、この子の父親は気にしないタイプなんだろう。


 ん?というか、問題はそこじゃないよな?

 サチナが人払いの結界を張っているから、一般客は入れないはず。

 いや、そういえば、アルカディアさんもいたっけ。


 何らかの不都合で、サチナの結界が機能してないって事か?



「何を呆けておる?温泉に来たのじゃから、ゆっくり漬かってゆくがよい」

「あ、あぁ。そうだよな」


「せっかくじゃし、あっちでお前さんの話でも聞かせてくれ。冒険者なのじゃの?」

「おう?よく分かったな」



 褐色幼女に俺が冒険者だと見破れたんだけど……って、そりゃそうか。

 俺のレベルは約2万。

 普通の冒険者の中堅クラスであり、そう考えるのが自然だし。


 それにしても……、さっきから冷や汗が止まらない。

 足元の温泉は随分と温度が高いみたいだ。



「ほれ、ここじゃ。パパと一緒に話を聞かせてくれじゃの!」



 そう言って、褐色幼女はその男に抱きついた。

 それを嫌そうに引き剥がし、男は悠々と構えている。


 ちょっとただならぬ雰囲気だな。

 敬語を使っておこう。



「こんにちは、保護者の方ですか?この子に連れられてきたんですが……」

「……。あぁ、間違いなく保護者の方だな」



 その男は、風呂の外周に寄りかかり、顔にタオルを乗せているから表情が分からない。

 だが、腕は風呂の外に投げ出し、足だって伸ばしている。

 温泉を満喫しているのは明らかだ。


 何が言いたいのかと言うと、ナニがでかいってもんじゃねぇ。

 態度もでかいし、身体もガチムチ。

 ヤバい。俺の中にある何かが、ナニかを訴えて来ている気がする。


 少なくとも、童貞の俺では勝てそうもない。

 娘がいるって事は、この男は間違いなく俺より先の道を歩んでいるからだ。

 けどまぁ敵意は感じないし、俺の口調も普通に戻してみよう。



「この高温風呂って、腰痛や精神痛に効くらしいな。疲れてるのか?」

「あぁ、疲れてるぞ。ソイツがトラブルを連発させるから、精神的に疲れてるなー」



 そう言っておっさんは、タオルを顔に乗せたまま、太い首をゴキゴキと鳴らした。


 だいぶお疲れのようで、一人娘を苦労して育てているパパ感が溢れている。

 なんだこの、偉大なる父性。

 まるで、世界を守護する英雄のような安心感だぜ!



「それにしても、混浴が騒がしかったぞ。お前、随分と華やかな人生を歩いてるみてぇだな」

「ははは、それほどでも……?」


「否定しねぇのかよ……。なら、お前の華やかな冒険って奴を聞かせてくれ」



 あぁ、華やかな人生を送っている事は否定しないぞ。

 ちょっと華やか過ぎて『毒吐き食人花』とか呼ばれているし、命の危険も割と感じるぜ!


 美少女が4人もいた混沌温泉から追い出された俺が辿りついたのは、ガチムチおっさん風呂・幼女付き。

 非常に落差が酷いが、こういう何気ない出会いだって、悪くないかもな。


 俺はおっさんの横に座り、リリンと出会ってからの物語をゆっくり話し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ