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第40話「極色万変・白銀比、語られし皇の理」

「アマタノと俺達は戦う運命にある……だと……?」



 俺達は、ほんの軽い気持ちでアマタノの話題を出した。

 それは話の枕……言ってしまえば、ギンを気持ちよく話させる為の雑談のはずで、程良く会話が温まって来たらリリンの過去に話を切り替えて行く予定だった。


 だが、ギンによると、俺たちとアマタノは戦う運命にあるらしい。

 繰り返すように呟いてしまった俺をじっとりと見据え、ギンは愉快そうに口を開いた。



「ユニクルフィン、それにリリンサ。お前さんらがわっちの元に来たのは、己が過去を知るためでありんしょう?」

「あぁ、そうだ。幼いリリンの日記を読み、重要な局面でギンの名前が出てきた。事実、親父の事を知ってるみたいだしな」

「うん。だけど、アマタノまで話に絡んでいるというのは知らなかった。教えて、白銀比様」


「くくく、先ほども言うたでありんすが、おいそれと全てを話す訳にはありんせん」

「なんでだ?」

「もしかして、何か理由があるの?」



 ギンは先ほどとは違う深い笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。

 何らかの事情があるのは確定。

 問題は、それが何なのかという事だ。



「そうなんし、わっちが全てを語らん理由は……それが、あの子と交わした約束だからでありんす」

「えっ」


「わっちの役割は道しるべ。案内役ではござりんせん」

「ちょっと待って欲しい!それって、白銀比様は、魔法によって失われたあの子の事を覚えているって事?」


「当然でありんす。あの子の存在を留めるためにアプリコットが使った魔法は、始原の皇種・『極楽天狐ごくらくてんこ』様から受け継いだ、わっちの権能を模倣して造られた神撃魔法でありんす」

「えっ……。白銀比様は、始原の皇種ではないの……?」


「ふむ、勘違いしていたなんしな。わっちは始原の皇種ではござりんせん」



 ……なん……だ……と……?


 俺達の前でくすくすと深淵な笑みを浮かべている、極色万変・白銀比は、始原の皇種ではない?

 そんな、馬鹿な……。


 ギンは、真っ直ぐに俺の瞳を見据え、堂々たる皇者の風格を纏っている。

 生物としての危機本能が語る、絶対者。

 グラムを覚醒させて戦いを挑んだとしても、俺は、数秒で粉微塵にされる自身がある。

 これだけの力があるというのに、始原の皇種ではない?


 ……ははは、嘘だろ?



「不思議そうな顔をしてるなんしが、わっちは嘘をついている訳でも、狂言を吐いている訳でもないでありんす。これは、真の事実なんし」

「でも、白銀比様は皇種!その極楽天狐様というのが始原の皇種なら、おかしいと思う」


「そも、皇種ということわりを理解してないなんしな。よかろう、それは約束に抵触せん。語ろうでありんす」




 皇種という……ことわり

 そういえば、始原の皇種とは、神が用意した世界を不安定にさせる存在だとかワルトも言っていた。

 だとすると、リリンの住む町に突然現れた天命根樹も、なんらかの理によって出現したという事なのか?



「お前さん達が『皇種』と呼ぶ存在は、三種類に分けられるでありんす」

「三種類?」


「神から直接力を与えられし、7匹の神獣。人間世界にも伝えられておる内容と一致する存在を、始原の皇種と呼ぶでありんす。そして、わっちは違うなんし」

「……う、ん?」


「神から授かりし力は、このような六桁程度のレベル表示では表す事は出来ないでありんす。故に、神は新たな格として『七源の階級』を与え、それぞれ始原の皇種の名とした。それが――」



 ギンの語った階級とは、ワルトが前に言っていた『無量大数』だとか『那由他』だとか言う、膨大な数字の事だった。

 そして、それらを混ぜ込んだ名を持つ者こそ、正真正銘の始原の皇種。



 10×68乗、序列第一位……蟲量大数むりょうたいすう

 10×64乗、序列第二位……不可思議竜ふかしぎりゅう

 10×60乗、序列第三位……那由他狸なゆたたぬき

 10×56乗、序列第四位……阿僧祇鳥あそうぎちょう

 10×52乗、序列第五位……恒河沙蛇ごうがしゃじゃ

 10×48乗、序列第六位……極楽天狐ごくらくてんこ

 10×47乗、序列第七位……千載水魚せんざいすいぎょ


 これらはそのまま、1の後に0が幾つ並ぶかという事であり、序列第一位の蟲量大数は、レベル1000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000となるらしい。

 つまり、一階級あがる事に、秘めたエネルギーが1000倍になってゆく。

 ……なにこれやばい、インフレなんてもんじゃねぇ。


 つーかそれだと、カミジャナイ?タヌキは、極楽天狐の3階級上ということになる。

 つまり、戦闘力は10億倍。

 俺が数秒で粉微塵にされるであろう存在の10億倍とか。


 ……お前らの皇、強過ぎだろ、クソタヌキ。

 マジで神じゃない?ねぇ、マジで神じゃない?



「だとすると、キツネの始原の皇種は『極楽天狐』様で、『極色万変ごくしょくばんぺん』の白銀比様は違うという事?」

「流石はアプリコットの娘なんし、理解が早いでありんすなぁ」


「なら、一つ疑問が湧く。皇種は1種族に1体しか存在できないと聞いた。その情報は間違っている?」

「間違って無いなんし。世界に存在できる皇種は一匹のみでありんす」


「それって……」

「そうでありんす。この世界にて生き残っておる始原の皇種は、たったの三匹。『蟲量大数』『那由他狸』『不可思議竜』の御三方だけでござりんす。その他の始原の皇種は……皆殺しにされたなんし」


「皆、殺し……?」

「神から奪いし『世界最強』の権能を持つ、無量大数様。その力の矛先は同格たる始原の皇種へと向けられたなんしな。……わっちはこの目で見たでありんす。時の権能を支配せし我らが偉大なる皇『極楽天狐様』が、蟲量大数様に成す術もなく殺された、その刻を」



 世界最強たる蟲量大数が、極楽天狐を殺した?

 ……いや、皆殺しというからには、残りの始原の皇種も全て、蟲量大数が殺したのか?


 そして、俺の悪い予感は当たってしまった。



「それだけでは無いなんし。阿僧祇鳥様も恒河沙蛇様も千載水魚様も、すべて、蟲量大数様と戦い殺されたなんし。あらゆる手段を講じても、どんな権能を用いても、蟲量大数様には及びはせん」

「どんな能力も及ばなかった……?時間を自由自在に操れる白銀比様の権能でも届かないというの……?」


「及ばぬ。そう、極楽天狐様が及ばなかったのでありんす、眷皇種でありんした(・・・・・・・・・)わっちなどが戦えど、たった一本の腕に捻り潰されるでござりんしょう」

「えっ……。眷皇種だった……?」



 ギンの表情を見る限り、その言葉に嘘はない。

 堂々とした態度ながらも、蟲量大数の名を口にするたび、僅かに声が震えている。

 それはつまり、抗いがたい格の違いがあるということだ。


 ……で、カミジャナイタヌキは、壁の向こう側(無量大数がいる側)なんだな。

 命が複数あるという噂の不可思議竜が生き残ったのは、なんとなく分かる。

 殺しても殺しても死なない不可思議竜に、蟲量大数は飽きたのだろう。


 が、何でお前は、命が一つしか無いのに生き残ってんだよッ!カミジャナイ?タヌキッ!!

 死んどけよッ!人類の為に死んどけよぉぉぉッ!!



「ど、どういうこと……?」

「そこで、二つ目の皇種の話になるでありんす。皇種という存在は、一度誕生したら無くなることはありんせん。故に、皇種が死ぬと、その種族の中で最も強き者が新たな皇として覚醒するなんし」


「新たな皇種が生まれるということ……?」

「極楽天狐様が亡き後、眷皇種の中で秀でていたわっちは新たな皇として選ばれ、極楽天狐様の記憶と、時を操る権能を受け継ぎ、やがては七源の階級『極』を手に入れ、『極色万変・白銀比』となったでありんす」



 ギンの話を要約すると、皇種が死した場合、その種族最強の個体が自動的に皇種へと進化する。

 なるほど、これで謎が一つ解けた。


 リリンの故郷セフィロトアルテを覆い尽くした皇種・天命根樹は、その街の中心に生えていた聖樹セフィロトが変化したものだとリリンは言っていた。

 その原因は謎となっていたが、何処かに存在していた植物の皇種が死に、新たな皇種として選ばれたという事だろう。


 それをギンに聞いてみたら簡単に頷き、「あれは避けられん事態でなんし。運命ともいうべき神の悪戯ありんす」と想い深そうに頷いていた。



「えっと、つまり……白銀比様はホロビノと同じ始原の皇種の眷皇種で、前代の皇種が亡くなったから、その力を受け継いだという事……?」

「正解でありんす。皇種という理を手に入れている事を除けば、希望を戴く天王竜とわっちは同格という事になりんす」


「……な、なんてこと!私のホロビノは最強だった!?」

「軽々しく最強という言葉を使うななんし。その言葉は蟲量大数様のものでありんす」


「じゃあ、神話級の強さ!」

「それなら大丈夫でありんす」



 ……。俺的には、全然大丈夫じゃねぇ。

 それだと、カミジャナイタヌキの手下だと思ってたクソタヌキは、実は白銀比と同じ格の、レジェンド(神話級)・クソタヌキになってしまうんだが?


 おい、クソタヌキ。気軽に俺の所に遊びに来て、バナナを食ってる場合じゃねぇだろ。

 おい、ニセタヌキ。何食わぬ顔してセフィナに飼われて、俺を襲撃してんじゃねぇよ。


 お前らみたいな奴はな、伝説的な遺跡に引き籠ってろ。

 ……一生出てくんなッッッッ!!!!滅びろぉぉぉぉぉおおおおおおお!!



「ん、何となく理解した。だとするとアマタノも眷皇種だったという事になる。あれ?でも、恒河沙って付いてない?」

「それは、あの自堕落な蛇が皇になる前に、十匹の蛇が皇種に覚醒し、そして死んだからなんし」


「頻繁に蛇は代替わりしいてる?」

「そうでありんせん。蟲量大数様の怒りを買い、三日間のうちに10回の世代交代が行われたでありんす」


「三日で10回も皇種を殺したなんて……」

「実は、神が与えし七源の階級の下にも階級は続いているなんし。そして、世代が変わるごとに一階級弱体化すると神は言ったでありんす。もっとも、弱体化したからと言ってそれから成長しないという訳ではありんせん。わっちも自らを鍛え『極』の階級を取り戻したのは、数千年の時を経てからでありんした」



 確か、それについてはワルトも言っていたはずだ。


 いち

 じゅう

 ひゃく

 せん

 まん


 おく

 ちょう

 けい

 がい


 じょ

 じょう

 こう

 かん

 せい


 さい

 ごく

 恒河沙ごうがしゃ

 阿僧祇あそうぎ

 那由他なゆた

 不可思議ふかしぎ

 無量大数むりょうたいすう



 の順であり、実は、千載という階級は存在しない。

 1000()載ということであり、千載水魚は限りなく極楽天狐に近い実力だったという事なのだろう。



「ん?ちょっと聞いていいか、ギン。世代交代した後は一つ階級が下がるなら、ギンの階級はただの『載』になったってことだよな?」

「そうなんし、七源の階級から一時的に外れた事が幸となり、蟲量大数様はわっちに興味を持たなかったでありんす」


「なるほど、ギンが生き残った理由はそれか」

「じゃが、蛇は階級が下がろうとも七源の階級。無量大数様は興味を手放されず、そして、次代の蛇は愚かでありんした」


「何かやらかしたのか?」

「半端に抵抗し、温厚だった恒河沙蛇様よりも長い時間、戦えてしまったでありんす。それに気分を良くした蟲量大数様は世代交代を繰り返す蛇を殺しつくし、蛇の皇種は”億”の名となるまで弱体化したなんしな」


「なるほど……。10匹殺されて階級が下がり続けたから、幾”億”蛇峰なのか」

「しかし、七源の皇種以外に届かぬとは言え、名に数字を表す文字が入っている皇種は恐ろしく強い、注意しなんし」


「おう。絶対に忘れないぜ。……ちなみに、どうしてアマタノは蟲量大数に殺されなかったんだ?」

「皇種になった瞬間、長大な体をくねらせて『こうさん(降参)』って書いたからでありんす」


「……。可愛いな、ヘビ」


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