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第14話「真第三次悪魔会談・事情聴取」

「立ち直ったか?ワルトナ?」

「……なんとかね。それにしてもリリンの奴……!」


「まぁ、平気な顔してリリンを騙してるからそうなるんだろ。これは神様からの天罰だと思うぜ」

「神ねぇ。その神ってのは、歴史書を読み漁ってると信仰心が欠片も湧かなくなる、あの神の事かい?」


「そんなんなのかよ、神」

「僕にとっちゃ、カミナの方がよっぽど奇跡を起こしてるよ。あぁ、年一回の健康診断が恐ろしくてしょうがない」



 リリンサが無意識の内に仕掛けた精神攻撃から、約一時間。

 セフィナのファインプレーで窮地から脱したワルトナは無事に立ち直り、文句を言いながらテーブルまでやってきた。


 それを見ていたセフィナは、早速コップにジュースを注いでワルトナへ差し出す。

 そしてゴモラは、テーブルの上のパイを確保しに行った。



「おい待てニセタヌキ。そのパイは僕のだろ」

「ヴィギル―ン!」

「ヴィギル―ン!」


「分裂しようがダメなもんはダメだっての!……どっかいけ、しっし!」



 そしてゴモラはいそいそと机から下りて行くと、取っておいた自分のパイを食べ始めた。

 当然、分裂体は消滅させており、一匹分の取り分が減る事はない。



「タヌキにツッコミを入れられるなら、もう大丈夫だな」

「まったく、予定外もここに極めりって感じだよ。あ、このパイ美味しいね」


「で、オレ達はオレ達で、これからの作戦会議をするんだろ?」

「もちろんだが、その前にセフィナ。どうして勝手な事をしたのか、教えてくれるね?」



 言葉尻を落とした、重みのある問いかけ。

 それは、予期せぬ失敗をしてしまい、怒られる事が分かっている子供が最も恐れるものだ。


 セフィナはうつ向いて黙り込んでいる。

 沈黙でやり過ごそうとしているのではない。

 自分のしでかした事の大きさを理解しているからこそ、言葉が選べないのだ。



「……ご、ごめんなさい……」

「失敗をした時にしっかり謝罪できるのはとても正しい事だ。良い子だね、セフィナ」


「……あの、言い付け守らなくて、お、怒ってます……か……?」

「怒ってるよ、とてもね。場合によっては、キミの命に危機が及ぶ事態だったんだからね」


「あう……。ごめんなさい……」

「だけど、僕は話を聞く前に頭ごなしに怒ったりしない。キミを否定したりもしない。何があったか話してくれるね?」



 優しい言葉の、強い叱責。

 だがそれは、多くの大人が行うような、嘘や建前を撒き散らすだけの叱責ではない。

 それにワルトナは、セフィナの身に危険が及んでいたという事に激怒している。

 その矛先は決して、セフィナだけに向けていいものではない。



 メナフから聞いた話では、セフィナは一人でリリンサへ会いに行くつもりだったらしい。

 いくら天才といえども、それは無謀すぎる。

 リリンは白い敵に対して相当に怒ってるし、ブレーキ役のユニも、グラムを覚醒させたばかりという事故要因だ。


 本来ならば、星の対消滅は僕が使うはずだった。

 それならば僕を倒す以外に魔法を使う手段はなく、リリンは星丈―ルナを覚醒させるしか手札が無くなる。

 結果的に、セフィナが待ち望んだ魔法合戦となる訳だ。


 星丈―ルーンムーンは24時間以内に使用した魔法を再使用する事が出来るが、それには膨大な魔力を消費しなければならず、長くは保たない。

 メリクリウス未覚醒のセフィナじゃ対応出来ないが、僕が日ごろから習慣にさせている 『星騙す弦理論ホログラフィック・フォールス』と『歪曲する真実の虚偽(フォールストゥルー)』がセフィナを守り、やがては時間切れ。


 リリンは魔力切れを起こし、セフィナの勝利。

 憧れた姉の凄さを十分に体験しつつセフィナが勝ち、リリンの立場も守られる。

 そして僕もユニに勝利し、完封勝ち……になるはずだったんだ。


 だが、一歩間違えればリリンに手によって、セフィナを傷つけてしまっていた。

 ――ふざけるなよ、悪喰。

 お前がどれだけ強かろうと、僕はお前を絶対に許さない。

 この対価は、必ず払わせてやる。



「ワルトナさんがお仕事に行った後ね、おねーちゃんは凄かったんだ。すごくて、カッコ良くて、憧れたの。それで直ぐに会いたくなっちゃって……」

「リリンサに憧れた、か……。だがそれは矛盾するね。自分ひとりで戦いに行って勝てると思ったのかい?」


「メルクリウスを覚醒させれば大丈夫って教えて貰ったの」

「……悪喰か?」


「うん。あ、でも、訓練をして欲しいってお願いしたのは私なの!プアさんは私に協力してくれただけで……」

「悪喰の事は庇わなくていい。アイツは愉快犯だからね」


「愉快犯?」

「あぁ、そうだよ。メルクリウスは本来ならば、もっとちゃんと訓練をしてからじゃないと覚醒させちゃダメなんだ。キミのお父さんでさえ覚醒させるのに1年の時を必要としたくらいだからね」


「パパも……?」



 真剣なワルトナの表情を見て、また一つ悪いことをしてしまったとセフィナは思った。

 あんなに優しかった姉があれほどに激怒したのも、自分が悪い子なせい。


 ついに溢れたセフィナの涙は止まらない。



「プアさんがね、我慢しなくていいって言ったの。会いたいんだったら会いに行けばいいって、訓練もするから大丈夫だって、いいんだって、ぐす……思っちゃったの」

「知らない人についていかない。僕はそう教えていたはずだ」


「あ、会いたかったから、おねーちゃんに、ずぐ、会いたくて、それで……」

「セフィナ。その結果どうなった?僕の言いつけを守らなかったら、どんな事が起こった?言えるね?」


「お、おね”-じゃんに、いっぱい怒られで、ぐすっ、あんなに怒って、『セフィナは死んだからもういないって、私なんか妹じゃない』って……ぐすっ、すん、うわぁあああああん」

「……リリンがそんな事を、ね」


「お、おねーじゃんに、き、嫌われじゃった……。やだよ、そんなのやだぁぁああ」



 セフィナは大粒の涙を溢しながら、横に寄り添っていたゴモラを抱きしめた。

 しっかりと両腕で締め付けている為に若干形が変わっているゴモラは、空間からハンカチを取り出してセフィナの涙を拭っている。


 うわぁー、感動できないねぇ、むしろ戦慄だねぇ。と溜め息を吐いたワルトナは、気分を変える為にジュースを一口飲んで、ポケットから携帯電魔を取り出す。



「おねーじゃんに、きら、きらわれ、ぐす。えっぐ……」

「反省したかい?セフィナ」


「うん。私が悪かったの。ごめんなさい……」

「よしよし、僕は許すよ。もともとセフィナは殆ど悪くないしね」


「ワルトナさん、もう、おねーちゃんには会えないの?会っても、いらないって言われちゃうの?」

「そんなこと無いよ。リリンサはセフィナの知ってる『妹思いの優しいおねーちゃん』のままだからね」


「あ、あんなに怒ったのに?」

「そんなの関係ない。あれは白い敵、僕に対して怒ってたんだ」


「ホント?嘘じゃない?」

「嘘じゃないよ、証拠もあるしね。これを聞いてごらん。……再生っと」



 乾いていない大きな瞳でセフィナはテーブルの上の携帯電魔を眺めた。

 セフィナにとって見慣れない機械だったが、それでも、姉が嫌いになっていない証拠だと言われてしまえば見るしかない。


 そして、ワルトナは携帯電魔のボタンを押した。



『あ。僕とした事が、とても重要な事を聞くのを忘れていた』

『ん、重要な事?』


『リリン。今までの考察や指示は、全て白い敵と真正面から戦う為のものだ。だけど、選択肢はそれ以外にもある』

『そうなの?』


「これ、……ワルトナさんと、おねーちゃんの声……」



 予め用意しておいたそれは、携帯電魔につけられた録音機能だ。


 泣きじゃくるセフィナを見た瞬間、ワルトナは解決策を導き出していた。

 それは、リリンサ自身にセフィナの事を嫌いではないと言わせ、セフィナに聞かせること。

 そして、それを容易に実現できる仕組みを、ワルトナは既に持っている。



「この機械はね、友達同士でお喋りする為のものさ。そして僕とリリンサはドラゴンフィーバーの時にお友達になっているんだ。もちろん、キミとの再会を上手に行う為にした事だし、リリンサは僕の事を普通の友達だと思ってるけどね」

「それで、おねーちゃんは怒ってましたか……?私なんかいらないって、言ってたり……」


「ないよ。ほら、これは僕が知らぬふりしてリリンサに『セフィナとか無視して逃げちゃえば?』って聞いた時の言葉だ」



『私、リリンサリンサベルは、どんな事があっても2度とセフィナを手放したりしない。絶対に取り戻して一緒に人生を歩む。誰が何と言おうとも、絶対に絶対!』



「え、あ……。」

「ほらね、全然怒ってないどころか、ずっと一緒にいたいってさ。誰が何と言おうとも、例え神様に言われても、絶対にセフィナと一緒にいるって」


「……ひっく、よ、よかった、よかったよぉ、うわぁあああん」



 再び流れたのは、安堵の涙。

 最愛の姉との関係が壊れていなかったと、謝るチャンスがあるんだと、様々な事を考えながらセフィナは手に持っているゴモラを弄り回す。

 そして、されるがままなゴモラは2枚目のハンカチを取り出して、セフィナの涙を拭いた。


 うわぁ、どっちがペットだか分からない。主従逆転だねぇ。

 遠い目をしているワルトナは、皿の上のパイにフォークを突き刺した。



「ワルトナさん、おねーちゃんには、いつ会えますか?」

「一週間は会わせないのは確定。その後でしっかり計画を練ってからになるね。これは僕の言い付けを破った罰でもあるし、お互いに気持ちの整理をする為の時間でもある」


「ぐす。分かりました。我慢します……」

「いい子だ。その代わり、僕とメナフと三人で遊びに出掛けよう。どこに行きたい?」


「……ご飯のおいしい所」

「やっぱりか。じゃあ、僕の所有するリゾート地にでも行こうかな?海鮮料理が美味しいんだ」



 この大陸にはワルトナが所有している領地が点在している。

 もともと領地運営などには全く興味がなかったが、レジェリクエの勧めにより安い土地の名義だけを買い漁っているのだ。


 場合によっては、その地域を支配している貴族ですら気付かない内に行われるそれは、ワルトナの高い手腕があっての事。

 必要になった時に音も無く表れて、利権と実利を掻っ攫うのだ。

 当然今回も、一等級のリゾートホテルを用意させるつもりでいる。



「ゴモラ、お魚料理だって。ゴモラはお魚好き?」

「ヴィギル―ン!」


「そうだよね。私も好き!」

「ヴィギル―ン!」


「……。ところでメナフ、あれ、会話してない?」

「してるっぽいよなぁ」



 一気に元気を取り戻したセフィナは、抱きかかえているゴモラと楽しく談笑を始めている。

 そんな理解不能な事態を見て、ワルトナとメナファスは恐怖を抱いた。


 野生動物が人間の言葉を理解する事があるという文献は知っているが、その逆なんて聞いた事が無いのだ。



「マジでなんなんだよ……?あれも悪喰のせいなのか?」

「なんか、悪喰=イーターがあるから会話できるらしいぞ?」


「出やがったな、悪喰=イーター。メナファスもその魔法を見ていたんだろう?概要を教えておくれ」

「概要か。オレにはさっぱり分からんな。だが、やべぇ魔法だってのは間違いねぇ」


「やっぱり抽象的だねぇ。こうなったらセフィナに直接聞くか。セフィナ、ちょっといいかい?」



 ゴモラとじゃれ始めたセフィナはソファーの上で暴れ回った後、机に足をぶつけて「ぐぬぬ……!」となっている。

 その刹那、ゴモラの鳴き声が響いた。

 そして、赤くなっていた足に複雑な魔法陣が浮かび上がると、セフィナの表情が和らぐ。



「はい。なんですか?ワルトナさん」

「なんだ今の。疑問がすごい勢いで増えて行くんだけど。じゃなくって、『悪喰=イーター』、これについて教えてくれ」

「ヴィギルル―ン!」


「え!?あ、えっと……。悪喰イーターって言うのは、プアさんに教えて貰った魔法です……?」

「うんうん、その性能や効果を聞きたいんだ」

「ヴィギルルア~~ン」


「あっと、悪喰=イーターは魔法をストックできる魔法で、凄いのは、他の悪喰=イーターを使った人が保存した魔法も私が使えるって事です……?」

「何その便利魔法!?」

「ヴィギルオンン!ヴィッギルヴィッギル!」


「いっぱい練習すれば、もっと凄い事も出来る……らしいです?」

「へぇー?その魔法、僕も使えるのかな?」

「ヴィギ。ヴィギルハハァーン」


「だめ……だと思います。いろいろ条件があるって」

「そうかい、それは残念だねぇ。……それと、僕たちの会話に混ざってくるんじゃないよ、ニセタヌキッ!」



 いつの間にか三者面談になっていると気が付いたワルトナは会話を打ち切り、ゴモラめがけて「しっし!」と腕を振った。

 そんなワルトナを完全に無視し、ゴモラはパイクリームが付いている皿を舐め始めた。



「コイツ、名実ともに、僕の事を舐めてるねぇ……!」

「話は一段落したか?ワルトナ」


「そうだね。タヌキがこの場にいる以外はすべて順調さ」

「そうかいそうかい。じゃ、タヌキにも退場して貰うかね。セフィナ、オレとワルトナは思い出話をするからよ、あっちの部屋で買ってきた奴を組み立ててきな」



 メナファスに促されたセフィナは元気よく返事をし、早速ゴモラを引きつれて奥の部屋へ消えて行った。

 何事かと首をかしげたワルトナは、事態を把握しているであろうメナファスへ問いかける。



「メナフ、何を買ってきたんだい?」

「おう、それに答える前に、報告があるんだがよ」


「なんだい?」

「アイツ、ゴモラな、マジで勝つ手が見当たらねぇぞ」


「うん、知ってる。……だけど、何があったか教えておくれ」

「セフィナを元気づける為に川遊びに行ったんだがよ、丁度いいやと思って、ゴモラの力量を計ろうとしたんだ」


「うんうん。それで?」

「で、オレの大規模個人魔導を発動し、自動掃射銃を使ってのフルバーストをやったわけだ」


「殺意が漲ってるねぇ。いいぞ、もっとやれ!」

「その結果、ゴモラは余裕で全弾回避しながら川に素潜りして、シャケを捕まえてきたわけだが」


「うわぁ。マジでカツテナイほどにクソタヌキ。笑止だねぇ、漁師だねぇ」



 あまりの馬鹿馬鹿しさにと絶望に、二人は笑うしかなかった。

 しっかりと価値観を共有した二人は、どちらかともなく息を整え、本題に入る。



「それで、買って来たものってのは?」

「どう考えてもゴモラを追い払う手段がねぇ。なら、飼うしかないだろ?」


「悲しい事に、同意しかない」

「ということで、アイツを入れておく檻を買ってきた。自分で組み立てりゃ多少は大事にすると思ってな。組み立てタイプの奴だ」


「……。キミのセンスに万雷の拍手を送りたい。マジでね!」



 ワルトナの知る限り、タヌキ帝王を拘束しておける檻など存在しない。

 それは、昔、ユニクルフィンと一緒に罠を仕掛けた時に散々経験した事であり、どんな凄い魔道具でも一瞬で壊された過去が語ってる事だ。


 だが、自分で作った物ならばそう簡単に壊したりしないだろう。

 ましてや、懐いているセフィナと一緒に作ったのなら尚更だ。


 子供だけじゃ無く、カツテナキタヌキですら手玉にとるメナファスの手腕に、ワルトナは尊敬の眼差しを向けた。



「それで、これからオレ達は何をするんだ?本当に遊んでるわけじゃないだろ?」

「もちろんさ。僕の予定よりも、お互いに戦力の成長が早い。だから第二ステージに進む条件は満たしている」


「第二ステージ?」

「ここらで一気に、僕やセフィナ、リリンとユニ、ついでにキミも戦力を引き上げる。……第二ステージ『英雄量産計画』の始まりさ」


「英雄量産計画ねぇ。面白そうじゃねぇか」

「ま、じっくりやるさ。ぶっちゃけ、まだ構想中だしね!」

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