第47話「最終目標」
「俺は、リリンと共に人生を歩むと決めたんだよ。……リリンと同じレベルになったら結婚する約束だって既に交わしてる。だから、隠し事は無しだ!」
どうやら目の前にいる親父は、俺に絶望を困惑と殺意を抱かせた『ユルユルおパンツおじさま』ではなく、真実を語る為にギンが用意した存在らしい。
正直、「本人じゃねぇかよ!」と、覚醒グラムでツッコミを入れたい。
何がどうして、ユルユルおパンツおじさまになったのかが聞けないし、もし予想どおりの答えが返ってきたらブン殴れない。
だが、居ないもんはしょうがない。
大事なのは、今の俺が何をするべきで、どうやってリリンを幸せにするのかって事だ。
ギンに喰われそうになった今、俺にとってどれだけリリンが大切な存在なのかが分かったしな。
……なので、ヤンデリリンさんに殺されない方法も教えてください。ニセ親父殿。
「へぇ、まだまだガキだろうと思ったが言うじゃねえか!だが、それでこそ俺の子だぜ!」
「わっちは残念なんしー。熟れる前の酸味の強い果実を喰うのも、それはそれで愉悦でありんす」
「お前は黙ってろ、ギン。情操教育に悪いからな!」
……情操教育に悪いのは親父もだろ。
なぁ、知ってるか?変態って辞書を引くと、親父の名前が出てくるんだぜ?
そんな話をこの親父にしても何にもならないし、心の中に封印しておく。
本物の親父と再会した時に、グラムと一緒に解き放てばいいしな。
「結局、親父はどんな情報を教えてくれるんだ?」
「まぁ、ぶっちゃけ大したことは言えないんだがな。あの子の存在を思い出させる様な事は一斉言えない。名前はもちろん、年齢や性別、好きなものや嫌いなもの、趣味や特技、どんな些細な事でもだ」
「……それは残念だな。で、俺達はこれからどうすればいいんだ?リリンと情報を共有できる範囲で教えてくれ」
「あぁ、それはな……」
「それは……?」
「好きなように生きろ。だな」
「……は?」
はぁぁ?
これだけ面倒な事件が起きてるのに、好きに生きろだと……?
「……親父、殴られたいのか?ん?」
「別に止めはしねえが、反撃はするからな?」
「……ちっ。で、何が言いたいんだよ?好きに生きろって、この状況が分かってんのか?」
「いや、知らねえから。俺は6年前の記憶を元に造られたって言ったろ?」
あーもー、いちいち面倒くせぇんだけど!
本人が出て来いよ、ちくしょうめ!!
だが、放っておいても話が進まないので、最近あった出来事をかいつまんで話した。
主な議題は、セフィナが生きていた事と、白い敵が襲ってきた事だ。
それを親父とギンは興味深げに聞き、納得したような声を上げている。
「なるほどな。そりゃ、ダウナフィアさんが絡んでるだろうが……。まぁ、セフィナちゃんが出てきた以上、放っては置けねぇよな」
「そうだろ?死んだ家族が生きているとリリンが知らなければ、違った道もあったかもしれないが……、今はもう、セフィナを取り戻すのが最優先だ」
「……。そういえばお前は、セフィナちゃんも嫁にするって言ってたっけな」
「はぁ”ん!?俺、そんな事言ってたのかよっ!?」
え、ちょ、どういう事だよ!?
昔の俺、そんなんだったの!?
「……もうちょい詳しく教えてくれ」
「リリンサちゃんを嫁にするって言い出したお前は、仲間ハズレは可哀そうだからって、セフィナも一緒に嫁にしてやるって言いやがったぞ」
「何その状況!?俺、調子に乗り過ぎだろ!?」
「昔のお前は怖いもの知らずだったな。なにせアプリコットにそれを直接言いに行ったからな」
「馬鹿なの!?娘さんを二股に掛けますって英雄に言いに行くとか、馬鹿なのッ!?」
どうかしてるだろ、昔の俺ッッッ!?
当時10歳に満たないとはいえ、ヤバすぎる!!
誰の影響でそんなんになったんだよ!って、どうせお前だろ、親父ぃぃぃぃぃ!!
どうやらそれは正解なようで、ギンは「流石、世界中の女が寄って来るお前さんの子でありんす。教育が行き届いてないなんしなぁ」っと野次を飛ばしている。
……それは完全に同意だが、舌舐めずりをしながらこっちを見るんじゃねえ、ビッチキツネ。
「話を戻すが、お前とリリンサちゃんは好きに生きりゃあいい。それでいいんだ」
「それは、セフィナを取り戻した後の話だよな?」
「そうでもあるし、それをしなくてもいいって事だよ。お前とリリンサちゃんが選べる人生は無数にある。そして、その中に『セフィナを手に入れる』や、『あの子を助ける』って選択肢があるってだけだ」
「結局その話に戻るのか。それは、あの子の願いって奴だよな?」
「おう、話が早いじゃねえか。……本当はあの子の言葉を教えるのも良くないんだろうが……、一度しか言わないから良く聞いておけ」
そう言いながら、親父は真剣な表情で俺を見た。
威圧的な覇気とは違う、重厚な空気が圧し掛かって来る。
『好きに生きなさい。あなた達の人生は、あなただけのものよ。リリン、ユニク。……どんな幸せや不幸も、人間一人分の価値しかない。だから、私に捕らわれる必要はないのよ。私は十分に幸せだったんだもの』
「これが、あの子の残した言葉だ」
「……そんな事を言われて、さ……」
「おう」
「その言葉を聞いた記憶はねぇけど、そん時の気持ちくらいは分かるぞ。俺は『絶対に取り戻す』と心に誓った。絶対にだ」
これは間違いない事だ。
幼いリリンが日記に書き残したように、俺だって奮い立ったはずだ。
「俺達はあの子を助けたいから助けるんだ。そして……それは実現できるようになってるんだろ?親父?」
「あぁ、そうだ。あの子に関する事は教える事が出来ねぇ。だが、取り戻す事は不可能じゃねぇようにしてある。お前やリリンサちゃんが望んだからだ」
おぼろげだった目標がハッキリとしてゆく。
なら、恐らく俺達がするべきなのは……。
「ありがとな、親父。で、あの子を取り戻すには英雄になればいいのか?」
「ほー、分かってるじゃねえか。あの子に辿り着く為には、英雄になるのは必須だぞ」
「さっきギンに聞いたが、英雄になる為には超越者を倒せばいいんだろ?」
「それも知ってるのか。だがな、正直に言って簡単じゃねぇし、死ぬ可能性もある。他の人生を選んだほうが良いんじゃねえのか?」
「何を言われても揺るがねえから無駄だっての!」
「そうかそうか、あの子とリリンサちゃん一筋ってか!ハーレムルートを選ばないとは、流石は俺の息子って奴だな!」
「は?ハーレムルート……だと……!?あの、ちょっと教えていただいても?」
「……。昔のお前はハーレムルートまっしぐらだったぞ。ただの村娘からどこぞの国の姫、はては身元不明の孤児まで何でもござれで籠絡しまくってたからな。あの子はそれを見てニコニコしてたがなぁ……、俺はいつか刺されるんじゃないかと思って冷や冷やしてたぜ!」
「……。」
「ぶっちゃけ、男でお前と仲が良かったのって、時々現れる商人のエルくらいなもんだぞ。だが、リリンサちゃんやあの子の為に頑張るんだよな?そう言ったよな?ん?」
「……もちろんだぜ!」
過去の俺、マジでどんな奴だったんだよッ!?
親父の話しっぷりを聞く限り、あの子ってのも女の子だったっぽいし、白い敵も女の子だ。
……うん、刺されても不思議じゃないと俺も思うぜ!
なにせ、戦闘力が高すぎるッ!!
「というか……その話が本当だとすると……。俺って友達が少なかったんだな……」
「旅してたしそれはしょうがないだろ。それに遊び相手ならいたじゃねえか。なぜかちょくちょく現れる謎のタヌキが」
「あんのクソタヌキを友達枠に入れるんじゃねぇ!!百歩譲っても好敵手だろッ!!」
「ライバルっちゃあ、ライバルだがな……。結局、一回も勝てなかっただろ」
「そんな気がしてたぞッ!クソタヌキィィィィ!!」
過去の俺はやっぱり勝てて無いのかよ!
ちくしょう、絶対にぶっ殺してやるぜ、クソタヌ……ん、待てよ?
アイツって、タヌキ帝王で超越者だよな?
だったら、クソタヌキを倒せば英雄になれるんじゃね?
電撃的ひらめきを何度検証しても、問題点は見つからない。
アイツを倒せば英雄になれる。なぜか、絶対の自信がそこにはあるのだ。
「親父、クソタヌキを倒せば英雄になれるよな?」
「ん?アイツってタヌキ将軍で、超越者じゃないだろ?」
「いや、最近判明したんだが、アイツはソドムっていうタヌキ帝王だぞ」
「ソドム……?名前からしてヤバそうなオーラ出してやがるな……。おい、ギン、ソドムってタヌキを知ってるか?」
親父はソドムについて知らない……というか、騙されてたっぽいな。
ギンに話を聞き始め、顔を赤くしたり青くしたりしている。
親父が昔戦って負けたタヌキがソドムだって説明されているんだろう。
やがて、親父は戻ってきた。
その体に、並々ならぬ覇気を纏わせて。
「聞いたぜ、ユニク。あのタヌキは、どうやら俺にも因縁があるタヌキだったみてぇだな……」
「あぁ、数千年の時を生きるタヌキ帝王、歴史に名だたるクソタヌキだよ」
「そうかそうか、6年も経ったのに、まだお前にちょっかい出してんのか。よし、なら丁度いいな」
「丁度いい?」
「ユニク、あのタヌキを倒せ。ギンに話を聞く限り、アイツを倒せば英雄になれるはずだ。アマタノを倒すよりも簡単だろうしな」
なぁ、クソタヌキ。
お前は散々、俺の事を馬鹿にしてきたが、今度は俺がお前を利用する番になった様だぞ。
白い敵と接触してから七転八倒し、やがてたどり着いた答え。
『俺は、あの子を取り戻す為にクソタヌキを倒して、英雄を目指す!』
これが最終目標だッ!!
「俺はクソタヌキを倒すッ!!グラムで一刀両断だッ!!」
せっかくだから声に出して言ってみた。
あぁ、すげぇ良い目標だ。我ながら惚れぼれする……んだが、何でギンは爆笑してるんだ?
「おい、そこの爆笑キツネさん、何が可笑しいんだ?」
「ぷっくくくく、くくっ、いや何も無いなんし、気にせんでござりんすぅー」
「すげぇ気になるんだが……」
ギンは何故が大爆笑し、地面を転げ回っている。
その様子を見るに、俺では絶対に勝てないって思ってるみたいだな。
アイツがクソ強い事なんか分かってんだよ!
やる気が削がれるから、せめて見えない所で笑えよ、ちくしょうめッ!!
「絶対にぶっ倒してやるぜ、クソタヌキィィィ……」
「ギンが何で爆笑しているのか知らねえが……、今の自分で勝算はあると思うか?ユニク?」
「いや、正直に言って、無い。アイツは覚醒グラムを完全に使いこなせなくちゃ手が届かねえ」
「確かに、あのタヌキが昔に戦ったタヌキだというのなら、記憶の無いお前じゃ勝ち目は薄いだろうな。ユニク、俺に何かお願いがあるんじゃねえか?」
「あぁ、あるぜ……。親父。いや、英雄ユルドルード。俺に稽古を付けてくれないか?」
クソタヌキと戦うに当たり、手に入れるべきは戦闘力だ。
アイツは過去の俺では勝てなかった。だから、俺はここで過去の俺よりも強くならなくちゃならない。
その為なら……全裸英雄にだって、頭を下げて師事を乞うぜ!
「いいぞ。神殺しのを使った戦闘ってのがどういうもんなのかを教えてやるよ、ユニク」
そう言って親父は背中に担いでいた剣を手に取った。
それは寸分違わず俺が持つ剣と同じもの。
神壊戦刃グラムだ。




