第9話「大惨事悪魔会談・考察のまとめ」
「さて、だいぶ考察が進んできたし、一度、話を整理するよ」
「おう、頼む!」
「もふっふふぁ!」
「……頭の中にチョコレートが詰まっていても理解できるくらいに、丁寧に説明してやるよッ!」
最初に提示された4つの謎のうち、『セフィナ』『メナファス』『白い敵』の考察を終えた。
俺はそこそこ理解出来たが、うちの大魔王ハムスターさんが理解しているかが非常に疑わしい。
……というか、今日はいつもにも増してハムスター度が酷い。
いくら我慢を止めたと言えど、限度ってもんがあるだろ!
「リリン、いったん真面目に話を聞こうぜ。だからチョコは回収だッ!」
「あぅ。必要なのに……。甘い物は頭を働かせるのに……」
このままだとマジで冬眠前のタヌキに進化しそうなので、リリンの前にあったチョコレートを回収。
ハムスターが名残惜しそうな視線を向けてきたが、心を魔人にして無言を決め込む。
我こそは心無き魔人達の統括者、7番目の男!有償救世ユニクルフィンだッ!
「リリン、今からするまとめはキミの為にするんだからね?しっかり聞いておくれよ」
「分かった。しっかり聞いて、白い敵を粉砕する!ランク9の魔法を一万発くらい撃ち込んでやる!」
「うわぁ。粉々だねぇ、小麦粉だねぇ。……さて、脳味噌クッキーを相手にしても時間の無駄なので、さっさと話を進めようか、ユニ」
「ワルトナ、脳味噌クッキーは流石に酷いと思う!せめてカニ味噌くらいが良い!」
カニ味噌って呼ばれるのも大概だろ。
これはマジで俺がしっかりしないとヤバそうだ。
とりあえずリリンから取り上げたチョコをグラムの拘束下に置きつつ、ワルトの話に意識を向けた。
「まずは『セフィナについて』だ。セフィナは『正真正銘・リリンサの実妹』であり、『6年前に死亡しているはずだった』」
「うん。私自身、感情では信じたくないとは思っていても、理性では分かっていた。もうセフィナはこの世にはいないのだと。お母さんと共に死んでしまったんだと」
「でも、生きていた。これにより、『セフィナ達の死は、何者かによって演出されたものであり、リリンサの人生は誰かの手によって計画されていた』事になる」
「……私は家族を亡くした後に授けられた神託に依存した。それだけが私の人生なのだと、ユニクに会う事が全てなのだと思って生きてきた」
「そうだね。そして、『セフィナ・リンサベルは強大な魔導師に成長し、キミらの敵となった』。その目的は、『ユニクルフィンとリリンサを決別させ、神託を破談させる事』だ」
セフィナが敵。
その言葉を改めてワルトから突き付けられたリリンは、ちょっとだけ瞳が揺らいでいた。
その瞳の中には、様々な感情が渦巻いている。
それら一つ一つを全て感じ取ってやる事は出来ないが、最も大事な感情は直ぐに読みとれた。
『絶対に、セフィナを取り戻す!』
揺らぐ瞳の中でも、揺るがぬリリンの決心。
そして、『俺の全身全霊で、その願いを叶える』のが、俺のするべき事だ。
「そして、メナファスの裏切りが起こった。『メナファスは偶然にセフィナに接触。その後、複雑な舞台裏を察し、セフィナ側についた』」
「メナファスには感謝するべきだと理解した。全て終わったら、改めてお礼を言いたい!」
「そう、リリンの言うとおり、『メナファスはセフィナの安全を考慮し、あえて敵側についている』んだ。万が一の時に『セフィナをリリンサの元に帰す為に』ね」
あぁ、本当にメナファスには頭が上がらない。
闘技場で不意に出会ってしまった時は命の危険を感じたもんだが、後から思い出してみれば、メナファスの行動はとても常識的だった。
人ごみに紛れていた俺の手を引いて、人気の少ない所に行ってからの自己紹介。
これは俺が取り乱した時に対処しやすくする為だろう。
さらに、VIP席に連れて行ったのは、周囲の目を気にした俺への配慮だと思う。
他にも出場者の説明をしてくれたり、冗談を言ってきて空気を和ませてくれたりと、非常に大人な対応をしていた。
そして、俺達の敵を探すのを快く手伝ってくれたばかりか、一番大切なセフィナの安全を優先してくれている。
なるほど。これは間違いない。
メナファスは、心無き魔人達の統括者の中で一番の常識人だ。
優しい心を持ち、最も頼りになるお姉さん的ポジション。
色んな意味でキワモノぞろいな大悪魔達の唯一の良心。
……カッコ良すぎるぜ!無敵殲滅、メナファス・ファント!
「第三に白い敵の正体についてだ。『白い敵の正体は、準指導聖母・悪逆である、ヤジリ』……そして、『もう一人の黒い女の正体は、準指導聖母・悪喰』だ」
「白い敵がヤジリで、カミナを出し抜いたのが悪喰……。そしてセフィナ。これで三人の敵、『白』『黒』『黒(星魔法使い)』が出揃った!」
「そして、それぞれが強大な攻撃力を秘めている。白い敵は神栄虚空・シェキナ。悪喰は悪喰=イーター。セフィナは神魔杖罰・メルクリウスだね。ちなみに、リリン的にはどれが一番危険だと思ったんだい?」
「……。悪喰=イーターだと思う」
「何でよりにも寄ってそれなんだよ!ちなみに、理由はなんだい?」
「セフィナが出したものですら、まったく底が見えないと思った。なんていうか、うーん、『空を見上げて勝てないと悟る』ような、そんな感じ」
「なにその抽象的すぎる説明。まったく理解できないんだけど」
「戦いになるとか以前の話。同じ次元にいないと思った。白銀比様に通じる何かがある……かな?」
「皇種並みの存在感とか、マジでどうなってやがるんだよ!」
「とにかく、アレに完全体があるのだとしたらヤバすぎると思う。ユニクが見たのは別ものだと思いたい」
確かに、セフィナが出してきたものですら危険すぎる代物だと思った。
覚醒グラムを超える何かが内蔵されているとでも言うような、底知れない怖さ。
リリンは違うと思いたいと言っているが、闘技場で見たのは、間違いなく悪喰=イーターだ。
そして、グラムとヴァジュラの攻撃を同時に喰らい尽くしている以上、そこらの魔法なんかとは比べ物にならないのは確定。
そんな危険な魔法を、少なくとも二人も使用できる。
そこに白い敵が使えるとなれば三人だ。
これからの戦いは、非常に厳しいものになるだろう。
「僕はシェキナを攻略する手段はあるとキミ達に言ったよね。だけどそれは、白い敵が一人で戦闘をした場合の話だ」
「分かってる。私の可愛くて優秀で優しいセフィナが、一時的とはいえ信頼を置いていそうな人物を助けないはずが無い!」
「そうそう。だから、『決戦の時はキミたちどちらか一方がセフィナと戦い勝利し、白い敵と2対1で戦いを挑むしかない』。それをやる為には、『一人で白い敵の足止めを出来るくらいに、強くならないといけない』んだ。分かるかい?」
「分かる。……分かるけど、敵は三人いる。全員出てきたらどうすればいいの?」
「そうはならないさ」
「どうして?」
「この僕が、アイツらを徹底的に邪魔するからだよッ!特に悪喰の足止めは徹底的にかつ、滅茶苦茶ボロカスにやる!!……アイツが関わるとロクな事にならないからね、この!この!」
……なんか、ワルトは相当、悪喰に恨みを持ってるんだな。
いつも冷静沈着なワルトが、ここまで取り乱すなんて珍しい。
黒トカゲに転移魔法を妨害された時だって、これほど酷く無かったぞ。
聞く所によると、指導聖母になる為には難解な筆記試験を突破しなくてはいけないらしい。
つまり、頭の良さはワルトと同じくらいなはず。
そんな奴が敵とか、改めて生き残れる気がしないぜ。はは!
俺が現実逃避に浸っている間に、暇を持て余したリリンが動き出した。
平均的なひらめき顔で、ワルトに話しかけている。
「ワルトナ、一つ提案がある!」
「なんだい?」
「さっき、私かユニクのどちらかが一人で白い敵と戦って、時間を稼ぐと言ったよね?」
「言ったねぇ。そしてそれはユニの仕事になるって思ってるよ」
だろうな。
俺もそう思ってるし、そうするべきだと思ってるぜ。
「でも、無茶だと思う!いくらユニクが凄くても、白い敵の力は強大。安全とは程遠い」
「それは仕方がないだろう?白い敵はユニが欲しい。つまり、殺す気が無いんだ。案外、白い敵もじっくりユニと戦ってくれるかもよ。デートのつもりでさ!」
「むぅぅ!色んな意味でダメ!だから……ホロビノを参戦させる!絶対に二人っきりにさせない!!」
「うっわぁ。白い敵にとって、邪魔もの以外の何者でもない!」
「すっごく名案だと思う!ホロビノの源竜意識も解き放っての完全形態!白い敵は壊滅する!!」
「うーん。……却下で!」
「えっ、なんで!?」
俺が駆け付けた時には既に、ホロビノonリリンという、『覚醒せし竜魔王』状態だった。
そして、その時に見たホロビノも凄いの一言しか感想が湧かない程だった。
ドラゴンとしてみれば、ホロビノの体は随分と小型だ。
だが、あの形態のホロビノは、そんな小ささをまるで感じさせないオーラを纏っていた。
……というか、物理的にドラゴンそのものを纏っていた。ドラゴンのなのに。
ホロビノは体の周りに魔法陣を出現させ、そこからデカイドラゴンの一部を召喚。
アレを見た瞬間、冥王竜がなんでホロビノに従ってるのかが分かった気がする。
師弟関係とか、弱みを握られているとか、そんな心因的な物じゃない。
単純に、ホロビノは冥王竜よりも強いのだ。
アレをスポイトされていようとも、
D・S・Dなるリリンですら食えない猛毒を喰らわせられていようとも、
大悪魔聖女にピエロにされ掛けても……、冥王竜より強いのだッ!!
「俺的にもホロビノはいた方が良いと思うんだが?何でダメなんだワルト?」
「戦力的には申し分ない。敵は木端微塵となる!」
「うん。木端微塵になるかもしれないねぇ。比喩的な意味じゃ無くて、マジで」
「どういう事だ?ホロビノが強いと言ったって、神殺しに匹敵するほどじゃないだろ?」
「私のホロビノは、カッコ良くて可愛くて最強!ドラゴン界のエースだと思う!」
「エースか。まったく……リリンの感の良さには驚くばかりだねぇ。そうさ、ホロビノはただのポンコツドラゴンじゃない」
なにッ……!?
ホロビノはポンコツドラゴンじゃ無かったのかッ!?
ははぁん。なるほど。
ワルトは飼い犬ドラゴンだって言いたいんだな?
……忠犬ホロビノ。
うん、語感が良すぎるな。採用で!
「言っとくけど、飼い犬ドラゴンでもなければ、弱腰ヘタレドラゴンでもないよ」
「心が読まれたッ!だが、俺はそこまで言ってないぞ!」
「後半はレジェだよ。じゃなくってさ、僕がシリアスムードに入ろうとしてるのに、ボケ倒すのやめてくれないかな?」
ん?シリアスムードに入るってなんだ?
ホロビノが出てきている以上、そんな空気になるはずが……。
「はは、何の冗談だよ?ワルト」
「冗談じゃないんだよねぇ。いいかい、僕はね、冥王竜が言いかけたホロビノの正体を突き止めたんだ」
ホロビノの正体か……。
確かにあんだけ強かった冥王竜に対して、随分とデカイ態度だったもんな。
あの時は、何かあると思って聞き出そうとしたが失敗。
ワルトが調査に乗り出すと言っていたが、もう調べ終わっていたとはな。
流石は図書館に生息しているだけの事はある。
なお、聖女を名乗るなら、その優秀な頭脳をもっと世界平和のために使って欲しいとも思う。
「ワルトナ、調べたの?」
「もちろんだよ。いくらなんでも惑星竜を従えているのは問題だしね」
「むぅ。ホロビノは嫌がっていたのに……」
「聞きたくないのなら、耳を塞いでクッキーでも食べてな」
「……。聞かないとは言ってない!」
どうやらリリンも興味には勝てなかったらしい。
ちょっとだけ考えた後、「例えどんな存在でも、ホロビノはホロビノ。私の可愛い家族!」と言い切った。
若干誤魔化しが入ってる気もするが……その殆どは本音だろう。
そして、次第に平均的な興味津々顔になってきているリリンは、ワルトに話を促した。
「教えて!ワルトナ!!」
「いいとも。僕らの可愛いペットのホロビノ、かの偉大なる竜の正体は……」
「偉大なる竜の正体は!?」
「眷皇種・希望を費やす冥王竜の完全上位個体であり、惑星竜の中でも最上の存在……!」
「「えっっっ!?」」
「ホロビノの本当の名前は……『希望を戴く天王竜』。……偉大なる始原の皇種である不可思議竜の息子だ!」
なん……だと……。
皆さんこんばんわ!青色の鮫です!!
リリンサとワルトナが主人公の番外編、『悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険』の第一章が完結しました!
週末にクーラーの効いた部屋でまとめ読みなどいかがでしょうか!?
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