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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第45話「極色万変・白銀比、結末とそれから」

「そうか……。母さんは、最期まで笑顔だったんだな?」

「そうでありんす。イミリシュアは温かな陽だまりの中でユルドルードに寄り添われ、お前さんを抱きながら逝ったなんし。それを幸福と言わずして、なにを幸福というのでありんしょう」



 知られざる、俺の誕生秘話。

 自分で言うのもどうかと思うが、それは奇跡だったと思う。


 神の因子のせいで死を運命付けられ、神の因子のおかげで俺は産まれる事が出来た。

 偉大な母の、短すぎる一生。

 その最期が笑顔だったというのなら、産んでくれた感謝を少しでも返す事ができたのかもしれない。



「ぐすゅ……ぐすっ、ゆにく……」



 話の途中から、リリンの目には涙が浮かんでいた。

 必死に堪えていたらしいが、ギンが話し終えたのを合図に、ぽろぽろと涙が止まらない。


 俺の母の為に泣いてくれたリリンの頭を撫でつつ、ギンに向き直った。

 姿勢を正し、深々と頭を下げる。



「ギン……。いや、白銀比様。俺の母さんの為にいろいろ尽くしてくれたんだろ?……ありがとうございました」

「いいなんし、永き時のきまぐれでありんす」



 そう言ってギンは持っていた酒を煽った。

 こくり。と喉を鳴らして飲み込み、ふぅ、っと息を吐く。


 次にギンに会いに来る時には、俺が買える最高の酒を持ってこよう。

 それくらいで恩が返せるとは思えないが、何かしらの謝礼はしておきたい。


 俺は心に刻みつつ、湿った空気を切り替えるべく話題を振った。

 さっきの話で少し気になる事があったのだ。



「なぁ、その話によると、俺には『神壊の因子』っていう神の因子が宿ってるって事だよな?」

「そうなんし。気になるでありんす?」


「あぁ、凄くな。……なにせ名前が物騒すぎる。結果的に母さんを救う事になったが、だからと言って、放置していい物じゃないだろ?」



 正直な話、神を壊す因子が俺に宿ってると言われても、非常に困る。

 ぶっちゃけ使い方が分からないし、使い方が分かったとしても、何に使えばいいのかも不明。


 レジェリクエ女王やカミナさん、あとテトラフィーア大臣が神の因子を持ってるらしいが、どんなものかも聞いてないしな。



「神壊の因子。それがあったからこそ、お前さんはこの世に生まれる事が出来たでありんすが、それがあるか故に、世界で最も過酷な運命に身を置く事になったなんし」

「世界で最も過酷な運命?」


「あぁ、これだけは教えてやるでありんす。あの子を救う為、ユルドルードは蟲量大数様と戦う運命となったでありんす。言うまでもないが、かの御方は『世界最強』の権能を神から与えられておるなんし。それは無謀という言葉すら生温い、銀河の海から砂粒を見つけ出すような途方もない夢物語でありんした」

「あの子を救う為……ね」


「だが、ユルドルードは、一縷の希望を見出したなんし。イミリシュアの忘れ形見、お前さんが持つ『神壊の因子』の中に」



 神壊の因子が、蟲量大数と戦う時の希望だった?

 どうやら、この因子はすごく重要な意味を持つらしい。



「神を壊すなんていう物騒な因子だが、それが蟲とどう関わってくるんだ?」

「蟲量大数様の持つ『世界最強』という権能は、あらゆる力に於いて最強ということなんし。素直に考えてみなんし、世界最強の、『攻撃力』『防御力』『学習能力』『治癒能力』を持つ生物を、殺せる手段があるでござりんす?」


「それは……。どんな攻撃も通じず、逆に攻撃を受ければ一撃死。工夫をしても直ぐに攻略され、傷を負わせても瞬時に回復するってことだよな?……勝てるかッ!!」

「そう、勝てないでありんす。神から与えられし(・・・・・・・・)その能力がある限り(・・・・・・・・・)、絶対に倒せん」


「……!その力がある限り、か。そしてそれは、神から与えられし因子(・・・・・・・・・・)であり、神壊の因子(俺の因子)なら停止させる事ができる……!?」



 俺が辿り着いた答え。

 それはまさに、神をも壊す力。

 この世界の頂点に立つ、神と等しき蟲量大数を殺せる力だ。



「そうなのか……?ギン」

「自惚れるでない。その可能性があるというだけでありんす。が、わっちが知る限りその力こそが唯一無比なる方法なのも、また事実なんし」


「唯一の方法?」

「始原の皇種が神から与えられし権能は、他の追随を許さないなんし。ましてや、蟲量大数様の持つ『最強』の権能など、どんなものでも勝負になりんせん」


「一つ聞かせてくれ。例えばグラムを最大限に覚醒させて、蟲量大数に斬りかかったとする。その攻撃は神をも壊す力であり、世界最強の力だ。……すると蟲量大数はどうなる?」

「そのグラムを超える力を、蟲量大数様は手に入れるでありんす。『この世界にある限り、全ての力の上位互換になる』のが、蟲量大数様の権能なんし」


「……なにそれ、やばい。」

「が、お前さんの持つ『神壊の因子』は神の与えし力を停止させる因子。神が自らの力を振るい過ぎない様に創り出した、いましめでござりんす」


「……なにそれ、すげぇ!」

「故に、お前さんだけは、蟲量大数を超えられる可能性があるなんし。自動で世界最強となる権能を停止させ、その時点での蟲量大数様を超える事が出来れば……あるいは、蟲量大数様を殺せるかもしれないなんし」


「それが出来るのは、神壊の因子を持つ俺だけなのか?」

「そうでありんす。敗れたユルドルードが見た希望、イミリシュアの残したお前こそが、世界で唯一、蟲量大数様を倒せる可能性を持つ者でありんしょう」



 それからギンが語ったのは、蟲量大数と一度戦って力の差を理解した親父が俺を鍛えながら世界を旅し、もう一度、挑んだ話だった。

 親父の愛剣だったグラムを俺に譲渡したのも、この剣こそが蟲量大数を除いた世界最強の攻撃力を持つからだそうだ。


 さらに、グラムの最終形態は未だかつて誰も使用した事は無く、その力は現在の蟲量大数の攻撃力をも上回るらしい。

 ギンは確かにそう言い切ったが、何か確証があるのか?



「なぁ、何でグラムの方が攻撃力が高いって分かるんだ?」

「今、蟲量大数様が持つ『世界最強の破壊力』は、グラムと対峙した時に得たものだからでありんす」


「グラムと対峙した?蟲量大数は誰と戦ったんだ?というか、よく戦う気になったな」

「その御方は、純然たる知識と食の権能を持つ偉大なる御方。神より授かりし神託『世界最高の美食を探す』為、蟲量大数様すら食わんとする者……」


「……。なんか、凄く嫌な予感がするな……」

「始原の皇種・那由他様でありんす」


「やっぱりお前かッッ!!カミジャナイ?タヌキィィィィィィィ!!」



 そんな事だろうと思ったよッ!!

 お前以外に、空気を読まなそうな奴はいねぇしな!!


 つーか、しれっとグラムを使った上に失敗してるんじゃねえよ!!

 そのせいで、蟲が超強化されちゃってんだけどッ!?



「……ユニクは選ばれし英雄だった。とてもすごい」

「リリン?」


「世界で唯一、最強を倒して最強になれる存在。ホロビノやアマタノ、白銀比様すら超えて一番すごくなる……!無量大数ユニクルフィンと呼ばれる日も近い!!」

「待て待て!その可能性があるだけだ!決して近くはない!!」


「ん、そんなことない!ユニクこそ最強!偉大なお母さんとお父さんを持つユニクは、世界最強になる運命!!」



 いつの間にか元気を取り戻したリリンは、ユニクが最強になる!とはしゃいでいる。

 最強と口にする旅にギンが何か言いたげにしているが、訂正したりはしていない。


 それにしても、俺にそんな力があったなんて驚きだな。

 しかも、その因子は俺の成長に合わせて強くなっていくらしく、グラムを使いこなせるようになれば、例え相手が蟲量大数でも効果を及ばせるとか?


 ただ、過去の俺を連れた親父は負けている。

 それは、純粋に俺が未熟だったのと、親父ですらグラムの最終形態に辿りつけていなかったからなのだとか。


 まぁ、記憶を無くし弱体化した俺では、まだまだ先の話だな。


 ギンはこの話以降、俺達の過去について語らなくなった。

 結局、リリンの過去に直結している『あの子』の正体ついては、分からず終い。

 分かったのは、不確定だった『天命根樹の正体』と、『ギンが受け継いだ権能を模倣した魔法』であの子の存在がこの世界から消えたこと、『それを成す過程で蟲量大数と戦う事になり、俺達は敗北した』ということぐらいだ。

 あぁ、『アマタノを倒せば俺達は英雄になり、何らかの進展がある』というのも分かったな。



「何だかんだ、結構参考になったぜ。ありがとな、ギン」

「わっちは道しるべ。それを知り何を成すかは、お前さんらが決める事でありんす。せいぜい頑張れと言うておくなんし」



 俺達が一番にするべき事は、『白い敵を倒し、その真意を聞く事』だ。

 白い敵は、恐らくギンと同程度の情報を持っている。

 というか、白い敵が手中に収めているダウナフィアさんまで辿りつければ、全ての物語が明らかになるはずだ。


 それはリリンも理解したようで、平均的な決意の表情で「ユニク、私は頑張って強くなる。まずは白い敵をボコって、セフィナを取り戻す!!」と、ヤル気に満ちている。



「さてと……だいぶ時間が経っちまったな、そろそろ帰ろうかと思うが……。結局、サチナの父親って誰だったんだ?」



 他愛もない雑談をしばらくし、辺りも夕暮れになりつつある。

 そろそろ宿に戻るべきだと思うが、その前にどうしてもサチナの父親の正体が気になった。



「……秘密でありんす」



 だが、ギンは視線を反らして誤魔化そうとして来た。

 なにやら話したくない理由があるらしい。



「……なんでだ?」

「……サチナを守るためでありんす。もし、サチナの存在が、あの害獣に知られれば狙われる可能性があるなんし」



 ……害獣?

 嫌な予感、再び。



「……。害獣って何の事だ?」

「……。那由他様が率いる、タヌキ軍団でありんす……」



 やっぱりてめぇかッッッ!!カミジャナイ?タヌキィィィィィ!!


 ホント、隙があれば出てくるな、カミジャナイタヌキ。

 マジで神様と一緒に、この世界を天空から見下ろしてても不思議じゃねぇぞ、タヌキ。

 あぁ、絶滅してくれねぇかな。バナナチップスをあげるからさ。



「で、何でカミジャナイ?タヌキがサチナを狙うって話になるんだ?」

「那由他様も興味を持つでありんしょうが……。問題はその配下たる、『エデン』と『ゲヘナ』でありんす」


「うっわぁ。名前を聞いただけで鳥肌が立った」

「アイツらは強き者を見つけては滅ぼすのを趣味としている、本物の害獣でありんす。その凶暴性と面倒臭さは蟲量大数様以上だと、わっちは思っているなんし」


「蟲より凶暴とか。マジでカツテナイ帝王だな」

「なお、エデンの方は『タヌキ真帝王エンペラー』を名乗っているなんし」


「クソタヌキより格上だとッ!?!?マジで勝てねぇじゃねえか!!」

「ちなみに、ソドムは那由他様の配下で上から4番目だと言われているでありんす。エデン、ゲヘナ、ムー、ソドムの順なんし」


「よっ!?あんのクソタヌキが4番目で、上に3匹もいるだとッッッ!?」



 うわぁああああああああ!?

 タヌキ軍団、マジで勝つ手ねぇええええ!!



「父親によって差別する訳ではないが、サチナが特別なのも事実なんし。わっちはサチナを守る為に結界を張り、タヌキが近づこうものなら確実に滅殺しているでありんす」

「殺意が滾ってる……!が、タヌキ相手にはそれで良いぜ!で、サチナの父親は?」


「しつこいなんしな。まぁ、余計な興味を抱かせんように教えるが、サチナの父親は人類ではないでありんす」

「人間じゃないのかよ!?じゃあなんであんなに可愛い女の子になった!?」


「人間の女子の姿なのではなく、神の姿に似せておるでありんす。お前さん達人間も神に似ている存在にすぎん。故にわっちの子らは皆、人化した状態で育てているなんし」



 なんとなく分かっていたが、サチナの父親って人間じゃないのかよ!

 いや、ギンはキツネな訳だし人間じゃない方が自然なんだが……。その口ぶりから察するに、確実にキツネ(同族)って事はないよな?

 同族だとしたら、ギンが皇種である以上、父親はギンに劣る配下という事になる。

 それならば、父親を隠す意味は無いしな。


 それにしても、今、わっちの子ら(・・・・・・)って言ったよな?



「子らって事は、サチナには兄弟がいるのか?何人兄弟なんだ?」

「2501兄弟でありんす」


「……は?」

「だから、サチナの上には2500匹の兄と姉がいるでござりんす!」



 居過ぎだろッ!?!?

 2500人って、それはもう軍隊だ!!

 タヌキはタヌキで大戦力だが、キツネも負けて無かったッ!!


 というか、そんだけいるって事は、確実に父親は一人じゃねえだろ?

 こんの、ビッチキツネぇぇぇ!!



「繰り返すがサチナは、2000をこえるわっちのつがいの中でも、特に力の強い父との間に出来た子でありんす」

「分かっちゃいたが、やっぱり父親は別々なのかよッ!!」



 一応、たまに双子が生まれるので、ギンが愛した相手は2500匹よりかは少ないらしい。

 だが、同じ父と第二子はつくっていないので、2000匹は越えていると。


 ……空前絶後のビッチじゃねえか。

 何だかんだ、口汚い言葉を嫌う傾向のあるリリンが「白銀比様は、ビッチ!」と言い切るだけの事はある。



「しっかし、サチナは特別か。何か分かる気がするな」



 サチナが可愛いのは勿論の事、なんとなく凄そうな雰囲気を纏っている。

 格式が高そうというか、お姫様っぽいと言ってもいいかもしれない。


 ん?そうやって考えると、候補がだいぶ絞られてくるな。

 ギンは世界で6番目に強い”ごく”。

 その上に立つのは、蟲量大数、不可思議竜、那由他、阿僧祇、恒河沙、の5名だ。


 那由他は、タヌキが狙いに来るというし除外。

 ギンが蟲といい仲だというのなら、親父が蟲と戦うのを止めるだろうしこっちも除外。


 残り三名……なんだが、ちょっと気になる事をサチナは言っていた。



『ホロビノ~~~!元気にしてたですか?おねーちゃんは元気なのです!』



 駄犬竜ことホロビノは、不可思議竜の子供らしい。

 ……で、サチナはホロビノの前では、おねーちゃんのように振る舞っていた。

 リリンがサチナを妹扱いするように、見かけだけは年下のホロビノを弟扱いしているだけだと思っていたが……。


 ……。

 …………。

 ………………おい、サチナの父親ってまさか……。


 世界を統べる皇どもが何やってんだよッッ!!

 ビッチキツネ&ドラゴォォォォォン!



「くっく、そろそろ宵の時間でありんす。子供は帰るなんし。のう、リリンサ(・・・・)

「お話を聞かせてくれてありがとうございました。このお礼は必ずする!」


「お礼なんていらんなんし。ユニクルフィンを置いて行ってくれれば、それで良いでありんす」

「……え?」


「惚れたオスと亡くした友の子なんし。そんな極上のオスを見す見す逃しはせんでござりんしょう」



 ……え。

 なんか、ビッチキツネに狙われてるっぽいんだけど。



「……だめ。ユニクは、私の……」

「ほう?この皇たるわっちに口答えするでありんすかぇ?それはそれは、愉快な事になりんすなぁ」



 その瞬間、白銀比から凄まじい圧力が解き放たれた。

 俺は見誤っていた。

 戦えば数瞬で粉微塵にされると思っていたが、それすらも認識が甘かったのだ。


 戦いになる以前に、言葉を交わすことでさえ許可無しには行えない。

 先程までの会話は、白銀比の温情の上に成り立っていたのだと、本能で理解させられた。



「あ……、あぁ……。」

「のう?リリンサ。ちょっと一晩借りるだけでありんす。多少汚れるでありんしょうが、それだけなんし」


「あ、あぅ……。」

「青い果実を酒に漬け、熟れさせるだけ。ほんの一晩の戯れでありんしょう」


「や……。あ、あぁ……だめ……」

「それとも、何も知らぬ生娘は、わっちの秘め事を見て勉強したいでありんすかぇ?」



 くすくすくす。

 ワザとらしく声を出して笑ったギンは身動きの取れない俺を抱いた。

 鼻をくすぐる甘い匂いと頬に当たる柔らかな感触が、俺を完全に支配し、体がいうことを聞かない。

 そしてギンは、硬直しているリリンの耳に口を近づけて、ぺろり。とひと舐めし、妖艶な笑みを浮かべた。



「ゆ、ゆにく……」

「……すまん、リリン。今の俺じゃ……ギンには抗えない」



 リリンは俺の為に、色んな事をしてくれた。

 誰かが計画した事とはいえ、俺を探す為に6年もの時間を使ってくれたのだ。


 俺がさっき言った言葉は、リリンに対する裏切りだと分かっている。

 好意を寄せてくれている女の子には絶対に言ってはいけない、最低の言葉だって分かってはいるんだ。


 だが、七源の階級を持つ、極色万変・白銀比に抗う術を俺は持っていない。

 童貞の俺では、ビッチキツネには……勝てない。



「ユニクは、わ、わたしの、なのに……。ぐすっ」



 リリンも、白銀比には勝てないって分かっているんだろう。

 涙を瞳に溜めながら、魔導服の端を握りしめて、必死に耐えている。


 あぁ、本当に俺って奴はダメな奴だ。

 どんな神の因子を持っていようとも、肝心な時に使えないんじゃ意味がない。



「何事なのですっ!?主さまっ!?!?」



 そんな場の混沌とした空気を切り裂いて現れたのは、サチナだった。

 赤い鳥居をすぐ近くに出現させ、その中から飛び出して来た。

 たぶん、白銀比の圧力を感じ、様子を見に来たんだろう。


 そして、あ。って顔をして、硬直している。



「サチナ、リリンサを連れて宿に戻るでありんす」

「……はい、なのです。主さま、行こうなのですよ」

「あ、ゆにく……、ゆにく……!」



 サチナに手を引かれ、リリンは鳥居の中へ消えていった。

 その悲しげな表情を、俺は一生忘れる事はないと思う。


 まさかこんな事になるなんて……、な。

 一度ならず二度までもリリンを拒絶した俺は、どう償えばいいのか分からない。



「くすくすくす、そんな顔をしないで欲しいなんし。こういうのは情緒が大事でありんしょう。わっちが身支度をする間、精々、気持ちを昂ぶらせておくんなんし」



 そういってギンは、俺を目の前に放り投げた。

 そこには朱色の鳥居があり、その中は真っ黒で見えない。


 鳥居の中に吸い込まれ転移させられた俺は、次の瞬間には地面に激突していた。



「痛い!!……ちっ、体はもう動くみたいだな」



 どうやら拘束は解かれているようで、特に異常はない。

 ……精神的には大問題が発生しているけどな。


 散々ビッチだって思ってはいたが、最終的に俺が食われるって予想できねえよッ!!

 タヌキにしろ、キツネにしろ、なんでこうも皇種って奴は性質が悪いんだよ!?


 あぁちくしょうめ。親父の事が笑えねぇ。

 というか、このままだと親父と再会すること無く死ぬ。

 拗ねた超魔王フル装備ヤンデリリンさんに確実に抹殺されると思う。


 こうなったら、なんとかギンを説得して、清らかな体で帰還を目指す!

 そしてリリンに謝り倒し、約束されたハッピーエンドを手に入れてやるぜッ!!


 突然の事だったが、目標さえ決まれば後は実行するだけだ。

 まずは第一歩。

 霧がかったこの道を進み、ギンを迎え撃つ準備をするぜ!



「……って、もう既に人影がいるんだがッ!?」



 何が身支度をするだよ、こんちくしょうめ!!

 迎え撃つ準備をするどころか、決意表明しか出来てねぇよッ!!


 揺らぐ霧の先には、一人の影が立っている。

 どう見ても俺を待っているっぽいし、不意打ちを仕掛けるのも難しそうだ。


 すでに童貞だとバレているが、せめて舐められない様に、不遜な顔して出て行ってやるくらいしか出来そうもない。

 俺はグラムを強く握り、可能な限り覇気を撒き散らして霧の中を進み――



「よう、久しぶりだな。ユニク」



 親父と、再会を果たした。


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