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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第8章「愛情の極色万変」

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第25話「懐かしき思い出・消えてしまった存在」

 消えてしまった文字。

 消えてしまった挿絵。


 そこに何が書かれていたのかは分からないが、リリンは……いや、昔の記憶の無い俺でさえも、その人は大切な存在だったと思った。

 恋焦がれた程に大切な、あの子は――。



「ユニク。私には、ここに誰の名前が書かれていたのか思い出せない。だけど……ここに書かれていたのは、絶対に大切な存在だった」

「あぁ、俺にも記憶は無いけど、心のどこかで懐かしさを感じているんだ。俺達二人にとって、大切な存在だったんだろう」

「あら?二人揃って感傷に浸ってるわねー。ということで、空気を読まない私が、サクサク話を進めちゃうわね」



 俺は、思い出したくても思い出せないもどかしさに身を焦がしている。

 それはたぶんリリンも同じで、平均的な思案顔で、むぅむぅと鳴いている。


 そんな中、まったく平常通りな魔王が一人。

 心無き魔人な事で有名な女医魔王さんは、当たり前のように机を召喚し、その上に日記帳を広げてゆく。

 さりげなくホワイトボードも横に添えれば、即席の講義教室の出来上がりだ。



「この日記に出てきた『存在X』について、「二人とも確証は無いが、大切な存在だったのではないか?」と思っている。そうよね?」

「そうだ。まぁ、カミナさんが言ってるように何の確証もないんだけどな」

「うん。これは理屈ではない。けど、絶対だと思う!」


「人の記憶は科学的に解明できていないの未知の分野よ。直感だからと馬鹿に出来ないわ。さてと……この日記帳を使って考察する前に、するべき事を済ましちゃいましょう」

「するべき事?」

「……栄養補給とか?」


「クッキーは食べないから仕舞っておきなさい。私がするべきと言っているのは、この日記帳の真偽判定よ」



 そう言いながら、カミナさんは日記帳を手に取って見せた。


 なるほど、言いたい事は分かる。

 この部屋は敵が用意した場所であり、敵の管理下にある。

 だからこそ、日記帳を書き変えたり、偽モノとすり替えたりする時間は無数にあった事になる。


 端的に言えば、カミナさんはこの日記帳自体が敵の創作物である可能性を考慮しているんだろう。

 もし仮に、この日記帳自体が偽モノだった場合、致命的な問題に発展するしな。


 だが、それを確かめる術なんてあるのか?



「偽モノかどうかを判別するって事だよな?そんなこと出来るのか?」

「出来るわ。というか、私の中では既に本物だと確証は取れているから、あなた達に納得して貰うだけよ」


「……?ついさっき日記帳を見たばかりなのに確証を得ている?どういうことだ?」

「こういう事よ。リリン、グラムの説明書を出して貰えるかしら?」



 ……あ。


 カミナさんがその言葉を発した瞬間、電撃的ひらめきが俺の中を走った。

 グラムの説明書には白紙のページがあり、そこには……俺の過去を知る人物が描いたとされる落書きがあるのだ。


 そう言えばリリンは確か、その落書きを見ながら「これを書いた人物は重要参考人!!だから発見次第、ブチ転がす!」と息を巻いていた気がする。

 なるほど、なるほど……。

 ここは是非、グラムの説明書に描かれていた絵と日記帳の絵を見比べてみたいものだな。


 俺とカミナさんは悪い顔をしているが、リリンはタヌキに睨まれたミニドラみたいな顔をしている。

 じぃーっという重い視線を受けたリリンは、物々しく口を開いた。



「…………やだ。召喚したくない」

「この確認は必要な事だし、私には全部分かってるから無駄な抵抗よ。諦めて召喚しなさい!」


「……むぅ。《取りこぼした命、誓いあった未来。それらを失う事は必然だったのだろうか。否、全ては虚偽に満ちている。あぁ、この様な筋書きがこの子にもあったなら。きっと、残った願いだけは叶うものだと、信じて。 サモンウエポン=真実開闢・グラムの説明書》」



 リリンは必至の抵抗を試みたが、心無き女医魔王さんの叱責を受けて撃沈。

 しぶしぶグラムの説明書を召喚し、白紙のページを開い……。

 あれ!?白紙じゃなくなってるんだけどッ!?



「……。あー、これはちょっと大惨事だな、リリン」

「……。説明書と絵のコラボレーション。とても芸術的だと思う!」



 俺の呟きに反応したリリンは、どうにか追及を逃れようと絵を褒めまくっている。

 だが、そんな誤魔化しは通用しねぇぞ!!


 俺達が開いたページは、前に確認したときは白紙であり、落書きが描かれているだけだった。

 だが、今はもう説明書としての帰納を果たすべく、詳細な解説が書かれている。


 そして、新しく読めるようになったページの上には、特大の俺の顔が描かれている。

 ……クレヨンらしきもので。

 これは……勢いで使えるようになったグラムの覚醒体の解説が書いてあるっぽいな。

 うんうん、なるほど……。大事な説明がほとんど読めねぇ!!



「あちゃー、これは酷いわねー。前見た時はこんなじゃ無かったでしょ?」

「う。ユニクがグラムの力を引き出せるようになったから、自動的に書き込まれたみたい……」

「なになに?一番上に『グラム第四機能・覚醒体―神への反逆星命ハイオーダー・コラプス―』って書いてあるな?リリン、この先読めるか?』


「………………。読める。『グラムの基場合、新た領だう。こ能力は絶壊であり、グラムは、まないた』……。読めたと思う!」

「見える部分だけ読んでも、意味が分からねえだろッ!?」



 えぇい!往生際が悪いんだよ!!

 つーか、最終的に伝説の剣が『まな板』になるって、どういうことだよッ!?


 この期に及んでまだ誤魔化そうとするリリンに対し、俺は毅然とした態度で引導を渡す。

 最早、見比べるまでもない。

 グラムの説明書に書かれている落書きは、幼いリリンが描いたものだ。



「グラムの説明書のこの落書きは、リリンの日記帳の絵と同じだな。間違いなく」

「……むぅ。……むぅ」


「リリン、なにか言い訳はあるか?」

「面目ない……とは思っている」


「おう、謝罪は後でしっかり聞くぜ!ともかく、これでリリンの日記帳が本物だって確定した訳だ」

「……うん。この本はグラムと一緒に手に入れたもの。だから、敵が仕込みをする時間は無い」



 昔の自分がやらかした失態を見つけてしまったリリンは、平均的な表情でショックを受けている様子。

 憧れの英雄の持ち物に落書きをしたという事実は、リリン的には受け入れがたかったようだ。


 まぁ、読めない部分があっても、頑張ればなんとか解読できるだろ。

 ワルトとか、こういうパズルは得意そうだしな!


 今は説明書に書かれている内容よりも、日記の考察を進める方が先だ。

 日記が本物と分かった以上、本格的に考察をしていきたい。



「カミナさん、この空白に書かれていた人物を見つける事が出来れば、全ての謎が解ける。そんな気がするんだ」

「そうね、重要参考人なのは間違いないでしょうね。でも、この存在Xに該当しそうな人物の名前は日記帳のどのページにも載っていないのよ」


「……そうだよな。消し忘れなんていう単純なミスで判明したら苦労はしないか」

「だけど、おおよその考察は出来ているわ。その人物がどういう行動を起こしたかもね」


「なんだって?」

「私は医師で考察が得意なの。これくらい簡単にできるわよ」



 え?日記帳をペラペラめくっていただけなのに、内容を把握したばかりか、考察まで終えているだと!?

 女医魔王さん、ちょっと頭が良すぎだろ!?!?


 この頭脳は、現在俺達の味方であり、大変にありがたい。

 ……が、過去には、侵略活動をする為に使われ、多くの領主や国王をどん底に叩き落としたはずだ。

 タダでさえ策謀が得意な参謀がいるのに、国を統べる女王と頭が良すぎる女医さんがサポートに付いているとか、体制が盤石すぎる。

 そりゃあ、5人と1匹で国を落とせるわけだな。



「じゃ、時間も無いしサクサク行くわよ。この存在Xが記載されていたと思われる場所は、最初の内はランダムに出現しているわ」

「規則性が無いのか?」


「無いわね。何かに関連づけて登場している訳でもない。つまり存在Xは書かなくてもいいくらいに一緒に居るのが当たり前であり、『リリンの身近にいた存在』という事になるわ」



 リリンの身近にいた存在だと……?

 リリンの家族構成は、両親とリリンとセフィナの4人暮らしだったと聞いている。

 祖母や祖父はおらず、当然、同居人もいないはずだが……?



「身近にいた存在……。幼馴染とかか?」

「その可能性もあるわね。家が隣で家族ぐるみの付き合いがあったとかなら、可能性はあると思うわ」

「……?家の隣に住んでた人?あんまり覚えていないけど、おじいちゃんとかだった気がする……?」


「いや、この存在Xはリリンと歳が近いはずよ。お年玉を貰ったって記述があるし、なにより、リリンやセフィナと遊んでいたんだしね」

「消えてしまった幼馴染……か?俺達はその子に関する記憶を失っているっぽいし、確かめようがないな」



『存在Xはリリンの身近にいた人物であり、歳が近い』か。

 ふと、なんとなく気になって日記帳を見てみたら、直ぐにそれらしき空白を見つけた。



『3月3日


 私と    とセフィナは今日はお祭り。きれいな服をきてお出かけした!和菓子が美味しかった!』



 ん?三人でお祭りに行った?

 3月3日って、女の子の成長を祝うお祭りがある日だったはず?

 確かプールにも一緒に入っていたというし、もしかして、存在Xは女の子なのか?



「リリン、カミナさん、これを見てくれ。この子は女の子かもしれない」

「ん。確かに3月3日は綺麗な服を着て、和菓子を貰いに行く日。そして女の子限定!」

「ちょっと天然ボケが入ってるけど、意味は一緒だからいいわ。ユニクルフィン君の言うとおり、存在Xは女の子の可能性が極めて高いはずよ」



 よし!俺も考察に貢献出来たぜ!!

 この調子でリリンの身近な人物の謎を解いて……そう言えば、この人物って俺の関係者という線は無いんだろうか?

 俺と出会う前の日記は殆ど食レポであり、セフィナの名前すらほとんど出てこない。

 うーん、これはちょっと分からないな。

 日記を全て把握しているカミナさんに聞いてしまった方が早そうだ。



「カミナさん、この存在Xってさ、俺の関係者って事は無いかな?例えば俺の兄弟とか」

「それは無いわね。この存在Xは必ずしも『ユニクルフィン』とセットで出てくる訳じゃないし、『ユニクルフィン』が出てこなくても登場する。関係性は無いわ」


「そうなのか。だとすると、やっぱりリリンの関係者か……」



 俺のおぼろげな記憶の中には、天命根樹への対応を間違えて失敗する映像がある。

 それは、絶望と悔恨の記憶。

 俺と青い髪の女の子は誰かに守られ、そして、天命根樹の攻撃を受けてしまったその子は――だんだんと冷たくなっていった。


 もし、この青い髪の女の子がリリンであるならば、その子こそ、存在Xなのかもしれない。

 この事をカミナさんに伝えたら少しだけ目を見開いて、「どうやら仮説があっていたみたいね」と呟いた。



「仮説があっていた?どういう事だ?」

「この存在Xの出現パターンはランダムだと言ったわね。でも、その出現頻度には偏りがある。ある時を境にして急激に少なくなり、ランダム性は失われるの」


「なんだって?」

「このページを見てくれるかしら。今から9年前の8月8日。この日から数ページに渡って、ほぼ白紙の状態が続いているの」



 促されて確認したページには日記文はなく、挿絵だけが描かれている。

 それは、真っ黒い空から逆さまに生えた、不気味な――木。


 その絵を見た俺は、異常なほどの強い嫌悪を抱いた。



「これは何だ?」

「植物の皇種・天命根樹……なのでしょうね。出現記録に記されている日付と一致するわ」



 ついに登場してしまった天命根樹。

 俺とリリンの仮説が正しいのならば、この日記には、天命根樹が起こした大災害が描かれているはずだった。

 だが、そこには木が描かれているだけで、他には何も書かれていない。


 日記帳なのに、たったの1文字も書かれていない不自然な白紙。

 これは一体、何を意味するんだ?



「描いてある絵は天命根樹のみで、文章は無しか。これじゃ何にも分からねぇよな?」

「違うわ。そうじゃないのよ」


「なに?」

「白紙なのは、『隠すべき存在Xについて書いてあったから』よ。名前を消すだけではダメだったのね。その内容は全て、存在Xに関する事だったから」



 ……なるほど、そういう事なのか。


 今までの存在Xは、リリンやセフィナと行動を共にしていた。

 だからこそ、その名前を消してしまっても、文章自体は成立する。


 だが、存在Xについて書かれたページでは、そうはいかない。

 名前を消してしまうと文章自体が破綻してしまう。



「ユニクルフィンくんの記憶と照らし合わせた結果、『存在Xは、ユニクルフィンとリリンサと一緒に天命根樹の襲撃を受け、そして、重傷を負ってしまった』と推察できるわ。事実関係から察するに、リリンやユニクルフィンくんのお姉ちゃんのような存在だったんじゃないかしら?」

「お姉ちゃん……?」


「リリン?何か思い出したの?」

「ううん。でも、その言葉は妙に懐かしく思える。カミナの言う通りなのかもしれない」



 リリンはそれから何度も頷きながら、「お姉ちゃん……」と呟いていた。

 でも、どうもしっくりこないのか、途中からむぅ?むぅ?と唸っている。


 それにしても、お姉ちゃん的存在か。

 この冷や汗がにじみ出るような感覚は、一体、何なんだろうか?


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