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第51話「魅惑の混沌温泉」

「な、何でこんな所にいるんだ……?ワルト……」



 ちょっと背徳的かつ致死性の秘境に辿り着いてしまった俺は、大絶賛に絶体絶命だ。

 なにせ、怒り狂う超魔王さんが、あろう事か仲間を連れて現れやがった。


 その名も、指導聖母・悪辣ヴィシャスさん。

 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の参謀にして、この大陸を救世に導く聖母・誠愛シンシア

 他にも、とてつもなく大きい図書館の書士だったりもするが、そのどれを名乗ろうとも性格が非常に悪辣なので、最終的に魔王だ。


 そんな存在が、ご機嫌ナナメ腹ペコ超魔王と一緒に、俺の前に立っている。

 しかも、だ。

 俺の横には、上半身はとっても可愛らしいアルカディアさんがいる。


 ……うん、これは、修羅場だ。

 いや、修羅場なんて生易しい物じゃない。


 ……うん、これは、阿修羅だ。

 まさに、三面六臂さんめんろっぴ

 俺は死ぬ。



「ん、ワルトナは、さっきそこで偶然会った」

「そうそう、偶然だねぇ。愚問だねぇ」

「この温泉、偶然を呼び過ぎだろ……って、そんな訳ねぇだろッ!!」



 なんなんだよこの温泉はッ!?

 アルカディアさんといい、ワルトといい、ついでに親父との再会も含めれば、総力戦になりつつあるじゃねぇかッ!!

 というか、総力戦とか言っちゃうと、確実にタヌキ軍団が出てくるだろ!?

 アホタヌキとか、ちゃっかり何処かに隠れてるんじゃねえか!?


 ……いねぇか。流石に考え過ぎだな。



「で、何でこんな所にいるんだ?ワルト。確か休暇を満喫してたはずだよな?」

「……キミのせいだろ」


「は?俺のせい?」

「キミが……。キミが、リリンにえっちな事をしようとするからだろぉぉぉっ!!まったく最悪だよ!!せっかくゆっくりしながら計画を立ててたのに、全部ご破算なんだよッ!!キ、ミ、の、せ、い、で、ッ!!」



 あ、やべ。

 こっちの大魔王さんもマジギレしていらっしゃる。

 溺愛しているリリンが俺の毒牙に掛るのを防ぐべく、わざわざ来たっぽいし。


 というか、その口ぶりから察するに、俺とリリンの関係性を正確に把握してるな。

 カミナさんは電話で連絡しておくと言っていたし、その時にでも教えて貰ったんだろう。


 ……って、冷静に考察している場合じゃないだろ!

 速やかに弁明をしないと、確実に温泉に沈められるぞッ!!



「待ってくれ、ワルト。俺はリリンとそんな事をしてないぞ」

「……そう。昨日、ユニクは白銀比様の所にお泊りした。私をのけ者にして!!」

「あ”ぁ”ん!?なんだってッ!!」


「的確に誤解が生まれてゆくッ!?」

「しかも、ユルドルードも出て来て、三人で楽しい時間を過ごした!私をのけ者にして!!」

「なんだそれ!?どんな状況だよ!?!?」



 ワルトは混乱しているが、どうやらピンクな感じではないと気が付いたらしい。

 困惑しつつも、「えっと、ユルドルードがいるってどういう事だい?」と疑問を口にしている。



「あぁ、それは話せば長くなるんだが――」

「そう、話すと長くなるので後で話す。今はユニクを籠絡させるのが先!!」



 いい加減にしろよ、超魔王ッ!!

 大事な情報交換なんだから、邪魔しないで欲しいんだがッ!!


 だが、リリンは譲るつもりはなく、ジリジリと俺に近づいて威圧すら発している。

 なんというか……あぁ、獲物を見つけたタヌキの動きにそっくりだ。

 このまま放置しておけば、間も無く俺の首筋に齧りつくだろう。


 手元に食べ物もないし、リリンのペースに合わせるしか止める術は無い。



「すまんワルト、後でしっかり話す」

「そん時は、拷問に近い方法で聞きだすから覚悟しときな。で、その女は誰だい?事と次第によっちゃ、今ここで拷問してやるよ」



 こ、こんな場所で拷問はダメだろッ!!

 防具はタオル一枚しかないんだぞッ!!昨晩は未遂に終わったから、まだなんだぞッ!?


 英雄の家系図を絶やす訳にはいかない。

 だが、実際に修羅場であり、上手い切り返しが思い浮かばねぇ!!

 ど、どうすればいいんだッ!


 助けてくれ、親じ……やっぱ出てくんなッ!!



「ほら、早く言えよ。えぇ?僕に敵の事を調べとけって言っておきながら、可愛い女の子と一緒に混浴?……良い御身分だねぇ、打ち首獄門だねぇ」

「打ち首獄門は処刑だからな!?拷問じゃないからな!?」



 あ、ワルトの目に光が灯っていない。

 これ、マジで激怒してるっぽいな。

 なにか……なにか、良い言い訳はないか……?


 いっそのこと、アルカディアさんは親父の関係者だと暴露しちまうか?

 いや、そんな事をしようものなら、「アルカディアは、ユルドルード公認ということ!?許せない!!ブチ転がって欲しい!!」とかリリンが言い出し、三つ巴の戦いになりそうだな。

 確実に乳白色の温泉が薔薇色に染まるぞ。俺の血で。


 だが、上手い言い訳がみつからねぇ……どうする……?

 どうすればいいんだ……!?



「ん、ワルトナ。アルカディアの事なら心配はいらない」

「なんだって?キミの愛しの旦那様(仮)が、別の女と混浴だよ?許せるのかい?」


「ん、許せる。なぜなら、アルカディアはペット枠!!」

「ペット枠とか意味分かんないんだけどッ!?」



 そう言ってワルトは詰め寄ってきたが、俺に聞かれても、なんでペット枠なのかさっぱり分からん。

 いつの間にかそうなっていたし、上下関係ではリリンが上というくらいしか想像がつかない。


 なお、確実に俺の立場が失われていっているのは確かだ。

 温泉に漬かる女の子をペット扱いって、間違いなく法律に触れている気がするし、清らかな愛を司る聖母様にバレれば確実に断罪は免れない。


 ほら、指導聖母・誠愛(ワルト)がとうとう杖を召喚し、俺に突きつけてきやがった。



「リリンと僕というものがありながら、他の女に手を出すとは……。いい度胸してるねぇ」

「待て待て、リリンは良いとして、何でワルトもそこに混ぜた!?」


「……。僕らは運命共同体じゃないか。言い方を変えれば、主従関係ともいうけど」

「下僕になったつもりはねぇぞッ!?」


「おっと、そうだったのかい?知らなかったよ」

「知らなかったんじゃなくて、白々しいんだろうがッ!」



 くっ、この悪辣大魔王さんめ。

 確実に既成事実を積み上げて、外堀を埋めてきやがるな。



「あ”~~~。う”ぎるあ~~~~」



 で、こんな刺々しい空気なのに、アルカディアさんはのんびり温泉に漬かっているし。

 この空気の読め無さは、アホタヌキに通じるものがある気がする。



 **********



「もう良く分かんないから、アルカディアの事は放っておく事にするよ。どっかいけ、しっし」



 あれから様々な手段を使ってリリンから情報を引き出そうとしたワルトも、ついに諦めた。

 リリンは「詳しい事は言えないけど、ペット枠だから問題ない!」の一点張りだったし、ワルトの心が折れたらしい。


 ワルトに冷たくあしらわれたアルカディアさんは、ジャバジャバと温泉を泳いで遠くに行ってしまった。

 あぁ、色んな意味で残念だ。泳ぎ方は犬かきだし。


 そして、これがアルカディアさんの見納めになるかもしれない。

 よく目に焼きつけておこう。



「ん、という事で、これからユニク籠絡作戦を開始する!」

「どういう事か知らないけど、僕も協力してやるよー」



 リリンは未だに錯乱しているし、ワルトは明らかに何を企んでいるようだ。

 今度は二人でジリジリと俺に近づいて、平均的な不敵な笑みで威嚇してきている。


 今更だが、二人はバスタオルを身体に巻き、胴体を隠している。

 タオルの裾から見えているのは、上が首筋、下が太もも。

 かなり際どい位置であり、とっても背徳的だ。


 ヤバい。いざ目の前にしてみると、激情が沸き立ちそうになるッ!

 魔王様の逆鱗に触れて、へし折られたくないだろ、俺!?

 だったら静まれよッ!英雄の孫ッーー!!



「ふふふ、今から行うのはまさに一撃必殺。私達がタオルを取った瞬間、ユニクはたちまち虜になる!」

「あぁ、僕らがここまでサービスするんだ。一生かけて代金を払って貰わないとねぇ」

「た、タオルを取るだってッ!?!?」



 え、そ、そんな……。

 そんなの確実に童貞が死ぬじゃねぇか。

 そして、約束を果たせない不甲斐無い男、ユルユルユニクルフィンが爆誕してしまう。


 な、なんとか抵抗しないと!!

 親父みたいな不名誉は嫌だッ!!



「り、リリンはともかく、ワルトは無理する必要はないんじゃないか!?」

「ん、それもそう……?どうなの、ワルトナ?」

「遠慮するなよー。キミと僕の仲じゃないかー」


「遠慮はしてないぞ!恐縮しているだけだ!!」

「恐縮?大丈夫、すぐに大きく育ててあげる!」

「そして、収穫」


「収穫しちゃダメだろ!!」



 ちくしょう、この組み合わせは危険すぎるッ!!


 リリンはそれなりに知識があるようだが、残念な感じにズレているので、単体では問題ない。

 だが、しっかり理解しているワルトナがサポートする事で、どう転んでも魔王様ルートに進むんだが!?

 というか、ワルトはどさくさにまぎれて、俺を抹殺しようとしてるよなッ!?



「ふふふ、ワルトナ、いっせーの、で行く!」

「りょうかーい。あ、閉じ込めとこ《失楽園を覆う》」

「逃げ場が失われたっ!」


「さぁ、覚悟して欲しい!」

「ユニ、懺悔の時間だよ!」

「ひぃぃぃ!」


「「えい!」」



 そういってリリンとワルトは勢いよくタオルを取った。

 失楽園を覆うは非常に狭い範囲を指定して発動されており、逃げ場はおろか、体の向きを変えることすらできはしない。


 そして、俺の中の欲望は素直だった。

 俺の視線は、バサリと宙を舞うタオルには目もくれず、一直線にリリンとワルトナ、その魅惑の双丘へと向かい――。



「……スクール水着……だとっ……。」

「そう!この温泉は水着の着用が認められている!一枚1500エドロ!!」

「どうだい?ユニ。僕の魅力の虜になったかな?」



 ……ちくしょうめ。

 温泉で水着なんて着るんじゃねぇよ。



 あ。いや……、た、助かった!!

 リリンもワルトも驚かせないでくれよ!心臓に悪いぜ!!


 リリンは真っ白いスクール水着、反対にワルトは真っ黒のスクール水着を着ている。

 ぶっちゃけていえば、タオル姿の方が刺激的。

 あっちは、『見えそうで見えない、けど見えそう』という、情緒があったのだ。

 だが、水着は絶対に見えない事が確定している訳で。


 破裂しそうだった心臓は段々と静かになっていき、隠された俺は落ち着きを取り戻した。

 完全に恐縮したし、収穫されなくて済みそうだ。



「どう!?ユニク!!今なら何をしてもいい!」

「でもちょっとだけだからね、ちょっとだけ。具体的に言うと、一秒くらいなら何してもいいよ」

「一秒で何ができるんだよッ!?」



 一秒間好きな事をしていいって、どんだけ上級者ッ!?

 それこそ、世界に名だたる英雄でもない限り不可能だろ!?


 だから、英雄になれていない童貞な俺は、二人を眺める事しかできない。

 いや、それくらいで丁度いいんだ。

 リリンとの約束を果たせるし、ちょっと期待が過ぎただけで、見た目は可愛い女の子の水着を見放題とか恵まれてるじゃねぇか。


 ただ、非常に残念な事に……ストーン、なんだよなぁ。

 一応起伏はあるが、なにせ時期が悪かった。


 メナファス→アルカディアさん→カミナさん→ギン、だもんなぁ。

 最後に至っては、もはやスイカが実ってたし……。



「……。」

「ユニク?」

「ほら、どうだいユニ。素直な感想を言ってごらん?」


「饅頭が食べたくなったな」

「……何でお饅頭?」

「饅頭……?饅頭……。……。ちなみにアルカディアは?」


「メロン」

「……。」

「……。」



 あ、つい、正直に話してしまった。

 反省はしているが、後悔はしていない。

 俺が無意識に母性を求めるのは、きっと、母さんと触れ合う時間が短かったからだ。


 ……こんなくだらねぇ事に母さんの名前を使おうものなら、マジで親父にぶち殺されるな。やめておこう。



「ワルトナ、ユニクにはお仕置きが必要だと思う。」

「奇遇だねぇ。僕もそう思うよ。」

「お手柔らかにお願いします……」


「……『雷人王の掌(ゼウスケラノス)』でいい?」

「いやいや、足りないから『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』にしよう」

「柔らかいどころか、確実にしとめる気だなッ!?」


「「……。くらえっ!」」



 そう言って、リリンとワルトは同時に飛びかかってきやがった。

 流石に魔法を使おうとはしてないが、その手にはしっかりと杖が握られている。


 だが、そんな事もあろうかと、俺はバッファの魔法を掛けてあ……、失楽園を覆うがあって動けねぇ!!



「えい!」

「ぐるッ!」


「そぉい!」

「ぐるッ!」


「えいえいえい!」

「そいそいそい!」

「きんッ!!ぐぅぅぅぅぅッッッーーーーー!」



 それから滅茶苦茶、暴行された。


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