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第13話「両想いと片想い」

 

「なぁ、リリン。さっきのは何だ?いくらなんでも、夜の秘め事を暴露しないで欲しいんだがッ!?」

「……さっきのは、勝利宣言!」


「勝利宣言?なにに勝利したんだ?ん?」

「ワルトナとの勝負の内容は、『どちらが先に想い人と添い遂げるか』ということ。私はユニクに告白をして内定を貰った。だから、私の勝ちだと思う!!」


「なん…だと……?それじゃ、ワルトには想い人がいる……という事に……?」

「そう。ワルトナは元々、その想い人の為に旅をしていた。で、その目的と私のユニク探しは両立出来るものだった。だから私達は一緒に旅をするようになった」



 ランク9の爆弾発言をワルトに叩きこんだリリンの表情は、平均的な晴れやかなものだった。

 夜の秘め事を暴露されるとか、流石の俺もちょっとだけイラっとしたので、事情聴取と説教を始めた訳だが……。

 追加で爆弾を投げてくるとか、大悪魔すぎるだろッ!!


 リリンが言うには、ワルトには心に決めた恋人がいて、ずっと片思いをしているらしい。

 ワルトがそんな乙女な事を言うなんて到底信じられなかった俺は、説教も忘れて事情聴衆に没頭。

 だが、リリンから返ってくる言葉は、しっかりと芯のある返答だった。



「そんな馬鹿な……だって、あのワルトだぞ……?」

「その想い人は、幼いワルトナの命を救った人。その人に一目惚れしてずっと好きなんだけど、会えないんだって」



 そんな……ありえないだろ……。

 だって、心無き大聖母のワルトだぞ?

 うちの腹ペコ大悪魔さんは『花より団子』だが、ワルトの場合は『花より談合』って感じだろ。


 そう思っていたのに、ワルトには片思い中の想い人がいると言うのだ。

 ……え、えぇー。



「ワルトが片思いか……。この世界には俺の知らない不思議な現象って、まだまだあるんだな!」

「あぁ見えて、ワルトナは恋愛小説好き。旅の間にもちょこちょこ読んでいた」


「マジかよ……。だが、ちょっとおかしくないか?ワルトの性格なら、どんな手段を使ってでも絶対にその人を手に入れるだろ」

「そう。それがワルトナの最終目標なんだって。富と名声と戦闘力。この系統の違う『暴力』を可能な限り高めた後、絶対に拒否できないような状況で告白をするって言ってた」


「それは告白じゃねぇ。脅迫だッ!!」

「そして、私がユニクと一緒になるのが早いか、ワルトナが告白をするのが早いかを競い合っていた」



 富……その気になったら、一日で20億エドロを稼ぎ出す心無き魔人達の統括者の策謀担当。

 そんなワルトがお金を持っていないわけがない。というか、各地に領地を持っているらしいし、溢れる程の富を持っているはずだ。


 名声……これは二つも条件をクリアーしている。

心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)』と『聖なる天秤(ホーリースケール)』。

 どちらともこの大陸中に名を轟かせているし、申し分ない。


 そして、戦闘力。

 これについては語る必要性すら感じない。

 ピエロドラゴンをブチ転がせるんだし、十分すぎる。


 なるほど。条件は満たしてるじゃねぇか。

 想い人さん、逃げてぇえええええええええええ!!



「そして、ワルトナはまだ告白していない!だから勝負は私の勝ち。完全勝利だと思う!」

「リリンの勝利、か……。一応言っておくが、俺のレベルがリリンと同じになったからと言って、無条件で俺達が一緒になるって訳じゃないからな?」


「……えっ!?ど、どういうこと!?」

「もし、もし仮にだが、リリンが見るに堪えない感じの『デブジャナイ?タヌキ』に進化を果たした場合、ご破算になるという可能性も微粒子レベルで存在するって事だよ」



 平均の枠組みを超えた驚愕顔で、リリンは絶句している。

 ……が、そんなに驚かないで欲しいんだが?


 そもそも、リリンとの関係を先延ばしにした理由は、状況を落ち着かせ最適な未来を選択する為だ。

 決して、デブタヌキエンドを迎える為じゃない。


 まぁ、今のリリンの体の細さを見る限り、ちょっとくらい食べすぎても問題ない気もする。

 だが、敵は心無き魔人達の統括者。

 ちょっと油断すると俺の予想を軽々と越えてくるからな。これくらい強めに言っておいた方がいい。



「そ、そんな……。このままじゃ、ユニクと一緒にいられなくなる!?ど、どうすれば、ユニクと一緒にいられるの!?」

「あぁ、簡単な事だぞ。それはな……」


「それは……?」

「食い過ぎない事だよッ!!」



 なんだその、「えっ」って顔は!?

 いつもの平均的な表情はどこに行ったんだよ!?

 というか、驚いているって事は、俺に関する情熱と、食べ物に関する情熱が同じって事だよな!?


 ちょっとだけ複雑な気持ちになったが、速攻で『ユニクよりも、ご飯が優先!』とか言われなかっただけ良しとしよう。

 そしてリリンは苦渋の決断をし、重々しく口を開いた。



「むぅ。分かった。今までの1.5倍までにする……」

「今までの1.5倍だと……」

「これ以上は減らない。今まで我慢していたから、ご褒美だし!」



 リリンの表情や雰囲気から察するに、これでも譲歩したらしい。

 どんだけ食うつもりだったんだよ。


 だが、あまりきつすぎる事を言うつもりも無い。

 あくまでも、食べすぎは体に悪いというのが理由であり、過剰な規制をしてストレスになるのは本末転倒だしな。


 例えそれが、俺の2倍の量を食べるという宣言であっても、リリンが健康ならそれでいいのだ!



「ま、無理のない程度にって事だ。たまにだったら食べ過ぎてもいいからさ」

「1日1回くらい?晩御飯の時だけ?」


「それはたまにとは言わねぇ。毎日はダメだ」

「むぅ。夜食べる量が増えるのは自然なことなのに……」



 おい、何か勘違いしてないか?

 普通の人はな、夜食べる量が多いんじゃなくて、朝や昼に食べる量を減らしてるんだよ!


 特に冒険者は、満腹は厳禁だ。

 満たし過ぎず、減らし過ぎず、こまめな栄養補給が基本だってトーガ達に聞いたしな!



「さてと……。ワルトの策謀を聞いて、ある程度は計画が立ったし、さっそく行動に移すか?」

「そうだね。まずは……エデュミオに行って墓荒らしをする!」



 そう言ってリリンは立ち上がり、ホテルを引き払う準備を始めた。

 この街に長居は無用。

 それどころか、偶然にヤジリさんと接触してしまう可能性を下げる為に、一刻も早く町を出るべきだ。


 俺もリリンに習いながら、荷物などを小さくまとめて行く。

 そんな作業をしながら、心の中でリリンへツッコミを入れた。


 ……エデュミオへ行く理由の本題は、魔導鑑定士に会う事だろッ!

 墓荒らしはついでだからな!!




 **********



「帰ったぞ、ワルトナ」

「ただいま帰りました、ワルトナさん!」

「ヴィギル―ン!」


「お帰り二人とも。そしてお前は絶滅しろ、ニセタヌキィ……」



 メナファスはホテルに入るなり、湿っぽい空気を感じ取り身構えた。

 これは、世話をしていた子供たちが喧嘩して泣きじゃくった後に出来る、独特な空気。


 それによく似たものを感じ、その発生源へいち早く目を向けたメナファスは、慣れた態度でセフィナへ指示を出した。



「セフィナ。買ってきたジュースをコップに注いで来てくれ。氷も入れてくれると嬉しいぜ。喉が乾いちまってよ」

「分かりました!ゴモラ、行こ!」

「ヴィギル―ン!」



 そして、抱えていた紙袋から瓶を取り出したセフィナは、コップを求めて奥の部屋へと消えて行った。

 その横にはゴモラが続く。

 これで厄介払いは出来たと、メナファスはワルトナへ視線を向けた。



「で、どうした?ワルトナ。涙目じゃねぇか」

「メナフぅ……。失敗した。僕の戦略が破綻したんだ」


「……詳しく話せ。確か、お前たちは、これからの計画の話し合いをしていたんだよな?」

「そうだよ。それ自体は上手く行ったんだ」


「どういう風に上手く行ったんだ?」

「セフィナは操られているだけという事にしたし、メナファスはセフィナの安全の為に潜伏している事に出来た。白い敵の正体はヤジリ――準指導聖母・悪逆アトロシスだという事にして、リリンとユニは、これから僕の引いた道筋を辿って行く事になる」


「ちょっといいか? お前とヤジリは仲が良かったよな?最初っから協力者だったのか?」

「ヤジリはまだ何も知らないよ。けど、面白い事が大好きだし後で話せば協力してくれるさ。……何より、アイツは暇人だし」



 さりげなく罵倒が混じっていた気がしたが、メナファスはあえてスルーした。

 聞いた感じ、何か問題があったようには思えない。

 いくつか質問をしてみたが、返答はスムーズに行われ想定外は見つからなかった。


 結局、何が問題なのか分からなかったメナファスは、真っ直ぐに核心を突く事にした。




「で、何が問題なんだ?」

「リリンが、ユニと添い遂げちゃったよ……」


「はぁ?」



 なにを馬鹿な事を言ってんだよ。

 あのリリンがユニクルフィンに告白できたってのか?

 ……ありえんだろ。どんな奇跡だよ。


 ワルトナの態度と言葉を聞いて、瞬時に内容を理解したメナファスは、その意味を噛みしめて絶句。

 ただでさえリリンはあれなのに、ワルトナがしっかりと妨害工作を仕掛けている。

 それを知っているからこその、長い沈黙だ。



「その態度を見る限り、マジみたいだな」

「メナフ、どうしよう。もともとリリンをユニと仲違させるつもりはなかったし、友好的に接して欲しいとも思っていたんだ。けど……もう恋人同士になっちゃったら、僕の居場所が無いじゃないか」


「あー。まぁ、リリンのあの性格じゃ独占欲が強いだろうしな」

「ぐす。マジでどうしよう。リリンが性交しちゃうなんて……」


「なにが成功したんですか?」



 突然のセフィナの登場に、しまった!と二人が思うも、もう遅い。


 セフィナはメナファスに言われた通り、コップにジュースを注いで持って来ていた。

 それは、メナファスの予定よりもだいぶ早い帰還。

 時間稼ぎのために『氷を入れてくれ』と注文を出したが、ゴモラが一瞬で用意してしまえば意味が無かった。


 今のセフィナは情緒不安定だ。

 大好きなおねーちゃんとの感動的な再会を夢見ていたセフィナは、その幻想から覚めて大変に傷心しているのだ。


 セフィナは、「優しいおねーちゃんなら、どんな風に再会しても喜んでくれる」と思っていた。

 姉への絶対的な信頼は、13歳という幼すぎる子供に夢を見させるには十分すぎる材料。


 結果的に、姉妹揃ってボロボロに泣き崩れたが、それは決して感動の涙では無い。

 いくらセフィナが子供だと言っても、それくらいは理解できる。

 魔王シリーズの恐怖装置の波動を受けたのなら、尚更のことだ。


 そんな愛しい少女に、よりにもよってこんなタイミングで、姉の秘め事を語るわけにはいかない。

 心無き魔人達の統括者の中でも常識人なワルトナとメナファスは、まずいと思いながら必死に言葉を探している。


 そして、そんな重い空気を感じたセフィナはオドオドとし始めて、控え目に同じ言葉を繰り返した。



「えっと、お姉ちゃんの何が成功したのかなって……」

「……。なんだって?」


「あ、いや、ごめんなさい。私は失敗したのに、おねーちゃんは成功したんなら、すごいなって思って、それで……」

「……。《サモンウエポン=ゆにクラブカード》」



 セフィナが言った、『成功した』。

 それは、まさしく奇跡。

 同じアホの子だからこそ辿りつけた、真実の言葉だ。


 ワルトナは静かに、自分の宝物を召喚。

 慈しむ様な手つきでカードの保護を取り払い、四隅に指を当てる。

 そして魔力を注ぎ込むと、何も記されていなかったカードの表面に文字が浮かび上がった。



 ユニクルフィン個人データ


 性別・男

 年齢・16歳

 誕生日・1の月・10の日

 血液型・A

 好きなもの タヌキ全般

 嫌いなもの タヌキ(カイゼル)


 称  号 英雄見習い

 タヌキスレイヤー

 現在位置 カラッセア宿屋『慶喫館けいきつかん

 ゆに階級 ブラック3

 偽ゴールド1

 ゴールド4

 レッド 5 計13枚


 ユニク裏・情報

 ・女性経験はちょっと進行し、Aまでは経験済み。だが間違う事無き、童貞。

 ・村長ホウライとの勝負の戦績。813戦0勝800負13分。脅威の勝率0%。

 ・趣味は読書。ジャンルは色々。戸棚の奥に隠してあった本などが特に好き。




「……。メナフ、Aってなんだっけ?」

「……キスだな」


「……。あんの、お馬鹿ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 ワルトナの魂を震わせた心の底からの絶叫に、セフィナはおろか、ゴモラさえも驚いて毛を逆立せた。

 それくらいワルトナの絶叫は凄かったのだ。


 これは、昨日から度重なる不条理に対する怒りの声。

 見習いとはいえ、英雄の刺客を持つ者の咆哮は、生物の危機本能を刺激する。



「なんだよ、キスって!?えぇ、何が大人の階段を翔け上がっただよッ!!一段くらいしか上がってないじゃないか!!このッ!!このッ!!」


「……。えっとメナファスさん、あの、私、何か言っちゃダメな事、言っちゃったんですか……?」

「いいや、ファインプレーだ。褒めてやるぞ」


「え?え、えへへ。ありがとうございます」

「そうそう、天然モノは素直が一番だぜ」


「?」

「気にすんな。それより、こっちで買ってきたパイでも食おうぜ」


「ああああああああもぉおおおおおおおお!!僕の、涙を、返せッ!!」



 何がなんだかさっぱり分からないセフィナは少しの間だけ困っていたが、すぐにメナファスが切り分けたパイに興味を移した。

 一番大きく切り分けたパイを貰い、ゴモラと二人で半分こしようとしたセフィナは「ゴモラの分は別に切るから、それはセフィナが食べていいぞ」と言われ、嬉しそうに頷いている。


 そして、チラリとワルトナへ視線を向けたメナファスは、ゆっくりと溜め息を吐いて呟く。



「子守りする対象が増えたんだが。……まったく、普通の保育の100倍大変だぜ」


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