第19話「懐かしき思い出・開かれた墓」
みにどらど~ら~。
子竜を連れて~
みにどらど~ら~。
馬車竜が飛ぶ~~。
可愛い子竜~売られてゆくよ~
知らぬが幸せ~空をゆく~~。
「なぁ、何でホロビノはミニドラを連れて行ったんだろうな?」
「カミナへのプレゼントだと思う。ナイトメアとディザスターを飼い始めたって電話で言ってたし」
「やっぱりか」
「うん。あ、カミナにさっきのミニドラの名前は『ハートレス』と『ワースレス』だと言わないと!」
おい!いつの間に名前なんて付けやがったッ!?
というか『ハートレス』と『ワースレス』って、殺伐とした名前を付けなくちゃいけない決まりでもあるのか!?
5匹並べると『滅びが、災禍と悪夢の果てに、手段無き絶命を呼ぶ』って殺意が高すぎるだろ!!
これは、放っておくと大変な事になる気がする。
具体的に言うと、ミニドラ共が成長し眷皇種になって、人類を窮地に追い込む未来が来る。……そんな気がしまくっている。
やべぇ、どうにかして修正しないと!
「なぁ、リリン。いつ名前なんて付けたんだ?」
「一緒に空を飛んでる時。そして、ミニドラに違う名前を付けてはダメだと、カミナに釘を刺しておくべきだと思う!」
「……。ちなみにカミナさんは、ディザスターとナイトメアにどんな名前を付けたんだ?」
「『モルモ』と『テスタ』」
「それ、ダメな奴ゥゥううううう」
モルモとテスタって、どう考えても『モルモット』と『テスター』だよなッッ!?
こっちはこっちで大問題すぎる!
逆恨みされて、黒トカゲにでもチクられたら始末に負えない!!
リリンが名付けた方は将来的に問題になりそうだが、そうと決まった訳じゃない。
一方、カミナさんの方はドラゴンと人間の国際問題に発展する事、間違い無し。
……。
…………。
………………。
「そうだな!ちゃんとハートレスとワースレスだって言わないとな!」
「うん。可愛さを残しつつカッコイイ、良い名前だと思う!」
……可愛くは無いだろ。
だが、そこそこ威厳がある名前なのは確かだ。
願わくば、平和主義な駄犬竜に育ちますように。
「さて、カミナさんを待ってると時間が掛っちゃうし、できる所まで進めておくか」
「そうしよう。お母さんとセフィナが眠っているはずだったお墓は、墓地園の中心付近にある。行くだけでもそこそこ歩くし」
「中央に行くだけでそこそこ歩くって、そんなに広いのは墓地とはいわねぇ。墳墓だろ」
「あ、それ、ワルトナも言ってた気がする!」
あぁ、なんということだ。
墓地に詳しいはずの聖女様も、しっかりツッコミを入れてるじゃねぇか。
俺は改めて、目の前に広がる光景を眺めた。
どう見ても墓地というより、遺跡や墳墓と言った方が適しているだろ。
綺麗な玉砂利が波模様を描いているとか、明らかに人為的な管理がされている。
湧きだす雰囲気は霊妙で、触れてはいけない禁忌的なものを感じ、つい足を止めてしまいたくなる。
だが、こんな所で立ち止っていても仕方が無い。
覚悟を決めて進むしかないのだ!
「……。行くぞッ!!」
「ちょっと待って。お地蔵様にご挨拶をするのが先」
「……そうだな。礼節を守るのは大事な事だよな」
「うん。ちゃんとお団子も用意した!!」
俺はリリンの先導に従い、近くでお立ちになっているお地蔵様の前にやってきた。
そして、三人のお地蔵様の前に団子をお供えし、手を合わせる。
……これから俺達は、お墓荒らしを致します。
どうか呪わないでください。お願いします。
「これで良しだね」
「あぁ、いいのかどうか非常に悩む所だが、一応、筋は通……ん?足元にあるのって何だろうな?」
お地蔵様達は、それぞれが杖を構え堂々と立っている。が、その足元に纏わりつくように、ボテっとした何かの像がお伴していた。
んー?狛犬的な何かだろうか?
良く見れば毛並みが彫られ、どう見ても動物像なのは間違いな――あ。この腹の立つ顔は犬じゃねぇ。タヌキだ。
……なんでだよッッッ!?!?
「リリン!お地蔵様の足元にタヌキがいるんだけどッ!!」
「それはそう。タヌキはリンサベル家を護る守護獣なんだって。家紋とかにも居たりする」
「なんてこった!呪われてるじゃねえか!!」
「ん。よく考えたらゴモラがその守護獣なのかも?数千年生きているなら、そう考えるのが自然。今もセフィナと一緒にいるし」
「お前はペットのはずだろ、ニセタヌキィィィ!」
これはヤバい!この展開は、マジで墓守タヌキが出てくるパターンだッ!!
あまりの緊急事態に頭を抱えて悶絶する、俺。
恋人と一緒に墓参りに来たらタヌキ汚染が著しいとか、ちょっと童貞な俺には対処しきれない!
助けてくれ、親父!!
そんな俺の思いも知らず、リリンは躊躇なく門の中へと視線を向けて、さっさと奥に入って行く。
とっても嬉しい事に、俺の手をしっかりと握って。
それから先は酷いもんだった。
目を凝らして見れば、至る所に、タヌキ、タヌキ、タヌキ。
入口の荘厳な門の上に、タヌキ。
通り過ぎた後、左右に控えていたのも、タヌキ。
並び立つ墓に掘られた家紋も、タヌキ。
結局、目的の墓に着くまでに、数十体のタヌキ像が俺を出迎えてくれた。
……なんだこの墓。地獄の門が開きまくってやがる。
「うぐぅ。リンサベル家とタヌキに密接な関係があったなんて知りたくなかったぜ……」
「なんか言い伝えでは、リンサベル家の創設者はタヌキを飼っていたらしい。2匹も!」
「……ニセタヌキとクソタヌキじゃない事を祈るぜ」
よりにも寄って2匹とか、嫌な予感しかしない。
俺は全ての彫像にバナナチップスをお供えしつつ、心の底から手を合わせた。
……絶滅しろッ!!クソタヌキィィィ!!!
**********
「これがダウナフィアさんとセフィナがいるはずだった墓か?」
「そう。それが間違いだと分かった今、中にいるのはお父さんだけ。あ、知らない人もいる!」
「知らない他人と同居か。英雄って死んだ後も心が休まらないんだな」
「むぅ。流石にそれはお父さんが可哀そう。直ぐに取り出すべきだと思う!」
「だな。……っと、その前にひとつ良いか?」
「ん、何か困った事でもある?」
「いや、困ると言うかなんというか……。この墓、でかくない?」
しっかりと頭を下げて一礼し、脇にあったタヌキ彫像にバナナチップスを供えつつ、墓石の前に足を踏み入れた俺達の目の前には、リリンが示した墓がある。
そしてそれは、異様に大きいものだった。
隣の墓石と比べても2倍以上の大きさがあり、どうしても何か意味があるように思えてしまう。
これは……。本当の意味で、お宝が眠っているのかもしれない。
色んな人に申し訳ないが、ちょっとワクワクしてきたな!
「うん、今になって見てみると、明らかに異常だと思う。何かあるかも?」
「だよな。墓石もそうだが、前にある拝石……石で出来た蓋も、不自然なくらいに大きいしな」
「これは期待できる。早速開けてみよう。《雷光――もふぅ!》」
「おい待てリリン!!その開け方は、あらゆる全てが間違ってるぞ!!」
この大魔王さんは、何を仕出かそうとしてるんだろうか。
そんなんだから、脳味噌クッキーってワルトに言われちゃうんだろ!
「リリン、面倒だからって壊したらダメだろ。お父さんが泣くぞ」
「……確かにそうだね。ごめんなさい、お父さん。あ、私はこの人と結婚する!」
リリン。そんな満足そうな表情で報告をするんじゃない。
このタイミングだと、追い打ちにしかならないから。
俺がお義父さんに呪われるから。
「ともかく、しっかりと挨拶をしてから拝石を開けるぞ」
「そうだね。えっと……」
それから、俺とリリンは墓石を磨いた後でしっかりと手合わせて、死者に挨拶を行った。
今更だが、常識的に考えるのならば、家族であるリリンがお墓を開けるのは何も問題ない事だ。
それでも、先祖に声を掛けてから開けるのが礼儀ってもんだろう。
「これでよし。安心して雷光槍を撃ち込める!」
「撃ち込んだらダメなんだよ!!」
「でも、この石はとても厚くて重かったイメージがある。私達だけでは持ち上げられ……あ、良い事を思いついた」
「……。俺も心当たりがあるな。とても複雑な心境の心当たりが」
「ユニク、グラムを突き刺して重力制御をすれば、簡単に持ち上がると思う!」
「そうだよな!!それが一番手っ取り早いよなッ!?」
親父。すまん。
伝説の武器であるグラムを、墓荒らしに使う事になっちまった。
ものすごく複雑な心境で、歴代の英雄に謝罪しながら、俺はグラムを拝石へと突き立てた。
その手ごたえは堅く、確かな厚みを俺に感じさせる。
だが、どれだけ重かろうと、結局は石だ。
対魔法が掛けられている訳でもな……なんか妙にしっかりした手ごたえを感じるが、無視。
無理やり重量を減少させ、一気に持ち上げた。
「おらっ!……って、なんだこれ?」
「これは……、階段……だよね……?」
拝み石を持ち上げた先にあるはずの物は、遺品を纏めて保存してある魔道具と、遺骨が入った骨壷だ。
だが出現した物は、地下深くに続く階段。
予想外過ぎる結果に思考が固まり掛けるも、とりあえず石を下ろしてから状況確認を行う。
……うん。じっくり見ても、そこにあるのは階段だけだ。
遺骨らしきものも、あるはずの遺品も、何一つ存在しない。
「どういうことだ?リリン、この墓で間違いないんだよな?」
「間違いない。見覚えがあるし、第一、みんなの名前が書いて……」
リリンはそう言いながら墓石の裏を確認し、絶句。
何事かと思い俺も確信してみると、そこに書かれていたのは、『アプリコット』という文字だけ。
『ダウナフィア』や『セフィナ』という文字は、どこにも見当たらない。
「おかしい。さっきは書いてあったのに……」
「拝石を退かしたら消えた?何かの魔法が掛ってたってことか?」
「そうだとしか思えない。これはいよいよ面白くなってきた。この奥に何があるのか楽しみだと思う!」
拝み石を退かしたら消えたと言う事は、お墓を開けられる事を前提にした魔法が掛けられていたという事だ。
重すぎる拝み石、妙な手ごたえ、消えた文字、掛けられていた魔法。
考えれば考える程、リリンが偶然に階段へ辿りついてしまう可能性が、限りなくゼロとなってゆく。
しっかりと墓を開けるという意思をリリンが持ち、なおかつ、グラムを持つ俺と一緒じゃないと開けられない。
そんな風に仕組まれているような気がするのだ。
ならば。
……この先にあるのは、お宝か、それとも罠か。
だが、どんなものが待っていようとも、進むしかない。
「リリン、しっかりと防御を固めて慎重に行こう」
「当然そうする。もしかしたら伝説クラスの危険生物が出てくるかもしれないし」
……それって、ソドム?
それとも、ゴモラ?
「準備できた。ユニク、行こう」
「分かった。だが念には念を入れておくぞ。《――理さえ滅する神壊の刃よ。真価を示せ。神壊戦刃・グラム=神への反逆星命!》
しっかりとグラムを覚醒させつつ、俺達は階段を下りて行く。
不思議な事に、内部はまったく暗く無い。
どうやら壁は半透明なクリスタルで出来ており、薄らと光っているらしい。
たぶん地上に露出している部分があって、そこから光が届いているんだろう。
数十段の階段を下りきった俺はリリンと並んで立ち止った。
俺達が見ている先、そこには一枚の扉がある。
一般家庭にある様な、何の変哲もないただの扉。
逆に不気味な雰囲気を醸し出しているが、ここにはそれしか無いのだから、この扉を調べるしかない。
「普通の扉だな、リリン」
「……。」
「リリン?」
「え?あ、うん。そうだね」
「じゃあ俺が扉を開けるからリリンは後ろに隠れつつ、何かあったら対応してくれ」
「……分かった。しっかり杖を構えておく」
「よし。開けるぞ……。そい!」
開かれた墓の蓋、その下にあった階段を降りて行き見つけた、一枚の扉。
幸いにして鍵は掛っておらず、簡単にドアノブは回ってくれた。
きぃ……という、小さく軋んだ音と共にドアが開く。
その動きに呼応するように内部に光が灯り、直ぐに視界も開けた。
そして、そこにあったのは、日記なんてものじゃない。
「……なんで……。なんで昔の私の部屋が、ここにあるの……!?」
そこには、燃えてなくなったはずのリリンの部屋が存在していた。




