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第24話「懐かしき思い出・部屋と日記」

「――なるほど、殆どの事は理解できたわ」

「流石に医者だけの事あるな。色々察してくれるから、俺も説明が楽だったし。……で、殆どって事は、分からなかった事もあったのか?」


「そうねぇ。あなたのタヌキ性癖だけは、どうしても理解できないの」

「それは理解しなくていいんだよ!誤情報だからなッ!!」



 判明した情報を整理しながら、カミナさんにこれまでの経緯を説明した。

 俺達の話を聞きながら記録を付けていたカミナさんの手元には、ここ数日で判明した事実を書き記した紙が出来上がっている。



『白い敵は、準指導聖母(マザー)悪逆アトロシス。闘技場の管理者・ヤジリ』

『黒い敵は、準指導聖母マザー悪喰プアフード

『黒い敵は、セフィナ・リンサベル』

『大聖母・ノウィンも関与している可能性がある』


『メナファスは敵と一緒に行動しているが、裏切っていない』


『ダウナフィア・リンサベルの生存が確定』

『ダウナフィアと白い敵は協力関係にある』

『アプリコット・リンサベルはホーライの弟子であり、英雄』


『日記により、ユニクルフィンとリリンサは出会っている事が確定』

『日記により、ユニクルフィンはリリンサと頻繁に会っていた』


『タヌキはリンサベル家の守護獣』



 と、書かれている。

 なるほど、これは分かりやすい。

 だが、最後の一文は受け入れたくない。



「前提条件は分かったわ。ここからは考察のお時間よ」

「よろしくカミナ」


「それじゃ行くわよ。まずはこの部屋の考察から」

「部屋の考察?」


「えぇそうよ。この部屋は誰かによって手入れがされている。簡単に言うと、誰かが侵入している形跡があるわ」

「えっ!?そうなの!?!?」



 カミナさんは、いきなりトンデモナイ事を言いだした。

 この部屋に誰かが侵入しているというのは、まぁ、別に不思議じゃない。

 この部屋は敵が用意したものだしな。


 で、この女医魔王さんは、どうしてそれが分かったんだ?

 カミナさんはここに来てから、俺たちと会話をしただけで他には何もしていない。


 もしやカミナさんには、見えない何かを感じる超能力でも備わっているのか?

 随分と非科学的だな、医者なのに。



「ん?なんで敵が侵入しているって分かるんだ?」

「そんなの、空気中の雑菌の繁殖率とか、塵や埃の堆積具合とかで分かるじゃない。明らかに空気の入れ替えなどが行われているわ」


「……で、それをどうやって判断したんだ?」

「匂いを嗅げば一発で分かるわよ。医者の事を舐め過ぎよ、ユニクルフィンくん」



 ……俺の知る医者は、匂いで空気中の雑菌の数を判断出来たりしねぇ。

 やっぱり超能力を備えてやがったか。大魔王だしな。



「それでカミナ、誰かが侵入していると、どうなるの?」

「侵入自体に意味は無いわ。でも、その人物はリリンに好意的に接しようとしているはずだわ。少なくとも、リリンを害そうとはして無いわね」


「どうしてそうなる?」

「この部屋に罠が仕掛けられて無かったからと、しっかり清掃が行き届いているからよ」


「掃除……確かに、全然ホコリとか付いていない」



 その事は俺も気になっていて、本棚を物色した時に確認してみたが、全然汚れていなかった。

 この瞬間まで使われていたかのような普通の部屋であり、清潔な状態だ。


 だとすると、ダウナフィアさんは頻繁にここに来て、掃除しているってことか?



「ここに誰かが来ている?もしかしてお母さん?」

「そうね。かすかに物を動かした形跡がある。きっとここに来て思い出に浸っているんだわ。触ってるのは日記帳や人形ばかりだし」


「ん、確かにこの本棚の中段、人形を動かした後がある……」

「そこに愛情があるのが見て取れるわ。頭を何度も撫でているしね。リリン、あなたの事を気に掛けている人物もいるってことよ」



 いつの間に調べやがった!?と思ったが、空気中の雑菌の状態を把握できるんだし、今更だな。

 カミナさんの大規模個人魔導は、一定の空間内にいる生物の状態を把握する奴だったし、何らかの方法で調べたんだろう。



「そっか。お母さん……」

「だけど、動かした人と掃除している存在は別でしょうね」


「えっ?どうしてそうなった?」

「掃除している存在は、この部屋の状態を保持しようとしている。発生したホコリやカビの除去はするけど、清掃した備品は寸分の狂いもなく元の場所へ戻しているの。それに……」


「それに……?」

「ここを見て。微かに絨毯にへこみがあるわ。つまり足跡ってことなんだけど」


「足跡?そんなものどこにも見当たらない」

「これよ」


「……これ?明らかに人間のじゃないと思う……」

「そう思うわよね、リリン。じゃあ、この四足歩行の足跡って、なんだと思う?ねぇ、ユニクルフィンくん」



 このタイミングで、俺に話を振ってくんのかよ!?

 というか四足歩行って、絶対にタヌキだろッ!!

 このパターンでタヌキじゃなかったら、逆に戦慄するぞ!!


 つーか、カミナさんも、絶対にタヌキだと確信してて俺に聞いてるよな!?

 ちくしょうめ!気の利いた上手い返しが思い浮かばねぇ!!



「……。タヌキだろ!」

「正解!流石はタヌキソムリエね!」


「誰がタヌキソムリエだッ!!」



 そんな妙な職業なんて存在しねえだろ!?

 タヌキソムリエってなんだよ!?

 アイツは食えたもんじゃ……。いや、そこそこ美味いはずだよな?ウマミタヌキだし……?



「カミナ、何でタヌキが私の部屋の掃除をするの?」

「さぁ?リリンの家ってタヌキが守護獣なんでしょ?たぶん白い敵とか関係なく、ここの部屋の管理をしているだけかもね」


「……?どういうこと」

「この部屋も墓の一部と見なされてるってことよ。この霊園もタヌキが管理してるっぽいもんね」



 ……は?

 えっ。なんだって?

 この霊園をタヌキが管理してる?

 何を馬鹿な事を……。



「すまんなカミナさん。タヌキソムリエの俺でも、何を言っているのか分からない」

「あれだけタヌキの石像があって、この霊園とタヌキに関係性が無いとでも?」


「……。でも、俺がさっきクソタヌキの話をした時に、カミナさんは驚いていたよな?」

「あれは悪ノリってやつよ」


「なんだとッッッ!!」

「というかね、あんな意味不明なオーラのタヌキに出会ったのに知らべないはず無いじゃない。タヌキ帝王ソドムもばっちりリサーチ済みなのよ。冗談だって分かりづらかったかしら?」


「分かりづれぇんだよ!ちくしょぉおおお!!」



 一流の劇団で通用するレベルだったぞ!!分かりづらいなんてもんじゃねぇんだよッッ!

 カミナさんは笑って誤魔化そうとしているが、それってつまり、俺をからかって遊んでいたってことだよなッ!?

 あぁ、なんて大悪魔ッ!!

 一見まともそうなカミナさんが、一番大悪魔してるじゃねえかッ!!



「ユニクルフィンくんは知らないだろうけど、この霊園の最奥にある霊廟には、三人の偉人が祀られているの。『カーラレス・リィンスウィル』『シアン・リィンスウィル』『ノワル・リィンスウィル』の三人ね」

「誰だよその人たち」

「私のご先祖様らしい」


「で、この内のシアン・リィンスウィルさんは、二匹のタヌキを飼っていたらしいの。伝説では、そのタヌキこそソドムとゴモラだとされているわ」

「……ド真ん中ストライクに、クソタヌキじゃねえか!」

「へーそうだったんだ」


「それも、あの意味不明なタヌキに出会ったことがきっかけで調べた事だけどね。そんな訳で、恐らくタヌキ帝王ソドムとゴモラの配下がこの霊園を管理しているのよ」

「うわぁーそうだったのかぁー。懐かれてるってレベルじゃねえな―。完全にタヌキに取り憑かれてるなー」


「ということで、『霊園はタヌキが管理している』のは確定よ」



 知りたくもなかった、知られざる真実。

 リリンサ家の墓は、タヌキが管理している。


 ……って。そうじぇねえだろ!?

 俺達が知りてえのはタヌキに関する事じゃねぇんだよ!

 今はリリンと俺の過去を探る大事な時間だろ!?

 お前は絶滅しとけ、クソタヌキィィィィィィ!!


 俺の苛立ちが最高潮に達しそうなので、強制的に話を終わらせる。

 これ以上タヌキトークをしていたら、何食わぬ顔でクソタヌキが出てきそうだしなッ!!

 というか、ホロビノ達ドラゴンがこの霊園を嫌がった理由、今なら分かる気がするぜ!!



「そろそろ本題に入ろうぜ、カミナさん」

「そうね。じゃあ、リリンの日記帳を読ませて貰うわ」



 そう言ってカミナさんは、日記帳をぺらぺらとめくっていった。

 おれには、ただページを指でめくっているだけにしか見えない。

 1ページあたり1秒も掛って無いしな。


 いくらなんでも、それじゃ読めねえだろッ!?

 ……とツッコミを入れようとかと思ったが、リリンがそれを阻止してきた。


 話を聞くところによると、あれでしっかり日記を読んでいる……らしい?



「いや、読んでいるように見えないんだけど?」

「カミナは速読と瞬間記憶を駆使し、本一冊を10分も掛らずに読める。そういう神の因子(アーティファクト)を持っているって話したはず?」


「……。聞いたような、聞いていないような……」

「ともかく、カミナに任せておけば大丈夫。普通に読んだ私達では見つけられなかった手掛かりも、カミナなら見つけられる!」



 ……。なんかもう凄すぎるな、女医系大悪魔さん。

 純粋な頭の良さでは、たぶんワルトよりも上だろうし。

 知識欲を司る魔王なのは間違いなさそうだ。



「読み終えたわ」

「どうだった?」


「この日記帳に記されていること……それはね」

「それは……?」


「8割が食べ物に関する事だったわ」

「えっ、8割も!?」



 やっぱりな!そうじゃねえかと思っていたぞ!!

 というか、リリンまで驚くのはどうなんだよ!?

 さっきは普通の日記帳になったって……あぁ、リリンの日常は食べ物で出来ているんだったな。



「で、その他の2割には何が書いてあったんだ?」

「カミナ、大事な事は書いてあったの?」

「そうね……。まずはリリンとユニクルフィンくんが出会った後の日記を見て貰えるかしら?」



 そういってカミナさんは、俺達が読み進めていた辺りのページを開いて見せた。

 そのページは俺とアプリコットさんが、リリンとセフィナに豆をぶつけられる悲しい内容の日だ。



『2月10日


 ユニクがケーキと豆を持って遊びに来た。豆まきをしていたので、ちょうどよい。


 ケーキを食べた後、セフィナたちと三人で豆をぶつける。鬼役はパパとユニク。でも、おこったママがさいきょーの鬼。』



「これに違和感が無いかしら?」

「特に感じない。ユニクとパパとお母さんが鬼で、私とセフィナと……あれ?」


「そう、おかしいわよね?リリン」

「うん、おかしい。私とセフィナと三人で豆をぶつけたって、もう一人は誰?」



 えっ?どういうことだ?

 この日記帳はリリンのプライベートを記した日記帳だ。

 リリンの家族は、父母、リリン、セフィナで構成されているはず。


 だから、俺の他に誰かが加わっているのなら、名前が出ていないのはおかしいんだが……?


 カミナさんに促された俺とリリンは、すぐに他のページも確認した。

 そして、そこには確かに、見えない第三者が存在していたのだ。



「なんだこれ……?」

「この日などは特に分かりやすいわね。『 セフィナたちと三人でおままごとをする。あ、ユニクはペット役』『セフィナたちと三人でプールに入る。あ、ユニクは見てただけ』。明らかに、この三人の中にユニクルフィンくんは含まれていないわ」


「知らない第三者……?」

「結局、日記帳を最後まで読んだけど、これが誰なのか書いてなかったわ。だけど、それに付随してちょっと気になる所が何箇所かあったの」


「気になる所?」

「ここよ。『そして、私と   セフィナにお年玉をくれた!』。こんな風に、リリンとセフィナの間に空白がある場所がいくつか出てくるの」


「空白?それって、そこに書いてあった文字が消えてるってこと……なのか?」



 カミナさんが指差した部分には、確かに空白があった。

 最初は、文字の大きさが不均一な子供特有のものであり、特に意味があるとは思わなかった。


 だが……。

 カミナさんが、空白があると言って指定したぺージは数十箇所。

 かなりの頻度で登場しており、『またまた偶然』では絶対に片付けられない。


 だとすると、この空白には何らかの意味がある。

 それをリリンが覚えていてくれたら良いんだが……。



「どうだ?リリン。心当たりはあるか?」

「……。なにか、とても大切なものがここには書かれていたんだと、そう思う」


「大切なもの?」

「それが、どんな存在だったのかは分からない。でも……この悲しみは何だろう。きっとそこに書かれていた人物は私にとって、かけがえのない存在なのだと思う」



 意図的に消された、人物の名前。

 いや、消されているのは文字だけじゃないのかもしれない。


 始めて俺とリリンが出会った日の挿絵。

 そこには俺とリリンとセフィナが描かれていた。

 そして、俺とリリンの間には不自然な空間が空いているのだ。


 そこは、もう一人描けば、丁度埋まる。

 そしてその空間に向かって、左側にいる俺も、右側にいるリリンも手を差し出していた。



 それはまるで、みんなで仲良く手を繋いでいたみたいに。


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