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第18話「懐かしき思い出・霊妙なる墓地」

「結局、ワルトナには連絡がつかないんだよな?リリン」

「うん。何度か掛けたけど、どれもメッセージが流れるだけだった」


「流石にちょっと心配になるな」

「たぶん無事だと思う。時々メッセージの内容が変わるから」


「メッセージが変わる?」

「うん。どうやら本当に余暇を楽しんでいるっぽい?かき氷から、そば、揚げパンと来て、夜はビーフチューだって」



 ……。おう、それは満喫してるだろうな。


 というか、リリンと同じく食ってばかりじゃねえか。

 なんかワルトのイメージと違うが……いや、よくよく考えてみれば、ワルトはリリンの初代パートナー。

 リリンと一緒に旅をするようになって2カ月程度の俺ですら、食事の量が倍近くになってるし、ワルトまでもが食べキャラでも問題ない……のか?


 新たに浮かび上がった衝撃の事実。

 食べキャラは感染拡大する。リリンパンデミックだッ!!




「なるほど。だから俺達の朝食は揚げパンとビーフシチューだったのか」

「どうしても食べたかった。こういう品数の少ない軽めな朝食も、たまにはいいと思う!」



 どこが軽いんだよ!

 揚げパンとビーフシチューだぞ?

 黒糖がたっぷり塗られ、きな粉まで振りかけてある揚げパンと、ゴロゴロお肉の寸胴鍋ビーフシチューだぞッ!!


 リリンの食に対する情熱に恐れを抱きつつ、俺達は街の外へとやってきた。

 今日の予定は墓荒らし。

 どうやらリンサベル家の墓は街の中には無く、森に近い郊外にあるらしい。


 歩いて行くと少し時間が掛るとのことで、本日も馬車ドラゴンのホロビノに乗っての移動だ。

 笛も既に吹いてあるし、その内やってくるはず。

 空いた時間で俺達も、情報の整理でもしておくか。



「エルドさんと会って判明した事は3つ。『ダウナフィアさんの生存も確定』と『ダウナフィアさんは敵に協力した』という事。そして……」

「『ノウィンは敵かもしれない』だね」


「そうだ。元々俺達の作戦は、敵の正体を突きとめた時点で大聖母ノウィンに連絡し、白い敵を一網打尽にして貰う手筈だった。だが……」

「それは使えなくなった。ワルトナと連絡が取れない以上、こっちからはノウィンと接触しない方が良いと思う。それに、ワルトナはノウィンが敵の可能性に、たぶん気が付いている」


「そうなのか?」

「私達が辿り着いた情報なんて、ワルトナなら余裕で手に入れていると思う。それに、余暇……つまりノウィンからの仕事を休んでいるのは、そういう事だと思う」


「なるほど。休むふりをして逃げている訳か。だったら俺達が何度も連絡するのは逆に迷惑かもな」

「うん。何か理由があって電話に出ないのかもしれないし、メッセージも残している。ワルトナから連絡が来るのを待った方がいい」



 ワルトと連絡が取れない以上、俺達から大聖母ノウィンに近づくのは止めておこうという話になった。

 もともとリリンはエデュミオに来た後、大聖母ノウィンの所に顔を出すつもりでいたらしい。

 今のリリンの保護者となっているし、何より、友人だというダウナフィアさんの生存の可能性を教えてあげたかったんだとか。


 だが、現状、大聖母ノウィンは限りなく黒に近いグレー。

 白い敵を操る真の黒幕の可能性もあるし、白い敵の襲撃を事前に知り、リリンを手に入れる為に行動を起こした第三者の可能性など、考えればキリがない。


 だから俺達は自分のやるべき事をやる。

 ひっそりと墓を荒らしつつ、ワルトからの連絡を待つのだ!



「きゅあららら~きゅあららら~」


「お?来たなホロビノ」

「うん。……ううん?今、空間が歪まなかった?」


「え?いや何も無いぞ?気のせいじゃないか?」

「そう?うん、見間違いかも?」



 俺はたまたま鳴き声のする方角に背を向けていて、リリンの声を聞いてから視線を向けた。

 目に映ったのは雲ひとつない快晴な空。

 見た感じ違和感はなかったし、リリンが見間違えただけだろう。


 そんな事を言っている内に、ホロビノが俺達の前に降りてきた。

 うん、いつ見ても真っ白な駄犬りゅ……泥だらけじゃねぇか!

 んで、緑と黄色のミニドラに至ってはぐったりして死にそうなんだけど。


 コイツら、何をしてやがったんだ?



「ホロビノ、こんなに汚れてどうしたの?」

「きゅあらー。きゅあっす!」



 リリンの声を聞いたホロビノは二足歩行で立ち上がり、腕を構えた。

 そして、その妙なポーズには見覚えがある。


 ホロビノがしているポーズは、冥王トカゲがワルトに攻撃を放つ前にしていた溜めのポーズ。

 ということはつまり……。



「ホロビノ、冥王トカゲに会っていたのか?」

「きゅあら~」



 尻尾は静かだな。肯定っと。



「何しに来たんだ?天気が良いからピクニックか?」

「きゅあらん!」



 お?尻尾が反応した。

 横に触れているし、これは否定だな。



「遊びに来たんじゃないのか。ん?もしかしてお前が呼び出したのか?」

「きゅあ!」



 尻尾、再び沈黙。

 つーかすげぇ便利だな、尻尾。口ほどに物を語る。



「リリン、冥王竜が来ていたんだってさ。ホロビノが呼んだらしいぞ?」

「そうなんだ?何しに呼んだの?」


「きゅあら~~きゅあっす!」



 そう言ってホロビノはミニドラ達を指差した。

 そこには地面でぐったりしている2匹のミニドラがいる。


 なるほど。冥王竜を呼び出して戦わせていたと。

 そう言えば、この間の赤と青のミニドラはアホタヌキと戦わせていたっけな。


 ……スパルタすぎるだろッ!



「ホロビノ、程ほどにしてあげて。冥王竜は強すぎるからダメだと思う!」

「きゅあー。きゅあらららん!」



 リリンも流石に冥王竜と戦わせるのは不憫だと思ったのか、ホロビノを叱責している。

 ちょっと俺には真似できない芸当だが、なんとなく、これで良いような気もする。

 肝心のホロビノはなにか言い訳をしているようで、きゅあきゅあ鳴いているしな。


 ……タイトルは『叱責をいただく駄犬竜』だ。



「……?もしかして、冥王竜と戦ってたのはホロビノなの?」

「きゅあ!」


「……勝った?」

「きゅあららら!」


「ん!やっぱりホロビノは凄い!褒めてあげる!!」



 リリンはホロビノの頭を抱き抱えて、ワシャワシャと撫でまわしている。

 それを嬉しそうに受け入れているホロビノ。マジでドラゴンの威厳が欠片も無い。


 知らぬ間に行われた、駄犬竜VS黒トカゲ。

 勝ったのは駄犬だったらしい。

 冥王竜がちゃっかり再臨していたとしても、勝ったんだから良し!……と思ったが、よく考えれば問題はそこじゃない。


 今更だが、ホロビノも冥王竜も眷皇種とかいう滅茶苦茶強いドラゴンだという。

 で、そんなヤバい奴が戦闘訓練をするって、一体何のために訓練をしているのだろうか?


 そこまで考えた所で、俺の脳内にクソタヌキが現れた。

 そういえば、お前とホロビノはライバルだって話だったな。


 有事の際には加勢してやるぞ。一緒にクソタヌキを倒そうな。ホロビノ。



「さてと、そろそろ行こうぜ、リリン」

「そうだね……ホロビノ、あっちの空へ飛んで欲しい!」



 **********



「着いた。ここが私の……もとい、リンサベル家が先祖代々受け継いできたお墓」

「……一つ良いか?」


「なに?」

「なんだこの広さッ!?」



 ホロビノの背に乗って飛ぶ事、十数分。

 空から見下ろせば緑一色だった場所に突如、整備された庭園が出現した。


 なんだあれ?と疑問の声を上げる間もなく、リリンはホロビノにそこへ下りるように指示を出し、ホロビノは何故かすごく嫌そうな声で鳴きながら降りたった。

 そしてそこは、墓地という言葉がふさわしくない程に、綺麗に整備された美しい場所だったのだ。


 俺達のすぐ目の前で、お地蔵様が艱難辛苦を浄化する様な安らぎに満ちた表情でお立ちになっている。

 その奥には門がそびえ立ち、さらに奥には綺麗な玉砂利が浮かび上がらせている波模様と池の配置が見事だ。


 絵で見たのなら、ここが伝説の空中庭園だと言われても信じてしまう程に、現実感がまるで無い美しさ。

 ……と、堅苦しいコメントを呟いてみたが、ぶっちゃけてしまおう。


 間違いなく、一般家庭の墓地じゃねぇ!!

 どうみても、不思議な力がある霊妙な遺跡だッ!!



「なぁ、リリン。ここって何だっけ?」

「お墓」


「……確かに、墓標っぽいものがある事にはあるな。一つ一つに、滅茶苦茶精巧な彫像が彫られていたりするけど」

「ん。あっちの方に似たようなのがいっぱい落ちている。それを選んで墓標にするって、ずっと前にお母さん達に聞いた」


「なんだそのシステム。謎過ぎる……」



 墓標が落ちてるってどういう事だよ!?

 流石に気になったので墓地園に入る前に行ってみたら、確かに墓標らしきものが連立していた。

 中には、コケや汚れが殆ど付いておらず、作ったばかりっぽい奴もある。

 これだけでも大変に意味が分からないが、まだいい。


 一番の謎なのが……。

 この墓地には管理者がいないらしい。



「管理者がいないだって?」

「そう。何故かこの墓地は掃除していないのに、いつも綺麗なままなんだって。草とかも刈り揃えられているし、お墓も常に磨いてある」


「どう考えても、誰かが管理してるだろ?」

「でも、誰にも頼んでいないんだって。本当に不思議」



 ……なにそれ、超怖いんだけど。

 というかそんな場所へ、俺達は墓荒らししに来たのか。

 確実に呪われる気がするんだが?


 実際、動物的感が働いたのか、ミニドラ達はリリンにしがみ付いて怯えている。

 小さいとはいえ、仮にもドラゴンが怯えるってヤバすぎだろ。



「なぁ、リリン。墓荒らしするのやめとかないか?」

「それはダメ。私とユニクの過去が記された日記帳があるのなら、絶対に手に入れるべき!」


「でもなぁ……。ほら、ホロビノも怯えて帰りたそうにしているし」

「ん。それは丁度いい。ホロビノにはお使いをお願いしたかった」



 ……お使いだって?


 そしてリリンは平均的な思いつき顔で、ホロビノを手招いて呼び寄せた。

 それに素早く反応し、速攻で近寄ってリリンの前に正座するホロビノ。


 この駄犬は、お座りが出来るらしい。

 つーかコイツ、自分だけ逃げるつもりだろッ!!



「リリン。もしもの時の為に、人数は多い方が良いと思うんだ」

「……?まぁ、確かに人数は多い方が良いと思う。ということでホロビノ、カミナを連れて来て」

「きゅぐろッ!?」


「ちゃんと連絡はしてあるから準備しているはず。病院に行けば会えるから」

「きゅあらっ!きゅあらっっ!!」


「ダメ。連れて来て、ホロビノ!」



 ……一人で抜け駆けしようとするからそうなるんだぞ、ホロビノ。

 大人しく女医魔王さんにスポイトされて来い。



「きゅあら!きゅあららら!!」

「むぅ。行って、ホロビノ!」


「……。きゅあ……。」



 そして、飼い主にしっかりと叱責されたホロビノは、諦めの眼差しで空の彼方へ飛んで行った。


 ……リリンにしがみ付いていたミニドラを、二匹ともしっかりと抱きかかえて。


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