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第28話「懐かしき思い出・見えた目標」

 リリンの日記帳に記された最後のページ。

 そこには、幼いリリンが必死に書いたであろう想いが記されていた。


 それは、9歳の少女が背負うにしては、あまりにも重い、――未来。



「……思い出した」

「え?」


「あの子の姿や名前は思い出せていない。けど、思い出した。幼い私は、あの子を助ける為に誓いを立てた。どんな手段を取っても、どれだけ時間を掛けようとも、もう一度再会する為に私の人生の全てを使うと、確かに決めた」

「……リリン」


「だから、今の私が歩んできた人生は、全て、自分で願った結果。寂しくて泣いてしまった日も、一人での夜が怖くて心が引き裂けそうになった日も、全部、過去の私が求めた願い。家族と別れ孤独になったのも、全部、ぜんぶ……、あの子を取り戻す為だった……」

「リリン……」


「私は……忘れてしまった私が、憎い。こんなにも大切だったあの子の事を忘れて、一時でも楽しい人生を歩んで。セフィナにまで寂しい思いをさせてしまった私がとても、憎い。魔法なんかで忘れなければ、私はもっと早く、あの子に――ッ!」

「リリンッ!」


「……あ。ごめんユニク、少し取り乱した」

「あぁ、そうだ。謝るべきだぞ。リリン」


「謝る……誰に?」

「あの子にだよ。リリンの幸せを一番に考えてくれたあの子に対して謝罪しろ。……良いかリリン。あの子は、リリンにそんな表情をさせたくないから、自らの存在を魔法で消した。そうじゃないのか?」


「……そう、なのだと思う」

「だったらさ、リリンが歩んできた人生を否定するなよ。人一倍苦労して、悲しい思いをして、辛い目に遭って。その先で今のリリンは幸せを掴んだんだろ?だから、それを否定するのは、あの子の願いに対しての冒涜だ」


「そうなのかな……ううん。きっとそう。あの子もそう言うと思う。あの子はいつも、私の事を一番に気に掛けてくれたから」

「そうだ。俺達がするべきなのは過去を悔いることじゃない。今からどうやって最善の未来を掴み取るかだ」



 大粒の涙を袖で拭いて、リリンは無理やりに平均的な微笑みを作った。

 それは酷くぎこちない笑顔だったが、それでも、さっきの思いつめた顔よりかはマシだ。


 リリンは何も悪くない。

 だから、そんな顔をする必要はないんだ。

 悪いのは……。

 小さな女の子一人救えなかった、不甲斐ない俺なんだから。



「はーい、リリンもユニクルフィンくんも落ち込まないの。あなた達が悪い訳ではないからね」

「……ユニクもカミナもそういうけど、私が忘れたりしなければ、こうならなかったのは事実」

「それに、そもそも俺が失敗しなけりゃ良かった話だ」


「人にはね、限界ってものがあると知りなさい。職業柄『カミ様』なんて呼ばれる私でも出来ない事はあるし、失敗もする。私達はね、全知全能の神じゃないのよ」



 カミナさんの真摯な声が、俺とリリンの感情を解してゆく。

 誰だって間違いや失敗はあるというその言葉は、俺にとって救いだった。


 あぁ……。リリンに言っておきながら、過去の自分に捕らわれてたのは俺の方じゃねえか。

 なんて情けない。

 だが、カミナさんの言葉で目が覚めた。


 そんな俺の表情を見て察したのか、カミナさんは優しげな声色で話を続けた。



「過去のリリンは……いや、ユニクルフィン、英雄ユルドルード、それに英雄アプリコットや白銀比様、リリンのお母さん……そして存在X。登場したすべての人物が努力した結果が、悪いもののはずが無いわ。これは最善の結果だったのよ」

「これが最善の結果……?」


「そうよ。……存在X。この子の命を救う為にユニクルフィンや英雄ユルドルードは世界中を駆け回った。それは失敗したと、そう思う?」

「……あの子の存在は消えてしまっている。それは、失敗したからだと思う」


「いいや、私には失敗だと思えないわ。だって、『どうにかすれば、存在Xを救い出す事が出来る』のよ。そう日記に書いてあるじゃない」

「……!」


「だから、流す涙は再会まで取っておきなさい。涙だってタダじゃないのよ」



 あぁ、まったく本当に、心無き魔人達の統括者って奴は二面性があり過ぎだろ……。

 カミナさんの横顔を盗み見れば、そこには、白衣を着た天使が居た。


 その真っ直ぐな言葉に救われた俺達は、一度だけ鼻をすすり、いつもの調子を取り戻してゆく。



「そうだな。まだ終わった訳じゃねぇ。挽回のチャンスはいくらでもあるはずだ」

「うん。落ち込んでいる暇なんて無い。そんな事をするくらいなら、一刻も早く行動するべき!」

「そうよ。ということで、新しい情報が出てくるのはこれで終わり。今からまとめに入るわよ。しっかり付いてきなさい」


 その頼もしい声に打たれた俺は、反射的に背筋を伸ばした。

 なんかカミナさんの声を聞くと、本能的に逆らえない気がする。


 名付けて、『女医魔王の号令(ドクターストップ)』 

 大魔王さんが持つ、特殊スキルの一つだ!



「まずは存在Xについての考察よ。事実に矛盾しないように整理するとこうなるわ」



 ユニクルフィンとリリンサには、歳の近い大切な『存在X』がいた。


 今から9年前、天命根樹の攻撃を受けてしまった存在Xは、命の危機に晒され、回復。

 しかし、一度は回復したものの、すぐに別の問題が発生し、命の危機に直面してしまう。

 解決の糸口が見当たらなかったリリンの家族とユルドルードは、長き時を生きる始原の皇種・白銀比の知恵を借りようと出向いた。


 白銀比の知恵により解決の糸口を見つけた存在Xは、自らの死する運命を変える為に、ユニクルフィン・ユルドルードと旅を行い……その旅は失敗に終わってしまった。

 万策尽きた存在Xは、せめてリリンサとセフィナだけは幸せに暮らせるようにと自らの存在を喪失させ、この世界から消えて無くなる事を提案する。


 だけど、リリンサは諦めなかった。


 何らかの方法で存在Xを救う手段を知ったリリンサは、記憶が消えて無くなる前に、自ら修羅の道を選び運命を決めた。

 どんな代償を払ってでも、存在Xを取り戻すと心に誓って。



「ここで鍵になるのは、

 ①旅の目的は、人類最高の戦力があっても成し遂げられない事。

 ②白銀比は全ての事態を把握しているという事。

 ③日記の記載が消えているという事は、存在Xは魔法によって世界から消滅してしまっている。だが、完全な死ではなく、何らかの方法で取り戻す事が可能である。この三つね」

「あぁ、そして、①に関して俺に心当たりがある」


「それは何かしら?ユニクルフィンくん」

「蟲だ。過去の俺と親父は強大な敵、『蟲量大数むりょうたいすう・ヴィクティム』を倒す為に世界を旅していた。そんな気がするんだ」


「新たな敵の出現ね。そしてそれは状況と矛盾しない。無量大数は始原の皇種であるとされ、白銀比様よりも格上とされている。敗北したとしても不思議じゃないわ」



 あの子と蟲にどういう繋がりがあるのか不明だが、俺と親父が蟲を狙っていたのは間違いない事実だ。

 だから、俺が真に倒すべきは、白い敵ではないのかもしれない。



「次に見るべきは、白銀比様は全ての自体を把握しているという事。そして、多くの登場人物が同じ知識を共有している可能性が高いという事よ」

「俺の親父やリリンのお母さんも、真実を把握しているだろうな。だが、居場所が分かるのは白銀比だけだ」


「そして、それすらも偶然とは思えないわ。白銀比様はリリンが真実に辿り着いた時に『語り部』になる為に、姿を露わしているのかもしれない」

「そういうことか。リリンには白銀比の加護が付いている。だが、同じように白銀比と会っているはずのワルトには付いていなかった。考えればそれは不自然だ」


「えぇ、加護というものにどういう効果があるのか不明だけど……もしかしたら、リリンを監視しながら真実を知るのを待っていたのかもしれないわ」



 なるほど、それは納得がいく仮説だ。

 俺の加護で一番大きいのは親父の加護であり、白銀比の加護は付いていないはずだ。

 リリンだけ特別に気に入られているのではなく、加護を付けざるを得ない理由が有ったと考えるべきだろう。



「そして、存在Xは世界から消失しているが、完全な死ではない。取り戻す方法があるという事は――」

「あぁ、白い敵の目的も、段々と見えてくるな」


「そうね、白い敵の目的は『ユニクルフィンと共にもう一度世界を旅して、今度こそ、旅の目的を果たす事』」

「それで間違いないだろうな。白い敵はセフィナを教育し、あの子の代わりを作ろうとした。そして俺を育てれば……擬似的に昔の状態を再現できる」


「ただ、そこにどんな感情が込められているかは分らないわ。存在Xの仇打ちをする為なのか……それとも、リリンと同じく、存在Xを取り戻したいのか」

「そう考えると、まんざら敵って訳でも無いのか。やり方は共感できねぇけどな」



 白い敵は、敵ではないのかもしれない。

 もし本当に、白い敵が俺やあの子と一緒に旅をした仲間なら、俺達は対立なんてしなくていいはずだ。


 ……それにしても、白い敵であるヤジリさんは、そんな素振りを微塵も見せていなかった。

 俺はもとい、リリンに対してもだ。

 少なからずリリンも関係している事だし、それ知っているんだから、多少は表情に出してもいいはずだが……。



「ユニクルフィンくん、リリン。この物語は簡単な物じゃないわ。なにせ、魔法で存在が消えた人物を取り戻そうとする、神の所業なんだから」

「だけど……不可能ではない。そうだよね?ユニク」

「そうだ。それは砂粒を繋ぎ合せて絵を作るような物かもしれない。だが絶対に不可能ではない。必ず何処かに、みんなが幸せになれるエンディングがある」



 分からなかった謎の殆どが解け、俺達が目指すべきゴールが明らかになった。


 そこに辿り着くには、様々な障害を乗り越える必要があるだろう。

 英雄見習いだった過去の俺すらも超えて、真の英雄になる必要だってあるのかもしれない。


 ……なら、なってやるよ。英雄って奴にな。

 お前だって倒してやる。なぁ、クソタヌキッ!



「ユニク、カミナ。これで私が目指すべきものが見えた。ありがとう」

「まだ礼を言うのは早いぜ。これからどう立ち回るかが重要なんだからな」

「そうよ。できるなら白い敵に直接話を聞ければいいんだけど、そうも行きそうもないわ。だから……」


「分かってる。だからまずは……白銀比様に会いに行く!」

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