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第29話「懐かしき思い出(終)・始まりと終わり」

「これで全部調べ終わったな」

「うん。他にあの子に関する手掛かりはなかった。……けど、お宝がいっぱい!」



 新たな目標を見据えた俺達は、全ての事情を知るであろう白銀比の元へ――。

 ……行く前に、念入りに部屋を調べ尽くした。


 4冊の日記帳だけでこれだけの情報が出てきたんだし、他に手掛かりが無いとも限らない。

 それこそリリンの日記帳の他に、セフィナのお絵描き帳とか、ユニクルフィンの冒険録とか出てきても不思議じゃないしな。


 だが、それらしいものは見当たらず、出てきたのは幼いリリンの私物ばかりだった。

 基本的に年相応の女の子が集めるような可愛らしいものが多かったが、異色を放っているものが三つほど出てきている。


 一つ、お子様ランチに付いている旗、192本。

 ……食い過ぎだろ。

 二つ、妙に達筆かつ精彩に描かれたタヌキの絵。

 ……ゴモラだろ。

 三つ、明らかに高ランクな戦略級の魔導書3冊。

 ……物騒すぎだろ。


 この謎のお宝達と日記帳、ホーライ伝説・原典は懐かしき秘宝として回収され、リリンは平均的な満面の微笑みを浮かべている。



「ユニクルフィンくん、これ以上調べても発展は無さそうね」

「そうだな。他にやるべき事があると思えないが……カミナさんは何か思いつく事はあるか?」


「そうねぇ、私が書いた記録用紙を渡すくらいかしら。どうせすぐ忘れて暴走するでしょ?」

「……実績があるだけに、返す言葉がない!」



 女医魔王さんのクールな眼差しで背筋を凍てつかせながら、差し出された紙を受け取る。

 カミナさんは俺たちと話をしながら、判明した情報を紙にまとめていた。

 さすが凄腕の医師だけあり、非常に綺麗で読みやすくまとめてある。


 この紙があれば、目的を見失う事もないはずだ。



 **********


 *リリンサ・ユニクルフィンの状況の考察*


『白い敵は、準指導聖母マザー悪逆アトロシス。闘技場の管理者・ヤジリ』

『黒い敵は、準指導聖母マザー悪喰プアフード

『黒い敵は、セフィナ・リンサベル』

『大聖母・ノウィンも関与している可能性がある』


『メナファスは敵と一緒に行動しているが、裏切っていない』


『ダウナフィア・リンサベルの生存が確定』

『ダウナフィアと白い敵は協力関係にある』

『アプリコット・リンサベルは死亡している』

『アプリコットはホーライの弟子であり、英雄だった』

『タヌキはリンサベル家の守護獣』



『日記により、ユニクルフィンとリリンサが出会っている事は確定。また、ユルドルード、アプリコット、ダウナフィア、白銀比とも既知である』

『日記により、ユニクルフィンはリリンサと頻繁に会っていた』


『すべての問題は、存在Xの喪失が発端である』

『何らかの方法で存在Xを取り戻すことで、今回の騒動はすべて解決する』



 *存在Xについて*


 ユニクルフィンとリリンサには歳の近い大切な存在がいた。

 天命根樹の攻撃を受けてしまったその存在Xは、命の危機に晒されたが回復。

 しかし、一度は回復したものの、直ぐに別の問題が発生し、それを解決する為に白銀比の知恵を借りることになった。


 そして、ユニクルフィンと存在X、ユルドルードは世界を旅し……、その旅は失敗に終わる。

 万策尽きた存在Xは、せめてリリンサとセフィナだけは幸せに暮らせるようにと自らの存在を魔法で喪失させ、この世界から消えて無くなった。


 だけど、リリンサは諦めていなかった。

 何らかの方法で存在Xを取り戻す手段を思いついたリリンサは、記憶が消えて無くなる前に、自ら修羅の道を選び、代償を払ってでも存在Xを取り戻すと心に誓った。



 ――結論――


『リンサベル家の死の偽造』

『白い敵の襲撃』

『ユニクルフィンの記憶喪失』

 これらは、存在Xの喪失により引き起こされたもの。

 そして、存在Xを取り戻す事は可能であるが、その方法については不明である。

 だが、ユルドルード、ダウナフィア、白銀比、白い敵は事情を把握している可能性が高い。


 これからは白い敵の動きに注意しつつ、白銀比に接触し、不明瞭な事実を解き明かす事が最優先となる。



 **********



 カミナさんから貰った記録を、もう一度リリンと一緒に読んでゆく。

 あれだけ複雑で長い考察も、紙に纏めてしまえば一枚に収まる文量だった。


 リリンも、うんうん。と頷いているし、しっかり理解したようだ。



「うん。バッチリ覚えた!完璧だと思う!!」

「そうね、後はワルトナに……って、そう言えば、ワルトナはなんて言ってるのかな?ヤジリが白い敵だって言ったのもワルトナなんでしょ?」


「そう。そして、過去を調べた後の予定は詳しく聞いていない。その時になったら話すって言われていたけど、連絡が取れないし」

「連絡が取れない?へぇー。リリンを溺愛しているワルトナが音信不通なんて珍しいわねー」


「たぶん、ノウィンと距離を置くために、休暇という形で逃げ回っているんだと思う」

「休暇ねぇ。まぁ、連絡が取れないんじゃしょうがないわ。なら先に、白銀比様に会いに行っちゃった方がいいわね」


「白銀比様にも会いに行くけど……私としては一刻も早くセフィナを捕まえたいとも思っている。安全確保は基本中の基本!」

「あら、その為にメナファスがいるんでしょ?それに、セフィナは……私の感だと一週間くらいは仕掛けてこないはずよ。ワルトナが進めている領分を侵してまで行動するとロクな事にならないから、あっちから仕掛けてくるまで我慢ね」


「むぅ……。過去の私のせいでセフィナに寂しい思いをさせてしまった。一刻も早く捕まえて安心させてあげたいのに……」

「そう焦らないの。それにね……」



 そこで言葉を区切って、カミナさんはリリンの耳元に口を寄せた。

 明らかな内緒話をする態度に、俺の好奇心がくすぐられる。


 だが、大魔王の秘密会談とか絶対にロクな事じゃない。

 聞こえない様にしているんだから、わざわざ聞き耳を立てるのは禁忌って奴だ。



「リリンの実家って温泉宿でしょ?ハジメテを経験するには良いシチュエーションだと思うわ。セフィナよりも先に、旦那様を捕獲してしまいなさい」

「……!!それは良い案だと思う!!」



 ……おい、そこの女医大魔王。

 そういう耳打ちって俺に聞こえないようにするもんだろ。絶妙な声量でバッチリ聞こえたんだが。

 明らかにワザとやってるだろッ!?

 俺とリリンで遊ばないでくれッ!!



「さてさて、そうと決まれば善は急げね。これからは……狩りの時間よ!」

「狩りってなんだよッ!?」


「うん、頑張る!ユニクに逃げ場は無い!」

「俺が獲物なのかよッ!?!?」


「この部屋の保護は私とワルトナでやっておくから、あなた達はあなた達でやるべき事をヤっときなさい」

「というかカミナさんって、結構下ネタ好きだよな!?」


「分かった!押し倒したいと思う!!場合によっては魔王シリーズ完全解禁!」

「ふざけんな!俺にそんなアブノーマルな趣味はねぇぇぇ!!」



 そんなやり取りをしていると、誰からともなく笑い声が漏れ始めた。

 次第に大きくなってゆく声は、きっとこれからの未来を露わしているはずだ。


 登場した全ての人物が笑い合う、エンディング。

 それを手に入れる為に、俺達は頑張るんだ。


 新たな志を胸に秘め、俺とリリンは墓を後にしようと歩き出す。

 その後ろにカミナさんが続いて……来なかった。

 不思議に思い振り返れば、カミナさんはひらひらと手を振っている。



「じゃ、お疲れ様。あなた達は帰って良いわよ」

「ん、カミナは帰らないの?お礼にご飯を奢ろうと思う!」


「それはまたの機会に取っておくわ。私はここに残って調べ残しが無いか見ておきたいの。あぁ、ついでにワルトナにも連絡して状況説明をしておくから安心しなさい。第三者の私が話した方が良いだろうしね」

「でも、ワルトナには連絡が取れないと思う」


「大丈夫よ。なんとかなるから」

「……?そうなの?」


「そうなの。それに……前からこの墳墓を調べてみたいと思っていたのよ。奥に霊廟があるでしょう?あの中とか探屈したら面白そうだなってね。調べてもいいかしら?リリン」

「それは別にいい。あ、お宝があったら山分けってことで!」


「了解よ」



 そうして、俺とリリンはカミナさんと別れ、墓から出てきた。

 うん、今になって気が付いたが、しっかり墓の中に入る事になってたじゃねえか。

 リリン!俺と一緒の墓に入って下さいッ!……って、そういう事じゃねえだろ。



「すっかり夕方になっちまったな」

「うん。今日はエデュミオのホテルで一泊して、明日の朝イチで白銀比様の元に向かおう。ユニクはもう逃げられない!」



 時間はもう既に夕方となり、空は薄暗くなり始めている。

 かなり長く話し込んでしまったが、重大な事実がいっぱい手に入ったし、有意義な時間だった。


 そうして……俺達の長い考察の時間は終わった。

 しばらくすればワルトにも連絡が取れると思うし、なにより、俺とリリンの過去が判明し、あの子の存在が露見した事や、まだ分からない細かな詳細は白銀比が知っているという事が大きい。


 そんな事を考えながら、なんとなく空を見上げて、ふと思う。


 記憶を無くしてから出会う、初めての皇種『極色万変・白銀比』。

 カツテナイクソタヌキよりも確実に格上な白銀比は、俺とリリンにどう接してくるのか。

 ……そして、親父との関係性がどうなっているのか非常に不安で仕方ないが、それも明日になれば分かる事だ。



「じゃ、帰ろうぜ、リリン」

「うん。そうだね、ユニク」


 

 黄昏時の光が霊園を照らし、至る所に居やがるタヌキの彫像が霊妙な雰囲気を出している。

 そんな恐ろしき光景をリリンと雑談しながら歩き、裏切り馬車ドラゴンのホロビノを探……あ。いた。


 ホロビノは霊園の入り口で寝そべり、虚ろな目で草をモシャモシャと齧っていた。

 名実ともに、道草を食っている。

 どうみても現実逃避をしてるし、女医魔王さんに魂的な物をスポイトされたのかもしれない。


 威厳がまるで見当たらねぇぞ。それで良いのか、天王竜!



 **********



「さてと……。」



 ユニクルフィン達を見送ったカミナは、ホロビノが空に飛び立ってゆくのを確認した後、ポケットから携帯電魔を取り出した。

 手早く操作しワルトナの端末へと繋げると、荘厳なコール音が鳴り響く。


 十数秒の時間の後、無機質なワルトナの声が聞こえてきた。



「……。この電話番号は、現在、使う気がございません。具体的に言うと――」

「そんな手に引っ掛かるのはリリンとユニクルフィンくらいなものよ。ワルトナ」


「…………だよねー。で、キミから電話とは珍しいじゃないかい。どうしたんだい?あぁ、墓を調べて重要な事でも分かったのかな?」

「えぇ、飛びきりに重大な事が分かったわよ。ねぇ、そうでしょ?……白い敵さん」



 突き刺すような冷たい声色で、カミナは問いかけた。

 そして帰ってきたのは、陽気な肯定の声。


 まるで予定通りだとでも言うように、ワルトナは語り出す。



「まぁ、キミの頭脳なら気が付くよね!で、色々と察したキミはリリンに内緒で連絡をくれたと。思いやりがあるねぇ、思い通りだねぇ」

「まったく悪びれも無くよくもまぁ言えたものね。ほら、話しなさい。私だけ仲間ハズレは酷いんじゃないかしら?」


「だからキミも混ぜてやろうと思って呼んだんじゃないか。さて、僕が語る前にカミナの仮説を聞かせておくれ。どこまで正解に辿りつけたか採点してあげるよ」



 今にも笑いだしそうな声を聞いてイラッとしたカミナは、気分を仕事モードに切り替えて、冷静に話し始めた。

 その解説を楽しそうに聞き終えたワルトナは、パチパチと小さい拍手をカミナに贈る。



「いやーすごいねぇ!僕が意図的に騙している白い敵の正体以外は、全て正解だ!」

「まったく、あなたねぇ……。いや、事情があったのは分るし、気持ち的にも理解出来るわ。よく頑張ったわね、ワルトナ」


「……おや?怒られるかなって思ってたんだけど、その答えは意外だね」

「言いたい事はあるし、後で文句も言うけれど……一途に頑張り続けた人を怒ったりしないわよ」


「……そうかい。本当に僕は仲間に恵まれたようだね」

「と、いえども、私を仲間ハズレにしようとしたのは別問題よ。罰と腹いせもかねて、ちょっとしたイタズラを仕掛けさせて貰ったわ」


「……え。」

「リリンに、温泉宿でハジメテを捧げるのは良いシチュエ―ションだって教えておいたわ」


「う、うわぁぁぁぁっっっ!?!?カミナの馬鹿!なんて事をするんだよ!!」

「ふふ、明日になったらリリン達は温泉宿に行くみたいよー。そこで卒業かしら?」


「あぁぁぁぁ!!酷い!僕がユニの事を好きだって気付いててそういうこと言う!?ねぇ、言うかな普通ッ!?」

「これはカミさまからの天罰よー」


「どこら辺が神だよ、ちくしょうめ!この鬼!悪魔!!大魔王ッ!!」

「ふふふ、5年もリリンを騙し続けているあなた程じゃないわよー」



 口汚く罵り合っているのに、その声はどこまで楽しげなもの。

 二人の友人は、ひとしきり友好を深めあった後、ふと真面目な話題に戻った。



「ねぇ、ワルトナ、あなたは消えてしまった『あの子』の事をどこまで覚えているの?魔法で存在が消えているってどういう事よ?」

「あの子に関しては、僕もほとんど覚えちゃいない。魔法についてもまだ何も知らないさ。白銀比様やノウィン様に聞く訳にもいかなかったし、ユルドおじさんには聞きそびれたし」


「あら?英雄ユルドルードにも会ってるのね?そこん所も、事が済んだら詳しく教えてね。それと、私、人類最強を人間ドックしてみたいわ」

「願望が駄々漏れなんだけど。まぁいいさ、全部済んだら、みんな揃って人間ドックを受けに行ってやるよ」


「ありがと。じゃあ、ついでにもう一つ聞いてもいいかしら?」

「なんだい?」


「あなたは蟲量大数を倒そうとしている。なら、調べてあるんでしょう?数千年の時を生きる『世界最強』について」

「あるとも。だが……それを聞いてしまったら、キミも関わりを持ってしまうかもしれないよ?それでもいいのかい?」


「今更よ。それに、私は興味を持った物を徹底的に調べないと気が済まない性格だって知ってるでしょ?」

「そうだったね。じゃ、言うけど……」



 そのワルトナの声は、今までの雰囲気とは一変し緊張を帯びたものだ。

 それを機敏に感じ取ったカミナは、ほんの少しの期待を胸に抱いた。


 カミナにとって、知識は糧であり、未知は麻薬だ。

 あらゆる未知を欲し、既知に変えて行く事こそ、至上の喜び。

 だからこそ、未知の生物である蟲に興味を抱いているのだ。


 そして、重々しい雰囲気を纏わせて、ワルトナは語り出した。



「蟲量大数・ヴィクティムについては多くの事が謎のままだ。8年前の最終決戦に僕は参加してないから、姿だって直接は見ていないしね」

「あら、残念ね」


「だけど、古い文献に載っていた奴の肖像画は持ってるよ。見るかい?」

「えぇ、是非見たいわ。昆虫の姿から生態を考察するのって、ワクワクするわよね」


「ははは、笑ってしまうねぇ、嗤いが止まらないねぇ。……考察するとか、しないとか、そんな次元に無いと思うよ」



 そして、カミナの持つ携帯電魔の画面に、一枚の画像が送られてきた。

 それは、線の荒い肖像画であったが、被写体が放つ異常性を表すには十分すぎるものだ。



「……なによこれ。こんなの……この世の存在とは思えないわね……」

「そうさ。世界で最も進化していた虫は、神の力を得た事により、新たな生命たる『蟲』となって世界に降り立った。そこに僕らの常識は無いんだよ、カミナ」



 カミナは、あらゆる生物の生態を把握し、語る事が出来る。

 だからこそ、その画像に映っている存在を受け入れる事が出来なかった。


 蟲であり、人。

 まるで異形のこの存在こそが、始原の皇種、『蟲量大数・ヴィクティム』。



 ユニクルフィンとリリンサとワルトナ。

 その運命の先に君臨する、世界最強の…………害敵だ。





挿絵(By みてみん)

……という事で、ラスボス(暫定)の公開です!


もともと出すタイミングを見計らっていたんですが……。

先日、ついにブックマークが600、感想が350件を突破いたしました!


本当に応援ありがとうございます!!

マジで感激しております。嬉しすぎて踊りだしそう!


これからも色んな物を、書いて、描いて、書きまくります!

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