表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/1329

第15話「リリンの里帰り・エデュミオの街」

「かもん!ホロビノ!!ピィーーーーー!」



 甲高い音が響く。

 これはリリンのホロビノを呼ぶ笛の音だ。


 目的地のエデュミオは、俺達が装備品やタヌキパジャマを購入したセカンダルフォートの隣にあるらしい。

 ここから馬車を乗りついで行くと移動だけで三日は掛るらしく、リリンは「そんなに待っていられない!ホロビノでひとっ飛び!!」とホロビノの背に乗って移動したいと言い出した。


 ……これには非常に困った。

 なにせ、ホロビノは歴史に名を刻む伝説の王竜、希望を戴く天王竜様だというのだ。


 そんな格式高いドラゴンを乗り物にする。

 ちょっとマジでどうかと思うので、あの手この手で代案を提案するも、全て「ホロビノの背に乗った方が早い!」と切り捨てられた。

 転送屋という町同士を空間魔法で繋げて移動させてくれる人に頼めば一番早いんじゃないか?という名案も思いついたが、「その転送屋がヤジリの刺客だったら、どこに連れて行かれるか分からない」という真っ当な理由で却下。


 そんな訳で、俺達は伝説の王竜を街の外の草原に呼び出している。

 ……馬車の代わりに使う為に。



「きゅあららら~~」


「ん。来た」

「今日はずいぶんと早いな。何処かで待機でもしてたのか?」



 近くの森の方からホロビノの荘厳な鳴き声が聞こえる。

 何回も聞いた声なのに、正体を知ってから聞くとまるで別物に聞こえるから不思議だ。


 ホロビノは、なんとなく威風堂々とした立ち振る舞いで、俺達の目の前に優雅に着地。

 そして、リリンに擦り寄った。



「きゅあららら~~」

「よしよし。今日も可愛いね、ホロビノ!」



 ……。落ち着け、俺。

 今、目の前にいるのは飼い犬ドラゴンなんかじゃない。

 歴史に名を刻む、希望を戴く天王竜さまだ!

 見た目に騙されると痛い目を見るぞ!


 だが、リリンはまったくいつもと同じようにホロビノと触れ合っている。

 リリンはホロビノに対する態度は変えないと言っていたが、まったく変化が無いとは恐れ入ったぜ。


 俺はリリンの図太さを改めて認識し、気が済むまで放っておこうと……ん?なんだあれ?

 ホロビノの背中の上に何かいるな。


 あぁ、この前に連れて来た子竜……んん?



「……がりゅるるる~」

「……けるけりゅけ~」



 ……。

 なんか、色が違うんだけど。


 ホロビノの毛の中に埋もれていたのは、黄色い毛並みのミニドラと緑色の毛並みのミニドラ。

 黄色い方は全体的にふっくらしていてヒヨコみたいな感じで、緑色の方は特に語るべき所のない普通のドラゴン。しいていうなら、少しだけ猫っぽいかも?


 つまり、明らかに前回連れてきたミニドラじゃない。

 新しいのを連れてくる事にも思う事はあるが、前のミニドラの行方の方が気になるな。



「なぁ、ホロビノ。今日は別の奴を連れてるんだな?……前のはどうした?」

「……。」



 希望を戴く天王竜さん、沈黙。

 黙秘権を行使するとばかりに無言を貫き、視線を俺から外した。


 だが、尻尾は元気いっぱいに左右に振られている。

 コイツ……、まさか……。



「なぁ、あのミニドラはどうしたんだ?確か、カミナさんの所に行く時、一緒に連れてったよな?」

「……。」



 あえてボカして言ったが、ホロビノはモウゲンドとウワゴートを病院に搬送する時に、ミニドラも一緒に連れて行っている。

 というか、魔王の右腕に怯えまくったミニドラはホロビノから離れようとしなかった。

 で、今日は別のミニドラを連れている。


 ……まるで、代わりだとでも言うように。



「おい、ホロビノ。お前、カミナさんにミニドラを売ったりしてないよな?」

「……。」


「……生贄にしてないよな?」

「……。」



 ここでホロビノは悲しそうな目で、「きゅあ……」と鳴いた。

 俺にはドラゴン語は分からないが、なんとなく察しだぜ。


 コイツ!自分の配下を女医魔王さんに売り飛ばしやがったッ!!

 おいそれでいいのか!希望を戴く天王竜!!

 希望を冠するお前が絶望を配下に押し付けるって、それでいいのかッ!希望を戴く天王竜ぅぅぅ!!


 俺の無言の圧力を受けてたホロビノは、悲しそうな目で空を見上げている。

 そして、その尻尾は元気よく振れまくっている。

 どう見ても、悲しそうな演技をしているだけだ!


 俺は真理に辿り着いてしまったようだ。

 コイツはドラゴン界の英雄、希望を戴く天王竜なんかじゃない。

 ……裏切りドラゴンの、『駄犬竜・ホロビノ』だッ!!



「あ!すごい!!今度は黄色と緑色がいる!この子たちも産んだの!?ホロビノ!!」

「……。きゅあー」



 やるせなさそうに鳴くホロビノと、必死に逃げ惑うミニドラ。

 そして目を輝かせたリリンにミニドラは捕獲され、散々に弄り回された。


 俺達がホロビノの背に乗って出発したのは、それから一時間後の事だった。




 ***********


「ありがとうホロビノ。また近いうちに呼ぶ事になると思う!」

「きゅあ!」


「はい、ご褒美のお肉。そして、こっちはワルトナからのお肉。みんなで分けて食べて」

「きゅあららら~~~!」



 ホロビノの背に乗り約三時間。

 俺達は無事にエデュミオまで辿りついた。

 馬車を乗りついで三日も掛る道のりでも、まったく障害物の無い空の旅ともなれば、非常に速く快適なもんだ。


 ……そう。

 ホロビノの乗り心地は非常に快適だった。

 まったく振動もせず、頬を撫でる風が心地いい。

 リリンも優しげな顔でミニドラを膝に乗せて撫でていたし、だいぶご機嫌だ。


 だからこそ、前に俺だけを抱えて飛んだ時はと比べるまでも無い快適性に、非常に腹が立つ。

 だが、こんな駄犬でも、戦闘になれば滅茶苦茶強いらしい。


 なにせ、クソタヌキと大決戦をする程の実力を持っていたとか?

 お前に仕返しをするのは今度にしてやるよ。ホロビノ!



「きゅ~あ~きゅあ~きゅあーきゅあーきゅーーー……」



 そして、ホロビノはミニドラを抱えて飛び立っていった。

 ポイゾネ大森林がある方角へ飛んで行ったので、訓練でもするのかもしれない。


 なお、ミニドラのレベルは2000しかなかったが、あんな高ランクの森に連れて行って大丈夫だろうか。

 さっきの肉が最後の晩餐にならない事を祈るぜ!



「空から見たときにも思ったが、随分と大きい街なんだな」

「そう。エデュミオは現代の魔導都市と呼ばれ、この大陸一魔法が発展している街だと言われている」


「へぇー。流石はリリンの故郷。魔導師の本拠地って感じなんだな」

「うん。魔法の研究と養育機関の『魔導学院・フィルニクル』もある」


「そのフィルニクルってのはリリンの母校だよな?魔法の専門学校か何かか?」

「私が通っていた時は魔法の専門学校だった」


「……だった?」



 リリンは家族と別れる前は、魔導師の学校に通っていた。

 そこで天才だと持て囃されていたリリンは、瞬く間に上級クラスへと進学。

 魔導学院フィルニクルでは、下級クラス、中級クラス、上級クラスと三つにクラス分けされており、上級クラスに在籍するにはランク3以上の魔法を5つ以上覚える必要があるらしい。


 リリンの理不尽を知っている俺は、え?そんな簡単で良いのか?と思ったが、世間の常識で言えば、ランク3の魔法を5個も使えるのは凄い事であり、大魔導師と呼ばれているようだ。

 ……なんかこの間のドラゴンフィーバーの時に、大魔導師を2時間程度で量産していた気がするが、気のせいだな。


 知らない方が良い現実から目を背けていると、リリンは不安定機構の支部を目指し歩き出した。

 俺もリリンの横に付いて、話を聞きながら進む。



「フィルニクルが魔法の専門学校だったのは昔の話。私が休学届を出した後で、『鮮血の一週間(レッドウィーク)』という大事件が起きて、校風が随分と変わったと聞いた」

「名前からして大事件過ぎるな」


「学校の信用が失墜し、魔導師を目指す人は別の学校へ通うようになり生徒数も激減。受験する人自体も少なくなり、やむを得ず、剣術なども教える冒険者養成学校になった、らしい」

「有名校の没落か。……どんな事があったんだよ!?」


「よく知らないけど、噂で聞いた話では、一人の鬼が現れて生徒を狩りつくしたという。積み上がった生徒の山の中には教師も含まれており、結局、その鬼は取り逃がしてしまったとか」

「リリンの母校、殺伐とし過ぎだろ!」



 なんだよ鬼って!?

 大悪魔みたいな奴が他にもいるのかよッ!!


 リリンの通っていた魔導学院フィルニクルを襲ったのは、在籍していた生徒なのだという。

 なんらかの切っ掛けで生徒の殆どを狩りつくしたその生徒は、止めに入った教師陣も滅茶苦茶に吹き飛ばし逃亡。

 噂では、闇の組織の一員となったらしい?


 そして、その事件は魔導学院の格を地に落すには十分だった。

 死人こそ出ていないが、世間からエリート集団と注目を浴びていたフィルニクルの生徒が、たった一人に敗北。

 その話に尾ヒレが付き、『フィルニクルの生徒は理屈ばっかりで、戦闘で役に立たない無能集団』となってしまったのだ。



「ちなみにリリンは、その鬼に心当たりはあるのか?」

「ない。当時、私は上級クラスに上がったばかりだったし、家族を亡くしたと思った私はすごく荒れていて、周りの事を気にする余裕はなかった」


「そうか。悪いな、嫌な事を思い出させちまったみたいだ」

「いい。それに、周りは大人だらけで歳の近い友達も一人だけだった。その子はそんな事をする人じゃないし、どうせ嫉妬した大人の誰かがやった事……あ。着いたね」



 **********



「ここが不安定機構エデュミオ支部……。他の支部とは随分と雰囲気が違うな」

「この建屋の奥には魔導鑑定士の研究機関がある。威厳を保つために壁とかは毎日磨かれてるから凄く綺麗」



 漆黒の大理石で出来た、堅牢な砦。

 俺が抱いた第一印象はそんな感じだった。


 壁も天井も床も、全てが深みのある黒で統一。

 中庭の庭園だって光沢のある黒い草を中心としたもので、花壇に白い花が咲き誇る美しいものだったが、内部はもっと凄い。


 天井から吊るされた照明は、高級な宝石をこれでもかと使っている。

 俺がリリンに贈ったブローチの輝きには劣るが、これだけの数があれば圧巻だ。



「なんか、庶民じみた俺が来るような場所じゃない感じだな」

「まぁ、この街には支部が二つあって、こっちに来るのは高ランクの冒険者が多い。依頼内容はリンクしているからどっちを使っても問題はないし」


「ん?なんで二つあるんだ?」

「こっちは魔導鑑定士の本部と兼ねていて高ランクの冒険者を雇う事が多い。なので、必然的に住み分けするようになった。あ、ちょうどいい。アーベルがいた」



 そう言ってリリンは一直線に受付に駆けて行った。

 そこにいたのは俺も知っている顔だ。

 確かアーベルさんって、俺の冒険者登録をした時の受付員さん……だったよな?



「あら?リリンちゃんじゃないですか。久しぶりですね!ご健勝ですか?」

「もちろんそう。この間はドラゴン200匹を追い返した!」


「ドラッ!?……相変わらずのご健勝ぶりに、背筋がゾクゾクしますね」



 大魔王リリンの先制攻撃!心無き威圧!!

 アーベルさんに大ダメージ!混乱状態となった!!



「なんかすまんな、リリンはいつもこんな感じなんだ」

「いえ、慣れたものですよ。さて、ユニクルフィンさんもご健勝でしたか?」


「えぇ、リリンと一緒にドラゴン200匹を追い返したくらいだからな!」

「あなたもですか……。ドラゴンって、一匹で町を壊滅させる事もある超級の危険生物なんですけど……」



 つい俺も悪ノリしてみたが、うん。すげぇ視線が痛い。

 こんな視線に晒され続けて平然としているとか、リリンさん、マジ、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)



「それにしても、お二人は仲が良さそうですね」

「そっちも順調!ユニクとの関係もこの通り!」



 そしてリリンは俺の腕に抱きつき、締めあげた。

 俺達の力関係を明白に表していると思う。



「あらあらあら!男女二人で冒険なんてと思っていましたが、そういう事でしたかー」

「うん。頑張って射とめた。アーベルと一緒!!」


「ふふ、私の場合は、私を破門しやがったあの人に見返してやりたくて、毎日家に通って、勉強して、ずっと一緒にいたらこんな風にお腹が大きくなってしまいました」



 そう言って、アーベルさんはお腹をさすった。

 前に会った時には見立たなかったが、今ならしっかりと分かる。

 仕事のできる系の美人さんは、しっかりと幸せも手に入れているようだ。



「ユニク、実は、アーベルも私の家の捜査員だった。今は休職中で不安定機構の受け付けでアルバイトしてる」

「へぇ、そうだったのか」



 リリンはアーベルさんを改めて俺に紹介してくれた。

 どうやらこの人は、自宅に帰ってきたリリンを家族に会わせないように班長に進言した人のようだ。


 心情的には幼いリリンに見せないようにした理由も充分に分かる。

 ただ、そのやり方が真っ直ぐ過ぎて、班長に伝わらなかった。


 そして、班長の不興を買ってしまったアーベルさんは実際に破門されたんだろう。

 で、再び魔導鑑定士になる為に勉強していたら、色々あって夫婦になったらしい。



「それにしても、随分とお腹が大きい。もしかして、双子?」

「えぇそうなんです。触ってみますか」


「いいの?あ、すごい……。動いてる……。こんな風になるんだ……」

「飛びきりに元気いっぱいです。是非、リリンちゃん姉妹みたいに元気に育っ……いえ、失言でした。申し訳ございません」



 リリンの無邪気な問いかけに、アーベルさんも嬉しげに答えようとして口を閉ざした。

 捜査員だったという事は、当然、セフィナがどうなったかも知っている。

 家族を失い天涯孤独になっているはずのリリンへの配慮が欠けていたと思ったんだろう。


 だが、その申し訳ないという顔は、今から驚愕に変わるはずだ。

 そして、その間違った過去を正す為に、リリンは口を開いた。



「……アーベル。その事で話がある」

「その事とは?」


「セフィナは生きている!」

「えっっ。」


「だから、記録を見せて欲しい!」

「えぇぇ!?!?」



 あれ?ワルトに指示された文章よりもちょっとだけ短いな。

 正確には、『私の妹は生きていた。だから、あの時の鑑定記録を見せて欲しい』だ。

 これじゃ、何の記録を見せて欲しいのか伝わりづらいし、補足をした方が――。



「何ですってっ!?セフィナちゃんが生きているって、それはつまり、あの時の捜査が間違っていると言いたいんですか!?」

「そう!調べて欲しい!!」



 うわ!一瞬で理解したよこの人。頭の回転が早すぎるんだけど!



「一応確認しますが、見間違いと言う可能性は?」

「絶対にない。これは確信している事!」


「……これは、ちょっと産休とかしている場合じゃありませんね。期間限定で魔導鑑定士に復職し、大至急かつ、大規模な再鑑定班を立ち上げます」



 そして、一瞬で話が進んだんだけど。

 なんか、怖いくらいに察しが良いな。

 魔導鑑定士は暗劇部員でもあるエリートだという話は間違いないようだ。


 アーベルさんは目を煌々と輝かせながらカウンターの奥から出て来て、リリンの手を取って歩き出した。

 迷いなく裏方の扉を開けて中に入り、俺にも来るように促す。


 あれ?なんか、魔王なオーラが出てないか?

 後ろ姿から凄い圧力を感じるんだけど。

 一応、謝っといた方が良いかもしれない。



「なんか急に押しかけて悪いな。休職してたって事は、魔導鑑定士の仕事をするのが辛いって事だろうし」

「いえ、私にとっても大事な問題になりそうですので」


「……大事な問題?」

「場合によっては、うちの旦那に絶縁状を叩きつける事になるかもしれません。あの馬鹿に破門されなきゃ、私のお腹は大きくならなかったですし!!」



 ……。

 やっべぇ!修羅場になっちまった!!

皆さまこんばんわ、青色の鮫です!


次回の更新でついに『世界に対して、俺、弱えええええ!?』の連載が3周年に突入します!(祝

そして、前日譚『悪辣聖女見習いと行くリリンサの冒険』の2章の連載も明日(8月16日)から開始します!


それ以外にも、ちょっとしたものを用意していたり……?

とにもかくにも、これも、応援していただいた皆様のおかげです!

本当にありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ