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第34話「土けむり舞う、サチナとの再会」

「ここはしゅさまの納める土地なのです!!不法侵入は大罪で罰せられるのですよ!」

「そうなの?ちなみにどんな罰?」


「市中を引き回した後、母様に渡すのです!」

「へぇー。それは怖いかも?」



 始原の皇種に引き渡されるとか、極刑以外の何物でもねぇじゃねえかッ!!


 ……どうしてこうなった。

 俺達はただ、平和的に白銀比に会った後、リリンと温泉を満喫する予定だったはずだ。

 コレだけ凄い観光地、美味い物や綺麗な景色、見どころある催し物もあるだろう。

 それなのに……。


 俺の目の前で、白銀比の娘たる可愛らしいキツネっ娘が牙を向いている。

 正確に言えば、小さい八重歯の先端がちょこっと見えているだけだが、不審者な俺達へ敵意を剥き出しにしているのは間違いない。


 サチナは、見た目8歳の女の子で、赤い花柄の着物を着ている。

 白い髪と相まって紅白となり、非常に華やかだ。

 下駄を履いているから高く見えるが、それでも130cm程度。実質的には120cmくらいだと思う。


 そして揺れる、キツネ耳とキツネ尻尾。

 あぁ、何だあれ、可愛すぎるだろ。

 アレは無理だ。撫で回さないとか絶対無理だ。

 手首を負傷してでも、撫で回す価値があると思うぜ!



「今ならまだ間に合うです。大人しく関所にいくですよ。最終通告なのです!」

「では、私も最終通告。関所に行くつもりはない。むしろあなたの転移ゲートを通って侵入しようと企てている!」


「なんて事を!!それはダメなのです!」



 俺が可愛らしいキツネっ娘を眺めて現実逃避をしていると、リリンの煽りがヒートアップし始めていた。

 リリンはサチナが登場した鳥居を指差して、「見た所、あれは温泉郷に繋がっている。アレを使って入れば絶対にバレ無い!」と挑発。

 それを聞いたサチナは慌てて鳥居を消し、上目ずかいのジト目で睨んできた。



「……もう許さないですよ!」

「許さないと、どうなる?」


「母様に渡す前に、サチナがお仕置きするです!」

「そう。是非、頑張って欲しい!!」



 仕掛けたのはサチナからだった。

 なんの前動作もなくいきなり走り出したサチナは、一瞬でリリンの前まで距離を詰め、跳んだ。

 そのまま空中で一回転して、天空かかと落とし。



「痛いのですよ!」

「なら避ける。《瞬界加速スピーディー!》」



 リリンは愛用しているバッファを掛け、後ろに回避。

 そして、リリンの目の前スレスレをサチナのかかとが通り過ぎて、地面に接触。

 爆裂する地面。撒き上がる轟音。

 なんだこれ、かかと落としの威力じゃねえぞ。



「逃がすわけないです《時間行脚(タイムステップ)!》」

「ん!《飛行脚フライトステップ!》」



 ドドドドドドッと、連続有爆を起こす地面。

 それを回避されサチナは渋い顔をしているが、実はリリンも余裕で回避している訳じゃ無さそうだ。

 いつものリリンなら1m程は敵と距離を取って回避する。

 だが、サチナは時々だが、触れるのではないかと言うくらいに肉薄し、リリンの頬にも汗が伝っている。


 うん、完全にサチナは武闘派です。

 というか、リリンはバッファを重ね掛けしているのに、サチナは一つしか使っていない。

 基礎能力はリリンよりも上と見ていいだろう。

 ……どんだけだよ。そりゃ、井戸掘りとか楽勝だろ。蹴り一発で地面が50cmは抉れてるぞ!



「ちょこまかと素早いです。こうなったら……」

「あなたも凄い。この状態の私について来れるなんて思っていなかった」


「新技ですっ!《時間軸逆行(ワンタイムトラベル)!》」

「えっ!かふっ……!」



 は?リリンが、蹴られた……だと……?


 今まで拮抗していた攻防から一転、サチナは一旦リリンから距離を取ったと思ったら、いきなり転移。

 リリンの目の前に出現し、蹴りを入れたのだ。


 予想外の反撃を受けたリリンは吹き飛ばされたが、なんとか空中で体勢を立て直して着地。

 腹をさすり無傷を確認して、高揚した声をあげる。



「すごい。今のは何?」

「12時間前までに居た場所に戻る魔法です。サチナはこの広場を駆けまわって、刻印しましたです。だからこの広場のどこにでもサチナは転移出来るのですよ」


「戦闘中に空間転移しながらの格闘?それは、とてもすごくて厄介」

「大人しく、お縄を頂戴されろです!!」



 そして、リリンとサチナの攻防は激しさを増した。


 リリンはサチナから説明された情報を元に対策を施し、定期的に全方向にファイアボールを乱射。

 転移してきた瞬間は無防備な為、サチナはタイミングを見計らってでしか転移を行えなくなった。

 それでも、要所要所で仕掛けてきてはリリンにダメージを負わせてゆく。


 どちらかが圧倒的に優勢という訳でないが、俺が見るに、サチナが押している気がする。

 うん、リリンの妹、戦闘力高すぎだろ!?

 セフィナは血筋だという事で済ませていいが、サチナは……いや、こっちはもっとヤバい血筋だったな。


 サチナは、始原の皇種、極色万変・白銀比の娘。

 数千年の時を生きる世界で6番目に強き者の娘であり、その戦闘力は語るまでもないか。


 で、今になって、もう一度言おう。

 どうしてこうなった!?


 確かサチナは、リリンが森に居たのを見つけて、保護してきたと言っていた。

 だが、保護という言い方は少しおかしい気がする。

 サチナは人間の姿をしているがキツネであり、森にいる方が自然だからだ。


 ランク5以上の動物が共生していたのも、『サチナを守る為』で説明が付く。

 サチナは森の頂点に立つ白銀比の娘として、名実ともに姫扱いされていたのだろう。


 ……で。そこに心無きリリンさんがやってきて、サチナを拉致したと。

 木の洞窟というのも、どう考えても白銀比のねぐらな気がするし、明らかに誘拐だろ。

 そんでもって、子供を取り返しに来た白銀比が、リリンと出会ったと。


 ヤッチマッタ感が半端じゃねぇな。

 当時のワルトとか、ストレスで血でも吐いたんじゃないだろうか。



「案外、やるですね。サチナとここまで戦えたのは、主さまとホロビノの手下達だけなのです!」

「ふふ、あなたも強くてビックリしている。この温泉郷の守りは鉄壁!」


「当たり前です!」



 ……気のせいか?

 今、主さまとホロビノ、その手下達とか言わなかったか?

 主さま――恐らくリリンの事とホロビノの並びに加われるって、どう考えても心無き魔人達の統括者だ。

 という事は……。おい、ホロビノ。

 お前、見栄を張ってサチナに嘘を吹き込んでんじゃねえよ。

 手下はお前の方だろ。この馬車ドラゴンめ!



「こうなったら……奥の手です!《久遠くおん狐火きつねび!》」

「ん。いつ見……綺麗だと思う」



 サチナの周りに数百単位の炎の珠が出現した。

 一つが10cm程と小さいが、それでも数百単位となれば圧巻だ。

 それらは揺らめき、ふわふわと宙に浮いている。


 その一つをサチナは手にとって、リリンに投げつけた。



「喰らえです!」

「これは流石に武器無しではきつい。《サモンウエポン=水源杖―ダムダ》」



 一つの狐火が飛来し、それをリリンは撃ち落とした。

 リリンが持っている杖には水系の魔法が込められているようで、狐火がぶつかった瞬間に水泡が発生。

 それは狐火の熱によって瞬時に沸騰し、有爆。

 俺のいる所にまで、熱い蒸気が飛んできた。


 あれだけ武闘派なのに、魔法も普通に使えるのか。

 流石は始原の皇種のを母に持つ……ん?


 よくよく考えてみれば、サチナの父親って誰だ?

 普通に考えれば眷皇種のキツネになるんだろうが、皇と配下の関係だし、なんかそういう関係になりにくそうなイメージがある。

 いやいや、それは考え過ぎだな。


 白銀比はビッチだというし、なりふり構わず営んでる可能性は高いはず……。

 ここで俺は、妙な引っ掛かりを覚えた。

 サチナは人間の姿をしている。もし父親がキツネだというのならば、キツネの姿でいるのが自然じゃないだろうか?


 サチナは8歳前後だと思う。

 だとすると、白銀比の身体に宿ったのは9年前という事になる訳だ。

 9年前……。9年前……。

 この数字は、つい昨日聞いたばかりだな。


 ……。

 リリンの日記に出てきた白銀比は、9年前に、ナニをしていた?



『9月18日


 ユルドおじさんの肌には赤い跡がいっぱい。キスマークっていうらしい?

 が好きな人に付けるしるしだっていうから、ユニクにも付けてあげた。

 三人でいっしょ!セフィナが付けたのは歯型だけど!』



 ……。

 ……………。

 …………………。



「ふぉああああああああああああああああああああ!?!?!?」

「え!なに!?どうしたのユニク」

「完全に不審者です。あっちも速やかに排除した方が良さそうです」



 え、ちょっと待って、えっ、えっ。

 え?マジで?

 人類の英雄、何してくれちゃってんのッッ!?

『あの子』が命の危機に瀕しているというシリアス展開の最中に、なんて事してくれちゃってんのッッ!?


 えぇい!取り繕うのも、言葉を選ぶのも無しだッ!!

 ふっっざけんなよ!!英雄全裸ユルユル獣*親父ぃぃぃぃぃッ!!

 していい事と、ダメな事の判別ぐらい付けろこの変態野郎ッ!!


 人類の平和を守るって、まずは貞操を守れッッ!!このド変態ぃぃぃぃッ!!



「……。お前も一緒に相手してやるです!」

「は?ドゲフッ!!」



 ぐあぁぁ!!妹との初めてのスキンシップが蹴りだったッ!!

 ごふっ、ごふふっ、痛い痛いッ!!

 心と体が9対1の割合で痛いッッ!!



「《約束を果たそう、名のらぬ老爺よ。この空はお前にくれてやる―天空の足跡(ヘルメス・タラリア)―》ユニクを狙うのはダメ。私に集中して欲しい!」

「更に速くなったです!?」



 うぐぐ……身体の芯に響く、良い蹴りだったぜ……。

 というか、防御魔法があるはずなのに、ちょっと痛かったんだけど。カミナさん同様、防御魔法貫通を持ってるのか?


 いや、そんな事はどうでもいい。

 もっと別の事に頭を使おう。


 状況証拠的にかなりすごーく怪しいが、まだ親父がサチナの父親だと決定した訳じゃない……といいなぁ。

 俺的には凄く複雑な心境だ。

 親父がキツネとごにょごにょした事は到底受け入れられそうもないが、結果だけ見れば、俺には可愛らしい妹がいたという事になる。

 ……キツネ耳の。


 うん、キツネならギリギリ大丈夫だ。

 もしこれがタヌキだったら俺は、目の前の崖から飛び降りたかもしれない。



「はぁ、はぁ、やるですね……」

「このバッファを使っている私についてくるとは、本当に成長したと思う。すごい!」


「……?まぁ、サチナの勝ちは決まっているです。悪人には取って置きのお仕置き道具があるですよ」

「お仕置き道具?なるほど、見せてくれてもいい」


「余裕があるのも今のうちだけです!!《サモンウエポン=魔王の左腕(デモンレフト)!》」



 げぇぇぇ!?魔王様を召喚しやがったッ!!


 サチナは魔王の左腕を召喚。

 身体に対して不釣り合いな大きさの杖を振りまわしながら、リリンへ特攻を仕掛けた。


 素早く走り込んだサチナは、不意を突くように空間転移。

 リリンの目の前に出現し、待ち構えていたリリン(・・・・・・・・・・)へ魔王の左腕を振るった。



「怖くて泣いちゃえです!」

「泣かない。なぜなら私も使うから《サモンウエポン=魔王の右腕(デモンライト)!》」


「なんだとっです!!」



 リリンは自動修復の状況をこまめに確認する為に、魔王の右腕の召喚陣を刻んだブレスレットを付けている。

 そこから出現した魔王の右腕は、どうやら前にした命令の『リリンを守れ』を覚えていたらしく、振るわれた魔王の左腕と衝突した。


 バチバチという凄まじい火花と、恐怖の波動が撒き散らされる。

 控え目に言っても……、怖い怖い怖い怖い怖いッッ!!



「……なんで魔王の右腕を持ってるです?」

「それは、私がこの魔王の右腕や、その魔王の左腕、サチナの結界の中にある魔王の心臓核も含めた所有者だからだよ。サチナ」


「……あっ!」

「ふふふ、凄く強くなったね、サチナ。私はとても誇らしいと思う!!」


「あっ、あっ、主さま~~~~~!!」



 そしてリリンは認識阻害の仮面を取り、サチナは速攻で抱きついた。

 フワリとサチナを抱きしめたリリンは優しく頭を撫でて、「私相手にここまで戦えるとか、とても凄い!!とても偉い!!」とべた褒め。

 サチナも嬉しそうに頭を撫でられて受け入れている。


 あぁ、なんて微笑ましい光景だろう。

 是非俺も、その輪に中に加えて頂きたい。


 ……だからな、その物騒な魔王様達をとっとと封印してくれ。

 怖くて近づけない。

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