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第30話「霊園の管理者」

「それにしても、蟲量大数か……。流石にあんなのは予想外過ぎたわ。研究対象にするのすら戸惑うレベルね」



 カミナがワルトナと雑談を始めてから1時間が経った。

 話題は蟲量大数以外にも多岐に渡り、今までの事実確認や、セフィナや英雄ユルドルードについてなどだ。


 ひと通りの事情を聞き終えたカミナは、最後に墳墓の保全について尋ね、ワルトナから「特に何もしなくていい。決められた資格を持つ管理者しか入れない結界があるからね」と答えを貰った。

 電話を切った後、リリンサ絡みの仕事が一気に無くなったカミナは、『次の目的』を見据えて笑みを溢している。


 カミナはリリンサから霊廟の調査許可を貰っている。

 そして、霊廟の正体をワルトナに聞いていないのは、単純に、未知を探索するというワクワク感を損ねない為だ。


 最近では最先端の医療技術も既知ばかりになり、技能の劣る他者が教えを乞うてくる生活。

 飽きとマンネリにうんざりし始めていたカミナは、面白そうな研究材料として新種のミニドラを4匹も手に入れているが、それだけでは貪欲な好奇心は満足していないのだ。



「さぁ、本命の探検と行きますか♪」



 誰もいないはずなのに、しっかりと声に出したカミナは軽やかに歩きだし、霊園の最奥にある霊廟を目指す。

 心無き魔人達の統括者全員で墓参りに来た時から気になっていたが、探屈するタイミングを逃しており、密かに好奇心が燻っていたのだ。


 十数分の徒歩の末にカミナが辿り着いたのは、輝く水晶の柱で出来た遺跡。

 天井と屋根しかない霊廟だが、その中央には地下へ続く階段があり、”本命”はそこにあると物語っている。



「さぁさぁ、この下には何があって、どんなお宝が眠っているのかしらね?黄金郷か、楽園か。地獄なんてのもお洒落でいいわ」


「ねぇ……そうは思わないかしら?」



 再び虚空に向かって話しかけたカミナは、確信を宿した瞳で、返答が来るのを待ている。

 そこには誰もいない。

 少なくとも、目に見える生物はカミナ・ガンデしかいないのだ。


 だが、木の葉が何枚か不自然に舞い、続いて返答がもたらされた。



「ほぅ?俺がいると確信してやがるな?いつから気が付いていた?」

「この霊園に入った時から、いえ、もうずっと前から違和感を抱いていたわ」


「ずっとだと?いつの話だ?」

「リリン達と旅をしている時からよ。その時から、視線のようなものを感じる事があったわ。で、今回の騒動で確信を得たってわけ」


「ほう?」

「あなたはずっとリリンの近くにいた。別の次元に隠れて、ずっとリリンを見守っていた。そうなんでしょ?……リンサベル家の守護者、タヌキ帝王・ソドム」


「くっくっく!見破られていたか。見事だ!」



 バキリ。っと空間を引き裂いて、次元の裂け目が出現。

 世界に君臨する上位者のみが往来できる魔法次元が露出し、その中から悠然と歩いて出てきたのは……王者の風格すら纏う、一匹のタヌキ。


 圧倒的強者。

 勝つ手段無き絶望。

 眷皇種、タヌキ帝王・ソドムは、不遜な態度でカミナを見上げ、愉しげに笑っている。



「ふふ、また会ったわね。ソドム」

「俺を見て笑顔を返すとはデカイ態度だな。で、わざわざ挑発までして俺を呼び出したのは、何の用があっての事だ?」


「二つあるけど……この霊廟を調べる許可を貰おうと思ってね。あなたがこの霊園の実質的な管理者なんでしょ?」

「何故そうだと思う?」


「これだけ情報が出てれば、リリンやユニクルフィンくんですら気が付いていると思うわよ。そして私は、あなたが霊廟に何かを隠している事にも気が付いているわ」

「……なに?」


「この墳墓の下には、全長数kmの謎の空間があるわね。何を隠しているのかな?」

「くっくっく!それをお前に教えてやるメリットが見当たらねえな」



 カミナは自身の大規模個人魔導『生命認識メディカルチェック 強制支配アウトプット』を常に発動している。

 さらに、今は能力を最大にしており、カミナを中心とした直径5kmの範囲にいる生物の生命情報を、あらゆる手段や副次的方法を使って習得し、完全把握しているのだ。


 この魔法を発動していたからこそ、ソドムの存在を知覚する事が出来た。

 だが、そういう効果があるとは言っても、ソドムは別に次元に隠れており、生命情報など習得できるはずが無い。

 それなのにカミナが気付けた理由は、『空気の揺らぎが不自然だったから』である。


 僅かに裂けている時空の隙間へ空気が流れており、微かに動いていた。

 目には見えず音も無いそれに違和感を抱けたのは、生命認識メディカルチェック 強制支配アウトプットに流動体感知があるからであり、偶然の気付きだった。

 しかし、一度確信を得てしまえば、後は手あたり次第に調べるだけとなる。


 そうして、カミナはソドムを看破し、対峙したのだ。



「あなたにはメリットが無くても私にはあるのよ。地下に数百匹のタヌキがいて、しかも、何かを製造しているわね?」

「そんな事まで把握されてるのか。流石にふざけた数の神の因子(アーティファクト)を持っているだけはあるようだな」


神の因子(アーティファクト)?あぁ、たまに神童なんて呼ばれる事もあるわね。成人してるし、童って年齢でもないのに」

「歳なんて関係ないな、俺から見れば誤差みたいなもんだし」


「数千年と比べれば、そうなるわよね。で、許可は頂けるのかしら?」

「やる訳ねぇだろ。NOだ」



 鋭い視線を向け、ソドムはカミナを観察している。

 真理究明の悪喰=イーターを持っているソドムのつぶらな瞳には、物資の本質を見定める力が備わっているのだ。


 ソドムには、カミナの身に宿っている神の因子が見えている。

 一つ持つだけで天才と持て囃される神の因子が複雑に絡み合い魔法陣を描いているその光景は、数千年の時を生きる眷皇種ですら一目置くほどに珍しい。

 かの偉大なる希望を戴く天王竜ですら、尻尾を萎ませて完全服従するほどの威光がそこにはあるのだ。


 だが、ふてぶてしい性格の勝つ手段が無きソドムには、効果は今一つだった。



「もともと霊廟を見せるつもりはねぇが、今は特に時期が悪い。なにせ、俺の鎧を建造中だからな」

「鎧?そんな小さいものを作ってるとは思えないけど……?」



 意味深な事を言われて気になったカミナだが、ソドムはニヤリと笑っただけだ。

 そして、話題を反らすように、別の質問を投げ掛けてきた。



「で、俺を呼び出したもう一つの理由ってのはなんだ?ついでだし言ってみろ」

「あなた、昔にもユニクルフィンくんの所に出没していたそうじゃない?でもそれは、意味合いが違うわよね?」


「ん?回りくどい言い方をするな。ハッキリ言え」

「そう、じゃあハッキリ言うわ。あなたはユニクルフィンに用事があったんではなく、『あの子』を見守っていた。そうよね?」


「……。」

「黙秘ねぇ。なるほど、存在Xの正体が分かった気がするわ。それにしても、あなた……もしかして、あの子の事を覚えているんじゃないかしら?」


「……。」

「それとも、タヌキ程度の脳味噌じゃ、そんな昔の事は覚えていられないのかな?」


「……舐めるなよ、人間風情が。俺が記憶した知識は全て那由他様の支配下にある。我らが皇の権能が、そこらの魔法の影響を受けるとでも思っているのか?」



 ソドムは今まで纏っていた緩やかな雰囲気を脱ぎ、眷皇種たる風格を纏った。

 それは正真正銘、化物の出現。

 静かながらも怒りを含むその言論を受けたカミナは、首筋に冷たい汗を流した。 



「流石……というべきかしらね。圧倒的なオーラだわ」

「この眷皇種ソドムの覇気を受け逃げずいるとはな。褒めてやろう、愚かなる人間よ」


「最近、人生がつまらなくてね。刺激的な事をしたい気分なの」

「くっくっく。やはり神に愛された者は言う事が違うな。まともな師に習えば余裕で英雄になっていただろうに、運が無かったな」


「あらそうなの?だったら歴史に名を刻む第一歩として、勝利する手段無き化物を退治してみようかしらね」

「笑わせてくれるな。お前程度が俺に勝つだと?」


「えぇ、なにせ、私は神に愛されているらしいからね」

「未覚醒の才能じゃ何も出来やしねぇ。それにな……俺は、一億年勝ち続ける約束をやり直さなくちゃいけねぇんだ。だから……」



 空気が、

 空間が、

 時空が、


 ……歪む。


 それはただ、ソドムが動き出しただけだ。

 前足を一歩踏み出し、荘厳に口を開く。



「……お前程度に、負けてやるつもりはねぇ。本気で行くぞ。《悪喰=イーター》」

……。


唐突なタヌキ回!

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